二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.12 )
日時: 2016/04/19 19:09
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 浮かび上がって来たのは、カ級の残骸であった。引きちぎれたレギュレーターからは気泡がブクブクと海面に自己を主張し、穿たれた肉の破片からは青白く光る血液が流れ出で海面を汚していた。見開かれた瞳には既に生気がなく、内部骨格が顔を覗かせているあたり、既にカ級は活動停止していると見て取れる。

「……今の何?」

 朦朧とする中、霧島が感じたのは海中から押し上げられるような強大な圧力と、強烈な轟音。巻雲に至ってはソーナーが過剰に音を拾ったせいで、ぐらつく視界に苛まれ思わず艦娘の姿に戻っていた。

「いっ……、今のなんですかぁ?」

「アスロックだと思います。普通のアスロックって水中を航走して標的に当るんですけど……、思いっきりカ級目がけて直進してきたんですよ」

 対潜ミサイルの類は、実のところミサイルというよりはロケットモーターを後ろにくっつけた短魚雷であり、ある程度の距離を飛翔後、弾頭を分離させ水中を航走し、潜水艦の至近距離で爆発し、水圧で潜水艦の外殻を圧潰させる代物である。しかし、青葉が見たそれは直接水中に飛び込み、カ級を直撃し一撃で仕留めたようなのだ。

「きよなみからの支援攻撃……?」
「きよなみはVLS区画破壊されてるので、それはないかと」
「そもそも、どうやってカ級の居場所を見つけたか……、ですよね」

 ソーナーを使用した駆逐、軽巡の艦娘であっても一発で潜水型の深海棲艦の居場所を発見は出来ない。おおよその居場所を見つけ、1隻を複数の艦で追いまわし、追い詰め爆雷を投下するのが定石である。異常に高性能なソーナーを持ち、青葉が見たそれと似たような挙動を示す新型アスロックを装備しているのは、昨晩の戦闘でVLS区画を破壊された「きよなみ」しか居ないのだ。

「……おかしい、わね」

 いつの間にか艦娘の姿に戻った霧島は肩で息をしながら、深海棲艦の物とは異なる残骸に手を伸ばした。恐らくこれがカ級を一撃で吹き飛ばした代物の破片だろう。破片は白く塗装されており、やはり見慣れない代物であった。

「霧島さん、そんな物拾ってないで陸に揚がりましょうよ。青葉、肋骨逝っちゃったみたいです」

 そう脇腹を押さえながら、青葉は笑みを湛えていた。死を覚悟し、出所の分からない攻撃に助けられたが結果として全員が生き残り、怪我こそすれど戦力を失う事はなかった。といっても霧島の負傷が甚大であったため、至急陸に逃げ帰ろうと肋骨が逝ったなどと虚言を吐いたのである。それは恐らく霧島に見抜かれている事だろう。肋骨が折れたならば、その上から押さえるような馬鹿はしない。

「……今明石さんを呼び戻してるので、早く大島に戻りましょう。巻雲、補給したいです」
「帰りましょうか……」

 今ここで長らえたという事は、見つけたはずの死に場所は誤りであったようだ。昨晩の戦闘で右目をつぶされ、全身を穿たれたような傷と、右腕を筋の一本、骨の一寸でなんとか繋がっているような状況まで壊されたが、バイタルパートに損傷はなく、まだ辛うじて動ける。思わず、我ながらしぶといと自嘲するように鼻で笑ってしまった。

「霧島さん」
「はい?」
「あの……、眼鏡が」

 巻雲の指摘でようやく気付いたのか、霧島はゆっくりと自分の顔の前でいう事を利く左手をヒラヒラと躍らせた。眼鏡が轟沈したらしく、残った左目で見た自分の手はやたらとブレ、指の数を数えられない。

「近眼には……、つらいわね」

 後ろで青葉が笑っていたが、彼女は気遣うように自分よりも幾分、背丈の高い霧島の肩を担ぐと、その身を引っ張りながら海面を走り出したのだった。


 突き刺された軍刀に苦悶の表情を浮かべながら、身を捩る戦艦タ級。それに相対するのは伊勢であり、彼女は対照的にニヤニヤと張り付いたような厭らしい笑みを浮かべ、突き刺した軍刀の角度を上げ続けた。逃げようと身を引けば、刀はより深く、切創はより広くなる。青白い深海棲艦の血液に手が汚れるが、そのような事は気にも留める様子も見せなかった。

「伊勢、遊ぶな」
「遊んでないよー。私はいつでも真剣」

 伊勢の悪趣味を日向は窘めたが、彼女はそれを止めようとしない。既にタ級の艤装は削ぎ取られており、伊勢へと反撃する手立てはないようだ。

「そんな怖い顔しないで……よッ!!」

 刀を引き抜き、タ級を蹴り飛ばすとその身体は力を失ったように、海面に倒れ込む。青白く光る瞳は怒りを湛え、一心に伊勢を睨み付けていた。その怒りをぶつける術となる艤装は既に失われていた。

「お疲れ様」

 砲を向ける事もなく、伊勢はせせら笑うなり一刀の基に両足を削ぎ落とし、背を向けると急いで海面を滑り出し、その身をタ級の視界から隠した。咆哮を挙げながら、身を捩り天を仰ぐタ級が最期に見たのは、己へ目掛け不規則な軌道を描きながら降る2発の250kg爆弾であった。


 鈍重な衝撃と爆炎の混じった水柱を遠くから眺めながら、伊勢は感嘆の声を挙げる。爆撃を加えたのは飛鷹航空隊であり、伊勢がタ級で遊んでいた時から、高度を上げ垂直爆撃を仕掛ける体勢にあった。

 案の定、深海棲艦は津軽海峡西口から艦隊を為し潜航しながら、伊勢達を強襲したが組織戦闘において深海棲艦の戦術は未熟な代物であった。

「……全体的な戦運びは及第点だが、艦隊内での連携は未熟だったな」
「まだ伸び代があると考えれば、空恐ろしいものでありますな」
「連中、変に頭良くなられても困るんやけど」

 あきつ丸のいう事は尤もであった。未熟という事はまだまだ、戦術を研鑽してくる可能性がある。日本では一番最初に深海棲艦と交戦し、対深海棲艦についての造詣が深い大湊であったが、深海棲艦が単純な戦闘能力に加え、統率された戦闘を行うようになると考えるとなると、艦娘は更なる戦闘能力の向上、即ち個々の力を追及し続ける必要があり、その限度を更に伸ばすためには、時代という垣根を超える必要があると考えられた。

「……我々が時代遅れになる時も来るかも知れんな」

 時代が動くにつれて、小型艦は徐々に大型になり、そのうち砲を満載した戦艦となった。その戦艦を無用の長物にしたのは空母であり、その空母を食らったのは近代化された駆逐艦であった。いずれは今の艦娘を上回り、深海棲艦を遥かに凌駕する此処の力を身につけなければならない。SH60Kは積めない、VLSは知らんなど言う事は出来ない。その内、それが必要となり艤装の改修、近代化を行わなければならないだろう。深海棲艦の空母を想定とし改装を受けたイージス艦「DD(G)-114 すずなみ」のように。

「何訳わかんない事言ってんのさ、日向ー」

 おどけて見せる伊勢や後ろに控えた飛鷹や夕張も、薄々は感じている事だろう。何れは自分達が無用の長物となる時が来る事を。時代後れな戦艦、軽空母、軽巡などといった区分けに縛られた概念は捨てなければならないのだ。幸いにも自分達の戦術は完成している。深海棲艦の戦術が完成した時、そう遠くない未来に時代が変わる事だろう。そんな事を薄々感じながら、深海棲艦の残骸に腰を下ろし、1発だけの祝砲を打ち上げた。