二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.14 )
- 日時: 2016/04/20 23:12
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
負傷した霧島達は治療を受けていた。大島防備隊は全員が撤収しており、現在、大島の守備は舞鶴からやってきた山城が率いる航空巡洋艦と軽空母で構成された第8護衛隊が就いている。
渠中の霧島達は静かに傷を癒していたが、その場には相変わらず片足がない神通や、顔面に火傷を負った妙高が今か、今かと船渠が空くのを待ち構えている。普通の艦娘ならば、ようやく休める事から安堵の表情を浮かべている事だろう。しかし、彼女達の表情は何故か冴えない。その理由は妙高型の三女にあった。二晩眠り続け、全快なのは良いが日も明るい内から、大した事ないド田舎の街へと繰り出したようなのだ。
「……足柄って一体なんなのでしょう」
「さぁ……?」
負けた腹いせにカラオケにでも行ったのだろうか。はたまた温泉にでも行ったのか。ストレスの発散の仕方がどうにもOLのそれのように感じられるが、元々足柄はそういう艦娘であり、余り活発的ではない神通にも、人間に対する理解が薄い元深海棲艦である妙高にも理解が及ばなかった。
「まぁ、いいでしょう。……妙高さん。少し良いですか?」
「……あの件?」
「はい、青葉が見た新型アスロックの話です」
大湊では「きよなみ」だけが装備している新型アスロック。VLS区画を破壊された「きよなみ」から発射出来るはずがない代物が、霧島達を救った。しかし近海には「ふじなみ型護衛艦」は存在しなかった。
「一体どこから来たんでしょうか……?」
「どこからって、25km圏内としか言えないですけども、きよなみは函館にいて、大島まで150km以上ありますからね。本当に出所不明です」
お互い分からないの一点張り、唯一いえるのは25km圏内から発射されたという憶測のみ。頭を悩ませている妙高の顔付きが、恐ろしげになってきた事に気付き、神通はバツが悪そうな表情を浮かべる。
「……青葉の誤認って事はないんですよね?」
「あの目聡い青葉ですよ? そもそも霧島が拾ってきた残骸の写真、もう出回ってるじゃないですか」
霧島が回収したアスロックのロケットモータと思しき物体の破片は、艦娘達の間のみならず海上自衛隊大湊地方総監部の中でも問題となっていた。攻撃の出所は何処から。第3護衛隊群は艤装を秘密裏に開発し、運用していたのではないか。はたまた大湊地方隊にて、第3護衛隊群に所属していない新型の艦娘を所有しているのではないか。などと各方面で様々な疑念が生まれ、渦巻き、今川司令や総監、工作部長などが対応に追われているようである。
「ま、まぁ。霧島も助かったんですし、結果オーライという事で一つ……」
「でも、気になりますからね。もしこれも深海棲艦の作戦の内の一つだと考えたら、アスロックのような攻撃手段を持った新型の深海棲艦がいる事になりますし、第三次攻撃が別の切口から発動される可能性が払拭出来なくなります」
自陣営のカ級を撃破し、大島から霧島達が退くと同時に第8護衛隊を突破し、津軽海峡西口まで侵入してくるのでは、と妙高は杞憂とも言える不安を吐露していた。あり得ない話ではない。
組織戦闘を敢行してくるのは大湊へ攻め入る深海棲艦のみ。引継ぎはしているものの、戦闘実績がない舞鶴からやってきた彼女達は手玉に取られる可能性がないとは言いきれない。現に神通がもし深海棲艦ならば、最小限の戦力で大島を叩いてから戦力が挿げ変わるその瞬間に、全戦力を投入する。流石に昨晩の損害では、深海棲艦達も戦力を再編成する事が出来ないだろうが、妙高のいう通り不安ではある。
「……そうですね。何が起きても不思議じゃないです」
全てが深海棲艦の術中、そんなような気がして神通の頭の中にも、言い得がたい不安が去来し、マイナスな方向にばかり思考が巡ってしまう。こんな時、司令と共に数多の戦場を渡り歩いてきた、大淀ならばどう考えるか。彼女の考えを聞いてみたく神通は思う。
「……そういえば大淀はどこに?」
「ちんちくりん准尉と不知火連れて、出かけましたけど」
龍驤に何かの恨みがあるのか、と言わんばかりの呼び方に神通は思わず苦笑していたが、大淀もたまにはガス抜きをしなければならないだろう。彼女には戦術に関して、頼りきりでストレスを掛けているだろう。心なしか最近煙草の量が増えたような気もする。
「にしても……、いつまで待つんでしょうね。私達」
「さぁ……?」
元々口数が多いとは言えない二人は、同じタイミングで項垂れると潮騒が耳へと飛び込んできた。夕立と高波の声が聞きたいなどと神通は思いながら、ぼんやりと海を見据えた。工作部の目の前の岸壁に筑摩が居たが、恐らく彼女が向かう先は、自分の部屋だろう。彼女も神通や、妙高と共に余り活動的ではないのだった。
閑散とし、老人だらけの街であったが、都会の喧騒が苦手な龍驤からしたらこの位が丁度よく、ただそこにいるだけで戦場の緊張を忘れる事が出来た。傍らの大淀や不知火がそうかは分からないが、彼女達もこの街にストレスを発散する術を持っているようである。
「大淀、どこ行くん? 」
「私は煙草と今晩のお酒に、中古CDを漁って帰ろうかと」
「お前さん、もう少しまともな趣味ないんか……。不知火は?」
「山ほどクレープ食べたいです」
「太るで? まぁ、快気祝いや。奢ったるわぁ」
他愛もない会話を繰り広げながら、彼女達は街中を歩む。いつもの服装ではなく、一見すれば同胞以外に艦娘だという事が分からない。
「足柄も波の三人、連れて街に出てきてんやろ?」
「らしいですけど、不知火は足柄が苦手です」
「夜戦仕掛ける時、足柄の提案に一番最初に乗ったやないか。うちちゃんと覚えてるで、川内より反応早かったやん」
「気のせいです」
確かに不知火は足柄のあの明るく、キビキビとしたノリを苦手にしていた。元々が物静かな不知火とは相容れないのは仕方ないのだろう。本気で嫌っている訳ではなく、ただ単に付き合い方が分からないだけなのだ。しかし、不知火に相反し大淀は足柄と仲が良く、時折二人そろって馬鹿をやっている姿を時折見ていた。いつぞやは函館から補給を受領しに帰ってきた夕張をとっ捕まえて、結果的に阻止されtが艤装を魔改造させようとしていた。
「大淀、足柄どこいるか聞いとらん?」
「横迎町のカラオケに行くって言ってましたけど。乱入するつもりですか?」
「ちーっとな、ちーっと」
絶対、ちょっとで済まない。そんな気がしたが大淀は言及する事なく、黙って煙草に火を付けた。歩き煙草を咎める輩は居ない。その事だけに感謝し、寛大な龍驤に付き合おうと腹を据えたのだった。
「不知火はドリンクバーにでも……」
「お前さん、そんな奴やったか?」
「はい」
そうか、としか言えない不知火の取っ付きにくさに、思わずクレープ奢るのを止めようかと脳裏を過ぎった龍驤であった。