二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.16 )
日時: 2016/04/30 07:13
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 何年前の話だったろうか。青葉がまだ佐世保に居た頃、深海棲艦達は日本の西海の護りへと喰らい付いており、佐世保が最前線であった。

 当時、佐世保には長門や武蔵といった主力艦と共に多くの水上艦娘が配属され第2護衛隊と第6護衛隊からなる第2護衛隊群を形成、深海棲艦との激戦を繰り広げていた。
 青葉は第6護衛隊に所属しており、旗艦武蔵の元で沖縄近辺の防衛、警戒任務に従事していたが、ある時それは起きたのだ。南方棲戦鬼と呼ばれる交戦実績の少ない深海棲艦の出現により、第6護衛隊は旗艦武蔵を喪失したのだった。彼女は身を挺し、所属艦娘の離脱に全力を尽くし、相打ちとなりながら海中へと没した。彼女が居なければ、今の青葉は恐らく居ない。冷たく、暗い海底で生ける者を羨むだけの存在となっていただろう。

(ありがとうございました)

 写真の中には、武人らしい佇まいをしながらも穏やかに笑みを湛えた武蔵がいた。生前の彼女が好んだのは甘味の類。特にカステラなどを好み、任務中持ち込んではよく、所属する艦娘に配りながら自分もそれを口にしていた。第2護衛隊の旗艦であった長門は、それを窘める事もあり彼女はそれを受け取る事はなかったが、彼女からしても武蔵は親友であり戦友。そして最期を見届けた存在であり、この日を覚えていたのだろう。つい先ほど元長門である今川から「カステラ」の差し入れがあった。
 夕立をなんとか捕まえ、閑散とした大湊の街へ繰り出し、買ってきた「カステラ」と被ってしまったが、もし武蔵が生きているならば笑って許してくれる事だろう。


「武蔵さん、大湊も凄いところですよ。昨日の晩は——」

 武蔵は答えてくれない。組織戦闘を行う深海棲艦の存在、霧島の奮闘、謎の攻撃。佐世保に匹敵する激戦地だと、つらつらと独白するように青葉は呟くのだった。

 もし、今武蔵が生き、大湊に居てくれたならば霧島や伊勢、日向といった主要な水上打撃リソースを大きく強化し、昨晩のような事もなく、何より彼女が得意とした水上艦を用いた群狼作戦により、屈強な守勢を築きあげる事ができたはず事だろう。連携と布陣に重きを置き、最小限の戦力を各地に構成した上で、一点の目標目掛けて積極的防衛を行う。そのためには各艦の役割を最大限に果たすという事が望まれ、否応成しに彼女の指揮下にあった艦娘達は錬度を高く維持しなければならなかった。まるで昨晩の深海棲艦達のように。

(……まさかね)

 ふと脳裏に過ぎる一抹の不安。深海棲艦が艦娘達の戦いを見て、学習していたとすると昨晩のような事もあり得るのかも知れない。武蔵と相打ちになった南方棲戦姫や、長門が最後に撃破した深海棲艦である戦艦水鬼、RIMPACの際に出現し、米海軍と海上自衛隊の艦に撃破された集積地棲姫のように人語を解する深海棲艦の存在がその証明となり得る。生物において、進化は永遠に終わる事がない事象であるが、完全に適応する事で進化は終わりを告げ、至高の存在となる。であれば、彼女達は艦娘に倣う事でおこがましくも海の覇者にでもなろうというのだろうか。

 余り働かず、決して良いとは言えない頭で考えた推論。思わず青葉はこれを誰かに話したくなってしまった。大湊の艦娘達で、このような推論を話せる艦娘は旗艦くらいであり、戦術理解に長ける夕立や大淀はON/OFFを完全に切り替えているため話に応じる事がない。どうにも悶々としてくる。青葉は武蔵の写真の前で頭を抱えながら、カステラに口を付けるのだった。




 かつての親友は今日沈んだ。彼女の、二度目の死を招き、見届けたのはこれから二週間ばかりたった頃だっただろうか。盲を患った目が厭に痛み、視界が霞む。

 頬杖を付きながら、今川はぼんやりと机に置いた写真を見据えた。そこにはかつての第2護衛隊群の面々が写っている。その中には大淀や青葉といった今も共に戦っている者達もいたが、多くは戦艦水鬼との戦いの中で、海中に没し残された者達の心という物に傷を付けて逝ってしまった。

「……まったく」

 彼女の一度目の命日を悼んでいるであろう青葉にカステラを渡してきたが、死人には語る口も、食らう口もない。若かりし頃はまるで残された者の自己満足、自慰のような立ち振る舞いだと、侮蔑し冷ややかに笑っていた事だろうが、年を取るとそんな事をする気もなくなってきてしまう。角が取れて、丸くなってしまったのだろう。

 誰に聞かれる訳でもなくついた悪態は、武蔵の耳に届いている事だろうか。勝手に身を賭し、勝手に死んで。ほとぼりが冷めぬ内にまた現れ、終いには自分の視力を奪った馬鹿で最悪な親友。もし、自分が武蔵だったならば徹底的な交戦を図り、凌ぐ戦いを展開しただろうが何故彼女は単艦で殿を申し出て、死に急ぐような真似をしたか、それが不思議でならなかった。そもそも彼女は、集団での戦いを好むところがあった。

(今思えば……、変だ)

 昔、武蔵から聞いた話であるが今川から見て、先代の長門がそのような運命を辿っていた。その長門は強さと戦いに執着していた。それがある時、単艦で上位の深海棲艦と交戦、撃沈されている。それから暫く経ったのち、彼女は深海棲艦として蘇り、武蔵がそれを無力化、拿捕に至っている。その際、長門であった深海棲艦は「深海に招かれた」と口走っていたらしい。事実、深海棲艦と化した長門は異常なまでに強く、その砲撃によって先代の金剛や、大鳳、護衛艦「はるさめ」、米国海軍の揚陸艦「グリーンベイ」を撃沈、更には近海を航行していた中国人民開放海軍所属のジャンカイ級フリゲートを複数撃沈し、多くの死傷者を出し、佐世保基地の戦闘能力低下を招き、相互の誤解から勃発にいたった第二次日中戦争の発端ともなった。

 もし武蔵が、深海に招かれたのであればその狂気は伝染し得る。力を必要以上に欲する事がなく、個の力よりも横の連携を重視した武蔵が、その狂気に招かれたとは考えにくいが、今川の脳裏にはそんなネガティブな考えが過ぎり、かつての親友の死に悼みきれずにいたのだった。