二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.21 )
日時: 2016/05/24 00:55
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 深海棲艦の艦載機、それは深海棲艦の兵装の一部ではなく、一種の深海棲艦であるという解釈を防衛省は示していた。艦娘達もそれに準拠した考え方をしており、現に舞鶴では日本海上空に補足したアンノウンを取り逃がした結果、突如として空母棲姫が率いる空母ヲ級ならび空母ヌ級が率いる空母打撃群が構成、近隣に存在した水上打撃を目的とする深海棲艦達が大規模な戦力を、構成し舞鶴が被害を被った事もあった。

 護衛艦「たつた」の搭乗員待機室でブリーフィング資料に目を通していた鳥海は、顔を顰めながら今回の任務の必要性について、考えていた。撃墜したのであれば回収する必要性はない。更には近隣国から撃墜された旨を挙げられていない。であれば、深海棲艦の艦載機であるとするべきだろう。
 ブリーフィング資料に添付された深海棲艦の艦載機は、異形の艦載機、どう考えてもそれが空を飛ぶとは考えにくい形状をしていた。対空砲を浴び、一部拉げたように破損していたそれは、青白い液体を止め処なく垂れ流している。

「摩耶。これ撃墜されたらもう"溶けてる"んじゃないの?」

 溶けてる。そう鳥海は言う。深海棲艦も、深海棲艦の艦載機も撃沈、撃墜したばかりでは炎上したりしているが、艦娘に変貌しない限り、撃破され行動を停止すると、深海棲艦は海水に溶けるのだ。

「……あぁ? アタシ等は兵器、兵隊その類だろ。上からの命令にはYesか"はい"しかねぇんだよ。……分かんだろ?」

 摩耶も鳥海と同じ見解らしい。表立って組織上の批判こそしないものの、腹の中では意味ないと思っているらしい。羽織った海洋迷彩服の胸ポケットから顔を覗かせるマールボロの封が切られているあたり、不服からストレスを感じているようだ。

「吸うのは構わないけど、通路でお願いね」
「……置いてくるの忘れてたぜ」

 苦笑いを浮かべながらマールボロと携帯灰皿を電纜棚の上に置くと、摩耶もブリーフィング資料へと目を通し始めた。そこにはかつて撃墜した深海棲艦の艦載機や、球状の飛行物体。更にはそれの母艦となるであろう深海棲艦達の写真が添付され、対処要領が事細かく記されている。

 ロシア海軍に籍を置く艦娘、レニングラードやヴォロシーロフ、スラーヴヌイ達はこの事実に目を通しているだろうか。彼女達も歴戦の艦娘である。緊急事態での場当たり的な対応については、定評があるが作戦前の段取りが如何せん悪い所もある。既に彼女達は海馬島へと到達しているだろうが、そこでもし深海棲艦達の攻撃に遭えば、数的不利に陥るのは確実だろう。

「摩耶、そろそろ……」
「あぁ、分かってらぁ。行くか」

 雷巡達は既に後部甲板に集まり、潜水艦達は艦の姿を取って「たつた」の直衛として哨戒しながら同行している。電探をLINK16に同期させ、摩耶はゆっくりと立ち上がる。現在、「たつた」は深海棲艦やアンノウンの情報をもっていない。また第4潜水隊から標的情報はなく、安全に航行しているようだ。

「やっぱ、最後に一服させてくれ」
「持ってったら良いじゃないの」
 
 それもそうか、と置いたばかりのマールボロを海洋迷彩服の胸ポケットにしまい、一本を口に咥えると、ライターを持った鳥海の手がそこにあった。何時の間にライターを取ったのだろうか、と感心し眺めているとフリントを回転させ、ゆらゆらと揺らめく橙色の炎を見せ付けてきた。

「わりぃな」
「気にしないで」
 
 煙草を咥えたまま、その先端に火を付ける。一息吸い、一息吐く。この動作を何度か繰り返すと、煙を身に纏いながら、摩耶は搭乗員待機室の水密扉を開いた。海は厭に静かで、白波一つ立っていない。太陽を覆い隠す雲すらない。あぁ、嫌な天気だ。そんな事を思いながら摩耶は外舷へと歩み出した。

 カモメがやけに空高く飛んでいる。これは近々海が荒れ出す前兆である。しかし、空には雲一つない。海象的に何故カモメ達が、これほどまで空高く飛ぶのか、理屈が付かない。学術的にはつくのかも知れないが、そういった知識を持ち合わせない摩耶には理解が及ばなかった。

「……やーっと出てきたか。さっさと行こうぜ」

 外舷で鉢合わせたのは木曾であり、何処となくニヤけている。何が面白いのだろうか、摩耶には分からなかった。しかし、彼女は出撃前によくこうやって笑みを湛えている事が多い。決してウォーモンガーの類ではないのだが、何故か笑っているのだ。本人も自覚がないらしい。

「おい、スマイリー。今日は眼帯して、どこにお出かけで?」
「海馬島までご一緒してくれやしませんかね、お嬢さん」

 互いに軽口を叩きながら、木曾と摩耶は共に歩む。彼女達の視線の先には外舷から身を乗り出し、今にも海へと飛び込みそうな北上と、その様子を苦笑いを浮かべながら見つめている大井が居た。

「はりきってんじゃねーか」
「まーねぇー。たまにはさー、仕事しないと」
「そうですね、今川司令に51cm連装砲ぶち込まれてしまいます」
「冗談じゃねぇなぁ」
 
 冗談でも51cm連装砲など食らいたくはない。直撃した深海棲艦を見た事があるが文字通り「粉微塵」になっていた。恐らく艦娘もそうなる事だろう。尤も彼女の小言は51cm3連装砲、もしくはSSM-1Bに匹敵する威力があるのだが。

「……馬鹿言ってないで行ったら?」

 どこか冷めた鳥海の一言に、一同の興が冷めたのか、ゆっくりと暴露甲板へと歩みを進めた。これから何が起きるのか、想像は付かない。何事もなければ良い。何かあっても誰も欠けなければ良い。そんな事を思いながら、摩耶は咥えていた煙草とその身を海に投じたのだった。