二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.22 )
- 日時: 2016/06/06 00:04
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
海原を駆ける。白波一つなく太陽の照り返しで、青を失った海原を。「たつた」のLINK16と情報を同期、共有していたが相変わらず深海棲艦を探知した旨の情報はなく、一瞬海中からプロペラの振動音を聴知したが、やや航路から外れてしまった第4潜水隊の伊19が音の発生源であった。
「ここいらはいっつも荒れてんだけどなぁ」
「……パナマ奪還を思い出すな」
「あそこら辺も普段、海静かだからな」
どこか昔話に耽るような摩耶と木曾であった。この二人と第4潜水隊はアメリカの艦娘達とパナマ運河の奪還作戦に参加していた。摩耶と木曾は水上打撃に従事、第4潜水隊は懐まで潜り込み、浮上後の爆撃を主任務としており、日米の共同作戦によりパナマ運河は無事奪還出来ていた。
「へー、あたし達からしたら波がないなんて信じられないよねー」
「波に抑え付けられる事だってありますからね」
「90年前に"飛行機じゃない神風"が吹いてくれりゃ良かったんだがな」
艦娘達には元々、艦の記憶を引き継ぐ者も居るが多くはその記憶を引き継ぐ事がない。大湊でそういった記憶を持っていたのは川内、日向程度にとどまる。それが故に艦娘達には戦闘に関する分野のみならず、戦史教育も施している。摩耶の言う"飛行機じゃない神風"が吹いていたのなら、東京大空襲、長崎、広島への原爆投下は避けられなかったが、荒天が原因で戦艦アイオワやミズーリ等による室蘭砲撃は避けられた可能性はあった。そんな詮無い事を口走る。
「摩耶、90年も昔の話だなんて。お隣みたいで見苦しいわよ」
「そいつもそうか。木曾。西部方面隊と"護衛艦「さがみ」"の事もあと一世紀は言われ続けるんじゃねーか?」
「人民解放軍の13000人規模の師団全滅、揚陸艦3隻、随伴駆逐艦3隻、空母1隻撃沈だからな。1世紀じゃ利かないぜ? 旧軍が南京で正規兵を殺した数より多いだろ」
「ところで木曾ー、捕虜はいたのかい?」
「昔の事なんて覚えてねぇな」
如何にも含みのある言葉を木曾は吐く。北上はうげーと大袈裟なリアクションを取ってみせ、摩耶は苦笑いを浮かべていた。文字通り全滅させてしまったのだ。護衛艦「さがみ」による巡航ミサイル並びに新型設計された177mm速射砲による対地砲撃、更には通信を阻害する電波妨害装置、EMPなどをフル活用した結果、投降の意思を示させなかったというのが正しい。佐渡島が深海棲艦の発生源になってもおかしくない程に、艦が沈み、人が死んでいる場所に彼女達はしてしまったのだ。
「ホント、"さがみ"は凄いんだぜ? RIMPACでも集積地棲姫撃破してるしな」
「そんな事もあったねぇ。撃破に使った36発、120km先から全弾命中でしょ?」
「大和も真っ青ってな」
呉の大和が聞いたらなんというだろうか。46cm三連装砲は一撃必殺だとでも言うのだろうか。当たらなければ意味がないのだが。射程圏外から必ず攻撃を命中させる、そんな事が出来る艦娘が存在したらさぞ、心強いだろう。敵を早期発見した上で、従来の艦娘達の交戦距離に入る前に深海棲艦を減耗させられる。とても理想的な存在だ。
「……しっかし、レニングラード共いねぇな」
自身の電探にも、「たつた」のLINK16からも彼女達の位置情報が同期されない。既に海馬島まで30km、強速15ノットでゆっくりと航行しているがもう1時間足らずで海馬島沖の合流ポイントまで到達してしまう。差し詰めウォッカの飲み過ぎで、ガガーリンよろしく月まで行ってしまったのだろうか。今頃は「神は居なかった」とキマった言葉と共に吐瀉物を撒き散らしている可能性がある。
「まぁ、ロシアだからねー。あいつ等は午前か、午後しかないんだ」
ルーズすぎる時間管理の存在を知ってか、北上は何処か遠い目をしていた。かつて北上はまだ親交がなかった頃に、ロシア艦娘の監視任務に就いた事があり、彼女達に張り付いて行動していたが傍受した情報、命令は相当いい加減な物で、大湊では絶対あり得ないようなものだった。そんな事があったためか、北上はロシア艦娘達が使っていた電探の周波数帯を覚えており、それに自身の電探を同調させるも耳に飛び込んでくるのはノイズばかりでレニングラード達の声はない。
「おっかしいなぁ」
波音に紛れた北上の独り言。それに誰も反応する事もなく、ロシア艦娘達からの応答もなかった。何かがおかしい。不吉な直感に由来する不信感、猜疑心、不安感。そんな物が北上の中に沸々と沸き立つのであった。