二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.23 )
日時: 2016/06/06 22:30
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 羨ましげに彼女達は水面を睨み付けていた。その瞳は青い光を宿し、伸ばした手は水面を指差す。彼女達が身に纏う装束は赤く、黄色い槌と鎌、そして五芒星が描かれていた。その顔立ちに生気はなく、開かれた口からは呼気すらない。その様相は宛ら、深海棲艦の如く。傍らに沈むはスキットル。それには見慣れた名が刻印されていた。


 海馬島の西側は切り立った断崖絶壁をしており、海の青は厭に深い。まるで何かが潜んで居そうな予感を過ぎらせる。この海にアンノウンが撃墜されたのだ。第4潜水隊が海底を直接探査しながら、水上からはソーナーを照射して海底の残留物を探知しているが、一向に発見されたという報告はない。

「ホントに沈んでるの? 」
「沈んでるはずだ、座標はこの近辺だろ? 」
「というかさぁ、ロシアの連中どこ行ったのさ」

 アンノウンは発見出来ず、ロシア艦娘との合流は適わず、彼女達から応答はない。それは愚か彼女達の母艦となるロシア海軍の艦艇すらレーダーに反応がないのだ。
 
「……撤収を進言するか?」

 何かがある。そう判断し引くのも正解であり、誰も咎める事はないだろう。しかし、摩耶のその言葉は艦隊を煽るために発した言葉であり、それを聞いた木曾は小さく舌打ちをし、悪態を付きながらも海底の探査に勤しんでいた。

「ちょっと、摩耶その言い方はないでしょ?」
「知るかよ。ちょっとイレギュラーな事が起きてるからって、臆病風に吹かれるコイツ等がワリィんだよ」

 鳥海に戒められるも、それを一蹴するなり摩耶は空を睨む。あの空から何かが堕ちたのは確実。それを探しに来たというのに、見つけられない。それは愚か、共に探索する仲間すら見つけられない。

「……探知音聴知。ここから3km先、深度約70m。何かがあるわ」

 静かに語る大井を一瞥し、その方向へと雷巡達はソーナーを照射すれば、確かにそこに何かがあった。潜水艦娘達ではないのは確かだ。彼女達は海馬島南に布陣し、別箇所を探索しているからだ。

「摩耶、潜水隊を呼ぶか?」

 その方向を指差しながら、木曾は進言してくるが妙な不快感が摩耶の中を去来する。彼女達が今、探知したのはアンノウンではない別の何か。そんな気がしてならないのだ。
 喉まで行けと声が出かける。それを飲み込み、摩耶は拳を握り締めていた。その異変に気付いたのか、鳥海は不安げな表情を一瞬だけ浮かべるも、主砲をその方角へと向け見据えていた。

「おいおい、動いてないんだ。あれは深海棲艦じゃないだろ?」
「……艦隊行動。輪形陣を形成しつつ、各艦は後退せよ」

 緊張した面持ちの摩耶を横目で見遣りつつ、木曾は魚雷管を海面に向けつつ形成されつつある輪形陣の先頭へと就く。輪形陣を展開した場合の彼女の定位置であった。気付けば木曾の真下を航行していく、第4潜水隊の面々が一瞬だけソーナーに探知され、伊19の妙に気に障る笑い声を、聴知する事が出来る。

(さてな……)

 恐らくは摩耶が悪い予感を感じ取ったのだろう。臆病風に吹かれて——、と艦隊を煽った彼女であったが、旗艦が何かあると判断したのならばそれは白でも黒とせざるを得ない。尤も摩耶のこの判断は、艦隊を安心させる要因へと帰結する事だろう。異常な状況が重複し、何が起きているか判断しがたい現状、有事に即応出来る状況を形成するのは間違いではない。

「各艦、爆雷投下用意。鳥海はポイントへ砲撃を用意せよ。弾着観測を怠るな」
 
 木曾のソーナーからは伊58が爆雷投下は止してくれ、と非難の声が聴知されたが、それは無視し1発の爆雷を手に取った。北上や大井もそれに倣い、鳥海だけが後方から20cm連装砲の照準を定め、水上機を放つ。気付くと第4潜水隊の面々が、海面から顔だけ出して木曾の様子を見ていた。

「それ間違って落とさないでね!」
「バカ言うんじゃねぇよ」
 
 インカムの向こう側から、摩耶のカウントが聞こえていたが木曾は伊401へと軽口を叩き、緊張などないと薄らと笑みを浮かべる。
 鬼が出るか蛇が出るか、それとも何も起きないか。カウントが10から5となり、5から3となる。そして終ぞ投下の時。爆雷は中空を舞い、海中へと没していく。

「6秒って所だな」

 深度70mであれば、大体それくらいの時間で標的へと到達するだろう。足元の伊401がどうも、戦々恐々とした表情を浮かべていたのは気のせいではない。潜水艦からすれば至近に爆雷が落ちなくても、恐怖なのだ。水圧により外廓を破壊され、バイタルパートにまでダメージが到達すれば浮上すら侭ならない。

 現に木曾が言うように、おおよそ6秒のタイムラグで海面に水柱が上がる。水中に爆音が木霊しているせいで、ソーナーの波形は滅茶苦茶に狂い標的の探知が出来ずに居た。

「各艦、砲戦用意。第4潜水隊は雷撃用意を」
「りょーっかい」
 
 もしあれが浮上してきたならば、雷撃と砲撃を浴びせ飽和攻撃を以ってして、一瞬の間すら与えずに撃破するのみだ。それを為さなければ艦隊に損害が出る可能性がある。あれがもし空中へと飛び立つようであれば、己がそれを撃ち落すまでである。時はソーナーの波形が落ち着いた瞬間だ。
 隙を与えまい。そう考えていた摩耶を海底から見据える者が居た事は、誰も知る由がなかった。