二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.24 )
日時: 2016/06/12 23:28
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 仄暗い海底から、羨ましげに摩耶を見つめる"それ"は静かに魚雷管を海面へと向けた。1発、2発、3発と魚雷がスクリューから泡を生じさせながら、ゆっくりと海面へと向かっていく。ソーナーは未だ、海中への爆雷投下の影響で魚雷のスクリュー音を聴知出来ずにいた。魚雷はゆっくりとだが、確実に深度を上げていく。60m、40m、20m、10m、5m。それが海面を航走した時、はじめてその雷跡に鳥海が気付いた様子だった。

「……摩耶! 後方に雷跡! 回避をッ!!」

 インカムに叫ぶも、その声は摩耶に届かない。それは愚か、インカム自身が通信出来ずに居るようだった。何者からかECM攻撃を仕掛けられただろう。主砲に俯角を付け、海面を航走する魚雷へと主砲を放つ。夾叉を図り、正確な弾着をなす余裕などない。砲撃に摩耶が気付く事を期待する事しか出来ないのだ。

「……冗談じゃあねぇ」

 鳥海からの砲撃を見据え、摩耶は魚雷を振り切るように回頭し、速力を上げ海面を走る。それに気付いた北上や大井は摩耶へ、付随するように追ってきているが最前に居る木曾と、第4潜水隊はそれに気付く事なく、攻撃の指示を待っている状況が続いていた。遠目には大井がインカムを操作し、通信しようとしているが上手くいっていない様子が見て取れる。その事から摩耶も鳥海同様、ECM攻撃を仕掛けられた事を悟った。

(洒落にならねぇぜ)

 敵は何処から雷撃を放ってきたか分からない。更には艦隊内の通信をECMで破壊されている以上、陣形を保ったまま艦隊を移動させる事すら適わない。木曾ならび第4潜水隊が陣形前方に取り残され、摩耶と北上、大井が行動を共にし、鳥海が後方に孤立している状況がなされた。深海棲艦達の組織先頭の一環だと考えれば、次の一手は摩耶へと雷撃を放ってきた深海棲艦が鳥海へと攻撃を開始し、本隊を木曾達へ差し向ける事だろう。

「完璧にブッシュされてたねぇ。……陣形構築しなおそ」

 緊張感に欠け、飄々とした様子で北上が摩耶へと話しかける。既に輪形陣は瓦解しているため、北上は単縦陣への陣形展開を進言しに戻ってきたのだろう。その進言を受理し、小さく頷くなり北上は手信号で大井へと指示を伝えていた。

「…………ぶっ殺してやりたくなるよねぇ」
 
 大井へ指示を伝え、摩耶の隣を航行する北上はそんな物騒な事を小さく呟いていた。彼女の言葉の意味を考えるだけで、空恐ろしいものがあった。それは深海棲艦に対する敵意と、完全に出し抜かれた摩耶に対する恨み言を孕んでいたからだ。北上は普段から、飄々としていたが彼女の思考回路は"TheRollingStones"の"PaintIt,Black"の「俺」とまさしく同じだった。それ程までに彼女は戦場で黒く染まっている。

 鳥海の救援に向かうべきか、木曾達と合流を優先し艦隊の規模を増勢させるべきか。摩耶にはその選択が迫られていた。通信網を破壊されている以上、規模が大きくなれば連携を重視しなければならない、しかし単艦を捨て置けば間違いなく敵は殺到する。

「鳥海から発行信号。"第4潜水隊並び木曾への合流を敢行。深海棲艦の追撃あり、規模はイ級4隻、リ級2隻、ヲ級1隻。至急、対処支援されたし"だってさぁ……、行くよねぇ」

 指示を下す前に味方からの救援。旗艦の面目など既にない。小さく舌打ちをしながら、北上の肩を握りつぶすのではないのか、という程の力で掴み彼女の耳元で囁く。

「先導しろ、行くぞ」
「……怖いなぁ」

 茶化すような北上の背を押す。摩耶の前を進み、先行する北上は自身で分かる程に、悪い笑みを浮かべていた。深海棲艦に対する殺意、出し抜かれた摩耶に対する悪意、そして戦場の空気の心地よさ、これらが全て自身の箍を1つ外してくれるような気がしてならなかった。

「艦隊行動。梯形陣を形成せよ」

 重雷装艦の雷撃を生かすためには、単横陣は向かない。しかしながら、北上を後退させ、大井を前進させるのでは重雷装艦の速力上、難しい。故に北上を左舷側へ、大井を右舷側へとスライドするような指示を下す。

「全門撃っちゃっていいんですか?」
「鳥海に当てんなよ」
「難しい相談だねー」

 悪い笑みを浮かべた北上は相変わらず、飄々とした言葉を放っていた。誤射の可能性はなきしにも非ず。全門魚雷を放つという事は深海棲艦への攻撃を点ではなく、面で行う事となる。雷撃の予測進路に鳥海が居れば、彼女に当たる事すらあり得るのだ。

「ホント、ECMなんて深海棲艦も厄介だねぇ」
「……私達が対処しにくように、出来ないように少しずつ進化してるようにしか——」

 護衛艦「まきなみ」に乗っていた頃、深海棲艦と戦った時にはこんな事はなかった。組織戦闘は愚か、ECMなど高次なものを使えるようには感じ得なかった。それ程までに呆気なかったのだ。

 この海域にはやはり何かがある。そんな事を思いながら大井は魚雷管を海面へ向けるのだった。有象無象を吹き飛ばし、ここの謎に手を触れなければならないと。