二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.25 )
- 日時: 2016/06/18 12:06
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
西から走る雷跡。それを見据えつつ、増速、減速を繰り返しながら深海棲艦と思しき艦隊を狙い、照準を定める。敵の数は6隻。放った水上機からの情報によるとニ級後期型が4隻、レ級が1隻、そしてヌ級が2隻存在しているという。既に水上機は撃墜され、それ以上の敵勢力の情報は入手出来ていない。通信も出来ない状況であるため、その情報を別働している摩耶や木曾達に同期する事も難しい。発光信号を以ってして自身の行動を摩耶達に伝える事は出来たが、攻撃されている状況下、それ以上に情報を伝達する事が難しかった。
(西方へ……回頭されたし。敵深海棲艦……多数視認。繰り返す——)
発光信号を木曾達が居るであろう方向へ向け、通達するも波に遮られ上手く伝わっていないらしく、応答と思しき発光信号もない。波を切り裂く為、艦の姿を取るべきなのだろうが、図体が大きくなればその分、被弾面積も増えるだろう。敵の存在を知らせる前に、攻撃を浴び行動不能、撃沈されるなど笑い話にもならない。
完全に出遅れた後手後手の対応。終ぞ雷撃のみならず砲撃までが飛来してきている。今はまだ輝度の低い、駆逐艦からの小口径砲だけが飛んできているが、次期にレ級とアンノウンからの攻撃が開始される事だろう。恐らくは弾道計算を繰り返し、その精度を上げてから1発で仕留めに来るはずだ。
(だったら——!)
主砲である20.3cm連装砲を全門、左舷へと向け砲撃を放つ。海面は抉れ、押し潰されていた。砲炎に瞳を細めながら、次弾装填を進めつつ魚雷管を海面へと向けた。敵艦隊は真一文字に広げられた陣形を微かに歪めながら、回避行動を取っているらしく一時的にだが砲撃の手が緩められた。
増速し波から波へと飛び移るようにして、海面を走り木曾達が居るであろう方向へと鳥海は突き進む。敵艦隊の状況を横目で見遣りながら、魚雷を3発放ち、次発装填を進め、今放った魚雷が命中する事を祈った。
「——元気ィ?」
不意に海面から聞こえるロシア語。それは聞き覚えのある声でいながら、何かが違う。言うなればとても冷たく、抑揚がない。思わず缶を止めてしまった。振り向いてしまった。
「——レニングラード?」
「正解」
突きつけられた主砲。状況が飲み込めないまま、次の声を放とうとした瞬間。眼前が爆炎で遮られ、激痛と共に身体が弾け飛ぶ。何をされたか、何があったか。ゆっくりと海面に斃れ込みながら、ほくそ笑むレニングラードを見据えていた。
「ずっと眠ってろよォ、鉄屑」
真っ白な長い髪は海風に靡き、獰猛な笑みを浮かべた彼女は鳥海を見下ろしていた。全身は海水に濡れ、カーキ色の軍服に赤い星をあしらった腕章はズタボロに裂けていた。
砲撃を浴び、全身を穿たれ身動きが取れなくなった鳥海にトドメを刺す事もせず、レニングラードは木曾からの発光信号を見つめていた。
「……へぇ、迂闊ゥー」
楽しげに海面を走るレニングラード。それを止める事は適わず、ようやく輪郭を取り戻した視界で海を眺める事しか出来なかった。海面に浮かんでいるのは自分の右腕か、赤い血と自身の熱が、少しずつ青すぎる海に消えていく。まだ何があったか理解出来ない脳を無理やりに動かしながら、鳥海は死を受け入れる訳にはいかないと、小さく舌打ちをしながら人の形を捨てるのだった。
無理やりに身体を動かし、鳥海は波を切り裂きながらレニングラードの後を追う。海面に彼女の姿はない。となれば、海中を進んでいる事が予測される。その行いはまるで深海棲艦の如く。かつて、佐世保にて勇名を轟かした武蔵のように彼女も深海棲艦に身を窶したのだろうか。そう考えれば話の筋は立ち、自身に攻撃してきた事実も納得がいく。
(おかしい……)
全周をぐるりと見回すと、北方に木曾と第4潜水隊。西南方に摩耶達が航走している。鳥海の艦影に気が付き、彼女達の視線は此方を向いている。であれば、やる事は一つであろう。発光信号を以って状況を報せるのだ。北方の木曾達へ手短にレニングラード接近を伝え、西南方の摩耶達へはそのまま北方に深海棲艦の水上部隊の存在を報せる。木曾は鳥海の伝達の意味がよく分からなかったらしいが、第4潜水隊は潜航を開始、レニングラードを確認しようとしている。
(了解。敵艦隊の側面を取る。——支援を要請する)
摩耶からの発光信号に短く、返答するなり各主砲、副砲の仰角を0°に設定しゼロ距離射撃を敢行する。水柱が上がり、多数の砲による砲撃で水上艦隊の視界と進路を阻害していた。陣形は乱れ、その乱れた陣形へ突っ込んでいくのは北上や大井の雷撃であった。深海棲艦からの攻撃は摩耶達へと向かわず、眼前の巨大なターゲットである鳥海へ集中していた。しかし、それが故に小口径砲は徹甲弾から榴弾へ、弾種転換をしなければならず、鳥海への砲撃はタ級とレ級によるものだけで済んでいた。
1隻また1隻と二級が海の藻屑と消え、2隻のタ級の内1隻は被弾の結果、ダメージを負っているようだった。ファーストコンタクトが上手く行った訳ではなく、後手後手の対応でなんとか活路を見出せたようである。
残る戦力はタ級1隻、レ級1隻、そして木曾へと向かったレニングラードのみだ。燃え上がる船体を海馬島へと乗り上がらせながら、鳥海は艦の姿を解く。失ったのは右腕、レニングラードの砲撃により左脇腹が裂け、破れた腹膜と僅かに内蔵が顔を覗かせていた。全身にも火傷が点在している。無茶しすぎたか、と苦笑いを浮かべながら鳥海は厭に青い空を睨む。戦場で高揚し、頭に上った血液が少しずつ抜けて、体温が下がっていくのがどことなく心地よく感じられていた。
(……摩耶達は——)
首だけを起こして、海を見つめれば摩耶はレ級やタ級への白兵戦闘を敢行しているらしく、タ級は雷撃を貰い足を飛ばされたのか、海面に這い蹲っている。レ級に関しては尾で摩耶の脇腹へ、噛み付いているようだが首元を持たれて高角砲を突きつけられているようで、蜂の巣になるまで時間の問題であった。
木曾達の姿は島の陰に隠れ、見えなかったが摩耶達が上手く合流してくれる事だろう。そう祈りながら鳥海は意識を手放すのだった。