二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.27 )
- 日時: 2016/07/05 20:10
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
真っ暗な海を眼下に、秋津洲と明石は二式大艇に乗り、海馬島へ向かっていた。随伴の直衛機はなく、深海棲艦の電探を躱しつつ、対空砲火を浴びにくいギリギリの高度を保ち、エンジン音を出来るだけ静かな物にするため、ゆっくりと飛び、夕刻出立したというのに未だ海馬島には辿り付いていなかった。
「秋津洲、あと何時間?」
「あとー……、1時間くらいかも」
「随分と掛かりますねー、もう少し飛ばせないの?」
「んー、敵に見つかりたくないから、静かに飛ばしてるんだけど」
エンジンを最大まで回せば、音で捉えられる。ゆっくり飛べば鳥海の容態が不安。このジレンマに明石はやや不安を抱く。内臓が露出する程の裂傷、弾け飛んだ右腕。いくら艦娘といえども、行動は出来ないような負傷である。
眼下には護衛艦「たつた」が対深海棲艦用に有線小型機雷を散布していた。彼等にヘリ運用能力があれば、鳥海はもう少し早く治療を受けられていただろう。ない物を強請り、泣き言を言うのは見っともないと明石は口を噤んでいたが、本音はそうであった。米国からの圧力で国産LCSなどを作ったが、ヘリ運用能力がないため、やはり決め手と汎用性に欠ける。かつて建造されたDDH、「いずも」と「かが」のような欠陥艦にしか思えなかった。
「……いつの時代も無用の長物ばかりね」
まるで自嘲するように1人ごちた明石は、機首下部の銃座から仄暗い海面を見つめた。暗闇に波は見えず、海も空も見分けがつかない。まるで、海そのものが得体の知れない何かに感じられ、不安と恐怖が交じり合い、好奇心の一滴が滴り落ちた、いいようのない奇妙な感情が胸の中を去来する。
「戦う艦は秩序を乱す頓狂が居るから必要なのかも。艦娘も同じ」
何やら普段のちゃらんぽらんで、臆病な秋津洲からは信じられないような発言であったが、彼女のいう事は尤もである。世に存在する秩序を乱す輩が居なければ武力は必要ない。艦娘もそれに等しい。現に日本という国は、その頓狂を秩序とした隣国を屠るために13年前にその力を奮った。
「それもそうかぁ」
秩序を乱す者が居るならば、その頓狂を殺める必要がある。頓狂に説得は通じず、死んでも治らない馬鹿の集団があるのなら、口のない死人の山を築き上げるしかないのだ。
「——ん……?」
機首下部の銃座から、感じ取った海面の異変。同時に「たつた」のLINK16から標的同期の通知が入り、二式大艇の中にけたたましいアラームが鳴り響いた。突如として銃座に姿を現した妖精らしき、小さな影が銃座を海面に向けている。
「……深海棲艦っぽいのとアンノウンが交戦してるかも。たつたにはデフコン2が発令されてる」
「2種配備ですか?」
「距離が距離だから、接近されてから対処するのかも」
あまり切迫した様子はなく、秋津洲は座席の上で油圧回路の計器をチェックしていた。先程まで操縦桿を握っていたが、今は妖精と思しき影がそれを触れずに操作しているようだ。念力の類だろう。
「無線の周波数弄って、アンノウンに通信しようとしてるけど、ダメかも」
「え、整備不良ですか?」
「ううん。多分ECM。ここいら一帯に妨害電波が流されてる」
摩耶達から通信のあったECM攻撃。再度これが為されるという事は第2次攻撃の兆しの可能性があった。摩耶達は上陸し、海馬島に身を潜めているが深海棲艦の対地攻撃があると想定するならば、照明弾を上げガイドビーコンの代わりにする事は難しい。即ち二式大艇の着水が遅れ、鳥海への対処が遅れる事となってしまう。
「……どうするの?」
薄暗がりの中でも分かる明石の切迫した表情。それに秋津洲は静かに息を飲み、座席に腰を下ろした。
「ゆっくり高度下げて、海上を走るしかないかも……」
出来る事ならやりたくないと言った様子だ。ガイドビーコンがない状況で、島に着水するという事は減速の加減と進入位置を間違えば、島へ衝突する可能性が多いにあるからだ。それでも秋津洲は覚悟を決めたように、静かに息を吐き、妖精の変わりに操縦桿を握ったのだった。
ロシア海軍に所属する艦娘である「レニングラード」は見えない敵から逃げていた。海面に姿を出せば、水平線の向こう側から回避位置まで予測された砲撃をされ、海中に姿を隠せば対潜ミサイルの雨が降り、それを凌いでも爆発した水圧で身体の骨を圧し折られる。水圧に右手の指は、圧し折られた鉄筋のように折れ曲がり、右の耳は魚雷音の聴知すら出来ずに居た。
(……なんだ)
恐らくこのまま行けば死ぬであろう。しかし、それでもレニングラードは冷静で居られた。死神、地獄の番犬、その類の必ず敵を屠るという意思を持った何かが、ひたすらに負い掛けて来ている。どこにも逃げ場などないのでは、と思えるのだった。
早朝、スラーヴヌイが撃沈され、混乱する中で殿を務めたヴォロシーロフは深海棲艦の手によって拿捕、文字通り"解体"された。終いに深海棲艦の艦隊に拿捕され、同様に"解体"されたが目覚めた時には艦娘ではなくなっていた。海の上が羨ましく、彼女達が憎く、沸々と殺意が沸きあがってきたのだ。自制しようにも身体は、脳を無視して動く。終いには友軍であるはずの「鳥海」を傷つけてしまった。
微かに残る自我が自分の苛め、このまま沈み贖罪せよと言い聞かせても、真っ暗な海底に恋人でも置いてきたかのように、軽やかに、足早にその身を落としてしまう。
その刹那、何かが海底から海面へ向け急速に浮上していく。その姿は見覚えがある物で、月明かりを受け青い瞳を輝かせ、真っ黒な長い髪を海中に漂わせる。それはヴォロシーロフであった。殿を務め、"解体"されたというのに、また自分1人で死にに行くといのだろうか。哀れだ、そう思った途端、レニングラードの身体は反転され、再度海面へと上がっていくのだった。これは深海棲艦の習性によるものだと、僅かに残った自我で判断していた。1人では戦いを避け、仲間が居れば寄って集って標的を追い回す。
(脳じゃなく、身体で動いてるのか)
本能や、走性で動く。まるで蟻だ。恐らくは人型ではない深海棲艦は蟻のように何かに命ぜられて生きているのだろう。下位の深海棲艦同士が互いに"フェロモン"のような物を発しあい、互いに引き付け合って標的に向かっていく。そして人型の深海棲艦が居る事で、より強い"フェロモン"の元で意思を持ったかのように動くのだろう。このまま行けば死ぬ。そんな状態だというのに、今更になって深海棲艦の行動原理に仮説を打ち立てられるとは、馬鹿げた話だとレニングラードは自嘲した。
海面に立てばヴォロシーロフは、蛇行しながら砲弾を躱し"何か"へと向かっていた。それに続くように身体は勝手に動く。波のない海、月の明かりがその"何か"を照らした時、真っ赤に燃え盛るような瞳を此方に向け、それは口を動かした。
「——殺してやる」
そう短く言葉を発したように感じられた。その刹那、空から何かが降りヴォロシーロフを爆散させた。艤装も身体も、彼女の形は一瞬で失われ水柱が上がる。耳をつんざくように何かが飛来するような音。それを見ようと首を動かした時、レニングラードの意識は途絶えた。