二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.28 )
- 日時: 2016/07/07 00:20
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
爆煙と共に水柱が立ち上り、突き刺すような戦場の感覚が木曾を支配していた。13年前の佐渡島の記憶が蘇る。海上から放たれる対地ミサイルと、護衛艦「さがみ」から絶え間なく放たれる177mm。敵から容赦なく放たれる機関銃の銃弾が、ビーチングした運貨船のバウ・ランプに減り込み、弾が弾けるその感覚。磨り減っていく神経がどことなく心地いい。
隣に立つ北上の表情もどことなく強張り、瞳は見開かれていた。何時の間にか艤装が展開され、手にはしっかりと14cm単装砲が握られている。第4潜水隊の面々は各々が伸びをしたり、煙草の火を消して海面を見据えていた。あとは摩耶の指示1つ、行けの一言を待つのみなのだ。
行けというべきか、やり過ごすべきか。その選択を摩耶は強いられている。というのは誰も言葉を発さずとも分かる事であった。敵が目の前に居るなら、撃退するのが常。現に彼女達の導火線には火が付き、乾ききった火薬に点火するのを待つだけだ。しかし、それの指示を出せば「鳥海」を置き去りにする事となり、深海棲艦と"アンノウン"との三つ巴の戦いとなる可能性がある。そこで更なる損害を出すか、そこで沈むか。命と戦いの選択、戦わなければ遠巻きに死ぬ。1人を見捨て、敵を叩いて多くを救うか。選択しがたい事象であり、その判断に苦慮するのであった。
「……摩耶、行けの一言すら言えないの?」
北上がそう煽る。彼女の顔付きは、どことなく暗く凄みがあった。修羅場を潜り抜けてきた兵士の顔。命の取捨選択を容赦なく出来る、指揮官の顔だ。それを見て摩耶は口を噤む。答えは導き出せずにいた。戦闘技能こそあれど、冷徹な指揮官である側面は見せられない。
不意に後頭部突きつけられた冷たい鉄の感触。北上から向けられたものではなく、それは木曾から向けられた代物だ。撃鉄を起こす、金属質な乾いた音が摩耶の耳に飛び込む。
「判断しろ。指示を出せ。それが出来ないなら価値はない。鉄屑だ」
取捨選択。それを為すのが指揮官の務め。価値がない物は要らない。木曾の言葉はこうだ。向けられたのは彼女が普段から持ち歩いている、艤装を破壊された時に使用する自害用の拳銃であるのは間違いない。指示を出さないなら殺す、という意味だろう。
大湊の艦娘特有の文化だ。他部隊から転属され、旗艦を勤める事となった艦娘が非常に徹しきれず、大湊の文化に染まりきった艦娘の手によって、処分され、一時的に指揮権を乗っ取るのだ。そこに平時の友情や、思慕といった物は存在せず為さなければならないのであるからこそ為すというだけの、単純な使命感のような代物である。
ゆっくりと後頭部に手を伸ばし、木曾に突きつけられた拳銃を退かそうとするが、彼女は両手で構えているらしく、それを退かす事は適わなかった。仕方ないと小さく溜息を吐き、手で拳銃の銃口を塞ぐ。もし撃たれても手を抜けて、頭蓋で止まる。
「……二度目のミスは許されないぜ」
「よく言う。お前があたしを撃ったとして、指揮が取れるのか?」
「俺がやるんじゃない。なぁ、北上」
横目で北上は木曾に視線を一瞬だけ遣すと、小さく鼻で笑うような素振りを見せた。指揮を乗っ取るつもりがあるのか、ないのか判別に困る返答をする。巻き込むなとも言わんばかりの反応に木曾は小さく舌打ちをし、その銃口を下ろす。
「ったく……、どうすんだぁ? やらなきゃ秋津洲達も着水できねーぜ?」
木曾の言う事も尤もであり、水上の脅威を排除しなければ秋津洲達が接近できない状況。ミイラ取りがミイラになるような事は避けなければならず、それが起きるのは最悪の事象であり、水上連絡や大島の整備能力を欠くような結末は避けなければならない。霧島に地獄の果てまで追い回される事になる。
「あの……、浜に何か上がってますけど……?」
光学単眼鏡で監視を続けていた大井が、戸惑うように状況を報告していた。深海棲艦は陸に上がらない。何時の間に秋津洲や明石が到着したのだろうかと、首を傾げながら摩耶は暗闇に目を凝らすも、人影は1つに留まり、それが何者なのか判別出来ずに居た。
「陸に上がる深海棲艦なんて居たか?」
「集積地棲姫くらい」
集積地棲姫は発生条件がよく分かっていない。数年前のRIMPACで米海軍と海上自衛隊の手により、撃破されたそれは突如として出現した物らしい。原住民は海中から化物が上がってきたなどと騒ぎ立てていたようだが。集積地棲姫でないのであれば、何らかの艦娘とも考えられる。光学単眼鏡越しにキョロキョロと辺りを見回すそれには、物々しい艤装のような物が確かに展開されていた。体躯は神通より背丈がやや高い位であろうか、砲らしき物は持っておらず筒状の何かと、巨大な箱のような物を持っている。それはゆっくりと大井へ向き直り、厭に赤い瞳を此方に向けた。禍々しく見える眼光であったが、夕立の前例がある。それに不思議と殺意や敵意といった負の物は含まれていないように感じられた。その赤い瞳の持ち主は、ゆっくりと歩み寄ってくるのであった。
各々は艤装を展開し、それを向かい討つ準備をし、陸上では無力な第4潜水隊の面々は、木曾を盾にするようにその後ろに隠れている。電探を回せば、ECMによりノイズまみれであったが着実に標的が近寄ってきているのが分かる。摩耶は息を呑み、その暗闇の向こう側を睨みつけるのだった。