二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.32 )
- 日時: 2016/07/25 12:12
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
3.Crazy Diamond
DDK-124「きよなみ」艦首が喪失され、彼女はその断面を大きく曝していた。総員130名の乗員のうち、12名が殉職。20名余りが負傷していた。見知った乗員の血が流れ、命が失われたのだ。
"きよなみ"は函館基地隊の建屋から、曳航されていく自分の昔の"身体"を眺めていた。身を裂かれた激痛を思い出し、首の辺りを彼女は擦った。もしこの艦娘の身体で、あのような損傷を受けたならば助かりはしなかっただろう。大湊で快く迎え入れてくれて、補給の最中も付きっ切りで談笑していた足柄や神通は全身に大火傷や、右足を吹き飛ばしたりしてしまったようだが命は失われていない。その事から、この艦娘という存在の身体は存外、丈夫で強固な代物であるようだ。
それにしても"きよなみ"にはある事が気になっていた。素性が分からない者達が多いのだ。本当の名前は名乗らない、艦娘になる前に何をしていたか言おうとしない。あきつ丸に関しては「自分は死人であります」と言い放っていたが、それすら真実なのか分からない。如何せん、艦娘という存在は謎が多い。
(私もあいつ等と一緒なんじゃ……?)
ふと、思い浮かぶ事があった。それは深海棲艦という存在と艦娘は同じ物なのではないのだろうかという考えだ。確かにそのような推察を上げている者は多く、過去の激戦地や難破の名所、チョークポイントに艦娘はよく出現する。そこは人の念が篭り、血が滴り、命が失われた場所である。艦娘を保護する場合も、そのような場所が多い。その事から艦娘と深海棲艦は表裏一体の存在なのでは、と思うのだった。
「"きよなみ"そんな顔して、どうしたのじゃ?」
声は若いというのに、老人のような言い回しをする艦娘、利根が"きよなみ"の左隣で顔を覗かせていた。利根や夕張、あきつ丸、黒潮といった艦娘達が気を利かせて、構いに来てくれる。彼女達は大湊の艦娘であるが、大湊の冷徹なルールに染まりきっていないように感じられた。
「幽体離脱ってこんな気分なのかなー、って」
「——あぁ、あれじゃな」
利根も曳航される「きよなみ」の姿を見て、感慨深そうに振舞っていた。優しげな視線を向け、"きよなみ"の頭を掴む。
「なに」
「……お主、めったに出来ぬ経験をしたのう。我輩たちはそんな事も叶わんでな」
そう利根は快活に笑い飛ばした。二次大戦後、利根は解体処分されている。その鉄材はどこに使われ、今はどこに行ってしまったか分からない。自分の成れの果てを見る事も出来ない。
「函館はどうじゃ。良い街であろう」
「……はい。人も優しいですし、食べ物も美味しいですし」
「郷里を褒められるのは気分が良いのう」
にやにやと嬉しげな笑みを浮かべる利根だったが、彼女の放った郷里というフレーズが、"きよなみ"には気になった。
「函館出身なの?」
「……口が滑ったな! まぁ、良い。生まれも育ちも函館じゃ。今度街を紹介してやろう」
"きよなみ"は普通の人の営みを知らない。艦の中は毎日決まりきった生活であり、非日常が織り成される場所だ。こういった利根の申し出は嬉しく、少しばかり気恥ずかしさが存在していた。
盲いた女の前に立ちはだか女、彼女もまた目を患っているのか右目に眼帯をつけ、その下から焼け爛れたような皮膚を曝していた。傍らには磯風という名の艦娘が伏せ目がちかつ、静かに今川を見つめている。
「舞立。相変わらず悪い顔をするな」
突然何を言い出すんだと、今川の隣に居た大淀が苦笑いを浮かべ、その後ろに居た妙高は頭を抱えた。舞立と呼ばれた女は表情を変えず、磯風を見遣る。
「今川司令の言うとおりかと……」
「酷いネー」
「まだ、その喋り方抜けないのか?」
「内なる金剛が……」
凶相の2人が馬鹿な話を繰り広げている。妙高は小首を傾げていたが、大淀は2人の関係を知っている。かつての第2護衛隊群の旗艦達だ。2護隊は長門が、6護隊は金剛が勤めていた。尤も金剛は"あの武蔵"の後任であったが。
「相変わらず大湊は殺伐としてマース。司令が悪い?」
「抜かせ」
佐世保の人間からしたら大湊は、殺伐としているように見えるだろう。状態の良すぎる旧式艦艇、必要最低限の港湾機能と、必要最低限の庁舎に必要以上の能力を押し込み、最大の敵は自然と言わんばかりの荒れた気候。
「大湊は金が足らんのだ。金もなければ人も足りん、それを誤魔化し、誤魔化し戦い凌いでいるのだよ」
「3護隊は強いからネー」
3護隊は強い。その一言に妙高の眉根がピクりと反応していた。7護隊旗艦の前で言う言葉ではない。舞立もそに気付いたのか"ソーリー"と苦笑いを浮かべて、頭を垂れた。
「大湊は大変みたいネー。仮称だけど北部方面艦隊ってのが居るんでしょう?」
「情報が早いようで何より。寡兵でどう立ち回るか頭を悩ませている所だよ。なぁ、大淀」
「そうですね、今も神通さん達が下で会議してますし」
それで旗艦が居ないのかと、舞立は合点のいったような顔をしていた。頭が切れ、判断力に優れる神通と、歴戦の経歴を持つ龍驤の経験則に基づいた進言、これが大湊を支えうる二本の柱なのだろう。
「所で身体の具合はどうだ?」
「寒かったり雨降ると痛むヨ。ナオミも目が余りよくないみたいネー」
「……あぁ、日に日に衰え、見えなくなってる」
互いに顔を見合わせ、小さく笑った。今川は視力を失いつつあり、舞立は艦娘時代に腕と足を失っている。白い制服から義手が顔を覗かせていた。
「私達みたいなのを、増やしちゃいけないネー」
「……だからといって、お前にくれてやる戦力はないぞ」
「知ってるヨ! そんな事ー」
そう2人は軽口を叩きあった。佐世保の戦力は大湊の1.5倍。正規空母をも所有している。それに比べ大湊は正規空母を所有しておらず、戦力規模は小さい。
舞立は各地方隊から艦娘を引き抜いて回る事で有名であった。それをさせないために、今川は先に釘を打つのだった。