二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.33 )
- 日時: 2016/07/26 00:07
- 名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)
第6突堤の根元に立つ大湊の者ではない艦娘、その存在を工作部の中から夕張は見つめていた。一番手前には天龍、その奥には阿武隈や能代といった艦娘達の姿が見られる。突堤の先端には第2護衛隊が誇る装甲空母を名乗る艦娘の姿もあった。
「壮観だねー、あれ」
彼女達を指差し、夕張は傍らで配電盤を操作していた南沢技官に話しかけた。彼の反応はいまいちで、窓から外を一瞥し小首を傾げていた。無理もない彼は「護衛艦」専門なのだ。艦娘に関連する業務は致し方なく行っているだけであり、誰を見て誰だという判別はあまりつかない。
「手前は軽巡、奥に居るのが装甲空母」
「……装甲空母という事は2護隊かい?」
「そうそう」
大湊には存在しない正規空母。その発展形である彼女達を窓から南沢も眺める。手前から瑞鶴、翔鶴、大鳳である。現在の2護隊の旗艦は扶桑と聞くが彼女の姿は見えない。FTGを受けに来たようであるが、流石に全艦娘を佐世保から引き連れてくる訳には行かなかったのだろう。
ふと、第6突堤へと向かう龍驤とその後を追う神通の姿が見えた、龍驤が今回のFTG担当艦なのだろう。実艦を用いた査閲的なFTGを行うとは聞いていないが、何があっても不思議ではない。神通が彼女の背を追ってきた段階で、3護隊が彼女達の相手をしなければならないかも知れない。
「……昼間は防空に徹して、夜戦に持ち込ませるしかないかなぁ」
「装甲空母の相手は骨が折れるでしょうからね」
「なんか聞いてる?」
「えぇ、瑞鶴が1回も大破した事ないとか……」
嘘だろうと言いたげな夕張の表情に、思わず南沢は苦笑いを浮かべた。艦娘達は大規模な艤装修繕に伴い、艤装の近代化改修を行う事も多々ある。裏を返せばそういった近代化改修を行っていないのかも知れない。
「彼女達、卑怯だよ。戦艦から思いっきり殴られても大破しない限りは戦い続けるからね。艦載機の搭載数も正規空母並みだし」
「龍驤さんと戦ったらどうなるかしら?」
「あの人は……、ズルいからね。戦力の差をそれで引っ繰り返すから……」
南沢は苦笑いを浮かべながら、額に浮かんだ汗を拭った。船渠に繋がっている電路接続作業の進捗は良い様子だ。
「夕張、絶縁測定お願い」
「りょーっかい」
テスター片手に船渠の真下に潜り込む夕張を、他所に南沢は再び第2護衛隊の面々を見据えた。大湊は最前線、佐世保から艦娘を遣せとは言わないが深海棲艦からの攻撃を受けていない呉や、大規模戦力、空母を集中して配備していながら、秋月型の防空艦娘を集中配備している横須賀に対する反感に似たような感情を持っていた。大湊は寡兵、個々の戦闘能力、旗艦達の指揮能力、今川の処世術、これらが無ければ既に大湊は陥落、日本は半身をもがれたような痛手を負っていた事だろう。
大湊に今必要なのは、金と設備、そして艦娘。"きよなみ"を回収できたのは幸いであったが、空母の数的不足は痛手。空母がないのならば防空駆逐艦を遣して欲しいといのが実情。現に第2護衛隊の艦娘達の艤装には、傷1つなく新品のように光り輝いている。相反し、神通の艤装は動作には問題ないが傷に塗れている。そこまで修繕するだけの費用がないのだ。
「絶縁ばっちりよ。……難しい顔してどうしたの?」
「あぁ、いや……」
「分かった! 明石に会いたいんでしょ」
またそのネタかと南沢は夕張の額を小突き、発動機の上に置いた缶のお茶を「ご苦労様」と手渡した。長時間、暑い作業場に置いていたためか、すっかり温くなってしまったが、そんな事を気にする様子もなく、夕張はそれを一瞬で飲み干した。
「まだある?」
「POの冷蔵庫にあったと思うけど」
PO(プロジェクトオフィサー)と呼ばれる、艦娘の艤装や護衛艦の整備に関わる工程を管理する人物。夕張と彼は仲が良い。艦娘だというのに、暇を見ては工作部の業務を全面的に手伝ってくれるためだ。そのためか、夕張は試製艤装を持っていたりする。
「PO、昼から帰らなかったっけ? 歯医者だとか」
「あれ、そうだっけ?」
「ま、いいや。勝手に持ってくる」
そう足早に工場から立ち去る夕張を見送り、南沢は再び窓の外に視線を遣る。眼前には真っ赤な服に身を包んだ龍驤が、身を乗り出して南沢を見ていた。
「……足ついてるかい?」
「失礼なやっちゃなぁ、ついとるわ」
小柄な龍驤をからかうような発言をし、南沢は笑顔を浮かべた。この小さな身体には数え切れない実戦経験と、戦場における知恵が宿っている。大湊の守護神はとても小さく、気さくな艦娘だ。
「龍驤さん、嘘はいけないですよ」
傍らの神通は悪い笑みを浮かべながら、南沢のそれに乗っかり龍驤を弄る。途端、龍驤の身体が斜めに傾き、神通の脇腹に軽く膝蹴りをかましたようだった。大湊の守護神と、大湊の鬼神の平時はこんなに穏やかな物だと思えば、やはりおかしく感じられた。
「FTGの打ち合わせかい?」
「そそ、明日の0430から恵山沖ですこーし遣り合ってくる」
「龍驤、やりすぎないようにね」
「ウチからしたら装甲空母なんて尻に殻がついたヒヨコみたいなもんや。大湊の恐ろしさを教え込んでやるわ。なぁ、神通」
「まぁ……、少し躾けてあげた方が良いかも知れませんね」
神通の穏やかな笑みに反し、どことなく含みを持った彼女の言葉に空恐ろしいものを覚えさせられた。恐らく徹底的に叩き潰す気でいるようだ。戦闘評価0点とでもするのだろうか。
「こっちは誰が行くんだい?」
「ウチと神通、伊勢、飛鷹、不知火、夕立、足柄、利根、伊401、そして"きよなみ"や」
割と洒落にならない編成。制空権は確実に取られてしまうが、きよなみを持ち出す段階で艦載機を1機も逃さない気で居るように感じられた。恐らくは対空標的を無力化した後、伊勢に指揮権を委譲、凌ぐ戦いを以ってして昼を凌ぎ夜戦に持ち込み、神通が指揮を執るのだろう。
「余り苛めてやらないようにね」
「失礼なガキ共には痛い目を見せてやらなきゃならんで!」
ガキ、装甲空母たちの事を言っているのだろう。そういう意味では神通の躾というワードが合点行くものになる。やりすぎて苦情が出たり、演習で大破する艦娘が出なければいいのだがと、南沢は思いながら少し痛みだした胃を気にするのだった。