二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 艦これ In The End of Deeper Sea ( No.4 )
日時: 2016/04/07 23:30
名前: N ◆kXPqEh086E (ID: hAr.TppX)

 車椅子のハンドリムを押しながら、神通は岸壁を進む。案の定、左足は吹き飛び、思ったよりも炸薬量が多かったのか、右足にも大火傷を負い、一部は肉が引き剥がされてしまった。浮かんできた時は両足がないと誤解されていたらしい。本来であれば、既に入渠し治療を施されているはずなのだが、どうにも第7護衛隊の旗艦を勤める足柄と彼女に随伴した不知火が瀕死寸前の大破をし、大島に配置されている警戒監視隊の面々も、明石では足りないらしく由良と長波が大湊で緊急の入渠を行う事から、意識を保っていられる神通の緊急性は低いと判断されたようだ。

「おー、神通。だいぶ無茶したようやなぁ」
「えぇ、まさか直接海中に引っ張られると思わなくて……。つい……」
「つい……、で自分の足ふっ飛ばす奴がおるかぁ? 」

 似非関西弁で話す赤い服が特徴的な龍驤が海上訓練指導隊(FTG)の建屋から、身を乗り出しながらにこやかな笑みを浮かべて話しかけてくる。彼女も第7護衛隊に所属する艦娘であり、歴戦の軽空母として名を馳せている。そんな彼女も、負傷したらしく腕を三角巾で吊るしていた。折れたのだろう。

「7護隊も手酷くやられたようですね」
「まーなぁー? 足柄が途中でブチ切れてしもうてなぁ。不知火と川内引き連れて夜戦敢行したもんだから、ウチ等の居場所バレて、ばかすか攻撃されてもうて」

 大げさなリアクションを取りながら、龍驤は話す。恐らく彼女は至近弾でも浴びたのだろう。夜間の戦闘に従事出来ない軽空母からしたら、一方的に砲撃を食らうというのは生きた心地がしなかっただろう。それでも気丈に振舞っていられるのは流石というべきか。

「敵方はどれ程? 」
「戦艦タ級、ル級が一隻ずつに、潜水カ級が二隻、軽巡ヘ級が一隻、駆逐ハ級が四隻やなぁ」
「大所帯で来たんですね…」
「せやで。夜の前までにカ級とハ級は無力化したんやけど、戦艦が後詰で来よってからに……」

 巡洋艦と駆逐艦、潜水艦程度であれば通常の戦闘で済んだのだろうが、戦艦が来たのが今の被害の原因のようだ。

「霧島が居れば良かったんやけどねぇ」
「大島と余市も今激戦地ですからね」

 大島は現在、津軽海峡の西口を警備するために港湾設備が整えられ、警戒監視任務に従事する艦娘達が常駐している。そこには元々の第7護衛隊の面々が配備されている。現在の第7護衛隊は大湊のチョークポイントを護衛するため、龍驤を除き殆どが舞鶴や呉から貸与された面々である。なお、防空巡洋艦である摩耶や鳥海、重雷装艦である北上や大井、木曾などは余市に即応戦力として配備、同時に陸上に多数の装備を配置し、防御の要としている。

「ウチ等はまだマシやで。警戒区域が津軽海峡の東と西。精々出ても道東沖の野付水道、根室海峡までや。連中、日本海から宗谷海峡。果てはオホーツク海まで出なきゃあかん。あんな荒れた海出るなんてウチ嫌や」
「艦橋つぶれちゃいますからね」
「……神通、それは言わんお約束やで。まぁ、なんやその。ウチも仕事戻るから、あんま無理せぇんでゆっくり休み」
「えぇ、そうさせてもらいます。では、失礼します」
「あいあい」

 ひらひらと手を振るなり、龍驤は身を翻し建屋の中に姿を消した。艦娘をしながらFTGの業務までこなすのだから、大した物だ。二水戦の頃の自分を思い出すが、龍驤はそこまで鬼のような扱きをしないらしい。比べ物にならない程、彼女は教え方が上手いのだろう。習性として叩き込む訓練ではなく、頭で理解させ体現させる訓練を出来るのだから見習いたい物である。そう考えながらハンドリムを押してゆっくりと、進んで行く。造修補給所の前を通り過ぎ、工作部の前で一息つく。錆びの浮いた建屋は、自らが艦であった頃は美しく、無骨に光り輝いていた。それが今や錆びに塗れ、時の流れを感じざるを得なかった。その時が流れる間にも、自身と同じ名を冠した護衛艦や、夕立の名を冠した護衛艦、更には自分が知らない「あさぎり」をネームシップとした通称「きりクラス」が大湊で過ごしていたそうだが、彼女達の姿は最早なく、たかなみ型護衛艦、通称「なみクラス」が第一突堤に所狭しと四隻も停泊している。何隻かは見慣れない「すおう」や「YDT2号」といった本当に役に立っているか疑問を抱く船も停泊していたが。

「立派で綺麗な艦だよねー」
「えぇ、本当に。90年前、彼等が私達の味方だったら勝てたかも知れませんね」
「ホントだよねー。ま、無い物強請りしたって過去は変わんないよ。ところで足は大丈夫? 」
「この通りピンピンしてますよ」

 膝掛けの下には、左足が存在していなかったが穏やかな笑みを浮かべながら、辛うじて動く右足を微かに動かし、健在をアピールする。それ見るなり神通に声を掛けてきた川内は人懐こい笑みを浮かべて、ベンチに腰を下ろした。横目で彼女の姿を視界に捉えれば、右手が削ぎ落とされ巻かれた包帯には薄っすらと血が滲んでいた。

「無茶をしたようですね……」
「まぁね。昨晩は同時多発的に深海棲艦が攻撃仕掛けてきたみたいでね。無事なのは余市の連中だけ」
「大島も由良と長波がだいぶやられたそうですね」
「それ以外にも霧島が右目吹っ飛ばされたらしいよー? 明石が付きっ切りで治してるらしいけど」
「……この状態で第二波攻撃が発動されたら、持ちこたえるのは厳しいかも知れませんね」
「余市の防備隊と、大島の残存戦力に、函館の分遣隊を総動員して、大湊の7護隊と3護隊を再編成。チョークポイントの死守って所かなぁ」
「4潜隊も早く呉から帰ってきて欲しいものですが」
「ホントだよねー」

 彼女達は他愛もない会話を繰り広げ、現状を整理しつつも、まだ迫っていない危機に対する不安を吐露する。ある者は杞憂と嘲るであろうが、仮定の話をし覚悟を決めておくのも必要な事象なのだ。それはミッドウェーで沈んだ四隻の空母達が、遥か昔にそうあれと反面教師となりそう教えてくれている。

「嫌な予感が当たらなければ良いのですが……」

 そう語る神通の顔には不安はなく、覚悟を定めたような引き締まった表情を浮かべていた。たかが足がなくなっただけ、砲と魚雷があれば幾らでも戦える。例えその身体を真っ二つに引き裂かれようともだ。彼女はそのような事を考えていても不思議ではない。そんな神通の表情を見遣りながら、変わってないと川内は呆れたような苦笑いを浮かべていた。