二次創作小説(映像)※倉庫ログ

断章のグリムパロ ( No.133 )
日時: 2016/06/03 20:17
名前: 葉月 (ID: kgjUD18D)

クリック? クラック!

さぁ、今回はこのお話をいたしましょう。

最初の話は『眠り姫』。


むかしむかし、ある国のお城で、お姫さまが生まれました。
 王さまは国中の人をよんで、お祝いをしました。
 お祝いには、十二人の魔法使いたちもやってきました。
 だけどただ一人、十三人目の魔法使いだけは、お祝いによばれませんでした。
 実は、お城には魔法使いたちの使うお皿が、十二枚しかなかったからです。

 お祝いによばれた魔法使いたちは次々に進み出て、お姫さまにおくり物をささげました。
「きれいな人に、なりますように」
「やさしい心を、持ちますように」
「だれよりもかしこい人に、なりますように」
 そして十二人目の魔法使いが、進み出たときです。
 城中に、恐ろしい声がひびきました。
「よくも、わたしをのけ者にしたね。
 姫よ、わたしのおくり物を受けるがいい。
 お前は十五才の誕生日に、つむ(→糸つむぎの道具)にさされて死ぬのだ」
 十三人目の魔法使いは、そう言うと消えてしまいました。
「大変だ! どうすればいいのだろう」
 人々は、大さわぎです。
「待ってください。まだ、わたしが残っていますわ」
 そう言ったのは、十二人目の魔法使いでした。
「お姫さまは、死にません。
 つむにさされても、百年の間眠るだけ。
 それから立派な人のキスで目を覚まし、その人と結ばれるでしょう」
 だけど王さまは、心配でたまりません。
「国中のつむを1つ残らず集めて、燃やしてしまえ!
 そして今後、つむを作ることも使うことも禁ずる」
 命令を受けた人々は、つむを集めて火をつけました。
「これでよし。つむがなければ、姫もさされはしないだろう」
 王さまも人々も、ホッとしました。

 やがてお姫さまは、すくすくと大きくなって十五才になりました。
 ある日の事です。
 お姫さまは一人で、お城の中を歩いていました。
 いくつもの階段をのぼって見つけたのは、小さな入り口です。
「まあ、こんなところに部屋があったなんて。・・・ここには、何があるのかしら?」
 お姫さまは、古ぼけた部屋に入っていきました。
 中にいたのは、見たことがないおばあさんです。
 おばあさんは糸をつむぐ車を、ブンブンと回していました。
「まあ、おもしろそうだこと。おばあさん、ちょっとかしてくださいな」
「いいともいいとも、さあ、手をだしてごらん」
 何も知らないお姫さまは、つむぎ車に手をのばしました。
 そのとたん、つむぎ車のつむがお姫さまの手をさしてしまったのです。
「イッヒヒヒヒー! うまくいったよ」
 おばあさんは笑い声を上げると、どこかへ消えてしまいました。
 実は十三人目の魔法使いがおばあさんに化けて、お姫さまを待っていたのです。
 つむの毒がお姫さまの体にまわる前、十二番目の魔法使いの魔法が始まりました。
 お姫さまは魔法の光につつまれると、その場にバッタリと倒れて、そのまま眠ってしまったのです。
 魔法の光はお姫さまだけでなく、お城全体をつつみました。
 そのとたんに、お城の時計がピタリと止まりました。
 ネズミを追いかけていたネコは屋根の上で眠ってしまい、料理番は料理のとちゅうで眠りました。
 いえ、それだけではありません。
 なんと空を飛んでいるトリも空に浮いたままで眠り、料理をあたためていた火も眠ってしまったのです。
 なにもかもが眠ったお城の回りで、イバラだけがのびていきました。

 そして長い年月がすぎたある日、立派な王子さまがイバラのそばへやって来ました。
「ここがイバラの城か。ここには美しい姫が眠っているという話だが」
 王子さまがイバラを切り分けて中に入ろうとすると、トゲだらけのイバラがスルスルと動いて、王子さまに襲いかかりました。

イバラと王子さま

 王子さまは襲いかかるイバラを切り落としますが、いくら切り落としてもきりがありません。
  とうとうイバラに囲まれた王子さまは、死を覚悟しました。
  ところがそのとき、イバラはみるみるちぢんでいって、 お城へ続く道が現れたのです。
  ちょうど今日が、百年目だったのです。
 王子さまはお城へ行くと、お姫さまが眠っている部屋に入りました。
「なんて、きれいな人だろう」
 お姫さまを見つけた王子さまは、思わずキスをしました。
 すると百年眠り続けていたお姫さまの目が、パッチリと開いたのです。
 いえ、お姫さまだけでなく、お城中が眠りから覚めました。
 ネコはネズミを追いかけはじめ、料理番はナベを火にかけました。
 空を飛んでいたトリも、また飛び続けました。
 全ての事を知った王さまは、城中のみんなに言いました。
「みなの者、魔女まじょののろいはとけたぞ。さあ、結婚式の準備をするのだ。大急ぎでな」
 そしてお姫さまと王子さまは結婚して、幸せに暮らしました。

おしまい

断章のグリムパロ ( No.134 )
日時: 2016/06/03 20:18
名前: 葉月 (ID: kgjUD18D)
参照: 断章のグリムパロの更新は終わりです。

僕たち人間とこの世界は、〈神の悪夢〉によって常に脅かされている。
神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は確かに存在している。

この概念上『神』と呼ばれるものに最も近い絶対存在は、僕ら人間の意識の遥か奥底で有史以来ずっと眠り続けている。眠っているから僕たち人間には全くの無関心で、それゆえ無慈悲で公平だ。

あるとき、神は悪夢を見た。

神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に夢に見てしまった。
そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできないほどの巨大な悪夢を、切り離して捨ててしまった。捨てられた悪夢は集合無意識の海の底から泡となって、いくつもの小さな泡に分かれながら、上へ上へと浮かび上がっていった。

上へ————僕たちの、意識へ向かって。

僕らの意識へと浮かび上がった〈悪夢の泡〉は、その『全知』と称される普遍性ゆえに僕らの意識に溶け出して、個人の抱える固有の恐怖と混じりあう。
そしてその〈悪夢の泡〉が僕らの意識よりも大きかった時、悪夢は器をあふれて現実へと漏れ出すのだ。

かくして神の悪夢と混じりあった僕らの悪夢は、現実のモノとなる。






————————甲田学人「断章のグリム」シリーズより引用