二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: ボカロ曲sストーリー【ハウトゥー世界征服】 ( No.5 )
日時: 2016/05/13 06:15
名前: シロマルJr. ◆o7yfqsGiiE (ID: 4qcwcNq5)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11083

3.

「か…買ってきたよ……」
白い息を絶え絶えに吐きながら、アヤトは龍太達のジュースを抱えるように持ってきた。
一番近い自販機と言っても、ざっと30分は走っただろう。体はもう限界だった。

「おー、お疲れさーん」
龍太がニヤニヤして歩み寄ってくる。狂気の念を感じ取り、アヤトは一歩後ずさりをした。

「そんじゃ買ってきたコーラくれや、他の奴らの分もよろしくな」
差し出された右手に、言われるがままにペットボトルのコーラを渡した。
そのまま、あとの4人にもジュースを手渡す。誰にどのジュースを頼まれたか間違えないように……

「おう、サンキューな」
これで最後の1人。炭酸以外なら何でも良いと言っていたので、とりあえず天然水を買ってきておいた。
これで終わりだ、やっと解放されるはずーーーーーーーー

「おい」
手からジュースが無くなった途端に、背後から龍太の声が聞こえた。
気のせいか、その声には溢れ出しそうな何かが詰まっている気がしてならなかった。

「何?どうしたのーーーー」
返事をして振り返るより早く、こめかみに何かを投げられた。
耳元で液体の混ざり合う音ーー炭酸の弾ける音がする。それと同時に、頭にズキズキと激痛が走る。
唐突だったので、頭を押さえる暇もなかった。
地面にぶつかったそれは、龍太に渡した赤ラベルのペットボトルだった。

「お前………何のつもりだよ?」
ペットボトルを投げつけた龍太の表情は、誰が見ても分かるほどの怒りに満ちていた。
アヤトには、彼が気に食わなかった部分はどこなのか、全く理解できなかった。

「これじゃねーよ!!俺が頼んだのは!!」
どうやら注文と違ったことに怒っているらしい。何故だ?言われた通りにコーラを買ってきたのだが……?

「え……?ちゃんとコーラ買って来たよ?…」

「俺が飲みたかったのはゼロカロリーのやつだ!!ちゃんとラベル確認したのかよ!?」

「な、何で…………僕そんなの聞いてな」

「あ"あ"!?何か文句あんのか!!」
物凄い勢いで、龍太がアヤトに掴みかかった。苦しそうにもがいたが、力は一向に弱まる気配はない。

「あーホントだー、これファンタじゃなくて普通のぶどうジュースじゃん」

「俺のもー、ミルク多めのやつ欲しかったのに、これ少なめのやつだよー?」

「これウーロン茶じゃねぇし、麦茶じゃんか!どうゆう事?」
龍太に次いで、他の者も口々に文句を並べる。そんな事知らない。何も聞いてない。
聞かされてない事に文句を言われても、納得も何もできるわけがない。
人が通らないのをいい事に…こんなの酷すぎる、理不尽極まりないじゃないか。

「俺もさぁ?炭酸以外とは言ったけど、別に水が欲しかったわけじゃないから……」
天然水を渡した男からその言葉を聞いた瞬間、体中から何とも言い表せない"もの"が湧き始めた。
コイツが一番酷い。炭酸以外なら何でもって言ったじゃないか?炭酸以外なら飲むって事なんだろ?
それなのに…後から反応しようのない文句を投げつけるなんて、理不尽の極みだ、この人でなしめ!

ーーーーが、もともと弱虫で引っ込み思案な性格な故、そんな事言えるわけがないので、

「本当に………ごめん…」
納得なんて行くわけないが、素直に頭を下げるしかなかった。

「責任取ってお前……全部飲めよな?」
下げた頭の真上から、ドスの効いた龍太の声がした。いつもの声ではない。
刹那、



ーーーーーードポドポドポドポドポドポ………



頭上から、何やら謎の液体が冷たく降り注ぐ。
驚いて頭を上げると、そこにはペットボトルを逆さに持ってコーラを零す龍太の姿が。
そんな薄ら笑いをしている彼は、極悪非道な悪魔にしか見えなかった。
呆然と立ち尽くすアヤトの頭に、容赦なくコーラは降り続ける。
それはバッグ・制服を濡らし、アヤトの黒髪からポタリと地面に滴る。

「あれっ?龍太面白そうな事してんじゃん、俺らも混ぜてくれよ!」

「そうだ、俺も俺も〜!」
非道の薄ら笑いでコーラを零す龍太を見て、さながら蝿のようにわらわらと群がる連中。


こんな事して何が面白いのだろう?群れていないと何も出来ないのか?


「やめろ、ちょっと待て!」
嬉々として集まる仲間たちを、さっと手で制する龍太。
ちょうどその頃、ペットボトル内のコーラは、とっくに空になっていた。

「何でだよー、俺らにもやらせてくれよー!」
4人から口々にブーイングが上がる。既にキャップを開け、準備万端といった様子の者もいたようだ。

「今ここで水澤をいたぶり切っちまったら、"明日の分"が無くなっちまうだろ?
本当に面白いと思ったオモチャは、最後まで大事に使うってもんだぜ?」
空になったペットボトルを放り投げながら、龍太は笑顔でこう言った。

「……なるほど、さすがは龍太!」
今のつまらない説明を一瞬で理解したのか、連中のブーイングも収まった。
何が"大事に使う"だ。被害者からしたら、一生治らない心の傷になるかも知れないというのに。
炭酸交じりの茶色い雫をぼーっと見つめる、アヤトにはそれしか出来なかった。

「ってなわけで、今日はこの辺にしといてやる…ゴミちゃんと捨てとけよ?」
その言葉を合図に、それぞれ飲み物が入ったままのペットボトルが、アヤトの前に投げ捨てられていく。

「じゃ、明日も一緒に帰ろうな!水澤くーん!」
そう言い残し、龍太ーー悪魔とその子分達は、再び帰路に着き始めた。




「明日………あした…か」
龍太達の姿が完全に見えなくなった時、アヤトは同じ言葉を続けて呟いた。
気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。腕時計の針は5時半を指している。
全身がコーラでぐしょぐしょに濡れているため、寒さが一層強く感じられる。

「明日も一緒に帰ろうな!水澤く〜ん!」
あいつらは最後にそう言い残した。また駅に向かっているのだろう。

明日も、こんな酷い仕打ちを無条件で受けるんだ。
どうせ僕に、拒否権なんて無いんだ。
いつまでもあんな奴らと関わって、こんな荒んだ日々を過ごすんだ。








ーーーー明日が……来なければいいのにな。








僕みたいな情けない人間に、明日なんて必要無い。
そんな事お構いなしに、次の日は平然とやってくる。
涙が出てくる。こんな自分が、弱虫な自分が、こうして存在しているのが恥ずかしくて。

この傷が早く治る事を、アヤトは心の中で強く願った。