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Re: 【刀剣乱舞】今日もうちの本丸は平和【オリ刀剣募集】 ( No.28 )
日時: 2016/07/21 18:27
名前: 藍紅  ◆jqzZxVcA6Q (ID: dkzCRl7C)
参照: 序章 歴史修正主義者を狩る者達

カツン、カツン、と音が響く。ピチャリ、と音が響く。
恐ろしいほど静まり返った戦場に、その音達は響き渡っていた。
そこに咲き誇るは、血に染まった刀達。

血にまみれ、刀を杖のように地面に突き立てて立ち上がった一人の青年。
頬についた血を乱雑に服で拭い、死屍累々とした戦場を、四方八方見渡して居た。
ひゅう、とこの時期にしては少々冷たい風が吹き抜ける。
体にこびりついた血がだんだん乾いていく。嫌な感覚だ。
青年は足元に転がっていた死体の服で刀を拭い、当ても無く戦場を歩き始めた。
残党がいれば殺す。それだけだ。

日の光が目に焼き付いて行く。劈くような目映い光。
朝がやってくる。自分には眩し過ぎて鬱陶しい朝がやってくる。
あぁ、今日の空も、苛々するほど真っ青だ。



青年は後方へ振り返る。
そこには青年と同じく、血に染まった青年が刀を構えて立っていた。
敵か、と一瞬身構えるがそうではない。
青年と同じ立場の者だ。人の形を取ってはいるが、決して人には成り切れず。
人と限りなく同じではあるが、人ではない者達。
刀の付喪神。人はこれを刀剣男士と呼ぶ。


その青年が、刀を鞘に戻しながら問いかけてくる。


「質問。こちらは全て片付いたが、お前は大丈夫か」


頭に必ず二字熟語を付けて話す彼は、いつもの鉄仮面だ。
青年はふぅ、とため息を吐き、未だ握り締めたままの己を鞘におさめた。

「こっちは問題ない。数が少なかったし、ギリギリ全員夜戦に持ちこめたからな。切刃こそ、怪我ねえか?」


青年は、目の前の青年に言葉を返す。
切刃、と呼ばれた青年はそれに返答する。

「返答。無論、問題はない」
「そっか。ならいいけど」
「疑問。雷切、お前、他に一緒の奴は居なかったか」
「………」


雷切、と呼ばれた青年は黙り込んでしまう。
切刃は何かを悟ったかのように雷切に再び問いかける。


「……疑念。……折れたのか」
「………立派に戦ってたよ。……戦死だ」
「理解。……そうか」

切刃は思わず目を細めた。
雷切と共に戦っていた刀剣男士は、雷切以外折れてしまったらしい。

無理もない。雷切も相当の深手を負っている。いくら夜戦だったとはいえ、雷切と共に戦っていた奴らは皆、夜戦が不得手の者ばかりだ。
折れるのも、必定だ。

「鼓舞。だが、雷切。悲しんでいる暇はない。援軍が来る。準備だ。」
「……切刃、お前の部隊は」
「報告。一人折れた」
「そっか」
「請願。その穴を、雷切が埋めてくれれば問題ない。頼めるか」
「いいけど……部隊足りてんのか」
「否定。足りているわけがないだろう」
「だよなぁ……今、何振り生きてる」
「確認。………15振り」
「15?……おいおい、半分以上折れたってのか…?」
「首肯。そのようだ。」

さらりと答えて見せる切刃に、雷切は言葉が出てこなかった。
この戦場で戦いを始めた頃、ここには6部隊…つまり、36振りもの刀が居た。
だが、その半数以上が破壊されたのだ。言葉がでないのも当たり前だ。


「説明。その為、まともに組める部隊は2つだけで、3振り余る。全員装備は残っておらず、中傷以下の者は誰一人として残っていない」
「……」
「続行。審神者との連絡も付かない。おそらくは失踪したな」
「……俺達は…俺達は、戦場で沢山同志を失った上に、頭領にも匙投げられたって事か…?」
「肯定。そうだ。」
「はは、なんだよ。なんだよ、それ」
「阻止。落ちつけ、雷切。……俺達の総指揮を執っているのは頭領ではなく、小烏丸だ。奴の判断に任せるしか手はない」
「……分かってる…」
「疑問。……本当か」
「あぁ。……ごめんな、切刃。お前にはいつも迷惑かけちまって」
「首肯。気にする事はない。お前と俺の仲だろうに」
「ははっ、流石切刃。ほんと、ありがとうな」
「返答。こちらこそ」

切刃はいつも通り、少しだけ笑みを浮かべて雷切と握手を交わす。
総指揮を執っている小烏丸の居る本陣へと帰還する為、自慢の機動力を生かして戦場を翔ける。

敵と味方の屍があちこちに転がっていて、嗅ぎ慣れた血と死のにおいが充満していた。
なるべく意識しないよう、雷切は前方を走ってくれている切刃の背を見つめた。
真っ白い軍服に身を包んでいたはずの彼は、今真っ赤に染まっている。
その分だけ血を流し、血を浴びたのだろう。

切刃がピタリと足を止める。
雷切は急に止まれず、ぼすん、と切刃の背にぶつかる。

「衝撃。……雷切、俺にぶつかってくるな」
「急に止まるお前が悪いだろ!……てか、どうしたんだよ」
「指摘。本陣へと付いたから止まっただけの事だ」
「は?」


雷切刃、切刃が指をさす方角に視線を向ける。
そこには、怪我をした見慣れた者達がお互いにお互いを庇い合い、手当てをしている崩壊寸前の本陣があった。

切刃と雷切に気付いたのか、一人の男性が近寄ってくる。
ここの総指揮を執る刀剣男士、平家の重宝・小烏丸だ。


「あぁ、切刃。……雷切隊の生き残りは雷切だけですか」
「肯定。雷切以外、全員折れたそうだ」
「そうですか。……いえ、雷切が無事だっただけ良しとしましょう。雷切、よく生還してくれました」
「……俺は、仲間を守れなかったんだぞ」
「それでも、生還してくれたのですから喜ばしい事ですよ」
「……ありがと、小烏丸」
「いいえ。……抜丸、お二人の傷も手当してやってください」

小烏丸が少し大きい声で呼びかけると、ぼろぼろになったテントから和服の男性が顔を出す。
小烏丸の弟分で、同じく平家の重宝。抜丸。彼もまた、雷切達と同じ審神者に仕えていた刀剣男士だ。


「あぁ、雷切に切刃。無事で何よりだ。そら、手当てしてやろう。中へ入れ」
「感謝。ありがとう、抜丸。お前の傷はいいのか」
「ん?あぁ、これくらい傷の内には入らん。相当痛むが、耐えられん程ではない」
「苦渋。ならいいのだが」
「悪いな抜丸」
「構わんと言っておろうが。……さぁ、早くしろ」
「へいへいっと」
「請願。頼む、抜丸」


二人は大人しくテントの中へとはいっていく。
外で待機している刀剣男士達はそれを見届けて笑みを戻した。


「小烏丸、これで生き残りは全部ですか?」


総隊長、小烏丸に話しかけてきたのはこの本陣における頭脳の一人、ハバキ国行。
ハバキ隊の刀剣男士は誰一人折れておらず、信頼を置かれている一人だった。


「えぇ……あの二人で最後のはずですが。15振り……居ますよね?」
「僕の部隊は全員ここに居ますよ。蝶丸と無骨は中で抜丸を手伝っていますし、国重と村雨は見回りの為に裏に居ます」
「痣丸は?」
「痣丸なら、祢々切丸達の様子を見に行きました」
「そうですか。……祢々切丸、彼は生き残りの中の唯一の大太刀ですし、何とか持ち直してくれればよいのですが」
「……あか兄のいない祢々の精神が問題ではありますが、僕が居るのできっと大丈夫…と、信じたいですね」
「頼みましたよ、ハバキ。生きている者達には戦力になってもらわねば困りますからね」
「15振りしかおらず、装備は一つも残ってない…こんな状態で、戦いたくないなんて言わせてられませんからね。仕方ないです」

ハバキが力なく笑う。
小烏丸はそんなハバキを見ているのが辛いと思いつつも、口にはしなかった。
均衡を崩す訳にはいかないからだ。辛いなどとも言ってられないのだ。


「おやおや、主力がお揃いで」

二人の会話に割り込んできたのは、日光一文字。
戦いより手品が好き、などと嘯く割に、刀の腕がいいという皮肉ぶりな彼は、ふわり、とまるでショーでも始めるかのようにお辞儀をした。

「日光ですか。冷やかしですか?」
「いいえ、報告ですよ」
「何でしょう」
「祢々切丸と蜘蛛切は大丈夫そうですよ。あと姫鶴ですが、彼も平気そうです」
「そうですか。よかったです。姫鶴は何と?」
「目撃証言の事でしょう。ちゃんと聞いてきましたから焦らず。」
「それで?」
「あと3振りは生きてそうですねぇ」
「3振り……また、都合のいい数字ですね」
「えぇ、全くですよ」
「居ないよりはましですけど……部隊編成どうするんですか、小烏丸」
「考え直しですね」
「あはは……僕も力になりますから、頑張りましょうね」
「ありがとうございますハバキ…」


小烏丸は頭を抱える。
これから幾度となくこの機会は訪れるのだが、それはもう少し後の話。