二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- わすれなぐさ ( No.39 )
- 日時: 2016/09/06 21:08
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
さて、長らくお待たせしました、前回のテストネタの際にちょっとチラ見せしたシリアス文が一部完成しましたので掲載します。が、その前にいくつか注意点をば。
抜間さんは普段ギャグばっか書いてるのでこれが多分初めてのがっつりシリアスになります。故に、地の文を多くしたり慣れない伏線を張りまくったりと試行錯誤はしましたが色々至らぬところやお見苦しいところがあるかと思います。まあそこまで期待をせずに気軽な気持ちでお読みください。ちなみに予定としてはこれ入れて3話構成+エピローグの4話立ての予定ですが、文章の長さによってはもっと区切るかもです;
なお、この長文は基本リンゼルですが、終盤までは余りリンゼルしてない&ある意味でゼルダしか出てこないです。しかも話の性質上オリキャラや過去捏造、死ネタががっつりあるので、ここで無理だなと思ったら方はそっとブラウザバックを推奨致します。
おk?
それは、記憶の彼方に置き去りにしてしまった大切なものを、もう一度探しにゆくお話
わすれなぐさに込められた、密やかだけれどもなによりも強い想いを…
ゼルダ「いきなり訪ねてきたから何事かと思えば、誕生日プレゼントのアドバイス…ですか?」
美しい装飾があしらわれた家具でいっぱいのいかにも女性らしさに溢れた部屋のソファに座り、さも意外そうに言葉をこぼすのは部屋の主であるハイラルの王女。一方、彼女目の前に座っている赤い悪魔と呼ばれる赤髪の中学生は、そんな彼女の戸惑いを知ってか知らずか、 いつもの飄々さを彷彿とさせる笑みをにこにこと浮かべていた。
特にやることもなく、ギルドの自室でゆっくりとくつろいでいたゼルダをカルマが唐突訪ねてきたのは今からほんの数十秒前。始めはてっきり何かカオスについての話題や恋人とののろけ話催促でもされるのかと思い、ある程度心構えをしながらカルマを部屋に迎え入れたが、彼の口から出たのは「誕生日プレゼントを選ぶからアドバイスが欲しい」という予想斜め上かつなんとも平和な言葉。その唐突な言葉に、ハイラルの王女の目がキョトンとなったのはまあ当然な反応といえるだろう。
カルマ「そう、あんたに意見を聞きたくてさ。で、奥田さんが一番喜びそうなものってやっぱり理科実験に関するグッズとか難しい科学の本とかなんだろうけど、せっかくのデートに誘う誕生日なんだから、アクセサリーとか服とかのもっと女の子らしいものがいいと思うんだよね。でも奥田さんはチャラチャラしたおしゃれグッズは苦手な部類だし、本人が喜ぶなら色気なくても科学関連のものを送った方がいいのかな?」
ゼルダ「ち、ちょっと待ってください、えっと…話を進める前にまずはここまでの経緯を話してくださいませんか?」
ゼルダの戸惑いを他所に話を進めるカルマだか、何がなんだか全く話の流れが読めないのでひとまずゼルダはカルマを制止し、詳しく話を聞くことに。
そうして事情を聞いたところによると、SNS団きっての理系女子であり暗殺チームの仲間である奥田の誕生日が近づいてるらしく、奥田に想いを寄せるカルマは彼女の誕生日を祝うと同時にアプローチをするべく、デートに誘いそこで誕生日プレゼントを渡すことを計画したらしい。しかし、デートのプランは決まったものの肝心のプレゼントがなかなか決まらず、しかも送る相手が相手だけに下手なものは送れない。そこでカルマは色々迷った末に、誰かに意見を求めた方がいいだろうと考え、ゼルダのもとを訪れたという。
ゼルダ「なるほど、そういうわけでしたか。それは勿論構いませんが…何も私でなくとも同じ暗殺チームの皆さんや他の女性陣にも聞けるのでは?どうして、私をわざわざ…?」
カルマ「それはまぁ、茅野ちゃんや神崎さんだとどこから情報が奥田さんに漏れ出すかはわからないし、あんたなら頭もいい上にSNS団の中でも女性らしさはダントツだから女の子が喜ぶアイテムにも詳しいだろうなーって。第一、SNS団の女性陣って一部を除いてなーんか口軽そうじゃん?ほら、ピーチとかアイアとかイズイズとか」
ゼルダ「貴方がいかに奥田さんを想っているかは伝わりましたが、そんな理由で選ばれたとは微妙にコメントに困りますね…;」
頼りにされていることに悪い気はしないが、それにしたってなんとまぁ身も蓋もない理由だろうか。ゼルダが呆れたようにはぁとため息をつくも、カルマは退く気がないらしく、いつもの飄々とした調子でからからと笑う。
カルマ「まあまあ、俺なりにあんたを見込んでるんだからいーじゃんさ。それにあんたのことだから、彼氏さんの誕生日には欠かさず何かしら送ってるんでしょきっと?」
ゼルダ「リンクの…」
カルマ「そうそう、俺とは違って二人は既にデキてて心身共に恋人に捧げてるんだからさ、たまには若いカップルを応援してくれてもバチはあたらな…て、あれ?ゼルダさん?」
なんとかゼルダをその気にさせようと、彼女の数少ない弱点である時の勇者を話題に出し、さも当たり前のように訪ねたカルマ。しかし、その言葉を受けたハイラルの王女の表情は、カルマの予想に反してどこか暗いものであった。
カルマ「ゼルダさん?おーい…?」
ゼルダ「リンクの、誕生日……」
呼びかけるカルマの声など既に耳に入らないゼルダ、その脳裏には遠いある日の記憶がいっそ残酷なくらい鮮やかに蘇ってきた……。
マリオ「…リンクの誕生日はな、実は俺達も知らないんだ」
ゼルダ「え…?」
それはSNS団が結成されるよりもはるか昔…DX組がスマブラに集められ、ゼルダがリンクと正式に恋仲になってしばらく経ってからのある日のこと。ゼルダはその日、あることを聞くためにはるばるマリオの部屋を訪ねていた。それは恋人であるリンクの誕生日についてであり、本人にいくら問いただしても言葉を濁すばかりで答えてくれないのに痺れを切らしたゼルダは、もしかしたら親友であるマリオなら何か知っているのではないかと思ったのだ。しかし、ミスターニンテンドーの口から返ってきた言葉は、予想外の答えだった。
ゼルダ「知らない…?リンクは、親友である貴方方にも教えていないのですか?私も何度も聞いたのですが、リンクったら頑なに教えてくれなくて」
マリオ「ああ。てゆうか、「教えない」というよりも「教えられない」んだろうけどな」
ゼルダ「教えられない…?」
教えないのではなく、教えられないとは…?何か誕生日を教えられない重大な理由でもあるのだろうか?それとも、誕生日を祝われることに何か不都合でも…?
答えがわからずにうんうんと考えこむゼルダにマリオはまあまあと肩をポンと叩き、もっとシンプルに考えてみろと苦笑しながら言葉を続ける。
マリオ「まあまあ、深く考えなさんなって。そんなに迷わずとも、もっとシンプルな理由だと思うぞ。ほら、あいつって本当の親御さんとは赤ん坊の時に死に別れてるそうじゃないか。しかも育ったところがかなり特殊だから…」
ゼルダ「育ったところ?確か彼が育ったのは……あっ」
シンプルな理由、死に別れた両親、育った環境…。そこまで考えてようやくゼルダにも、マリオが言わんとしている事が理解出来た。
感想まだ。シリアスは慣れないなぁ;
- わすれなぐさ ( No.40 )
- 日時: 2016/09/06 21:42
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
リンクは幼い頃、ハイラルのはるか東に位置する深い森…永遠に大人になることのないピーターパンのような子供達「コキリ族」が住まう「コキリの森」の中で、森を守る妖精や豊かな自然に囲まれながら、仲間達と共に過ごしていた過去がある。しかし、リンクが大人の姿であることからおおよそ想像がつくだろうが、彼はコキリ族ではなくハイリア人…厳密にいえば、赤ん坊の時に森の外からやって来たのち、森の守り神であるデクの樹に受け入れられてコキリ族として育てられた所謂「余所者」なのだ。故に、デクの樹や仲間達は彼と「出会った」日は覚えていても、さすがに森の外からやってきた子供の「生まれた」日なぞ知るわけがなく、彼の誕生日を唯一知るであろう生みの親はとうの昔に死別している。
そもそも、年を取り成長することを祝う人間やハイリア人とは違い身体が子供のまま成長しないコキリ族、「自分の誕生と成長を祝う」という概念自体が存在しない可能性が高いだろう。しかもこのコキリの森は迂闊に余所者が入り込もうものなら人ではない化け物になってしまうという禁断の森なので、外部から入ってくる文化などないに等しい。
ゼルダ「…そう、でしたね…誕生日なんて、普通に身近なものだから意識したことなんてありませんでした……」
リンクが誕生日を教えられないのは、別に教えることに不都合があるわけでも、恋人や親友に知られたくない理由があるからでもない。
ただ単純に、自身の生まれた日を知らないだけなのだ。知らないものなのだから、そもそも教えようがないのだ。
マリオ「あー……一応言うが、そこまで気にしなくてもいいと思うぞ。フォローになるかは分からんが、俺なんてもっとでかい地雷踏み抜いたからな;」
ゼルダ「地雷?」
マリオ「ほら、誕生日って大抵親や友達におめでとうーって祝われて、それで生まれてきたことの喜びとか自分を産んでくれた親の愛を肌で感じるものだろ?だから、そういうのを感じたことはないのかって聞いてみたんだ。そしたらあいつ、「誕生日も実の親の記憶も、そもそも覚えていないのなら……忘れてしまったのなら存在しないものと同じだから、なかったことにするしかないだろう」って言われた末に「空しくなるだけだから、そんな余計な気は回さなくてもいい」ってさ…いやぁ、あれはデリカシーに欠けていたなーって今でも反省もんだよ;」
マリオが若干遠目になりながらあはは…と気まずそうに笑い、ゼルダもそれにつられて苦笑する。
ゼルダ「それは、なんとまぁ…怒られませんでしたか?;」
マリオ「いや、困ったように笑ってはいたが許してくれたよ。でも確かに覚えてないんじゃあ誕生日はともかく、実の親の愛情や生まれた意味ってのも想像つかないよな…。あいつ自身もさ、「自分を愛していたかもわからない親なのだから、俺はもう考えないようにしてる」なんていって強がってるんだぞ?それでも、育ての親である大樹や仲間達との日々があっただけだいぶマシなのかもな」
ゼルダ「はい……でも、その大樹様も…それに、森ももう帰れないのでは…」
育ての親であるデクの樹は既に亡くなってしまい、しかもリンクは大人になってからようやく自身がこの森にいてはいけない余所者であったことや自分が大人である以上、子供だけが住まう森は既に彼の帰る故郷ではなくなってしまったこと、デクの樹が彼に課せられた運命の全てを知った上でリンクを受け入れ育てていたことを悟ることとなったのだ、その心境は想像に難くないだろう。…最も、ほんの数年とはいえ、他のコキリ族と分け隔てなく育てられた(相棒である妖精だけは旅立ちの時になるまで与えられなかったが)のは、彼にとっては幸運なことだったのかもしれない。
自分のせいでもう二度と会うことの叶わなくなった育ての親や、帰ることの出来なくなってしまった故郷。顔どころか、自分を愛していたのかすらも分からない両親との思い出。確かに存在していたはずの、けれども生まれてきたことを誰にも祝えなくなってしまった誕生日。
突きつけられた運命を自らの意思で受け入れたとはいえ、どんなに取り戻したくても取り戻せなくなってしまった自分のルーツともいえるそれらを前に、彼は一体どんな思いでいたのだろうか。溢れんばかりの気持ちに区切りをつけて勇者として前に進むのに、どれだけ沢山の気持ちを押し殺してきたのだろうか。
そして「時の勇者として戦う宿命にある」という大義名分のもと運命に散々振り回された末に自分の生い立ちの証明となるものの全てを失ってしまい、それでも無くしたものに目をつむるという一番残酷な選択肢を選びながらも運命を気丈に受け入れてみせたリンクの姿はまるで…
マリオ「なんつーかさ、運命って残酷だよな…。あいつから誕生日どころか、過去も故郷も思い出もぜーんぶ勝手に奪って空っぽにしておいて、それでも勇者なんだから前に進め戦えって言ってくるんだからさ。生みの親の愛も帰る場所も無理矢理なかったことにさせるわ友達が生まれたことを祝わせてもくれないわで、そんなケチな神様なんざに運命だの何だのってあれこれ指図されたくないよな」
ゼルダ「…………」
どうあがいても「時の勇者」として生まれることになっていた自分の生い立ち…そこに「リンク」という一人の人間が生まれたことへの愛や証明のになるものは存在しないと、そういう運命だったのだと自分に必死に言い聞かせているかのような気がしてならなかった。
カルマ「…ダさん。ゼルダさん?おーい、ゼルダさんってば!!!」
ゼルダ「……!!」
遠い日の記憶を思い返して物思いにふけっている中、幾度となく呼びかける声にゼルダは我に返る。はっとして意識を記憶の世界から呼び戻すと、目の前には怪訝そうにこちらを覗き込むカルマがいた。
ゼルダ「…え?え、あぁ、はい、どうかしましたか?」
カルマ「どうしたの、はこっちの台詞だって。いきなりぼーっとしだすから何事かと思ったよ」
感想まだ
- わすれなぐさ ( No.41 )
- 日時: 2016/09/06 22:09
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
ゼルダ「…ごめんなさい、ちょっと、昔のことを思い出してしまって…」
カルマ「昔のことって…もしかして、旦那さんのことでも考えたの?」
ゼルダ「まあ……そんなところですかね」
言いづらそうにごまかすゼルダの言葉に「…へぇ、こっちは真剣に悩んでるってのに相変わらず見せ付けてくれるねぇー?」と、カルマは呆れたようにため息をつく。確かに恋人のことを考えてはいたが、実際はカルマの想像しているような甘酸っぱく暖かいものではない。だが、そんなことを目の前にいる片想いの相手へのプレゼント選びに真剣に悩む少年に言える訳がなく、ゼルダは曖昧な生返事で返すしかなかった。…最も、人の顔色に敏感で察しのいい彼のことだ、そんなことはとっくにお見通しなのだろうが。
ゼルダ「…そうそうカルマさん、プレゼントのアドバイスでしたね。えっと、彼女へ送るのなら…」
その後ゼルダは、約30分くらいかけてカルマに女の子へのプレゼントのアドバイスをしたのち、お礼を言いながら部屋から出て行く少年を手を振り見送った。…見送る際、ほんの少しだけカルマのことをうらやましく思いながら。
あの時もそうだった。自分の気持ちを察したマリオは、暗い顔になってる自分を慰めるように「俺とカービィとピカチュウは、毎年スマブラが結成された日にみんなであいつにプレゼントを送ってるんだ!せめて出会えたことは祝わせてくれってな!」と明るく言ってみせたものである。しかし、そう笑いながら言ったマリオが当時のゼルダには眩しく見え、そして無性にうらやましかったものである。
さて、そんな会話から数週間後……辺りを舞う枯れ葉がすっかり秋らしい色に染まり、カルマが無事に誕生日デートを乗り切ったという知らせがお礼のハーブティーセットと共に舞い込んできた頃のある日のこと。
フェイ「さて…まずはゼルダさん、急なお誘いにもかかわらず来てくれたこと、まずは感謝します」
ゼルダ「いえいえ、こちらこそお招きくださりありがとうございます」
ゼルダはこの日、イナズマチームに属する200年後の未来からやってきた少年フェイと彼の相棒であるクマ型アンドロイドのワンダバ、それからワンダバの生みの親であり多重時間理論の専門家と名乗る老人、クロスワード・アルノ博士に呼び出されてある場所を訪れていた。
ゼルダ「でも、本当に私でよかったのですか?私でなくとも、このテストトラベルにふさわしい方は沢山いたのでは…」
アルノ「いや、君が一番相応しいんじゃよ。何せ、時の賢者とも呼ばれる君ならば今回の試運転で何か気がつくこともあるじゃろうし、何よりクロスオーバーチームの中では一番時間移動に関しての知識も理解も持っているからのぅ」
ワンダバ「この実験は我々タイムトラベルに関する者達にとっては貴重な第一歩だからな!これが完成すれば、クロスオーバー世界の可能性も多いに広がるだろう!」
現在一同がいるのはクロスオーバー世界の片隅にアルノ博士が構えた発明ラボであり、ハイラルの王女以外全員未来人なのもあってかどこか未来ちっくな雰囲気が漂っている。彼はここを時たま訪れてはこのタイムマシンの研究を行っていたらしく、今回ゼルダに来て貰ったのも新たなタイムマシンシステムの試運転に立ち会ってもらいたいということからだった。しかもこのシステム、イナズマ世界だけでなくあらゆるクロスオーバー世界のタイムトラベルが可能になるというではないか。この新たな世界を開拓するであろう一大実験に、一同の期待も否応なしに高まる。
ゼルダ「そういうことなら私も出来る限りやらせていただきますね。それにしても、すごいですね…まさか私達クロスオーバーの世界でも時間旅行が出来るかもしれないなんて…本当に時間を遡れるのですか?」
ワンダバ「理論上では問題ない。何せ、絵本の世界にもタイムジャンプ出来たのだ。クロスオーバーの世界くらい容易いことであろう!!」
フェイ「まあ、その絵本の世界に無理矢理に飛んだおかげで僕たちは大変な目にあったけどね……;」
アルノ「あれは歴史上に存在しないはずの世界に無理矢理介入した上に、アーサー王の世界にサッカーの概念を持ち込んだ無茶苦茶なタイムジャンプじゃったからの。今回はクロスオーバーとはいえちゃーんと存在している世界に飛ぶんじゃから大丈夫なはずじゃ」
その後は雑談を交えながらもタイムジャンプの準備は滞りなく進み、一通りアルノ博士から実験やタイムジャンプに関する注意点のレクチャーを受けた。なお、アルノ博士はもしもの時のためにラボに残り、何かトラブルが起きたら対応してくれるという。
フェイ「じゃあ早速いこうよ!!…っと、ゼルダさん、頼んでおいたアーティファクトは持ってきてくれましたか?」
ゼルダ「えぇ……これなんですけど」
ワンダバ「どれどれ……むっ、むぅ……;」
さて、そんなこんなでいよいよ出発の時。とここで何かを思い出したフェイはゼルダの方を振り向いた。彼の言葉にゼルダは懐から布で包んだ何かを取り出し、中身を傷つけないようにそっと布を開いた。だが、それを見た途端フェイとワンダバがなんとも言いがたい複雑そうな表情を見せた。まあ、無理もないだろう。何せ布の中には……
フェイ「うわぁ、これはまた随分ボロボロな金属だね……;」
ワンダバ「うむぅ…;しかし、これは本当にハイラルのアーティファクトとなりえるのかゼルダ?」
ゼルダ「ええ、余り詳しくは話せないんですが、とあるつてで手に入れたもので…ちゃんとハイラルにあったものですから大丈夫なはずです」
端から見ればがらくたにしか見えないほどに朽ち果てた金属がそこにあったからだ。上の方に何かを通す穴とそこに通された細い鎖があることから、恐らくはペンダントトップか何かだろう直径5センチくらいの楕円形をしたそれは、凹凸があるのを見る限り表面に何かしらの細工が施されていたようだが、何の細工なのかは錆によってすでに判別不可能となっていた。これにはいかにフェイとワンダバといえども苦笑いするしかない。
それからイナズマを知らない人に説明するが、今回一同が使うタイムマシン「イナズマTM(タイムマシン)キャラバン」は一見すれば大型キャラバンだが、実はアルノ博士が開発したタイムマシンであり、イナGO二期では天馬達がこのキャラバンを使ってあらゆる時代に飛び、幾多もの冒険をしてきた。しかしこのキャラバンには一つだけ難点があり、ある時代に行くためには、その時代や場所にいた人の思いが詰まった何か…フェイ達が「アーティファクト」と呼んでいるものがその都度必要になってくるのだ(原作でも戦国時代に行くために織田信長の刀、恐竜時代に行くために恐竜の化石といったようにアーティファクトを変えて時間を超えていた)。…え?時代を超えたサッカーって何なんだって?超次元サッカーに常識を求めても無駄だから無理矢理納得してください。
- わすれなぐさ ( No.42 )
- 日時: 2016/09/06 22:47
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
…まあそんな適当なツッコミはさておきつまりどういうことかというと、今回は行き先がハイラルなので、フェイはゼルダにハイラルに関する品をアーティファクトとして持ってきてくれるように頼んでいたのだが、先述の通り彼女は錆びたペンダントトップを持ってきたのだ。
フェイ「博士、これってセーフですかね……?」
アルノ「アーティファクトとしてふさわしいかは否かは、物の質の良し悪しではない。いかにその時代に生きた人の思いが詰まっているかじゃ。そのがらくたがアーティファクトになり得るかは、それの持ち主だった人物次第じゃろうな」
ワンダバ「まあ、こればかりは試してみるまで分からんな…とにかく、そのペンダントを信じて試してみよう。さあ、キャラバンの中に設置したまえ」
フェイ「はいはいっと。……うん、大丈夫そうだね」
ペンダントについて多くを語らないゼルダに多少疑問はあるものの、とりあえずは大丈夫だろうということになり、早速ペンダントをアーティファクトとしてキャラバンに設置。するとキャラバンは無事に始動した。
ワンダバ「さあ、乗りたまえ!ここからは私がキャラバンを操ろう」
ゼルダ「え、ワンダバがこのキャラバンを運転するのですか?;」
ワンダバ「何を言う、イナズマキャラバンの運転手はこのワンダバ様と相場が決まっているのだ!未来のクマ型ロボットを甘く見るな!!」
フェイ「大丈夫だよゼルダさん、彼はこれまでもタイムジャンプの度に僕たちを乗せて運転をしてきたから腕前は保証できるよ。…じゃあ博士、行ってくるね!!」
アルノ「ふむ、気を付けるんじゃぞー!!」
フェイとワンダバ、そしてゼルダは急いでキャラバンに乗り込むと、アルノ博士に見送られながらタイムトラベルに出発した。
ゼルダ「それにしても、未来の技術というのは不思議が多いですね……こんな小さなブレスレットに摩訶不思議なシステムがあるなんて」
一同がアルノ博士に見送られてから約数分経過し、キャラバンはワームホール(時空と時空を繋ぐトンネルみたいなもの)の中を順調にふよふよと進んでいた。窓から見える景色は見渡す限り極彩色の光、光、光であり、まるで三原色の絵の具をといたパレットをそのまま紙にぶちまけたかのようだ。始めはその未体験の景色を興味深げに眺めていたゼルダだが、やがてそれにも飽きたのか、今は手首につけているブレスレットをじっと見つめている。
フェイ「うん、未来でもそのブレスレットはかなり高価なものだからね。本当はこのブレスレットにもタイムマシン機能があるんだけど、迂闊な事故防止に今回はロックしてるんだよ。その代わりに、衣装チェンジモードと時空GPSが搭載されているんだって」
ゼルダ「衣装チェンジ?」
フェイ「ほら、時代背景によっては僕らの今の格好が浮きまくるってこともあるからさ。そういう時にはこれで衣装をその時代にあったものに変えるんだよ」
ワンダバ「GPS機能もただのGPSではないぞ?いわば時空対応の特別製であり、その機能があればどんな時代にいようが我々がいる時代まで届く特殊な電波を発するのだ。まあ、それを探すのには多少時間はかかるがな」
二人の未来人の説明にゼルダが感心したように「へぇ」と頷き、ブレスレットを撫でた。なお、このブレスレットは出発前にアルノ博士から持たされたものであり、通称「タイムブレスレット」というものらしい。未来のテクノロジーが詰まったそれには小さなボタンが付いており、絶えずピピピと電子音が聞こえてくる。
しばらくそうしてブレスレットをまじまじと観察していると、今度はフェイが「あのー…」と口を開いた。
フェイ「あのー、僕からも聞いていいですか?」
ゼルダ「はい、なんでしょう?」
フェイ「今回のアーティファクトである、その…あのボロボロのペンダントなんですけど、あれはどんなものなんですか?ハイラルで作られたものだってのはわかりましたが、どうしても気になって…」
ゼルダ「そうですね…何と説明したらいいでしょうか…実はあのペンダントは、私のではないんですよ」
フェイ「え?そうなんですか!?じゃあ、もらい物か何かですか?;;」
ゼルダ「はい。あれは……」
ビー!!ビー!!ビー!!!ガッターーン!!!
二人「うわっ!!?」
ゼルダがペンダントについてフェイに話そうとしたまさにその時、なんと突然キャラバンがバランスを崩し大きく傾きだした!!
ゼルダ「いたた、今のは一体…!?」
ワンダバ「フェイ、ゼルダ!!大変なことになったぞ!!なぜだか知らんが、ハンドル操作が効かなくなった!このままでは…!!」
フェイ「な、なんだって!でも、キャラバンに異常なんてどこにもなかったはずじゃあ…(ガターン!!)って、うわっと…いったぁぁぁ−!!!?」
ゼルダ「フェイ、大丈夫で(ガン!!!)きゃあ!!!!」
フェイ「ゼルダさん!!?くっ、このままでは…!!!;」
ワンダバがなんとか車体バランスを元に戻そうとするが、その努力虚しくキャラバンは今なおのようにガタガタと揺れ、そのはずみで二人は座席から勢いよく転げ落ち、フェイはキャラバンの天井に、ゼルダは扉に勢いよく叩きつけられてしまった。しかも最悪なことに、ゼルダが扉に叩きつけられた際の衝撃で扉が開いてしまい、ゼルダは危うく投げ出されそうになったではないか!!!
ゼルダ「くっ…………!!」
フェイ「ゼルダさん…!!今そちらに行きますから耐えてください…(ガタン!!)うわっと!!!」
ワンダバ「フェイ、念力でどうにかならないのか!?」
フェイ「無茶言わないでよ!こんな状況じゃあ集中出来ない!!」
振り落とさないように必死に扉にしがみつくゼルダをなんとか助けようとするフェイ。しかしキャラバンは今なお不規則にガタガタと揺れる上に、車体が大きく傾いたせいでアスレチックのようになっているので彼女のもとへ向かうのはいくらフェイとて難しい。かといってお得意のサイコキネシスで助けようにも、超能力は強い精神力と集中力を必要とするため、揺れる車体のせいでまともに集中できないこの状況ではそれすらも出来ない。そしてとうとう、ゼルダの体力は限界に達してしまい……
ゼルダ「きゃああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
フェイ「ゼルダさぁぁぁぁーーーーーん!!!!」
フェイの叫びも虚しく、ゼルダは極彩色の光が渦巻く時空の渦の中に飲み込まれていった…………。
大変なことに!感想まだ
- わすれなぐさ ( No.43 )
- 日時: 2016/09/06 22:54
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
ーーーー
おお、—しよ—、——はここに—るわ…だから—丈夫よ、ゆっ—り——みなさい…
——は、やがてハ——ルに訪れ—大い——禍に立—向か——とにな——し——…それは、———がどう足掻—ても決して—すこ——出—ない運命な—です
何—運命だ!!—んなもの—振り—され——めにこの子は—————たん—ゃない!!
何が何——守っ———マ———、俺—の希—を……!この子の——た証を、何とし—でもこの—界に刻——けて——んだ!!
———…お願い、どうか——ないで……運命—んかじゃな——、私が、—達が貴方を——りも…誰—りも—い、—————ことを……
リンク、—————……
目が眩むような光の渦の中、どこからともなく声が聞こえる。
聞き覚えのないはずなのに、何故かどこか懐かしい気がするその声。しかしその声は、壊れかけのビデオテープのようにおぼろげで、そしてノイズがかったようにひどく不完全なものだった。
『今さら願ってもどうにもならないし、第一覚えていないなら……忘れてしまったのならそこに存在しないのと同じだから、なかったことにするしかないだろう?』
……果たして、本当にそれでいいのだろうか…?
何も知らないままでいることが、なかったことにすることが…
……他でもない、貴方を傷つけてはしないだろうか……
ーーーーー
カァ、カァ、カァ…カサカサ…
ゼルダ「……う…ん……。あら?ここは、一体…?」
光の渦に飲み込まれてから一体どれくらい経っただろうか…。ゼルダはふと、烏の鳴き声とむせ返るような草の匂い、それから風に木葉がこすれる音で目を覚ました。
ぼんやりする目を擦りながら辺りを見渡せば、そこはどこまでも広がる草原であり、空を見上げれば夕暮れ時なのか、橙と群青のグラデーションに染まっている。何だか不思議な夢を見た気がする…一体、ここはどこなのだろうか?
ゼルダ「一体、私はどこに落とされて……って、あれはハイラル城?ということはここは、ハイラル平原?…でも、私が知っている景色と少し違うような…?」
と、ふとゼルダは平原のはるか北の方角に、トライフォースを象った旗を掲げた美しい城があるのを見つけた。トライフォースを掲げた城を構える平原…どうやら、ここはハイラル平原であることはまず間違いないようだ。ただ、遠くに見えるハイラル城はゼルダの記憶の中にあるそれとは城の装飾や雰囲気がわずかに違うようであり、門下に構える城下町もまだそこまで発展していないように思えた。
ゼルダ「……これは、タイムジャンプ成功、ということなのでしょうか?…そうだ、ここがハイラルならばこの格好はまずいですよね…えっと、衣装チェンジモードは…」
ゼルダがブレスレットのボタンを押すと、それまで着ていた王女のドレス姿から一転、ピンクと白を基調としたシンプルながらも女性らしさを醸し出すドレススカートを着て長い金髪をシニヨンで一つにまとめた、いかにも町娘らしい姿になった。幸いにも左手に装着した特殊端末は無事なようだ。
ワンダバとフェイの言葉を信じるならきっとこの特殊なデバイスから発せられる電波を頼りに、二人は自分の落ちた時代の座標を必ず突き止めてくれるはず。そのためにもまずはゼルダ自身も行動し、自分がいる時代の情勢を把握して無事に生き残らなければなければならない…。
ゼルダ「……まずは、人のいそうなところを探してみるしかなさそうですね。そうしてから、ここがいつの時代なのかを模索してみましょうか」
このまま平原にいてもどうにもならないし、まずはどこか人の住まう村か集落を目指してみよう…そう考え、ゼルダはゆっくりと歩きだそうとした。しかし…
ボコボコボコ……
ゼルダ「…!?ハイラル平原の、夜……?これは、まさか……」
スタルベビー「ウグアァァァァ!!!」
ゼルダ「ーー!?やはり、スタルベビー!?」
それまでかろうじて姿を見せていた太陽が完全に隠れハイラル平原に夜が訪れた瞬間、地面から無数のスタルベビーが出現してしまった!!そしてスタルベビーはゼルダを見つけるや否や、一斉に襲いかかってきた!!
なお時オカを知らない人に説明するが、ハイラル平原では夜になると、どこからともなくスタルベビーが現れてリンクを襲ってくる。スタルベビー自体の強さは大したことないのだが如何せん夜が明けるまで無数に出現するのでたちが悪く、時オカ開始数分でのこの仕打ちにトラウマになりかけたプレイヤーも少なくないはずだ。
スタルベビー「グアァァ!」
ゼルダ「ネールの愛!…フレアバースト!!」
スタルベビー「ギャアァァァァァ!!」
とっさの判断で襲いかかってきたスタルベビーの大群をネールの愛で弾き飛ばし、その隙に爆発魔法でまとめた一掃するゼルダ。だが、息つく暇もなくスタルベビーは涌き出るばかりであり、ゼルダはこの最悪のタイミングでの骸の怪物に顔を強ばらせるばかり…。
ゼルダ「…魔法やシークで一掃出来なくもないですが、夜が開けるまでずっと湧き出るスタルベビーをいちいち相手にしたらきりがないですよね…」
いっそシークに変身して体術で乗り切るか、それとも体力の消耗を配慮してどこか安全な場所に避難するか…。いずれにせよこの場をどうにかしなければならない以上、迷っている暇はない。
やむを得ずゼルダが後ずさりしてスタルベビーと距離をとり、シークに変身しようとしたまさにその時だった。
ドドドドドド…パカラッ、パカラッ、パカラッ…
スタルベビー「グァ?」
御者「そこのお嬢さん、避けてくだせぇーーーー!!!」
ゼルダ「あれって、馬車…?って、こっちに来る!??」
馬「ヒヒィィィーーーーーーン!!!!」
スタルベビー「グォアァ(グシャグシャバキバキバキィィィッ!!!)ギアァァァァーーー!!!」
ゼルダ「きゃあぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!;;;」
何と、遠方からやってきた馬車が速度を上げたかと思いきやそのままこちらに突っ込んできたではないかぁぁぁーーー!!?このまさかのダイナミック乱入にゼルダはとっさに緊急回避をとり、目の前にいたはずのスタルベビーの大群は馬によってほんの数秒で撃破。まあ、時オカやムジュラでも馬でモンスターをけちらしてエポナ無双出来るもんな…;しばらくそのまま唖然としていると、馬車はゼルダの目の前で止まり、中から貴婦人と思しき女性が現れゼルダに歩み寄ってきた。
感想まだ。ちなみに、時オカで夜になる前に城下町に行こうとコキリの森からひたすら走りまくったが結局間に合わずに夜になってしまい、夜が明けるまで城下町に入ることが出来ずに仕方なくスタルベビー虐殺をしながら夜を明かしたのは作者だけではないはずOTL
- わすれなぐさ ( No.44 )
- 日時: 2016/09/06 23:09
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
謎の貴婦人登場
???「……良かった、無事みたいね。馬車で帰る途中にたまたま貴女を見かけたものだから……とっさの判断とはいえ手荒な真似をしてごめんなさい、怪我はなかった?」
ゼルダ「は、はい…もしかして、助けてくださったのですか?それに貴女は、一体…?」
御者「奥様、話してるところ悪いんですが乗るなら早くしてくだせぇ!もう夜だ!このままでは俺達も化け物に襲われちまう!」
???「日が沈んだ以上…平原にスタルベビーがはびこるわね。貴女、この草原は魔物が現れるからここにいるのは危険よ。詳しい話はあとにして早く馬車に乗りなさい」
ゼルダ「え、いいのですか?」
???「ふふっ、勿論よ。貴女のような可憐なお嬢さんを放っておくほど私も鬼じゃないわ。さあ、早く!」
御者の言葉に辺りを見回した貴婦人は、ゼルダにも馬車に乗るように促す。差し出された右手を取るべきか否か一瞬躊躇うゼルダだが、こうして迷っている合間にも、骸の姿をした魔物は夕闇につられるように次から次へと平原に湧き出てきている…。ゼルダはスタルベビーに囲まれる前にと急いで貴婦人の手を取り、転がり込むようにして御者の待つ馬車の中へ入った。
御者「じゃあ奥様、出発しますぜ!!はいやーー!!」
ゼルダ「…助かりました。あの、危ないところを助けてくださってありがとうございます。私はゼ…シークと言います」
マーテル「シーク…いい名前ね。私はマーテルよ。貴女が無事で良かったわ」
二人の乗車を確認した御者が勢いのよい掛け声と共に手綱を引いて馬を走らせる。ゼルダはおずおずと女性の向かい側に座りお礼を言うと、貴婦人…マーテルもニコリと微笑んだ。
ゼルダ「あの…マーテルさん。今、ハイラルの情勢はどうなっているのでしょうか?」
マーテル「ハイラルの情勢?」
ゼルダ「ええ。私、世間の流れに疎いから今ハイラルで何が起きているのかよく分からなくて…」
さて、あれから数分。一行がスタルベビーの群れを振り切った後、馬車はひたすら目的地に進み続けていた。外から見える景色はすっかり夜そのものであり、空には星が輝いている。
ごとごとと規則正しく揺れる馬車の中、ゼルダはずっと気になっていたことを、あえて無知な少女を装いながらマーテルに訪ねてみることにした。自分を助けてくれた恩人に嘘をつくのは少し罪悪感があるが、現在の状況を把握しなくてはならない以上そうも言ってはいられない。
マーテル「そうねぇ…どこから説明したらいいかしら。…まず、単刀直入にいうとハイラルは今戦争の真っ只中にあるわ。それもこれまでに無く大きな、ね」
ゼルダ「戦争?」
ゼルダが思わずオウム返しに聞けば、マーテルがええとうなずく。戦争について思うところがあるのか、その瞳はどこか憂いの表情をおびている。
マーテル「ええ、ハイラル中を巻き込んだとんでもない戦争よ。しかも相手は他の国なんかじゃなくて、ハイラルに住まうほぼ全ての種族達を巻き込んだ、所謂内戦というものね。…このハイラルには、私達ハイリア人だけじゃなくてゴロン族やゾーラ族、ゲルド族やシーカー族といった多くの種族がいるけれど、少し前までは全ての種族がある程度の均衡を保ちながら…言い方を変えれば、持ちつ持たれつの関係を守りながらもそれぞれの文化を守って暮らしてきたの。それはわかるかしら?」
ゼルダ「ええ…」
マーテル「…けれどある時、ハイラル王家が私達国民に対してハイラルの統一宣言を大々的に行ったの。ハイラルという国が永久に繁栄していくためには、この国をさらなる力を持つ国にする必要がある、そのためにも、あらゆる種族が住まう小さな国々集まりの一つでしかなったこの国を、一つの大きな国家として統一して納めるべきだって。…でもそれは逆に言えば、それまでは他国に余計な干渉をされる事なく独自に発展してきた国々が、統一という言葉のもと自国の文化を余所者に穢されてしまうのを容認することになるのだから、他の種族からしてみればそんなことを黙って見ている訳にはいかないでしょう?そうなると…」
ゼルダ「自分達の種族と文化を守るためにハイラル統一に抵抗する…。つまり、国を統一したいハイラル王家と、それに強く反発する種族達との、国中を巻きこんだ戦争が起きている、というわけですか…?(ハイラルの内戦に統一…もしかして、統一戦争のことでしょうか?)」
マーテルの説明と彼女の口から出た「統一」というワードから察するに、今いる時代はハイラル中のあらゆる種族のあらゆる人々を巻き込んだという壮絶な戦争、通称『ハイラル統一戦争』の真っ只中の時代であろうことをゼルダは突き止めた。どうやらゼルダは、時のオカリナ本編よりも数年前のまだ統一されていないハイラル…もっと言うなら、彼女がハイラルの姫としてこの世に生を受けるほんのわずか前の時代にたどり着いてしまったらしい。
マーテル「飲み込みが早くて助かるわ。シークは思った以上に聡明で賢いのね?まあ、中にはハイラル統一にある程度好意的な種族もいるみたいだけれど、実際問題なかなかうまくいかないのが現状みたいね」
ゼルダ「そうですか…あの、私から聞いておいてこのようなことを逆にお訪ねするのも何なのですが、貴女はどうしてそんなにお詳しいのですか?今の情報って一介のご婦人が知りえないはずのことでは…?」
マーテル「…ふふ、どうしてかしらね?♪」
ゼルダ「は、はぁ…(なんだか、上手いことはぐらかされたような…;)」
上手いこと話をはぐらかされた気がしなくもないが、ひとまずはこれで現在いる時代をちゃんと把握できた。手持ち無沙汰になったゼルダは、馬車の到着を待つ間、改めて目の前に座る心優しき貴婦人を観察してみる。
歳はおおむね20代後半だろうか、すみれ色のドレススカートとレースが編み込まれたスカーフを上品に着こなしていることから、それなりに裕福な育ちであることがうかがえる。髪はウェーブがかった長いプラチナブロンドの髪を所謂三つ編みヘアバンド状にしており、吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳と本人の優しそうな雰囲気も相まって、まさに「貴婦人」という雰囲気を醸し出していた。
ゼルダ「…綺麗な人…でも、この雰囲気というか感覚、どこかで知っているような……?」
マーテル「?どうかしたのシーク」
ゼルダ「い、いえ!何でもないです!!////;」
御者「はいや!どうどう…。さて、着きましたよ奥様」
マーテル「あら、着いたのね?ありがとう。…ねぇシーク、貴女きっといくあてもないのでしょう?良かったらこのまま私の屋敷に来ない?」
ゼルダ「え!?そんな……ただでさえ助けていただいたのにそこまでしていただくのは悪いですよ!!」
マーテル「いいのよ、遠慮しないで。私が貴女を招き入れたいんだから。それに屋敷は広いのだから貴女がいた方がかえって賑やかでいいでしょう?さあ、降りて降りて」
さて、そうこうしているうちにどうやらマーテルの目的地である屋敷に着いたらしい。さらに、ゼルダに行く当てがないなら自身の住まう屋敷に来ないかと提案してくれたくれたではないか。
この時代に落とされたばかりで今後の当てがなかったゼルダは、マーテルの優しさと偶然の巡り合わせに深く感謝しつつ何度も頭を下げてお礼を言い、有難くその好意に甘えることに。それから彼女に促されるままに馬車を降り、顔を上げるとそこは…
ゼルダ「うわぁ、綺麗なお屋敷ですね…まるで教会みたい!」
そこには教会のように大きくて立派な屋敷が建っていた。屋敷を覆いつくす広い庭はきちんと手入れされているのか美しく色鮮やかな花が咲き乱れており、煉瓦造りの壁に深緑色の屋根を携えた建物はまるで帰還した主をもてなすかのように威風堂々と佇み、その美しい姿を月明かりで染め上げている。
マーテルがゼルダを招き入れながら屋敷の門を開けると、庭の片隅からメイド服を着た初老くらいの女性が歩み寄りより、恭しく頭を下げた。
- わすれなぐさ ( No.45 )
- 日時: 2016/09/06 23:27
- 名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)
マーテル「ただいまサテラ。ごめんなさい、少し遅くなってしまったわね」
サテラ「お帰りなさいませ、奥様…おや、そちらのお方は?」
マーテル「この娘はシークよ。草原でさ迷っていたのを保護したの。行く当てもないみたいだからしばらくこの屋敷に置いておきたいのだけど、いいわね?」
サテラ「ええ、それは勿論マーテル様がそうおっしゃるなら。私はサテラ、この屋敷のメイド長を務めさせていただいておりますゆえ。シーク様、どうぞお見知りおきを……」
サテラと名乗ったメイド長にマーテルがゼルダを紹介すると、サテラはゼルダにも主同様に礼儀正しく頭を下げてくれたので、ゼルダも深々と頭を下げる。
ゼルダ「こちらこそお世話になります、メイド長様」
サテラ「いえいえ、私は一介のメイドであります故に、お名前でサテラと気軽にお呼びくださって全然構いませんよ。…奥様、旦那様はまだ帰ってきておりません故、シーク様もいらっしゃることですし、先にお二方でお夕食にしてはいかがでしょうか?」
マーテル「いいえ、今日帰ってくる話になってるのだし、私は待つわサテラ。あの人から帰れなくなったと連絡はないのでしょう?それに、せっかくの家族水入らずだもの。シークだけでも先に食べて…」
ゼルダ「いいえマーテルさん、家主である貴女を差し置いての食事は無礼に当たりますし、私もご一緒に待たせてください」
サテラによるとマーテルの夫であり屋敷の主である男性はまだ帰ってきてないらしい。マーテルが夕食を先にとるようにとゼルダに進めてくれたが、ゼルダは首を横に振りそれをやんわりと断った。家主より先にあつかましく食事をいただくなどいくら何でも失礼に値するし、何よりこの屋敷にお世話になるのだ、主だという男性にもきちんとお礼を言いたかった。
マーテル「あら。そう?遠慮しなくていいのに…なんだかごめんなさいね、気を遣わせてしまって。夫もそろそろハイラル城から帰ってくるはずだから」
ゼルダ「はい。あの、マーテルさん、旦那様って一体何をしていらっしゃる方で…」
キャァァァーーーーー!!ワンワンワンワン!!キュラララ!!
コラ!あっちに行きなさいこの化け物!坊っちゃんに近付くな!!ガルルルル!!
おぎゃあぁ!!おぎゃあぁーー!!
一同「!!?!?」
ゼルダ「え?今のって…まさかモンスターですか?」
マーテル「…中庭の方だわ…。それにこの泣き声は…!」
サテラ「あ、奥様!!お待ちを!!」
と、突如として和やかな会話を切り裂くように耳を劈く悲鳴が聞こえてきたではないか!!その声を聞いた瞬間サテラが制止する間もなくマーテルが走りだしたので、ゼルダ達も慌てて二人を追いかける。屋敷をぐるりと回り裏手の中庭に向かうと、そこにはゆりかごを携えた二人の若いメイドと黒色の毛並みをした一頭の大きな犬がいた。
サテラ「こら貴女達、何をしているの!?奥様の前で見苦しいったら!!」
メイドA「あ!おおおお奥様にメイド長、お騒がせして申し訳ありません…!庭のお手入れ中に、いきなりコウモリの魔物が入り込んできて…!」
ゼルダ(コウモリの魔物って、もしかしてキースのこと…?)
マーテル「まあまあ、それは大変だったわね。貴女たちに怪我はなかったかしら?」
メイドB「はい…魔物自体はすぐにハーシーが噛みついてやっつけたのですが、坊っちゃんがなかなか泣き止んでくれないのですー!ハーシー、ステイしてステイ!!」
犬「グルルルル……!!」
メイド達はゆりかごの中に必死に手をのばしており、犬は足元に転がる何かの死骸らしきものにひたすら唸り続けている。ゆりかごからはメイドの言葉通り絶えず「坊っちゃん」と思しき赤ん坊の泣き声が。メイド達は狼狽えながら必死に赤ん坊をあやしているものの、一向に泣きやむ気配がない。
サテラ「はぁ…全く、赤ん坊の子守りと犬のコントロールくらいはちゃんとしてほしいものだわねこの子達は;;」
マーテル「きっとさっきの騒ぎにびっくりしちゃったのね。大丈夫、私に任せて。さあ、ゆりかごをこちらへ…」
慌てるメイド二人組にサテラがやれやれと頭を抱える中、当のマーテルは慌てることなくゆりかごにそっと歩み寄る。それから赤ん坊を抱きかかえると、穏やかな手つきで赤ん坊をあやし始めた。すると赤ん坊は安心したのか泣き声が止み、マーテルは赤ん坊に優しく微笑みかける。
???「……裏庭が騒がしいと思ったら、やけに賑やかそうじゃないか」
マーテル「あら、ようやく帰ってきたのですね?ナイトは遅れてやってくるってことかしら?」
???「まあね」
サテラ「旦那様、これはこれは…」
メイドA&メイドB「「あ、旦那様!!おかえりなさいませ!」」
???「ただいまサテラ。メイとリオもお出迎えありがとう」
赤ん坊が泣き止んで場が収まりかけたその時、新たに男性の声が。一同が振り向くとそこには、シンプルながらも力強さを感じさせるデザインの鎧を着こんだ男性が立っていた。メイド達とサテラはその姿を見るや否や深々とお辞儀をし、男性もにこやかにメイド達に答える。
男性の歳はマーテルと同じく20代後半だろうか、その男は翡翠のように深い緑色の瞳に蜂蜜が溶けこんだようなさらりとした金髪、男性にしてはやや中性的だが凛としており整った顔立ちをしている。言葉だけ見ればなんてことはないだろうが、しかし初めて会うはずのその男性に対してゼルダは強烈な既視感を覚えていた。何せ、目の色こそ違うものの、その姿はまさに……。
ゼルダ(……え?この顔って……!!)
???「おや、君は見慣れない顔だね?マーテルの友達……にしては若いな。サテラ、彼女はもしかして新しいメイドかな?」
ゼルダ「ち、違います!!;えっと、私は……」
ゼルダが男性を思わず凝視していると、男性もこちらに気がついたのかゼルダの顔をひょいとのぞきこんできた。ゼルダは思わずたじろくが、顔をのぞきこまれたことよりも、男性の顔立ちの方にどうしても意識が向いてしまう。
ゼルダが言葉を詰まらせていると、マーテルは彼女が男性に怯えてると判断したのか、泣き止んだ赤ん坊を抱えたままくすくすと笑いながら近づいてきた。
マーテル「ふふっそんなに硬くならなくていいわシーク。彼はオリヴィエ、私の夫でハイラル直属の騎士団長よ。それから……」
マーテル「こっちの赤ちゃんは私達の息子でリンクっていうの。どう、可愛いでしょう?」
ゼルダ「……リン、ク…?」
……こうして、偶然の出会いから始まった、今までで一番奇妙で、優しくて、そして残酷な6日間が始まった。
感想おk