二次創作小説(映像)※倉庫ログ

わすれなぐさ ( No.71 )
日時: 2016/11/13 17:50
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)

長らくお待たせしました、タイムトラベル長編の続きになります。今回は四日目パートとなりますが、ストーリーの都合上このパートの途中では、過激(に頑張ってしたつもり)な死に表現やがっつりシリアス展開がありますので、読む際はあらかじめSAN値を回復してからにすることをお勧めします。
あとどうでもいいことですがこのごろツイッターに再燃しました。呟く内容はもっぱらパズドラ事情とかSB69事情とかアホな妄想とか落書きとか、後はついったで繋がった琴葉姫さんやたけジアンさんと色々お話もしてたり。

抜間さん「こんなやつの妄想やネタに便乗してくださるお二人マジいい人すぎる件。いつも絡みありがとうございます(土下座)」
ルフレ「それはよかったな。とりあえず、調子にのり過ぎてお二人に迷惑かけることだけはやめろよ?」
抜間さん「わかってるよー。ついったで起きるトラブルは何かと洒落にならないからね。とりま、本編どうぞー」





フェイ「ワンダバ!まだゼルダさんの居場所はわからないの!?」
ワンダバ「無茶を言うな!!ただでさえ時空は広いんだ!特定にはもう少し時間がかかるぞ!!」



ゼルダが過去のハイラルに迷い込みオリヴィエ夫妻の元に滞在しているその頃、現代では未来人組による必死の捜索活動が行われていた。過去のハイラルと現代共に事故が発生してから既に4日が経過しているが、今もなお捜索状況はなかなか進展しないようであり、ワンダバは勿論普段はあまり感情を荒らげないフェイにも珍しく焦りの表情が見られる。

フェイ「もしものためにブレスレットを持たせたのは正解だったけど、こんなに電波を探すのに時間がかかるなんて…トーブの事故よりはマシとはいえ、これじゃあSNS団のみんなにこのことがバレるのも時間の問題だよ…」
ワンダバ「それに、落とされた時代によっては彼女の命すら危ぶまれる…平和な時代ならともかく、それこそ戦争になど巻き込まれたりしたら…」

何かあった時のためにゼルダにブレスレットを持たせていたので、電波さえ一度キャッチしてしまえば救助自体は容易なのだが、如何せん今回のタイムジャンプで飛ぶことになる時代をゼルダから聞き出す前にあの事故が起きてしまったので、電波をキャッチするしない以前に、彼女がいる時代そのものを特定するのにもかなりの時間を要しているのが現状であった。
なお、補足すると今回のトラブルはSNS団メンバーには一切伏せており、現在は彼女がいなくなった件についても「難しい依頼を受けているため、片が付くまでは連絡がとれないがひとまずは無事だから安心してほしい」と嘘をついてある。嘘をつくのは心苦しいが、如何せん今回起きたのは時空絡みのトラブルであるため、その道のド素人当然のSNS団が騒いだところでむしろ余計にトラブルを生み出しかねないから、ここは黙っておいたほうが得策だろうとアルノ博士がフェイに助言をしたのだ(ただし、作者と両手には流石に事情を話してある。勿論口外無用状態)。


ワンダバ「うーむ…どの時代に行ったかがわからないから尚更探すのも手間がかかる…。やはり、しらみ潰しは効率が悪すぎるな…お?」
アルノ「…ふむ、おかしいのう。これは一体どういうことじゃろうな?」

と、ワンダバがモニターとにらみ合いをしていると、キャラバンの様子を見ていたアルノ博士がスパナ片手に首を傾げながら中から出てきた。すぐさまワンダバが博士に駆け寄る。


ワンダバ「博士、何か分かったのか?」
アルノ「ワンダバ。お主の話じゃと、タイムジャンプ中にいきなりハンドルがきかなくなったとのことじゃったな?」
ワンダバ「ああ。まるで、ハンドルが凍り付いたみたいにうんともすんとも言わなくなって…。おそらくは、キャラバンの故障が原因だろう」
アルノ「わしもさっき、そう思ってハンドルを試しにいじってみたんじゃ。そうしたら…」






ワンダバ「…はぁ!!?キャラバンのどこにも異常は見られない!!?」
フェイ「嘘!?だって、あれだけガチガチに固かったのに……?」
アルノ「ふむ、ハンドルは勿論、エンジンもブースターもコンピュータも扉もぜーんぶチェックしてみたが、至って問題点なしじゃったわ」



何と、制御不能になっていたはずのハンドルどころか、キャラバンそのものにも全く問題点なと見当たらなかったというではないか。これにはワンダバだけでなく、間近でキャラバンの異常を目撃、体験したフェイも驚きのあまり開いた口が塞がらない。

フェイ「そんな……それは一体どういう…?だって、確かに…」
アルノ「ふむ……。お主らの言葉を疑うわけではないが、本当にハンドルに異常があったのかのう?」
ワンダバ「そんなはずはない!!確かにあの時動かなくなったのだ!!うーむ、ますますわけがわからなくなってきた…;」
アルノ「こればかりはわしにもわからぬ。何か、見えない力でも働いていたのではないか?」
ワンダバ「そんなオカルトかつ非科学的なオチがあってたまるか!というか、貴方にそんなオカルト理論を立てたらこっちが反応に困るではないか!!;」

突然制御不能となったキャラバンの謎、未だに見つからないゼルダの手がかり、連日行われる捜索活動によりフェイとワンダバに容赦なくのしかかる疲労……。フェイは未だあれこれと言い合うワンダバと博士を横目に、ラボに備え付けの休憩スペースで疲れ切った目と頭を休めようとコンピュータを手動操作からオートモードに切り替えた。それからすたすたとモニターから離れ、どかっと膝から落ちるようにしてソファーに座り込む。


フェイ「……この分だと今日もゼルダさんの救助は無理そうかな?はぁ、もう僕も混乱してきちゃった…センサーをオートサーチモードに切り替えてっと…ちょっと休もうっと;」



チャリ



フェイ「ん?……あ、そうだ。これ…無くさないようにしなきゃ」


ソファーに座ったとき、ふと金属がぶつかる音がした。隣を見ると、ゼルダがアーティファクトとして持参したペンダントが置いてあったので、借り物を壊してはいけないとそっと手に取り、ソファーからテーブルに移し変えた。持ち主の帰りを待ち続けるペンダントは壊れないようにと白いハンカチでそっと包んであり、じっと見ていると錆色の金属が真っ白い布にくるまれているその姿が、まるで死装束を纏った骸のようにも思えてくる。


フェイ「……そういえば、結局あの後トラブルがあったから、このペンダントのこと聞きそびれちゃったなぁ…ゼルダさん、無事だといいんだけど…」


フェイは、時を止めたかのように硬く錆び付いたその表面を指先でそっと撫で、天井を仰いだ。


感想まだ

わすれなぐさ ( No.72 )
日時: 2016/11/13 17:51
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)







ゼルダ「マーテルさん、遅いですね……まあ、女性ですし名のある騎士団長の奥方様ですから、身だしなみには気をつけなければですしね」



さて、所と時代が変わってここは過去のハイラル。屋敷に滞在して4日目の昼過ぎとなるこの日は、マーテルから「城下街の工房にちょっとした用事があるのだが、せっかくだから街を一緒に見て回らないか」というお誘いを受けたため、二人で城下街に行くことになっていた。
ゼルダは外出の準備をしているマーテルをリビングでぼんやりと待っているのだが、当の貴婦人は支度に時間がかかっているらしく、なかなか自室から出てこない。暇をもて甘したゼルダは、部屋を意味も無くウロウロしてみたり本棚の本を眺めてみたり窓から空を眺めてみたりして時間を持て余す。


ゼルダ「もう少し待っていましょうか……あら?このゆりかごはもしかして?」

すると、ソファの上にここ数日ですっかりお馴染みとなったゆりかごがちょこんと置いてあるのを見つけた。ゆりかごの中をそーっと覗きこむと中には案の定ゆりかごの主である赤ん坊がおり、ここ数日で顔を覚えてくれたのか、ゼルダを見るなり紅葉のような手をのばしてあうあうと笑いかけてくれた。

ゼルダ「ふふ、こんにちはリンク?」
子リンク「あぅー!ぶ!」
ゼルダ「かわいい…それに、とても柔らかくていいにおいもします♪」
子リンク「うー」

愛くるしい仕草と笑顔に思わず笑みをこぼし、ソファに座って赤ん坊をそっと抱っこしてみた。腕の中に収まった赤ん坊は、ゼルダがいつも身を委ねて甘える彼の鍛え抜かれた逞しい身体とは違い、少しでも力をこめたら壊れてしまいそうなくらいに柔らかくてすべすべしている。そのお人形のような恋人をぎゅーと抱きしめると、自分は本当に過去の世界にいるのだと強く実感させられる。




『いいですかゼルダさん……。過去を変えれば未来も変わる…すなわち、過去を変えるということは、それは僕達が生きるこの時代や、あなたやあなたの周りの方々の存在すらも危ぶまれることになってしまいます。だからどうか、過去に飛んだとしてもその時代の流れに無闇に干渉することだけは避けてください』




ふと、物思いにふけるゼルダの脳裏に4日前のタイムトラベル出発前に真剣な眼差しでそう語りかけてきたフェイの姿と言葉が甦った。
過去が変われば、未来も大なり小なり何らかの変化が生じてしまい、その変化は時に取り返しのつかない過ちや哀しみを生むことになる…。その言葉が持つ重みも責任も、ゼルダは時オカでの経験から痛いほどよくわかっているし、今思えばフェイにも「クロノ・ストーン」編で自身や仲間の存在を過去への干渉によって抹消されかけたという過去があった。あの言葉はそんな彼なりの、ゼルダに対する精一杯の気遣いだったのだろう。だからゼルダもフェイの言葉も真剣に受け取り、過去のハイラルに飛んでも下手に干渉しないでいるつもりだった。



ゼルダ(干渉しない、つもりだったのに…運命とは皮肉なものですね。まさか、この時代に飛ばされて最初にマーテルさんに会うなんて…)



……しかし、そう思っていた矢先にあの事故に巻き込まれてしまい時空の渦に飲み込まれ、その結果、ハイラルの歴史に絶大な影響を与えた「勇者の血族」…それも、自身の恋人及びその両親との邂逅を果たすというとんでもない状況に立たされてしまったのだ。この偶然の神様による皮肉きわまりない悪戯は、ハイラルの王女にとってはまさに運命的な出会いであると同時に、一歩間違えればハイラルの歴史を大きく歪めてしまうであろう大変危険なものでもあった。
オリヴィエ夫妻の協力無しには助けを待てないために、歴史に影響のない程度の些細な変化はまあ避けられない。だが、夫妻に自分が関わることで大きく歴史が歪むことや新たな分岐点…「インタラプト」が発生することだけはなんとしてでも避けなくてはならない。そんなことが起こってしまってはハイラルの歴史どころか最悪、自分や自分が知る人々の存在すら危ぶまれてしまうことだろう。


だからこそゼルダはこの4日間、オリヴィエやマーテルの運命をいたずらにねじ曲げないためにも極力「特に代わり映えのない普通の少女」として二人と振る舞ってきたのだ。現に、これまでのゼルダの様子を振り替えってもらえれば分かると思うが、夫妻から誘われる形で屋敷にお世話になったり交流を交わしたりするなどして「その流れに乗る」ことは度々あっても、ゼルダ自身からあれこれ持ちかけて夫妻を必要以上に動かし、「新たに流れを生む」ことは一切していない。きっともとの時代に帰るまでその振る舞いは変わらないだろうし、たとえ今いる時代でどんな過酷なことがあろうとも、不用意に手を出すことだけは絶対にしないと固く誓っている。

だが、それでも…



ゼルダ(…でも…それでも、せめて赤ん坊の貴方とのこの一時を私だけの秘密の思い出にすることくらい、バチは当たりませんよね…?)



ゼルダは、ちいさな額に顔をそっと近づける。そして…。




ちゅっ




子リンク「うー?」
ゼルダ「ふふっ、我ながら私って、ずるい女の子ですね。…ねぇリンク、知っているかしら?そう遠くはないいつかの遠い未来。そこで貴方は私と再開し、恋人として結ばれることになるのを…。貴方はびっくりするくらいに強くかっこよくなって、私の心を全て持っていって、そのうち私を貴方なしでは生きられないくらいにしまうんですよ?」
子リンク「あうー?」
ゼルダ「……くす、そうですよね、そんなことを言っても赤ん坊なんですからそんなの今はわかりませんよね///」


照れたようにほんのりと頬を染めながら、腕の中で首をかしげる「恋人」に優しく語りかける。その未来への約束ともとれるささやきは誰に聞かれることもなく、幼い額に落とされたちいさなリップ音と共に空間に溶けていった。





パタパタパタ……



マーテル「シークー、どこかしら?待たせてごめんなさい……あら?」
ゼルダ「よしよし、いい子ですねリンクは♪」
子リンク「うー!」

やがて、奥の部屋から外出の準備を終えたマーテルが小走りでゼルダを探してリビングに入って来た。しかし、ゼルダはマーテルに気づかないようで相変わらず赤ん坊のリンクを抱っこし続けている。暖かな春の日差しに身を委ねるようにとろけた笑みをリンクに向けながら、美しい硝子細工を扱うような手つきでちいさな頬をなでるゼルダの横顔に、マーテルは思わず目を奪われた。

マーテル「…シークが、リンクをあやしてくれたのね?なんて優しい表情なのかしら。でも、あの顔…どうしてかしら、どこかで見覚えがあるような……?」

いつだったか、あの顔と同じような顔を私は、どこかで見たような気がする。彼女が自分達家族のもとに来るよりも…いや、リンクが生まれるよりもずっと前だっただろうか…。そう、確かあの顔は……





ゼルダ「…あ、マーテルさん。もう準備は大丈夫ですか?」
マーテル「…!ええ…大丈夫よ。ごめんなさいねシーク、リンクをあやしてもらっちゃって」



と、そうしてもやもやと考えているうちにゼルダの方がマーテルに気がついたようだ。 マーテルは後で考えればいいかなとひとまず気持ちを切り替え、ゼルダから赤ん坊を受け取った。

わすれなぐさ ( No.73 )
日時: 2016/11/13 17:54
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)



ゼルダ「いえ、私が好きでやったことですからお気遣いなく。あのー、今日も彼を一緒に連れていくのですか?」
マーテル「ううん、今日は結構歩く予定だからリンクはお留守番ね。えっと……あ、ちょうどよかったわ。メイ、リオ!」

どうやら今日はリンクは連れていかずに女二人でのお出かけになるらしく、そのまま受け取った赤ん坊をそっとゆりかごに戻してから布団をかける。それからたまたま近くを通りかかったメイリオ姉妹を呼び寄せると、双子は主の呼びかけにすぐに反応し、小走りで近づいてきて主にぺこりとお辞儀をした。

メイ「はい、奥様。お呼びでしょうか?」
マーテル「私達は少し出掛けてくるから、お留守番とリンクのことを頼めるかしら?2、3時間くらいで戻る予定だからよろしくね?」
メイ「はい、いってらっしゃいませ奥様!」
リオ「坊っちゃんのことは私達に任せて、どうぞごゆっくり!」
マーテル「じゃあ、いってくるわね二人とも。リンク、ママはちょっとだけお出かけしてくるからいい子でお留守番しててねー?…さあ、行きましょうシーク」
ゼルダ「はい、マーテルさん」


中にいる赤ん坊ごとゆりかごを双子メイドに託すと、マーテルはゆりかごの中のわが子に笑顔で話しかけてからゼルダの手をひき、そのまま屋敷を後にした。






ゼルダ「それにしてもメイさんとリオさん、子守を任されたというのになんだか嬉しそうでしたね?」
マーテル「お世話を任されたのが二重の意味で嬉しかったんじゃないかしら?でも、赤ん坊の力って本当に偉大よねぇ〜。家族はおろか赤の他人でも容赦なくメロメロにして、なんでも言うことを聞かせるしもべにしちゃうんだから。」

そうぼやきながら頬に手を当てて困ったように笑うマーテル。だが、言葉とは裏腹にその表情は満更でもなさそうだ。実際、メイリオ姉妹はマーテルのいう通り子守を任されたことを全く苦に思っていないようで、門をくぐった後すぐに屋敷内から響いてきた「お前たち、坊っちゃんにデレデレしてる暇があるならさっさと働きなさーーーい!!」というサテラの怒鳴り声に思わず二人して吹き出すことになったほどである。
まあそんな蛇足はさておき、現在二人は屋敷が建つ貴族街の歩道を、市街地目指して歩いている。というのも、マーテルは現在いる貴族街から少し離れた市街地に用事があるため、まずは用事を済ませてからそのまま市街地の中に繰り出そうということになったのだ。


ゼルダ「でも、こんなことを聞くのもなんですが、あのお二人に赤ん坊の子守りをお任せして大丈夫なのですか?お二人とも見たところ私よりもお若いですし、あの年頃の子って母親ではない人に対して人見知りをするのでは?」
マーテル「ふふ、確かに若いしそう思うのも無理はないわね。大丈夫、あれでも二人は1年くらい前から屋敷のメイドとして仕えてくれてるのよ。それにリンクが生まれた瞬間からずっとお世話してきてくれたから、リンクもなついているみたいでね…あの子達にとってリンクは弟みたいなものなのかも」
ゼルダ「そうだったんですか…なら安心ですね。あの、メイさんとリオさんってどういった経緯でお屋敷に来たのですか?」
マーテル「メイとリオが屋敷に来た経緯…ねぇ…うーん…どう説明したらいいかしら……」
ゼルダ「…?」

あの若さでメイドを務めているのだ、きっとどこかの家から奉公にやってきているのだろうと思いながらゼルダはマーテルに訪ねる。だが、そんなゼルダの予想とは反してマーテルは困ったように頬に手をあてながらうーんと考えこんでしまった。

ゼルダ「あの、答えられなかったら流していただいても…」
マーテル「ううん、違うの。何て答えたものかしらね…二人は1年前にオリヴィエが一時的に保護したらしいんだけど、それまでどこで何をしていたのかは実は私もよくは知らないの」
ゼルダ「え!そ、そうなんですか!?」
マーテル「なんかね、あの子達は過去のことをあまり話したがらないの。オリヴィエはさすがに事情を知ってはいるみたいだけど、本人達の気持ちを考えてあまり口外しないようにしているから、私もサテラもそれを汲み取って深く首を突っ込むことはしてないわね。人間誰しも、忘れ去りたい過去の一つや二つはあるものだしね?」
ゼルダ「…そうですよね。このご時世ですし、二人の過去に何か事情があっても何らおかしくないのかも…」
マーテル「そう。だから私、そんな二人を助けたくて、いくあてがないのならいっそ屋敷に二人をメイドとして受け入れて、みんなで一から色んなことを教えていこうってオリヴィエとサテラを説得したの。…とはいえ、二人は屋敷に来るまではろくに家事もしてこなかったみたいで、上手くいかないことも度々あったわ。オリヴィエとサテラは自分達の職務もあったし、私はお腹が大きくなっていて、度々崩れる体調やら子育ての準備やらでいっぱいいっぱいだったから、二人のことをなかなか気にかけてあげられなくて…あの時は悪いことしちゃったなーって今でも思うわ」

まあ無理もないだろうな、とゼルダは内心ひとりごちる。事実、この時代はハイラル王国どころか王家が治めていたハイリア人の領土国の治安自体もあまりよろしくなかったのだから、彼女らにも何かしらの事情があったことは想像に難くないだろう。しかも屋敷の人員を考えても、ハイラルの騎士を束ねる騎士団長と、胎内に子を宿した若い女性と、広い屋敷の雑務を一人でこなしている老人というなんとも多忙極まりない面子なのだ。きっと当時は屋敷もメイリオ姉妹も相当バタバタしていたにちがいない。


マーテル「でも、右も左もなんにも分からない状態で相当大変だったはずなのに、あの子達は妊娠中だった私の身体をよく気遣ってくれてね…慣れない手つきで薄かったり濃かったりする紅茶を入れてくれたり、庭のお花をつんで不格好な生け花をつくっては部屋に飾って気持ちを和らげようとしてくれたり、迷子になりながら図書館まで妊娠関連の本を借りてきてくれたりと色んなことをしてくれたわ。まあ正直言ってしまうと、それまでろくに家事したことがなかっただけあってかなり不格好な有様だったから、見ていて逆にハラハラさせられることもあったわね。ふふっ、今となってはどれもこれもいい思い出だわ」
ゼルダ「それはそれは…。でも、家事をしたことがなくても、わからないなりにメイさんもリオさんも一生懸命だったのですね」
マーテル「ええ、そのとおりね。どんなに家事が出来なくても、私や周りを気遣おうとするあの子達の優しい心は伝わってきたし、その心が心身共にバランスを崩していた私にとっては何より嬉しかった。それで私は、自分も二人を支えてその強い気持ちに答えてあげたいって思ったの。幸いにも二人が来て少したった頃には私の体調や子育ての準備は段々と落ち着いてきたから、その分二人に家事や礼儀作法を教えていって、同時に本人達も自身も努力も重ねていって…そうしていくうちに、二人ともどんどん成長していって、今ではすっかり屋敷に欠かせない存在になったの。私も、それが誇らしくてしょうがないのよ」
ゼルダ「メイさんもリオさんも、相当の苦労を重ねたからこそ今のお二人があるのですね。それに、マーテルさんもお優しいんですね…素性がわからない方を疑いもせずに受け入れて、そこまでしてさしあげるなんて」
マーテル「ふふっ、優しいなんてそんな大袈裟なものじゃないわ?私はね、ただ単にとんでもなくお人好しでわがままなだけ。結局は、自分がしたいからあの子達のことも受け入れて、貴女のこともこうして連れ回しているんだもの」

我ながらどうかしているわね私って、とやや自嘲を込めた笑みで呟くマーテル。きっと彼女自身、自分のそのお人好しさが時にトラブルを招きかねないものだということは痛いくらいにわかっているのだろうことはその表情から伺える。それでもゼルダには、たとえお人好しだろうがわがままだろうが、マーテルがくれる無条件の優しさはとても心地がよかった。

ゼルダ「…それでも、マーテルさんのその心に私は命を救われました。それに私、貴女に出会えて沢山お世話になって、しかもこんなによくしてもらえて…マーテルさんといると、すごく楽しいです」

この言葉は紛れもなくゼルダの本心であり、きっと双子の家政婦も同じ気持ちでマーテルに仕えているのだろう。


感想まだ。オリキャラの設定も割りと細かめに考えていますが、詳しいことはこれからちょっとずつ出していくつもり。

わすれなぐさ ( No.74 )
日時: 2016/11/13 18:17
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)

マーテル「あら、なかなかにうれしいことを言ってくれるじゃない?たとえお世辞でもオバサン嬉しいわぁ♪」
ゼルダ「お、お世辞でこんなこと言えませんよ!私は本気で…あとマーテルさんは言うほどオバサンっていう歳でもないでしょう!?」
マーテル「ふふ、冗談冗談。ありがとうシーク、私も貴女と過ごしているとすごく楽しいわ。…さあ、この話はひとまず終わり!目的地に着いたわよ」



話に夢中で気がつかなかったが、二人はだいぶ長い距離を歩いていたらしい。指差された先を見れば、少し古めかしくも小洒落た雰囲気の店が建っており、マーテルが扉を押し開けると扉に付いた銀のベルが「チリンチリン」と綺麗な音を立てて客人をもてなす。すると、店の主人と思しき作業着を着た男性が店の奥からひょっこりと顔を出し、二人を笑顔で出迎えてくれた。

主人「いらっしゃい……おや奥さん、今日は可愛らしいお嬢さんを連れてどのようなご用事で?」
マーテル「頼んでいたものの修理が完了してると手紙をいただいたものだから、早速取りに来たの。これ、注文書ね」
主人「では、しばしお待ちを…えっと、確かこの引き出しに…」

主人はマーテルから注文書を受け取ってその内容を確認すると、店の奥に行きガサゴソと棚の引き出しを開けて目的のものを探しだした。どうやらこの店は金物細工…特に、生活雑貨やアクセサリー類の販売や修理をする店のようであり、棚にところ狭しと並べられた時計や銀食器などの美しい金物細工が日にあたってきらきらと光り、見る物を引き付けてやまない美しさを放っている。その金物細工の一つ一つにハイリア語で刻まれた名前にゼルダは見覚えがあった。確か、同じ名前がハイラル城にある多くの金物類や功績を上げた者に褒美として与えられる品々にも刻まれていたはずだ。

ゼルダ(この方は、この時代からハイラル城とも縁があったのですね……いつ見ても見事な細工で惚れ惚れします)
主人「あったあった、これだこれだ。……はいはいお待たせしやした。蓋の歪みはバッチリ修理、ついでに割れた硝子もサービスで取り替えておきやしたぜ」
マーテル「まあ、ありがとう。ふふ、商売上手ですこと♪」
主人「いやいや奥さんにはご贔屓にしてもらってやすからね。じゃあ、お代は100ルピーね。……はい、確かに受け取りやしたよ」
ゼルダ「…マーテルさん、何かの修理を頼んでいたのですか?」
マーテル「ええ。リンクが生まれた時にオリヴィエとお揃いで作ったもので、私の大切な宝物なの。いつも肌身離さす身に付けているのだけれど、恥ずかしい話数日前にうっかり落として蓋が歪んでしまったから、ここで修理を頼んでいたのよ」
ゼルダ「そうなのですか。そんなに大切なものなら、ちょっと見てみたいですね…」
マーテル「ふふ、内緒よ♪でもそうね、シークにならそのうち見せてあげないこともないわ」

ゼルダが店内に飾られている小物類に思わず目を奪われているうちに、店の奥から戻ってきた主人が小箱を差し出した。後ろ姿で見ただけなのではっきり見たわけではないので断言は出来ないが、どうやら金で出来た装飾品か何かのようだ。マーテルは小箱の中身を手に取って主人にお代の入った袋を渡すと、受け取ったものを懐に大切にしまい込む。




マーテル「さあシーク、行きましょう?」
主人「まいどありー…あ、そういえば奥さん。今日広場で何かが起きるって噂なんだけど、何か知らないかい?あるいは、旦那に何か聞いてるとか…」
マーテル「…?いいえ、知らないわ。オリヴィエからもそんなことを聞かされていないし…どうして?」


と、マーテルがシークの手を引いて店を出ようとした時、主人が二人を呼び止めてそんなことを聞いてきた。藪から棒にわいて出た話にマーテルはキョトンとし、いいえと首を横に振る。

主人「あっしはこの歳だし店も一人で切り盛りしてるからこっからろくに出られないんだけど、街が妙にしーんとしてるからなーんか奇妙だなーって思ってよ…。あっしの考えすぎかもしれないけど、もし何か起きるようなら十分気をつけなよ?2日前も街で盗賊が出て盗みを働いたっちゅう噂だし、この頃はいつにもまして物騒になってきてるからさ…」
マーテル「…言われてみれば、数日前と比べてちょっと人が少ないわね…」
ゼルダ「それに、どうしてこんな街中に兵士が…?」
マーテル「気になるわね…外に出てみましょう。それじゃあ、お邪魔したわね…貴方もどうか気をつけて」
主人「ああ。奥さんこそ気をつけてな…」

窓から外の様子を伺えば、確かにあらゆる店や住宅が立ち並ぶ街にしてはやけに人通りが少なく、しかも不思議なことに街のあちらこちらにはいつもなら街に配置されないはずの兵士達の姿もあった。この異常に、さすがに街見物どころじゃなさそうだと勘づいた二人は、心配そうに眉を潜める主人に見送られながら店の外へ出た。

ゼルダ「こんなに大きい街なのに、人の気配が感じられませんね…あの、ここってゴーストタウン…なんてことはないですよね…?」
マーテル「そんなはずないわ。この街は貴族街以上に多くの人が住んでいるはずよ…どうしてかしら…嫌な予感がするわね」
ゼルダ「事情をあそこにいる兵士達に伺ってみますか?」

空気や音が遮断された店内からでは分からなかったが、街は人が極端に少ないだけでなく生活による雑音や人の声もなく、生き物の気配も感じられない。時折枯れ葉を巻き込みながら吹く風の音と、何も言わずにただ棒立ちするだけの兵士の姿があるだけの風景が二人の胸をざわざわさせる。


マーテル「あの、ちょっとよろしいかしら?この先に何かあるのかしら」
兵士A「ん?何なんだお前達。この先では……ってお、お前は…いや、貴女様は!!?もしやマーテル様か!?」
兵士B「お…オリヴィエ様の奥方様が!!?どうしてここに!!?」
マーテル「少し野暮用でね。私のことを知っているということは、オリヴィエの部下かしら?…それで、どうして街に貴方達兵士がいるのかしら?」
兵士A「…お言葉ではありますが、貴女様はこの先は知らないほうがよろしいかと思われます…。街の人々も、あれを見に行っているか、のちに起こりかねない報復を恐れて気配を押し殺しているかのどちらかです。ですからどうかマーテル様もお引き取りください。貴女様まで巻き込まれたりしたら…」
マーテル「いいえ、あの人の妻だからこそ、私にはこれから起こることを知らなくてはならないわ。いいからお通しなさい」
兵士A「うぐ…なりません!!」

おそらくはオリヴィエの部下か何かだろうか、マーテルを見るなり一気に動揺しだす兵士達。どうやら彼女にはあまり知られたく内容らしく、なんとかこの先には通すまいと説得するが、マーテルも意思が強く一歩も引こうとしない。

兵士B「貴女様にあんなものを…あんな見るに耐えないものを見せる訳には…!ち、違う!!俺は反対したんだ!!でも国王はんなこと知ったこっちゃねぇんだよ!!」
マーテル「見るに…」
ゼルダ「耐えないもの…?」
兵士A「いえ、なんでもないです!…おい、それ以上言うのは止めろ!あの方にはあの方なりの考えがあるはずだ…そうでなければ…!」
兵士B「はぁ?あんな残虐なことをしようとしといて国王なりの考えがあるって一体どんな考えだよ!!奴らはそれ相応のことをしたのは分かるが、だからってあんな人目につく広場で公開処刑なんざ正気の沙汰とは思えねぇ!んなことしたら確実に奴らは怒り狂うぞ!!」
兵士A「ば、馬鹿!お前口を滑らせすぎだ!それ以上言ったら…!!」




マーテル「……しょ、けい……?今、何て言ったの…?」




兵士達が言い争う最中で口にした、いっそ決定的なまでの「処刑」という単語を聡明な貴婦人が聞き逃すわけがなかった。しまった、と兵士がはっとして冷や汗を垂らしながら口を抑えるが時すでに遅し。マーテルは兵士の一瞬の隙をついて広場に向かって一目散に駆け出してしまったではないか!

わすれなぐさ ( No.75 )
日時: 2016/11/13 18:00
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)



兵士B「あっ、マーテル様!お待ちを!!」
兵士A「おい、持ち場を離れるな!オリヴィエ様には悪いが、ここは諦めるしかねぇよ…!!」
ゼルダ「処刑をするって………一体、何が起ころうとしているのですか…」

兵士は慌てて追いかけようとしたが、迂闊に持ち場を離れる訳にはいかないのでそうもいかず、歯がゆそうにその場に立ちすくむ。ゼルダはせめて現状をちゃんと理解したいと、目の前で唖然としたままの兵士にずいっと詰め寄って有無を言わさぬ剣幕で問い詰めた。


ゼルダ「…あの、これから処刑が起こるというのは本当なのですよね?それで、一体どこで、誰が処刑されるというのですか?まさか、オリヴィエさんということはないですよね?」
兵士A「な…無礼者!!そんなわけないだろう!!城の者は兵士や召使いも含めてみんなあの方を尊敬しているんだ、仮にあの方が処刑されたらそれこそ城中でクーデター騒ぎになる!!」
ゼルダ「それじゃあ一体誰が殺されるというのですか?」
兵士B「ちっ…いちいち誰が教えるかって「いいから言いなさい」うっ!うぐぅ………わーったわーった!!言う!言うよ−!どうせ知れ渡ることなんだし…だから、頼むからそんな王妃様みたいなおっかない面をやめてくれ!!今からこの先にある広場で公開処刑が執行される!殺されるのはゲルド族の女達だよ!!!」
ゼルダ「ゲルド族が…?一体どうして…何か理由があるはずですよね?」
兵士B「理由も何も、2日前に貴族街の大臣宅から盗みを働いたんだよあのアマ共は…!このご時世にわざわざ自分から王国に喧嘩を売りに行くなんざバカな奴らだよ!!」
ゼルダ「貴族街での盗み…ゲルド族…2日前……」



半ば脅しに近い説得をして兵士から聞き出したそれらのワードの一つ一つに、ゼルダの背筋には嫌な悪寒が走る。あまり考えたくはないが、そんな意思などお構いなしに彼女の聡明な頭脳は、既に最悪な答えを弾き出そうとしていた。




『ゲルド族の奴らは、時々ああして人目をしのんで街にやってきては頭の悪い金持ちのハイリア人から金品を巻き上げてるんだ。今回も大方、どこかの汚い成金野郎からでも盗みを働いたんじゃないか?』



『あっしの考えすぎかもしれないけど、もし何か起きるようなら十分気をつけなよ?2日前も街で盗賊が出て盗みを働いたっちゅう噂だし、この頃はいつにもまして物騒になってきてるからさ…』



『理由も何も、2日前に貴族街の大臣宅から盗みを働いたんだよあのアマ共は…!このご時世にバカな奴らだよ!!』



オリヴィエと屋敷の窓際で交わした会話と、先ほどの金物屋の主人の口にした警告とがぐるぐると目まぐるしく駆けめぐる。確か、金物屋の主人は2日前に街で盗賊が出て盗みを働いたと言っていた。 そして、オリヴィエとあの会話をしたのは今から2日前の貴族街にあるお屋敷にいる時であり、しかもその会話のきっかけとなったのは…。



ゼルダ「…まさか……今から処刑されようとしているゲルド族って……!!?」







執行人「聞け、我らが同胞達よ!!!この女共は2日前に国王の片腕と誉れ高い大臣の屋敷に侵入し、盗みを働くという神をも恐れぬ愚行を犯した!!これを反逆と呼ばずに何と呼ぶのか!!!」



広場に設置された処刑台の上に立つ処刑執行人が、集まった群衆にそう高らかに呼びかける。全身黒づくめの衣装で顔からつま先までを覆い、手にした斧槍を振りかざして高らかに叫ぶ執行人の姿はさながら死神のようだ。


執行人「この愚行はハイラルを一つにし、より強大な国として他の国々の侵攻よりこの大地を守らんとするハイラル王家及びその同盟諸国に対する反逆に他ならない。…よって、これよりハイラル王家とこの世界を築きしいにしえの神々の名の下、ゲルド族の処刑を執行する!!」
観衆「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
若い男「変なご託はいい!そんな奴らさっさとやっちまえー!!!」
商人の男「ゲルド族なんざはなっから信用ならねぇんだよ!苦労して手に入れた品物を好き勝手に盗みを繰り返しやがって!!」
執行人「さあ兵士達、その女共をギロチンに固定せよ!」
ゲルド族「…………」
マーテル「……酷い有様ね……」

処刑台の真ん中には錆びたギロチンが三台鎮座しており、今か今かと愚かな罪人の首を跳ね飛ばす時を待っている。高らかに処刑執行を宣言する執行人の傍らでは鎖に繋がれて兵士達に取り押さえられたゲルド族の少女が3人、憎しみに満ちた目つきで広場を埋め尽くすくらいに集まった群衆達を見下していた。いつもなら人々の笑い声が飛び交う広場には今、一切の笑い声も穏やかな空気もない。そのかわりあるのは、ゲルド族の少女に浴びせられる聞くに堪えない罵詈雑言…。


兵士「さあ、さっさと首を差し出せ!」
ゲルド族A「くっ!気安く触るなハイリアの犬が!!」
ゼルダ「はぁはぁ…マーテルさん…!ここにいらっしゃいましたか…」

執行人が斧槍を振りかざして兵士に命じると、兵士は暴れる少女達を抑えつけ、首を乱暴にギロチンにあてがい始める。そこへゼルダが息を切らしながらやってきた。

マーテル「シーク…置いていってごめんなさい、とっさに身体が動いてしまったものだから」
ゼルダ「あの、これは…」
マーテル「見ての通りよ。どうやら、2日前に盗みを働いたゲルド族が運悪く捕まってしまったみたい」
ゼルダ「…やはり、あの時の方々だったのですか…」
マーテル「シーク、知っているの?」

怪訝そうに問うマーテルに、ゼルダは2日前にオリヴィエと共にゲルト族が盗みに入った際の騒ぎを見たこと、それからまさに今処刑されようとしているのが件のゲルト族だろうということをマーテルに説明した。


マーテル「…そういうことだったのね。それに、街中に普段はいないはずの兵士達が沢山いるのも、この騒ぎに便乗して悪さをする者達を迅速に取り締まれるようにするためだとしたら説明がつくわ。だからオリヴィエがいきなり城に呼ばれたのね…街や城の警備の指揮をとらせ、いざという時にも対応できるようにするために!」
ゼルダ「おそらくは、そうでしょう。…でも、あまりにも展開がうまく運びすぎてるというか…都合が良すぎませんか?だって、それだけのことをしておきながら。しかも全員が易々と捕まってしまうなんて…」
マーテル「ええ…何よりも相手はガノンドロフが率いるというあのゲルド族、この処刑そのものにも何か裏がありそうね。だけど、今それを言ってもきっと焼け石に水…下手したら私達の方が首をはね飛ばされるわ」
ゼルダ「そんな…!!」

ゼルダが思わず声を荒らげるが、二人の背後ではマーテルの言葉を証明するように若い女が「でも、こんなことして本当にいいのかな……」と戸惑いを口にした矢先に、傍らにいた中年女性に「何言ってんの!あいつらにはそれがお似合いなんだから!!」と怒鳴り散らされていた。ゲルド族を公開処刑することに疑問や恐れを抱く人はいるにはいるのだが、そのまともな少数意見は大多数の過激な罵詈雑言にかき消されているのだ。 このあまりにも狂い果てた空気の中では、マーテルもゼルダも苦虫を噛みつぶしたような顔で処刑に立ち会うことしか許されなかった…。


執行人「さあ、いよいよ貴様らの首が飛ぶ時が来た。せめてもの情けだ…遺言があるならば最後にまとめて済ませておくことだな?」
マーテル「シーク、先に屋敷に戻った方がいいわ。今から起こることはきっと、貴女には辛いものになるから」
ゼルダ「…いいえ、私もここにいます。何も出来ないのならせめて、最後まで見届けさせてください…」
マーテル「………」

わすれなぐさ ( No.76 )
日時: 2016/11/13 18:06
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)

注意。SAN値はおK?



そうしている合間にもギロチンの準備が整ったようだ。見るとギロチンは麻の縄で刃を宙に固定するタイプであり、その縄を切れば刃が重量に従って落ち、首を切り落とす仕組みになっている。執行人はこの縄を斧槍で切ることで、処刑を執行しようとしているようだ。マーテルはかすかに震える手でドレスの袖をぎゅっと握りしめているゼルダを気遣うが、ゼルダは処刑台から目を逸らそうとしない。
自分がこういった非道な行いや誰かの血が無意味に流れることが苦手で、状況によっては卒倒してしまうかもしれないことはゼルダも重々承知している。それでもゼルダは、未来のハイラル王国を納める身として、かつての王家が犯した過ちや傲慢、それによって流れた血や涙からは決して目を逸らしたくなかった。


兵士「くっくっく…いいザマだな。貴様らの首は、ゲルド族征服への第一歩とさせてもらおうか?」
ゲルド族B「…!!このクソが!!我らゲルドを見くびるな!!ガノンドロフ様はお前らなんかに屈したりなんかしないんだよ!!!」
兵士「この女が…っ!!身の程を知れ!!(腹を思い切り蹴り上げる)」
ゲルド族B「うぐぅ!!ちくしょう…ちくしょう!ガノンドロフ様、申し訳ありません…」
執行人「…さて、小娘ども、地獄への渡し船をそろそろ出させてもらうぞ?せいぜい、我らの領土に盗みに入るなんぞ馬鹿なことをしたことを後悔するがいいさ」
ゲルド族C「…ご託はいい。殺すならさっさと殺しなよ…いくら血が流れようとも、我らの誇りは処刑如きでは屈しない」

吐き捨てるように言い捨てたゲルド族の少女を執行人が鼻で笑うと、麻縄を切ろうと勢いよく斧槍を振り上げた!!処刑台にいるゲルド族の少女達を含めたその場にいる全員が、いよいよやってきてしまうその時に息を呑む…!


執行人「ふん、たいした度胸だ…ならば一息に終わらせてやる!!!罪人共よ、死んで神々にわびるがいい!!」
ゼルダ&マーテル「「………!!」」







「フ…フフフフフフフフ…」







だが、まさにその時、地獄の底から響くような笑い声がどこからともなく聞こえてきた。ゼルダは肌に突き刺さる憎悪に思わず肩をびくりと震えさせ、キョロキョロと辺りを見てその発生源を探す。だが、それはすぐに見つかった。なぜならその声の主は……。




ゲルド族「フフフフフフ…フフフフフフフフフフフフフフフ…アハハ…ッ!!!! 」



なんと、目の前で今にも首をはね飛ばされそうなゲルド族の少女だった。だが、三人いるうちの全員が笑ったわけじゃない…唯一、真ん中のギロチンに首を固定された少女だけが処刑台の上から血走った目で群衆を見下している。明らかに様子がおかしい…。

ゲルド族A「全く、呑気なことだなハイラルの民どもよ…いつ見ても憎たらしい目で私達を睨むんだから…」
執行人「…貴様、何が言いたい…?」
ゲルド族A「…わからないのか?…自分達の立場すらわきまえずにどいつもこいつも馬鹿面引っさげて…さっきから目ざわりだと行っているのさ」
執行人「なっ、この小娘が…!?」
ゲルド族B「あ、あんた…一体どうしちまったんだい…いつもならもっとギャーギャーやかましいくらいに威勢がいいってのに…」
ゲルド族C「いや、ちょっと待ちなよ。こいつ、目がやばくなってる…まさかこんな時に頭がいかれちまったのか!?」

先ほどまでの狂犬のようにハイラル兵士に噛みつく勢いとはうって変わって、今の少女の姿は、獲物に静かに忍び寄って締め殺さんとするコブラを思わせた。この変貌にはゼルダやマーテルを含めた群衆や兵士のみならず、両端にいた仲間達もその変貌に目を白黒させる。群衆や兵士はどよめき、両端にいる仲間の少女達も悲痛に満ちた声で正気に戻れと呼びかけるが、もはやその声すら届かない…。

母親「ちょ…兵士!!あんたあの頭のいかれた女を何とかしなさい!こっちまで気がどうにかしちゃうわ!」
兵士「くっ…なんとかできてりゃとっくにやってるっての!おい貴様、今すぐ黙って…」
ゲルド族A「雑魚は黙ってろ!!!!!!」
群衆「ヒィッ!!!?」
ゲルド族A「 ッハハハ…アーッハハハハハハハハハハ!!!!聞け、神の声を聞く種族なとという下らぬプライドと思想に満ちた愚民共よ!!これは脅しや負け惜しみなどといったみみっちいものじゃあない!!これは来たる絶望の未来への秒読みだ…!!!」
兵士「ええい黙れ小娘!その薄汚い口をさっさと閉じろ!!」
子供「うわぁぁぁーーーーーーん!!あいつ怖いよぉぉぉぉー!!!」

神をも恐れぬ剣幕で叫び笑う少女の放つ強い憎悪に兵士は怯み、群衆はがたがた震え、中には精神を毒されて涙する者や発狂しだす者もいる有り様であり、広場は瞬く間にパニックに。
しかし広場に木霊する耳障りな笑い声に、ゼルダはひどく覚えがあった。



ゼルダ(…ガノン…ドロフ……!!!)



それは間違いなく、ハイラル城を襲い、父を殺した際に上げていた、今でも耳に焼き付いて離れない笑い声。声質や高笑いの意味こそ違うものの、群衆や兵士に向けられる敵意をものともせずに人々を心から見下すその目つきは、まさにあの力に溺れた魔王そのものだった…。

だが女の目にはあの時のガノンドロフとは違い、生気らしい生気は一切見られない。その代わり宿っていたのは………



ゲルド族A「ガノンドロフ様の名の下、お前達ハイラル王家がその愚かな傲慢さをもって他の種族を蹂躙し、我が物顔で支配しているこの世界を、我らに敵仇す者どもを一人残らず根絶やしにしてやる!いつの日か必ずや貴様らは必ずや後悔し、ひれ伏することになるだろう…我らが終焉の王がハイラル全土…いや、この大地を闇に染め上げるその時を迎えたらな!!」



この世にある負の感情のすべてをぐちゃぐちゃにかき混ぜたかのような、反吐を吐くようにどす黒く塗りつぶされた強い憎悪だった……。


ゲルド族A「今から楽しみだよ…貴様らの国が骸で埋め尽くされる時が来るのがな…なにせその時には貴様らの王国を守りし忌々しい神の力を我らゲルド族が手にし、世界は我らのものとなるのだからな!!せいぜいそれまでは、かりそめの安息に酔いしれてそのろくでもない頭で平和ボケでもなんでも楽しんでいるがいいさ…!!クク、ハハハハハッ…!! 」
群衆「…!!!」
兵士「だ、黙れ女!!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ゲルド族A「ウフ…フフフフフフフフフ…ガノンドロフ様ばんざーい!!終焉の王ばんざーい!!!!!アーッハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」







ザシュウウゥゥ!!!!!







ゼルダ(…………え……)


……その瞬間はあまりにもあっけなく何の前触れもないまま訪れ、そして訪れたと同時にあっという間に終わりを告げた。執行人が斧槍を麻縄に向かって振り下ろし、錆びた刃が耳障りな金切り声を上げたその刹那、ゼルダにはまるで世界がぐにゃりと歪んで一気にスローモーションにかけられたような感覚に支配された。時間にすれば1秒にも満たないはずなのに、まるで一時間経ったかのような…いや、むしろそもそもそんな瞬間など存在しなかったかのようにすら感じられる。果たして、これは夢なのか?それとも…

わすれなぐさ ( No.77 )
日時: 2016/11/13 18:18
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)

ゼルダ(今…ギロチンの紐が切られて、それから…それに、なんだか周りが騒がしくなって……なんだか、顔に何か飛び散って…!?)

そして、顔に飛び散ってきた、妙に生暖かい何かの感触ようやく狂った感覚から解放されたゼルダの視界に映ったもの。


それは、支えを失い力なく地面に叩きつけられた身体。


それは、ギロチンからゴロリと鈍い音を立て無造作に落ちた、身体から切り離されたばかりのそれ。



そして、そこから、身体から、壊れた蛇口のように絶えずどぷどぷと吹き出て処刑台をペンキの如く塗りつぶす赤、あか、緋、アカ、朱、紅、赫…………





「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!」





その瞬間、誰のものとも分からない叫びが広場に響き渡った。


ゼルダ「あ…あぁ…………」
マーテル「シーク!!」

ゼルダはあまりのショックに言葉を失い、危うく膝から崩れ落ちそうになったのをマーテルに支えられた。ただでさえ色白な少女の顔は今や可哀想なくらいに血の気が失われ、驚愕に見開かれたその瞳は焦点を合わせることすらままならない。

男「おい兵士!!何をしてやがるんだ!さっさと他の二人もさっきの女みてーになる前に殺っちまえ!!」
群衆「そうだそうだーー!!」

…だが、群衆からは「残りの二人もさっさと殺せ」「ざまあ見ろ盗人め!!」などと、聞くに絶えない言葉が飛び交っている。その頭の狂いそうな野次は留まることを知らず、むしろ火に油を注ぐかのように段々と勢いを増したそれは、人々の中に僅かに残っていた戦争への戸惑いや心の片隅にあった一欠片の良心を焼き付くし、瞬く間に別のものへと蝕んでいくようだった…。貴婦人は吐き気にも似た嫌悪感を圧し殺しながら、目の前の惨劇をただただ見据える。

マーテル(……)

ふと城にいるはずの夫のことを思い出し、どうか彼だけはこの醜い焔に焼かれてしまわないようにと心の中で強く願う。誰よりも恵まれた力を持っていながらもその血の定めに諍い、誰よりも深く平和を願っていた彼がこのことを知ったら、果たしてなんと嘆くだろうか…。



ゲルド族B「ちくしょう…ちくしょう!!あんたら絶対に許さねぇ!許さねぇからな!」
執行人「だ……黙れ小娘が!!我らを侮辱し続けるいかれた減らず口を…無理やり黙らせたまでだ…!!」
ゲルド族C「どうして…どうしてだよ!こんな死に方いくら何でも可哀相だよ…いきなり正気を失って死んじまうなんて…!」
マーテル「…とにかく、屋敷に戻りましょうシーク。この狂った空間にいては、私達も気がふれてしまいそうだわ……」
ゼルダ「……はい……」

収まることを知らないどよめきに耳を塞ぎたくなるのを必死に堪えながら、ゼルダに今来た道を引き返すように促す。そうして二人三脚状態でよたよたと歩く中でふと空を見ると、いつの間にか辺りに立ちこめた煤色の雨雲からは滴がポツポツと降り注ぎ、遥か上空では雷鳴がゴロゴロと唸り声をあげ初めている。
広場に飛び散った赤色を洗い流そうとする雨は、まるでハイラル王国の愚行を嘆く神々によるシュプレヒコールの涙雨のようだった。






そして、その日の夜……。






マーテル「 おお、よしよし、ママはここにいるわ…だから大丈夫よ、ゆっくりお休みなさい… 」
子リンク「……くぅ……くぅ……」

マーテルはリビングのソファに座り、急な夜泣きをした息子を一人あやしていた。あの処刑の後真っ青な顔をしたゼルダをなだめながら屋敷に戻り、食事も早々に彼女を休ませたが、自分も気を紛らわせていないとあの光景を思い出してしまいそうで、なかなかベッドに入る気になれなかった。

マーテル(…このまま雨が、ハイラル中に蔓延する悲しみも苦しみも恨みも、全て洗い流してくれたらどんなにいいことでしょうね…)

現在、時刻は夜中の1時頃。ハイラル兵がゲルドの少女達の首を切り落とした瞬間からぽつぽつと降り出した雨は今や大粒の涙のようになっており、その一粒一粒が窓を容赦なく叩きつける。


マーテル「……これ以上考えたって仕方ないわね、きっと。…私も、そろそろ寝ようかしら…」

リンクはすっかり夢の中に旅立っており、母の腕の中で静かな寝息を立てている。息子がようやく寝静まったのを確認し、自分ももういい加減気持ちを切り替えて眠ろうかと思った、その時だった。




ガチャリ。



マーテル「…?こんな夜中に扉が開いた…?」

微かだが、確かに玄関から扉が開いたような音が聞こえてきたのをマーテルは聞き逃さなかった。怪訝に思ったマーテルがリンクをそっと傍らのゆりかごに置き、ランプを持って立ち上がる。
こんな真夜中、しかもどしゃ降りの雨の中での来客など普通はありえないし、マメで用心深いサテラが玄関の施錠を忘れていたとは考えられない。いずれにしろ、いざとなったら自分がどうにかしなければ…そう考えながらマーテルは玄関にたどり着き、そっと様子を伺った。

しかし、そこにいたのは……





マーテル「ーーーー!!?オリヴィエ!!貴方一体どうしてここに…!?」




なんとそこには、本当なら城にいなければいけないはずのマーテルの夫が全身ずぶ濡れで佇んでいたではないか!


マーテル「待ってて、今身体を拭くものを…きゃあ!?」
オリヴィエ「…………」

マーテルは急いで洗面所にタオルを取りに行こうとしたが、オリヴィエに腕を引かれて思わずよろめいてしまった。ハイラルの騎士は相当急いでここまで馬を走らせたのか、絶えずはぁはぁと息を切らし肩を上下させており、雨水を吸い込んだ髪の毛や真っ赤なマントが滴をぽたぽたと垂らし続けている。

マーテル「オリヴィエ…………?」
オリヴィエ「……マーテル…どうか、このまま聞いてくれ……」






オリヴィエ「明日、ハイラルで血の雨が降ることになる……!!」
マーテル「……!!!?どう、して……」






オリヴィエ「今日、ハイラル王直々の命令によるゲルド族の公開処刑が行われ、一昨日に市街で盗みを働いた者達がギロチンにかけられた。…おそらく…いや、間違いなくガノンの軍勢が早くて明日にはハイラル王国に迫ってくるだろう」
マーテル「……!!まさか、今日広場で行われていたあの見せしめが………!?」

公開処刑という言葉に、昼間のあの光景がフラッシュバックして脳裏に鮮やかに蘇る。赤い染みがこびりついた処刑台、狂ったように野次を飛ばす人々、錆びた断頭台の上げる金切り声、辺りに響き渡る耳をつんざくような高笑い、自分の隣で顔を真っ青にして哀れなほどに震える心優しき少女、そして、シュプレヒコールのように降り注いだ大雨…。ゼルダと目撃したあの出来事は、ゲルド族の罪人を処刑することで「自分達に逆らうとこうなるのだ」と他の部族に知らしめるための、いわば「見せしめ」として表向きでは処理されたと後にマーテルは人伝いに聞かされた。


……そう、あくまでも「表向き」には。





オリヴィエ「表向きは見せしめと国民には知らされているが、あんなものは「見せしめ」なんて生ぬるいものじゃ済まされない……!!あの後、王の命令を受けた連中が切り落とした少女達の首をゲルド族が信仰する女神像にゴミのように捨てていった挙げ句に、胴体をオアシスにぶち込んで砂漠で唯一の水場を台無しにしたんだぞ!!?あれは…ハイラルからゲルドに向けて叩きつけられた、事実上の「宣戦布告」だ………!!」
マーテル「!!!??」



……つまり、そういうことだった。

かねてからハイラル軍は、いつまで経ってもハイラル統一の動きに応じないばかりか、ハイラル王国やその友好国であるゴロンやゾーラなどの一族から強引な略奪を続けるゲルド族を邪険に感じており、彼らを弾圧するための準備を着々と進めてはガノン率いるゲルド族を降伏させて自分達の支配下に置くためにあらゆる策を練っていた。
そんな時に王国は偶然市街地で盗みを働いたゲルドの少女達の存在を知ったものだから、これはチャンスだとばかりに兵を使わして少女達を捕らえると、ハイラル国民の前で彼女達を大々的に処刑にかけた。しかもそれだけでは飽き足らず、切り落とした首をあろうことかゲルド族が守り神として崇拝する女神の像…のちに「魂の神殿」として大人になったリンクに攻略されることになる巨大邪神像に捨て、残った胴体をゲルドの砂漠唯一の水源であるオアシスに放り込んだというのだ!

わすれなぐさ ( No.78 )
日時: 2016/11/13 18:12
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)



オリヴィエ「生命線の水場を血の池にされ、神として信仰する女神を汚され、仲間を酷たらしく殺されたんだ…そんなことをすればいくら今までかろうじて沈黙を保っていたゲルド族も黙っていないはずだ。今の王には俺や王妃の言葉すらも届いていない…ハイラル軍はゲルド族との全面戦争に駆り出されることになり、王族、兵士、そして市民問わず多くの血が流れるだろう…俺達騎士団も例外じゃない、最前線での死闘は避けられないだろうな…」
マーテル「じゃあ……恐れていたことが、とうとう起きようとしているというの……?」
オリヴィエ「ああ……。だが、ここで俺が逃げたら、王家だけでなく、何の罪のない国民や戦う力を持たない女子供にまで戦争の魔の手はのびてしまうだろう…。そうなれば、統一は愚か、ハイラルそのものが滅びてしまう。それだけは、なんとしても避けなければならない…」
マーテル「オリヴィエ……?」
オリヴィエ「…だからマーテル…どうか、このまま聞いてくれ」
マーテル「……」




オリヴィエ「…俺は明日の戦いの中で、君のもとにゲルド達が、ひいてはガノンが行かないように死力を尽くすつもりだ…たとえ、この命を刈り取られることになろうとも…。だからお願いだ…もしもの時は、君だけでもリンクを連れてどこか遠くに逃げてくれ!!!」
マーテル「……!!?!?」



「見せしめ」の裏に隠された真実に戦慄していたマーテルに追い打ちをかけるかのごとく突きつけられたのは、愛する人からのあまりにも残酷すぎる願いだった……。首元に悪魔の槍と死神の鎌をいっぺんにあてがわれるかのような絶望感と虚無感が身体から血の気を奪っていく。



マーテル「どうして…貴方を見捨てて逃げろなんていうの!?」
オリヴィエ「マーテル…」

どうして貴方はそんなことが言えるの?私は愛する人を切り捨てなくてはならないの?そんなの信じたくない、出来っこない……。そんな思いばかりが頭の中をぐちゃぐちゃにかき回して精神を容赦なく蝕み、冷静さを失ったマーテルは半ば錯乱状態へと追いつめられてしまう。


マーテル「貴方を失いたくないのに、貴方のそばにいたいのに…どうして、どうして逃げなくてはいけないの! …!!」
オリヴィエ「……マーテル」
マーテル「私、逃げたくない…貴方の…騎士の妻なんだもの、敵から逃げた末に生き恥をさらすのも、捕まってむごたらしく殺されるのもごめんだわ!私にだって、妻としての誇りが…プライドがあるのよ……!」
オリヴィエ「マーテル」
マーテル「ゲルド族に大切なものを何もかも壊されて命を奪われるくらいなら、少しでも奴らに噛みついてみせるから…!騎士の…貴方の妻として一緒に死んで「マーテル!!!!!!」ーーーーーー!!?」 」

妻の肩を強く揺さぶると、マーテルは愛する人の声にはっとして我に返る。オリヴィエはマーテルの肩をつかんだまま、血を吐くような思いで名一杯叫んだ。



オリヴィエ「俺がどんなに君に対して残酷な事を言っているかなんて承知の上だ…何だったら恨んでくれたって、いっそ嫌いになってくれたって構わない…!だから、君だけでも何が何でも生きて、そして守ってくれマーテル、俺達の希望を……!あの子の生きた証を、何としてでもこの世界に刻みつけてやるんだ!!だから…お願いだ!!」







オリヴィエ「俺の妻として死ぬのではなくて、リンクの母親として生きてくれ!!! 」
マーテル「…………!!」






…本当は今すぐにでもこの運命から目を背けてしまいたい。愛する人の手をとって、このハイラル…いや、いっそこの世界そのものから逃げ出してしまいたい。しかし、未だがたがたと震える身体を抑えつけ自分を見据えるオリヴィエの強い瞳が、迫り来る現実から目を背けることを、逃げ出すことを決して許してはくれない。

そうだ、勇者の血を引いた騎士の元に妻として嫁ぎ、寄り添うことを誓ったその時から、そしてこの身体に愛しいひとの命を宿したその時から、いつかこの時が来るであろうことは分かっていた。「俺を犠牲にして逃げろ」と懇願する彼が一番辛くて胸が張り裂けそうなんだってことも、一介の貴婦人でしかない自分が彼を止めることなど出来ないことも痛いくらい理解している。
だからこそ、私はいつかこうなることを知り、持てるだけの全ての愛をこの人に捧げ、いつこの時が来ても悔いのないようにと覚悟を決めていた。




……決めていた、はずなのに…。



マーテル「…オリヴィエ…やっぱり、行ってしまうのね……戦場に……」



いくら、頭で理解していても…心が、なによりも感情が追い付いてくれない。行ってしまう。誰よりも愛したひとが、ずっとそばにいたいと願っていたひとが、自分の手の届かない、遠い遠いところへ。



どうして幸せな時間はこうも容易く崩れ去ってしまうのだろうか。

どうして、戦争なんて馬鹿なものに自分が、彼が、あの子が、巻き込まれなくてはならないのだろうか。



どうして…



オリヴィエ「…?マーテル…君は…もしかして……」






「泣いて、いるのか…?」





どうして、涙が溢れて止まらないのだろうか…。



オリヴィエ「マーテル……」
マーテル「オリヴィエ……お願い…約束するから…この先貴方に何があろうと振り向かないって、あの子を、リンクを守るって約束するから……!!!今だけは…今だけだから!!」





「騎士の妻とかあの子の母親とかじゃなくて、貴方を愛する一人の女として貴方との別れを悲しませて……!!!」





オリヴィエ「………!!」
マーテル「オリ……ヴィ、エ……!!……う、うぁ、あぁぁぁぁぁ、ぁぁ、あぁ……!!!」


マーテルはオリヴィエの胸元にすがりつくと、ぼろぼほと溢れる涙など構わずに嗚咽をあげながらひたすら泣きじゃくった。それは涙の止め方を知らない子供のようにひどく感情的で呂律の回らない、しかし聞いている者の胸さえも揺さぶってしまいそうな、そんな思いに満たされた、大粒の雨のような涙だった。





オリヴィエ「…落ち着いたかい?」
マーテル「……ええ」


果たして、どれくらいの涙を流したのだろうか。何も知らない人々にとってはほんの数分、しかし二人にとっては一生とも思えるくらいの時間が経った頃、マーテルがようやく顔を上げた。

マーテル「……オリヴィエ、私なら、もう大丈夫。もう、覚悟は出来たわ…だからオリヴィエ、お願い……貴方は貴方のやり方でこの馬鹿げた戦争を終わらせて……」
オリヴィエ「……マーテル」

そう決意を固めながら袖で未だ溢れる涙をぐいとぬぐい、泣き張らして真っ赤な目でオリヴィエを真っ直ぐに見据える。その目は既に、最愛の人との別れをめそめそと悲しんでいた女の目ではなく、大切な一人息子を守ろうと誓い、何があろうとも強く進んでいこうとする母の目となっていた。オリヴィエは、妻の瞳に宿る確かな灯に、静かに頷く。

オリヴィエ「…わかった。俺も君に誓おう、この戦争を必ず終わらせ、あの子のためにも未来を繋いでみせると…」
マーテル「ええ…あの子は私達の息子であり、神様に授かった大切な命だものね……私の命に変えても、戦争なんかにあの子の未来を渡したりしてなるものですか……!」
オリヴィエ「……マーテル、ありがとう。…そして、ごめん……こんなことになってしまって」
マーテル「ううん、いいの。私も、貴方の元に嫁いだ時からこうなることは分かっていたし、貴方を恨みなんかしない。それに、こうして最期に貴方に会えて、ちゃんとお別れが出来てよかった。もう、悔いはないわ……」
オリヴィエ「……俺も、最期に君に会えてよかった…」

溢れてしまいそうな涙をごまかそうと気丈に笑う妻の小さな身体を強く抱き寄せる。鎧越しに伝わってくる彼女の体温はひどく冷たく、それでいて微かに震えていた。この震えは果たして凍えるような寒さによるものか、それとも……。


オリヴィエ「マーテル…」
マーテル「……オリヴィエ」






「愛してる」






最期に交わした口づけは、涙の味がした。

わすれなぐさ ( No.79 )
日時: 2016/11/13 18:13
名前: 抜間さん (ID: z/hwH3to)



そして、いよいよ訪れてしまった別れの時。



マーテル「…ねぇ、本当にあの子に会わなくていいの?今なら眠っているから…」
オリヴィエ「いいんだ。今あの子に会ったら、きっと俺は騎士団長でいられなくなっちまう……せめて息子の前では、カッコいいお父さんでいてやりたいだろ?……じゃあ、行ってくるよ…ハイヤッ!」
マーテル「ええ、行ってらっしゃい…!」


未だ降りしきる雨の中でオリヴィエが手綱を引き馬を勢いよく走らせた。全身が雨に打たれて瞬く間に濡れるのも構わずに、真っ直ぐに城を目指してひた走るその背中は、マーテルがよく知る「ハイラル一の騎士」そのものだった。

マーテル「……」

初めのうちは微かにオリヴィエの乗る馬の蹄の音が聞こえたが、やがてその音も激しい雨音にかき消されていく。マーテルは、何も言わずにただそこに黙って佇みながら最愛の人の去り行く背中をいつまでも見送っていた。





メイ「……」
リオ「……」

人知れず行われ、歴史のどこにも刻まれることのない一組の夫婦の最期の逢瀬……しかし物陰には、それを唯一目撃していた証人達の姿があった。双子のメイド達は互いに顔を見合わせると、静かに、しかし互いの覚悟を確かめ合うかのように頷いた。


メイ「リオ……わかってるわね?私達は…」
リオ「わかってるよ、お姉ちゃん…」









コタケ「ホッホッホ…上手くいったねぇコウメさん」
コウメ「ええ、上手く行き過ぎて気味が悪いくらいだわねぇコタケさん」


ここはハイラルのはるか西に位置している、どこまでも広がる果てしない砂漠。ハイラル中に降り注ぐ雨も命を飲み込む乾いた砂の大地には一滴たりとも届いておらず、星一つない空は深い青色に覆われている。その砂漠の片隅にあるオアシス…そこに老婆が二人、箒に跨がって上空を漂いながら不気味に笑う。


コタケ「噂によればあの女、我らの洗脳通りに狂いながら殺されてくれたようだね…。女神像とオアシスを台無しにされたのはさすがに予想外だったし腹立たしかったけど、これで我らがハイラルを討ち取る口実が出来たってもんさ」
コウメ「そう…気の狂ったゲルドの罪人が「たまたま」発狂して王家やハイラルの連中の神経を逆なでする発言をした挙げ句仲間共々ぶち殺されて、「たまたま」その言葉を真に受けて頭に血が上った連中がゲルド族に対して一方的に宣戦布告を叩きつけてきたのさ。先に仕掛けてきたのは何を隠そうハイラル王家なんだから、小娘どもにあったためらいも復讐心に駆り立てられて消え失せ、あたしらは心おきなくハイラル王家とやりあえるってわけさ…。ヒッヒッヒ…全てはガノンドロフ様のお考え通り…」
コタケ「ここまでくればもうすぐさ…。明日には王家は滅び、ハイラル中がガノンドロフ様にひれ伏すことになるだろうさ。ハイラルのどこかにあるという、古の神の力…そいつを探し出してガノンドロフ様が手に入れれば、世界を闇に変えることなど容易いんだからねぇ」
コウメ「だが、驚異は王家だけじゃなことを忘れてはなるまいよコウメさん?一番厄介なのは……」
コタケ「言われなくてもわかってるさ、コタケさん。そう、何よりも…」






「「勇者の血筋を絶やさねばなるまいな…ホーッホッホッホ!!!」」



唯一、血と錆の匂いで真っ赤に染まった水だけが、鏡のように高笑いする老婆の姿を映し出していた…。





感想おK