二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【Ⅰ】始動 ( No.2 )
日時: 2016/08/12 20:34
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: a.ADsdli)

「ああーっ!」

担任のつまらない話にうとうとと微睡んでいた思考が一気に現実へ引き戻された。聞き覚えの有り過ぎる馬鹿でかい叫び声の持ち主の方へ視線を向けると、椅子から立ち上がり、たった今紹介されていたらしい転校生を指差しているのが見えた。
豪炎寺修也。凛とした顔立ちの転校生の隣に、そう書かれている。またすごい名前だな、と心の中で独りごちた。
あれだけ反応しておきながら知り合いではないと言う円堂に、クラスメイト達が訝しげな視線を送る。友人がそんな視線にさらされているというのがなんとなく恥ずかしくてオレは視線を逸らし、窓の外を見た。
窓際の列の、一番後ろ。日当たりが良くてグラウンドが見渡せるこの席を、オレはとても気に入っている。
転校生の豪炎寺は、空いた席——オレの目の前の席に座った。数日前に席替えをした際、転校生が来る分もと担任がクジを一枚大目に作っておいたのだ。委員長が引いた転校生の分のクジが示していたのはこの位置。今まで誰もいなかった席に人が居る違和感を感じながらも、オレは豪炎寺の肩を軽く叩いた。

「よろしく。豪炎寺、だったよな?」
「ああ」
「オレは佐倉麻紀。名字も名前も女子っぽいけど、男子だからな?」
「それくらい見た目で分かるさ」

オレの言葉にフッと小さく笑った豪炎寺に、オレは内心口角を上げる。掴みは上々、見たところお喋りなわけでもないこのクールな転校生とは上手くやっていけそうな気がする。



給食前の小休憩、オレがトイレに行っている間に円堂が豪炎寺に話し掛けに来ていた。その後ろにはマネージャーの木野の姿。
たしかに、紹介のときにあれだけ反応しておいて、知っていない筈はないよな。
自分の席に座ると、円堂が「佐倉!」と声を上げた。そちらのほうに顔を向ける。

「そうだ、こいつもサッカー部なんだ! なあ、お前もサッカー部に入らないか?」

昨日、この豪炎寺と何かがあったらしい円堂は、豪炎寺のサッカーが上手いと称賛しつつ、なんとか勧誘しようとしている。対する豪炎寺は無表情のまま、迷惑そうに顔を背けた。おっと、雲行きが怪しい。
動向を見守っていると、豪炎寺は静かな声で言った。どこか遠くを見つめる眼差し。オレはそれをよく知っている。

「サッカーは、もう辞めたんだ」

——ああ、この目は。

好きな筈のものを、諦めざるを得なかった者の目だ。以前のオレがしていた、その目だ。
豪炎寺、とオレが声を掛けるより早く、教室に半田が駆けこんできた。円堂が校長室に、何か重要な用件で呼ばれたらしい。教室を飛び出していった円堂の背を見送ってから、先ほどできなかったように豪炎寺に声を掛けようと口を開く。
だが、まるでそれを分かっていたかのように豪炎寺は立ち上がり、配膳を始めた給食当番の方へ歩いていく。小さく溜息を吐く。この話題に触れるにはまだオレたちの距離が遠すぎる。
オレもゆっくり立ち上がり、円堂の分も取ってやろうと思いながら列に並ぶ。

「豪炎寺」
「……なんだ?」
「あー……昨日、円堂と何があった?」

自分の分と円堂の分を運び終えて着席し、豪炎寺の背中に声を掛けると、豪炎寺は振り返った。
オレの問い掛けに対し、不良に絡まれていたのを助けた、と短く返す豪炎寺。その流れのどこにサッカーの要素があるのかは分からないが、円堂が深く感銘を受けるような何かがあったのには間違いない。
いちおうオレたちのキャプテンだし、お世話になったのだから礼くらいは言っておこうと思って言うと、豪炎寺は不思議そうな顔をした。

「……佐倉に感謝される覚えは特に無いな」

まあ、確かに。でも、オレの恩人の恩人ってことなら、つまり、そういうことじゃん。