二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Prologue ( No.1 )
日時: 2016/10/25 19:23
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: F8Gg2X0Y)

プロローグ

“百年前、このマデル地方では『王』と名乗る者をリーダーとする組織によって大規模な紛争が起こされた。”
“紛争は長きに渡って続いた。『王』とその七人の部下たちは強大な力を振るい、圧倒的な力でマデル地方を侵略していった。”
“『王』の進撃を食い止められる力の持ち主は、どこにも存在しなかった。人々の抵抗も虚しく、街は次々と『王』の手中に収められていった。”
“いよいよ『王』がマデル地方を我が物にしようとした、まさにその時。突如、『救世主』を名乗る、七人の者達が現れた。”
“七人の『救世主』は『キズナ』と呼ばれる光でそれぞれのポケモンと結ばれ、『王』を圧倒する力を発揮し、瞬く間に『王』の組織をマデル地方から追いやっていった。”
“しかし、案ずることなかれ。その『王』、残忍かつ狡猾にして、決して諦めることを知らず。その獣の如き怒りと決して尽きぬ嫉妬においては、数多の時もほんの一瞬にすぎない。忘れるなかれ、『王』の名を——”



「……よしっ、と」
揺れる引っ越し車の助手席で、少年は読み終わった本を閉じた。
オレンジ色の髪を揺らし、顔を上げる。その澄んだ瞳は、決して小さくはない不安と、それを覆い隠すような期待に溢れていた。
「どうだいハル君? それはこれから私たちが行くマデル地方で実際にあった話さ」
その横に座り車を運転するのは、黒髪を少し長めに伸ばしてサングラスをかけ、南国風の派手な服装の上から白衣を着た男の人。
「まぁ、百年も前の話だからもうそれを体験した人はいないんだけどね。実際にあった話なのは確かだけど、今となっては半分お伽話さ」
「そうなんですか……」
ハハハ、と笑う男性の横顔を見ながら、ハルと呼ばれた少年はそう返す。
「でもミツイ博士、わざわざ送り迎えしていただき、ありがとうございます。親の仕事の関係で、引っ越すことになってしまって」
「いやいや、気にすることはないよ」
ミツイ博士と呼ばれたその男は、再びにこやかに笑う。
「しかし君も大変だね。ポケモンを貰って旅に出る14歳の誕生日、まさにその日になって、マデルまで引っ越すことになるなんて」
ハルの両親は共に働いており、どちらも世界中を飛び回る仕事をしている。
その関係で、父親の旧友であるミツイ博士が住んでいるマデル地方まで引っ越すことになったのだ。
「いえ、昔から引越しを繰り返してた家なので、慣れっこです。旅を始めるはずのその日に引越しすることになるとは思ってませんでしたけどね」
この世界では、地方によって違いはあれど、一定の年齢に達するとポケモンを貰うことが出来る。そこからどうするかは自由だが、ポケモントレーナーとなる者が圧倒的に多い。勿論、この少年、ハルもその一人だ。
「ハハハ、そんなこともあるさ。マデル地方はいいところだよ。きっと旅のし甲斐があるだろう。さぁ、私の研究所まで、もうすぐだぞ」



ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界に住んでいる、不思議な生き物だ。
この世界には多くのポケモンが溢れている。陸に、海に、そして空にポケモンは生息し、そしてポケモンは人間と共存して生きている。誰もがポケモンを理解し、ポケモンと共に生きている。人間とポケモンは互いに助け合い、共闘し、親交を深め合いながら生きている。
そして、ポケモンが人間と共に生きるのなら、人間もまた、ポケモンと共に生きている。そして、その関係性を体現する人間を表すような言葉、それが、ポケモントレーナー。
この世界はあらゆるポケモンに溢れている。ポケモンの数だけ出会いがあり、ポケモンの数だけ物語がある。



「さあ、着いたぞ!」
ミツイの声と共に、車が止まる。
車を降りれば、そこはいくつかの民家が立ち並ぶ小さな町。
「この建物は私の研究所。そして、ここはマデル地方の旅の始まりの地、ハツヒタウンだ」



これは、そんな物語の中のたった一つ。
ハルという少年の、小さな物語である。