二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第52話 正体 ( No.108 )
日時: 2016/12/31 22:15
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: p3cEqORI)
参照: 準決勝第二試合、対戦カードはスグリvsロー!

ズシィィィン! と。
会場に轟音が響き、フィールドが揺れる。
「……ダメだったかぁ」
カビゴンが落下したのは、ルカリオの目の前。
波導弾を受け、体力の限界の中でルカリオをさらに狙おうとするも、あと一歩が叶わなかったようだ。
『決まったぁぁぁ! ハル選手、メガシンカの力を存分に振るい、今大会で猛威を振るったカビゴンを見事打ち破り、決勝進出! ミオ選手、惜しくもここで敗退となりました!』
会場が声援に包まれる中、二人はお互いのポケモンをボールへと戻す。
「カビゴン、お疲れ様。また特訓し直して、今度はリベンジしようねぇ」
「ルカリオ、よくやったね。頑張りすぎて僕もちょっと疲れちゃったよ」
ポケモンを戻すと、ミオはハルの元へと歩み寄る。
「まさか、ハル君がメガシンカを使えるとは思ってなかったなぁ。今回は僕の負けだねぇ」
「ミオも強かったよ。タイプ相性で有利なルカリオでも、かなり追い詰められた」
「ありがとうねぇ。だけど、今度バトルする時は僕が勝つよぅ。今度会ったら、またバトルしようねぇ」
「うん。望むところさ」
バトルを終え、再戦を約束して握手を交わすと、二人はフィールドを後にする。
この後はこちらも好カード。スグリ対謎のトレーナー、ローだ。



『さあ、間も無く準決勝、第二試合が始まります! 対戦カードは、スグリ選手対ロー選手!』
アナウンサーの紹介を受けて、二者がフィールドへ進み出る。
『まずは気取った実力派、スグリ選手! 一回戦の名勝負に見事勝利し、その流れに乗ってそのまま快進撃を見せています! 準決勝でも、その実力を余すところなく見せてくれるのでしょうか!』
次に、とアナウンサーは続け、
『お前は一体誰なんだ! 年齢、出身、その正体は一切不明! とにかく何にも分からない! 全てが謎の謎だらけ! ロー選手! ただ一つ分かることは、その飛び抜けた実力のみ! 先ほどのミオ選手と同じくポケモンはバクオング一匹しか見せていませんが、遂に他のポケモンを見られるのでしょうか!』
スグリとローがフィールドに立つ。
「さあ、始めようよ。このバトルも勝って、決勝戦でハル君と勝負しなきゃいけないんでね。サクッと倒して、その仮面を剥いでやるよ」
「……」
スグリの挑発に対しても、ローは一切応答しない。身動きすら見せない。
「……まぁいっか。それじゃあ、まずはこいつだ」
「……」
スグリとロー、同時にボールを手に取る。
『それでは、試合開始!』
「出て来い、ニューラ!」
「バクオング」
スグリの一番手、ニューラに対し、ローはまたしてもバクオング。
「やっぱしバクオングか。先手は貰うよ! ニューラ、冷凍パンチ!」
ニューラが地を蹴り、先手を取って動き出す。
高速かつ不規則な動きで軌道を読ませずにバクオングへ近づき、冷気を纏った拳をバクオングの額に叩き込む。
「バクオング、瓦割り」
バクオングは目を細めて後退りするが、すぐさま手刀を振るって反撃する。
「遅い遅い! ニューラ、八の字切りだ!」
しかしニューラは素早くバクオングの背後に回り込み、後ろから鋭い爪で八の字にバクオングを切り裂く。
「地震」
「ニューラ、離れろ!」
バクオングが空気を吸い込んだのを見て、ニューラは咄嗟にバクオングから距離を取る。
直後にバクオングが空気を揺さぶり、大地を揺らす爆音を放つも、ニューラは大きく跳躍し、地震の衝撃波を回避した。
(しかし、瓦割りか。さっきとは技が変わってるから、要注意ってとこかな)
「っし、ニューラ、地獄突き!」
着地するとニューラは再び不規則な動きでバクオングに近づき、バクオングの腹部を思い切り突き刺す。
バクオングの表情に苦痛が生まれる。同時に、その声量がかなり小さくなる。
「地獄突きは追加効果でしばらくの間相手の音の技を封じる。ハイパーボイスは使えなくなるし、バクオングのその感じだと地震も使えないかもね」
本来は声を出す技を防ぐのだが、このバクオングは大声によって地面を揺らしているため、地震も封じた可能性が高い。
「悪いけど、対策はバッチリだよ。ニューラ、冷凍パンチ!」
今度はニューラは猛スピードで一直線にバクオングへ近づき、氷を纏った拳を繰り出す。
しかし、
「バクオング、噛み砕く」
バクオングも大きく口を開き、ニューラの腕に噛み付き、冷凍パンチを防ぐと同時にニューラを捕らえてしまう。
「瓦割り」
そして腕を大きく振り上げ、勢いよく手刀を振り下ろす。
機動力の高いニューラと言えど、動きを封じられてはどうしようもない。
格闘技は二重に効果抜群、耐え切れるはずもない。
しかし。

「ニューラ、カウンター!」

バクオングの手刀が振り下ろされた次の瞬間、ニューラはそれを受け流し、返す刀で拳を突き出し、バクオングを大きく吹き飛ばした。
カウンターは自分が受ける物理攻撃のダメージの二倍のダメージを相手に与える技。ニューラの体力はそこまで高くないため、一撃では沈まないが、
「八の字切り!」
吹き飛ぶバクオングを猛スピードで追い、ニューラはバクオングを八の字に切り裂く。
八の字切りは格闘タイプの技、つまりバクオングには効果抜群。
予想もしない大ダメージを受け続け、あろうことかバクオングは開始早々戦闘不能となってしまった。
『な、なんということでしょう! スグリ選手、猛威を振るっていたバクオングを多彩な戦略でいとも容易く撃破! こんな展開を想像していた人など、いるのでしょうかぁぁぁ!』
観客全体も驚愕している。無理もないだろう。
「スグリ君、すごい……!」
「さすがはスグリ君だね……地獄突きで音技を封じたのも、瓦割りを誘導するためだったのか」
驚いているのは勿論サヤナとハルも例外ではない。
「あんなトレーナーに負けたんなら、悔いは無い……今の試合運び、お見事ですわ」
エストレも、ただただ感心するのみ。
「ここまでの試合は全部見てきてる。分析も完璧。言ったよね、対策はバッチリだってさ」
会場全体が驚く中、スグリだけが余裕の笑みを浮かべていた。
しかし。
「バクオング、戻れ」
一番驚くべきはずのローに、感情の変化がない。ただ淡々とバクオングを戻し、次のボールを手に取る。
と、そこで。
「……そろそろ、もういいか」
唐突に、ローの仮面の下から声が響く。
ポケモンの指示以外で、ようやくローが口を開いたのだ。
「あん?」
「やっぱそろそろもうダメだ。そもそも、俺様が無言で戦うこと自体無理があったんだ。もうダメだ。我慢の限界だ」
画面の奥から聞こえる声は、単調だったものから、段々勢いを増していく。
「もういいだろ。そろそろ、正体現すぜ! さあカメラ! 俺様を中心に写せ!」
真っ黒なローブから腕が飛び出し、自身の顔を隠す仮面を掴む。
「お前は一体誰なんだ! 年齢、出身、その正体は一切不明! とにかく何にも分からない! 全てが謎の謎だらけ! そんな謎だらけの男、ロー! その正体はぁ!」
どよめいていた会場が、ローの叫びを受けて、静寂に包まれる。
仮面とローブを脱ぎ捨て、遂に、ローがその正体を現した。

「俺様は破壊と破滅を呼ぶ者! ゴエティア七魔卿が一人、魔神卿ロノウェ! 災厄の呼び声、その脳に深く刻み込めぇ!」

深い緑色の髪を立たせ、真っ赤な単眼が描かれた黒いバンダナを巻き、濃いビジュアル系メイクを纏った恐怖を煽る顔。
服もチェーンを付けたバンドマン風の真っ黒な服装で、背中には黒と赤を基調としたエレキギターを背負っている。
ロー——ロノウェがパチンと指を鳴らすと、会場全体の扉が固く閉ざされてしまう。
『……ちょ、ちょっと! 何するのよ! きゃああっ!?』
女性アナウンサーの金切り声が響く。
実況席を見上げれば、真っ黒な装束を着たゴエティアの下っ端が、アナウンサーを連れ去っていった。
「さぁぁぁて! これでお前たちはこの会場から出られねえ! 電波は全てこっちで遮断してっから、助けも求められねえぜ! 会場の野郎共! 手持ちのポケモン全てを! ゴエティアに差し出しな!」
ローを名乗っていた時とは打って変わって、ロノウェはテンション爆上げで叫ぶ。
会場にざわつきはない。観客席全体を、黒装束の男たちに囲まれているからだ。
しかし。
「さあ、次のポケモンを出しなよ」
そんな会場の様子など気にも留めず、スグリはロノウェへと言葉を投げる。
「……あぁ?」
「ポケモンを差し出せってさぁ、そういうのはこの会場にいる全員より強いことを証明してからやることじゃないの? オレに勝って、ハル君に勝って、初めて成り立つ命令じゃないの、それ。それとももしかして、負けるのが怖くて会場の雰囲気を変えた、とか?」
魔神卿を相手にして、スグリは一歩も引かない。
無表情でそんなスグリを見据えるロノウェだが、やがて口を釣り上げて大きく笑う。
「ヒハハハハハハ! いいねえ、面白いこと言うじゃねえのよ! よっしゃ、その話乗った! この話の続きをするのは、お前とハルをぶっ倒したその後だ! テンション上がってきたぜぃ! ヒャッハァ!」
ギュイイイイイイイン!!! とエレキギターを掻き鳴らし、ロノウェは雄叫びを上げる。
「だが後悔すんなよ!? ゴエティア魔神卿に楯突いたことを! この俺様を挑発したんだ、どうなっても知らねえぞ!?」
「御託はいいから、かかって来なよ。勝つのはオレさ」
スグリのその言葉を聞き、再びロノウェは引き裂くような笑みを浮かべると、ボールを取り出す。