二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第54話 Astaroth ( No.110 )
- 日時: 2017/01/05 11:44
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: p3cEqORI)
- 参照: 魔神卿ロノウェ相手に善戦を見せるスグリ。そして——
「行くぜぇ! ガマゲロゲ、ハイドロポンプ!」
ガマゲロゲが大きく息を吸い込み、大量の水を噴射する。
「ジュプトル、躱して接近だ」
水柱を躱しつつ、ジュプトルは少しずつガマゲロゲとの距離を詰めていく。
「そのジュプトルも大方スピードタイプだろう! だったら、こっちもその動き、止めてやるぜ!」
会場にエレキギターの音を響かせ、ロノウェが引き裂くような笑みを浮かべる。
「聞かせてやるぜ、破壊の叫び! ガマゲロゲ、バグノ——」
「リーフブレード!」
一瞬だった。
ジュプトルの腕から生える葉が刃のように伸びたかと思うと、一気に急加速し、ガマゲロゲがノイズを放つよりも早く、かつ的確に、ガマゲロゲを切り裂いた。
「な……にィ!? っ……ガマゲロゲ!?」
ガマゲロゲの体がぐらりと傾く。
ジュプトルが構えを解いたその刹那、ガマゲロゲは仰向けに倒れ、戦闘不能となった。
「遅いんだよ、動きがね。そもそも、タイプ相性不利で鈍足なそのガマゲロゲでオレのジュプトルに勝とうってその考えが間違ってんだよ」
スグリがニヤリと笑う。
自身の親指を立て、その爪で首を切るような仕草を見せ。
「あんたの言葉、そのまま借りるよ。お次がフィナーレだ」
「ぐぅぅぅぅ……!」
怒りを隠そうとすらせず、憤怒の形相を浮かべ。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
我を忘れて暴走する獣のように、雄叫びを上げる。
「俺様をコケにしやがったな! ぜってえ許さねえ! 俺様の相棒で、地獄送りにしてやるぜオラァ!」
怒号と共に、ロノウェが最後のボールを取り出す。
しかし。
『ロノウェ、ストップ。それ以上は禁則事項だったはずだよね?』
突如。
会場のスピーカー越しに、マイクを通した女性の声が響く。
会場の全員、その声に聞き覚えがあった。
それもそのはず。
その声の主は、ロノウェが正体を現すまで実況を続けていた女性アナウンサーだったからだ。確か名はタロットと言ったか。
ハルたち観客は思考が追いつかない中、実況席の方に目を向ける。
ゴエティアの下っ端たちに捕えられたはずのアナウンサーが、いつの間にか席に戻って来ていた。
『今回はここまで。そろそろ撤退するよ。今の私たち魔神卿は一定以上の力を出せないんだから』
会場の雰囲気を完全に無視して、アナウンサーは人が変わったように好き勝手に喋り続ける。
しかし。
「何だって……?」
会場の大多数が、気づいた。
絶対に聞き逃すことのできない、一言を。
「『私たち魔神卿』!? それじゃああいつも、ゴエティアなのか!?」
会場のどこかで叫び声が上がる。
それに呼応し、観客席全体が混乱に包まれていく。
『はいはいストップストップ。今から自己紹介するから、ちょっと静かにしてよね』
そんな会場の様子に呆れたように一息つき、女性アナウンサーは一言で会場を支配する。
静まり返った会場に、マイク越しの声が響く。
『それじゃあ今大会最後のサプライズを! 私はゴエティア七魔卿が一人、魔神卿アスタロト! 名前だけでも覚えて帰ってね!』
刹那、実況席の窓ガラスが粉々に砕け散り、そこから始祖鳥のようなポケモンに掴まる女性アナウンサー——アスタロトが飛び出す。
『information
アーケオス 最古鳥ポケモン
飛ぶよりも走る方が得意。
空から獲物を探して襲い掛かり
逃しても走り回って捕らえる。』
「アーケオス、龍の息吹!」
アーケオスは一声上げると、スグリの目の前の床に龍の息吹を放って爆煙を起こし、手出しを防ぐ。
そのままアーケオスに掴まったアスタロトは高度を下げ、ロノウェへと手を伸ばす。
「さ、ロノウェ、帰るよ」
「ぐぅぅぅぅ……! アス、俺ぁ暴れ足んねえぜ。あいつだけでも潰させろ、ちくしょう……」
「もーっ、ダメだってば。これ以上暴れ過ぎると、王様に怒られちゃうよ。ほら、掴まって」
「……チッ」
ロノウェは不満そうな表情を浮かべながらも、渋々ギターを背負ってアスタロトの手を取り、アーケオスに掴まる。
二人に掴まれながらも、アーケオスは軽々と飛び立った。
爆煙か晴れた時には、既にアーケオスは会場の天井付近まで飛び上がっていた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 次に会うときは、必ずぶっ潰してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
会場全体に。
憤怒の形相を浮かべたロノウェの怒号が、爆音の如く轟き渡る。
「必ずだぁ! 覚えてろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その直後。
魔神卿二人を連れたアーケオスは甲高く鳴き、天井を貫き、飛び去っていった。
その後は結局大会は中止となり、ハル対スグリの決勝戦はお流れとされてしまった。
会場がざわついている間に、いつの間にか観客席を取り囲んでいた黒装束の下っ端たちも姿を消してしまった。
「他のレギュレーションでは、ゴエティアの介入は一切無かったみたいだね」
「ってことは、やっぱりあのロノウェって人が言ってたことは正しかったのかな」
「まさか魔神卿が大会に紛れ込んでいたなんて。想像すらしていませんでしたわよ」
会場のロビーで、ハルたち三人はターミナルに映るニュースを眺めている。
ちなみにスグリは正体を現したロノウェと戦っているということで、警察の捜査協力のために話を聞かれておりここにはいない。
「ハルとスグリ君の決勝戦、見たかったなぁ」
「私も残念ですわ。私が認める二人のポケモントレーナーの試合を見られる、またとない機会でしたのに」
先程も言った通り、大会本部は警察の捜査を優先させるため、大会を中止としてしまった。
「僕も決勝で戦いたかったよ、大会のあの場所で。スグリ君相手に、僕のメガシンカの力がどこまで通用するのか知りたかった」
「まぁ仕方ありませんわよ。貴方たち二人は友達なのでしょう? いつでも戦える機会はありますわ」
さて、とエストレはボールを取り出し、
「私はそろそろ次の街へ行くわ。それじゃ、ハル、サヤナ。またどこかでね」
二人に手を振り、パートナーのハッサムを引き連れ、先に会場を出て行った。
ハルとサヤナもポケモンセンターに戻り、しばらく待っていると、
「お待たせ。やっと終わったよ」
警察に呼ばれていたスグリが、ようやく戻ってきた。
「おかえり、スグリ君。大変だったね」
「まぁねー。ロノウェの相手がオレでよかったよ。相手はゴエティアの幹部クラス、負けてたら何をされるか分かったもんじゃない。オレみたいな強いヤツでよかったってところかな」
そう言ってスグリは得意げに笑う。
「それじゃハル君、始めよう」
「うん。交流所だね」
「……えっ? えっ? 何が始まるの?」
ハルとスグリの会話の内容を、全く理解できていないサヤナ。
「実はね、警察に向かう前にスグリ君と約束してたんだ」
「そそ。ここまで進んだのにここで終わりなんて消化不良っしょ。だから」
スグリはそこで一拍置き、さらに続ける。
「今から始めるのさ。オレとハル君の、事実上の決勝戦をね」