二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第68話 試練 ( No.128 )
日時: 2017/01/24 11:08
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

「ハル! おかえり……ど、どうしたの!?」
ポケモンセンターに戻ると、サヤナが出迎えてくれた
だがハルの暗く沈んだ表情はさすがに予想外だったようで、驚きを隠せずにいる。
「……ああ、サヤナ。カガチさんってすっごく強いんだね。負けちゃったよ……」
生気の全くない顔と声で、ハルはそう返す。
よっぽどひどい負け方をしたのだろうか、とサヤナは勝手にそう考える。
しかし想像できない。盗まれたポケモンを取り返してくれたり、メガシンカの力を得たりと、自分より一歩先を進んでいたと思っていたハルが、ここまで落ち込む負け方をするだろうか。
カガチは確かにベテランのジムリーダーだが、それでもサヤナが勝った相手だ。ハルがどうして負けたのか、バトルを見ていないため当然といえば当然だが、サヤナには理解できなかった。
そして、
「……はぁ」
ハルもハルで、どうしようもないくらい落ち込んでいた。
最後にカガチから告げられた言葉が、ずっとハルの頭の中でぐるぐると渦巻く。
思えば、ゴエティアの魔神卿には今まで手も足も出なかった。
その用心棒であるパラレルにすら勝つことは出来ず、ディントスにだってアリスの助けがなければ勝てなかった。
メガシンカを得てスグリに勝って喜んでいたが、スグリは魔神卿の一人とほぼ互角に渡り合っている。
「ねえ、ハル」
突然、後ろから声を掛けられる。
「ハルが何でそんなに落ち込んでるのかは分からないけど、いつまでも落ち込んでたって何も始まらないよ」
声の主は、サヤナだ。すっかり元気をなくしたハルの目を見て、にっこりと微笑む。
「でも、何をしたらいいか……」
「負けたってことは、相手の方が強かったってこと。だったらやることは一つしかないよ」
そう言って、サヤナはモンスターボールを取り出す。
「特訓するしかないよね! にひひー、一日先にポケモンを手に入れた先輩として、私がハルの特訓に付き合ってあげるよ!」



ポケモンを回復させた後、ハルとサヤナは交流所やバトルフィールドが用意されているいつものセンター地下へ移動する。
「とりあえず、最初は一対一ね! それじゃ、いっくよー! ワカシャモ!」
サヤナが繰り出すのは、エースのワカシャモ。
「……出てきて、ルカリオ!」
バトルということで、空元気でも気合いを入れなければ始まらない。
無理やりに大きな声をあげ、ハルはルカリオを出す。
「それじゃあルカリオ、行くよ——」
と、ハルがそこまで言ったところで。

——お前は、弱い。あのアリスの目が節穴なのかと疑うほどにな——

カガチの言葉が、ハルの頭の中をぐるぐると渦巻く。
「——いや、だめだ」
掲げようとした腕を、キーストーンを下げる。
「ルカリオ、このままで戦うよ」
ルカリオは波導によって相手の心を読み取ることができるポケモン。
ハルの心の内を知ってか、それともただ指示に応えただけか、とにかくルカリオはハルの言葉に逆らう様子は一切見せず、ただ静かに頷く。
「ワカシャモ、火炎放射!」
先に動いたのはワカシャモ。手始めに大きく息を吸い込み、灼熱の業火を吹き出す。
「ルカリオ、波導弾!」
対するルカリオは右手を突き出し、掌から波導を生み出し、青い波導の念弾を放つ。
「中々の威力だねえ……ワカシャモ、アクセルフレア!」
ワカシャモが一声上げると、その体が炎を纏う。
炎に身を包んだまま、ワカシャモは高速の炎弾の如く勢いよく飛び出し、一瞬のうちに距離を詰め、ルカリオを突き飛ばした。
「続けて! マグナムパンチ!」
「それなら……こっちはサイコパンチだ!」
ミサイル砲のように勢いをつけ、ワカシャモはさらに殴り掛かってくる。
対してルカリオは拳に念力を纏わせ、ワカシャモを迎撃すべく念力の拳を突き出す。
互いの拳がぶつかり合うも、念力を纏っていた分ルカリオの方が強く、ワカシャモを押し返した。
「ルカリオ、ボーンラッシュ!」
波導の形を変えて骨のロッドを作り上げ、それを構えてルカリオが飛び出す。
「来るよ! ワカシャモ、火炎放射!」
ワカシャモが息を吸い込み、灼熱の炎を吹き出す。
掻い潜りながら接近しようとするルカリオだが、しつこく迫る炎の迎撃を躱し切れずに炎を浴びてしまう。
「マグナムパンチ!」
ルカリオが炎を受けたところに、ワカシャモが拳を構えて殴りかかる。
「っ、ルカリオ、躱して波導弾!」
ミサイルのような拳の一撃を何とか躱し、ルカリオは掌から波導を生み出して青い波導の念弾を放つ。
拳を外したところに必中の波導の念弾がワカシャモを捉え、吹き飛ばす。
「ルカリオ、発勁!」
右手から波導を噴き出し、ルカリオが地を蹴って飛び、一気にワカシャモとの距離を詰めていく。
しかし。

「ワカシャモ、オウム返し!」

ルカリオがワカシャモの懐まで飛び込んだ次の瞬間、ワカシャモが波導の念弾を掌に作り上げ、それを直接掌底打ちの要領でルカリオへ叩きつける。
自らが扱う波導の力と同等の力を叩き込まれ、フィールドとほぼ平行に、ルカリオが派手に吹き飛んで行った。
「オウム返しは最後に使った相手の技をそっくりそのまま使う技だよ! 波導弾は格闘タイプの技、ルカリオには効果抜群だよね」
ロー——ロノウェのバクオング戦でも見せた技だ。あの時は、バクオングに効果抜群となる気合玉を返していた。
「やるね……ルカリオ、まだここからだよ。頑張って」
波導弾を受けても、まだ戦闘不能にはなっていない。
ルカリオは立ち上がると、再び構え直す。
しかし、
「……ハル、何をそんなに焦っているの?」
唐突に、サヤナの声色が変わった。
「ん……どうしたの、サヤナ? 僕は別に、何も……」
「嘘だよ。ハル、絶対焦ってるって。今までと全然戦い方が違うもん」
「えっ……?」
今度こそ本当にハルはサヤナが何を言っているか分からなかった。
確かに、カガチに敗れて焦りはあった。だがそれだけ。ハルとしては、ただ普通に戦っているつもりだったからだ。
「ハル、明らかに無理してる。ううん、ハルだけじゃないよね。ルカリオもだよ」
さらにサヤナは言葉を続ける。
「今までのハルは、ポケモンのことを一番に考えてポケモンと一緒に戦うトレーナーだった。でも今はなんだか違う。っていうか、大会の頃からちょっとおかしかったよ。私、そういうの分かるんだよね。ポケモンよりも自分が一番だって、そんな風になってる気がするの」
そんなことはない。ハルはそう言い返そうとした。
だが、言えなかった。言い返すことができなかった。
自分の心を覗けば、もう答えは出ていたからだ。
「ねえ、ハル」
そんなハルに、さらにサヤナが詰め寄る。

「ハル、カガチさんに、何を言われたの?」