二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第69話 本心 ( No.129 )
- 日時: 2017/01/25 00:08
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「カガチさんに、何を言われたの?」
弱ったハルの心に、サヤナの言葉が刺さる。
「……はぁ」
気づいた時には、ハルはその場に座り込んでいた。
ルカリオがそれに気づき、慌てて駆け寄ってくる。
「サヤナ、すごいね……確かに、サヤナの言う通りだよ」
力なく、ハルは笑う。
「全部話すよ。ジムであったこと」
その後、バトルは中断。
ハルは、ジムリーダーカガチとのバトルであったことを全て、サヤナへ話した。
「……なるほどね」
ハルの言葉を全て聞き終えると、なぜだかサヤナの表情は少し安心したようなものに変わる。
「よかった、これなら、私が何とか解決してあげられるかも」
そう言うと、サヤナは座り込んでハルと目線を合わせ、言葉を続ける。
「ハルがジムに挑む前に、私、ジムから出てきたでしょ」
確かにそうだった。赤いレンガのジムからサヤナが出てきて、バッジを見せてくれたのを思い出す。
「でもね。実はあの挑戦、一回目じゃなかったの。二日前にカガチさんに負けて、昨日も負けて、やっと今日勝ったんだよ。三日間、毎日挑み続けたんだ」
「えっ……?」
それを聞いて驚くハル。
ジム戦なら、一度負けたら勝てる見込みが見えるまで特訓するのが普通だからだ。
「おかしいと思うよね。でも私、初日に負けた後、カガチさんに言われたの。お前が弱いのは、根性が足りないからだって。確かに、カガチさんのポケモンに圧倒されて、気持ちで負けてたの。だめだ勝てないって、そう思っちゃった」
真剣な眼差しで、サヤナは語り続ける。
「だから根性見せてやろうと思って、毎日挑戦しようと思った。昨日は惜しいところで負けちゃったけど、明日も来るって約束して、やっと今日勝てたんだよ。その時にカガチさんに言われたの。『この二日で得た力は所詮付け焼き刃、だがこの二日でお前が見せた根性は本物だった。それを認めて、このバッジをくれてやる』ってね」
だから、とサヤナは続け、
「あの人はとっても厳しいし怖いけど、本当はチャレンジャーのことをよく考えてくれる。意味もなく、弱いなんて言わないと思うんだ」
ハッと、ハルは顔を上げる。
先ほどまでのサヤナとのバトルを、カガチとのバトルを、パラレルとのバトルを、大会でのバトルやその後のスグリとのバトルを思い出す。
メガシンカを得て、自分でも気付かぬうちに天狗になってはいなかったか。
こんな力を使える自分は凄いんだ、そう思い込んで調子に乗ってはいなかったか。
ハルが負けた後、カガチは妙に、お前は、と強調していた。
実際その通りだったのだ。確かにハルは弱い。気が弱く内気で、友達や仲間のポケモンたちの手を借りなければ何もできないような少年だ。
それを忘れて自分は強いと思い上がっているハルへ、カガチは、ハルが忘れてしまっていた大事なことを思い出させようとしていたのかもしれない。
思えばカガチは言っていたではないか。ポケモンとの絆を正しく理解しなければ、本当のメガシンカの力は発揮できないと。ルカリオとの絆はあれど、ハルはその力を正しく理解できていなかったのだろう。そして、カガチはそのことを教えてくれたのだ。
「ハル、元気出してよ」
そんなハルに、サヤナが微笑む。
「ハルは弱いのかもしれないけど、ハルとルカリオはとっても強い名コンビだと私は思ってるよ。さっきのバトルだって、ハルが自信を無くしてもルカリオはハルの力になろうと全力で戦ってた、そんな風に私には見えたよ」
サヤナの言葉に続けて、ルカリオもハルの目をまっすぐに見つめる。
「……ごめんね、ルカリオ」
ルカリオの顔を見上げ、ハルは呟く。
「メガシンカを使えるようになって、僕は勘違いしていたんだ。メガシンカを使える僕は、とっても強くなったんだって。けど、本当は違った」
ようやく、全てに気付くことができた。
強いのは、ハルでもルカリオでもなかった。
「僕たちが強くなれたのは、ルカリオがいたからだったんだ。いや、ルカリオだけじゃない。ヒノヤコマ、エーフィ、ワルビルたちがいるから。サヤナ、スグリ君、エストレさん、ミオ……挙げて行ったらキリがないけど、僕の周りのみんなのおかげで、僕は強くなっていけるんだ。そんな大事なことを、忘れていたなんてね」
ここでサヤナは気付いた。
ハルの瞳に、いつもの明るい光が戻ってきた。
「ルカリオ。やっと思い出したよ。もう大丈夫、絶対に忘れない。だから、これからも僕と一緒に旅して、遊んで、戦ってほしい」
ルカリオの目を見つめ返し、ハルはまっすぐにそう言った。
ルカリオは小さく頷き、手を差し出す。
早く立ち上がれ、そして元気を出せ。そんな風に言っているように、ハルには感じられた。
だからハルは、迷わずルカリオの手を取った。一時は失った気力を再び取り戻し、ルカリオの手を借り、立ち上がった。
「やったー! やっといつものハルに戻ったよ!」
「サヤナも、ありがとう。多分サヤナがいなかったら、当分落ち込んだままだったよ」
「にひひー、友達として、先輩として当然のことをしただけだよー! ハルが元気ないと私も楽しくないしね!」
さて、とサヤナは続け、
「ハルは元気になったけど、それでもカガチさんが強いのは変わらない。だったら特訓をしなくちゃね。バトルの続きをしよう! リベンジ達成できるように、引き続き、私が特訓に付き合ってあげるよ!」
「うん、ありがとう。僕もルカリオも、他の仲間たちだって、次こそ勝ちたい。サヤナの力を借りるよ」
「任せといてー! それじゃあワカシャモ、さっきのバトルの続きだよ!」
「ルカリオ、もう大丈夫。まだ本調子とはいかないかもしれないけど、だいぶよくなったよ。こっちも全力で行こう!」
そして。
バトルフィールドに、再びワカシャモとルカリオが立つ。