二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第75話 休息 ( No.138 )
- 日時: 2017/01/29 22:50
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
ジムを出た後、ハルは頑張ってくれたポケモンの回復とサヤナへの勝利報告のためにポケモンセンターへ戻ろうとしていた。
そこで、
「無いものはないの! ったく、いい加減にしてくれないもんかね!」
苛立っている男性の高い声が聞こえた。どうやら、何か揉め事が起こっているらしい。
気になったハルはそこへ向かってみる。どうやら、サーカスのテントの前で一組の親子とサーカス団の男らしき人がトラブルを起こしているようだ。
「この子もとても楽しみにしていたんです。立ったままで見ることになっても構いませんから、どうかチケットを用意していただけませんか……?」
「あのねえ! うちはそういうのを受け付けないのよ! 一組を許すと、他の人たちも許さないといけなくなるでしょう! 私たちも忙しいのでね! もう帰っていただけませんか!」
「……分かりました。ユータ、仕方ないわね。帰りましょう」
執事服を着てシルクハットを被った長い髪のその男に押し切られ、母親と息子はしょんぼりした様子でテントの前を去っていった。
「……大体! チケットが売り切れていたことは君も把握していたはず! どうして受け付けたのかね、シュティル君!」
それでもまだ機嫌が治らないのか、その男は横に控えていた女性団員にまで八つ当たりを始める。みっともない。
「申し訳ございません。しかし……」
「言い訳無用! このグリム団長はハーメルン・サーカスの団長であるぞ!? 分かったら早く作業に戻りなさい!」
「……失礼します」
シュティルと呼ばれた女性団員はそれ以上言い返すこともなく、そそくさとテントの中へ走り去っていった。
グリム団長が悪態をつきながら戻っていくのを確認し、ハルは先ほどの親子の元へ駆け寄る。
「……あの、すいません」
「あら、何かしら?」
「よかったら、これをもらってください」
そう言って、ハルは一週間前に男性団員から貰ったサーカスのチケットを差し出す。
チケットは家族なら一枚で二組まで入れる。つまり、一枚あれば親子ともサーカスを見られるのだ。
「あら……いいの? 折角買ったものを……」
「あ、いいえ。これは元々貰い物ですし、僕よりも行きたがっている人がいるんならその人に使ってもらった方がいいかなって……」
「まぁ、ありがとうね。ユータ、よかったね! ほら、お兄ちゃんにお礼を言いなさい」
「うん! お兄ちゃん、ありがとう!」
男の子は途端に笑顔になり、元気な声でハルに礼を言った。
「本当にありがとうね。わざわざカタカゲシティまでチケットを買いに来た甲斐があったわ。君のような優しい子にも会えたしね」
もう一度ハルに礼を告げると、母親は息子の手を引いて、その場を去っていった。
少し寄り道したが、ハルもポケモンセンターへと戻る。
「ええっ!? ハル、サーカスのチケットあげちゃったの!?」
そしてその話をするとサヤナに大袈裟に驚かれた。
「うん。僕は買ったわけじゃないからね。その親子、とってもサーカスを楽しみにしてたみたいだったし」
「うーん、ハルと見に行けないなんて残念だなぁ……」
すっかりしょげてしまったサヤナだが、
「あら。それなら、私がついて行ってあげてもよろしくてよ」
背後から、聞き覚えのある声をかけられた。
「あ、エストレさん!」
「エストレさんも、サーカスに?」
ちょうどポケモンセンターに入って来たのはエストレ。相変わらず傍にはハッサムを連れており、ハッサムは二人を見て礼儀正しく会釈する。
「ええ。ハーメルン・サーカスはこっちじゃあんまり知られてないけど、有名なサーカス団なのよ」
そう言いながら、エストレはサーカスのチケットを取り出す。
「ハーメルンの笛吹き男の昔話は知っているかしら? 細かいところは割愛するけど、笛吹きの男が笛を吹きながら通りを歩いて行くと、街の子供達が男の後に着いて行った。そのままどこかに行ってしまい、それ以降子供達は二度と帰ってこなかったというおとぎ話よ」
さらにエストレは話を続け、
「ハーメルン・サーカスは、まさにそのおとぎ話から名前をつけられた。サーカス公演を見た人が、次からどんな遠いところで公演をやっても来てほしいって意味を込めて。そして実際、根強いファンはどんなに遠いところでもサーカスを見に行くみたいですわよ」
「その割には、さっきの団長さんの態度は結構酷かったですけどね……」
先ほどのグリム団長を思い出し、ハルは呟く。
「確か、団長が代替わりしてたはず。初代団長のツヒェンさんは、病気で亡くなったって話を聞きましたわよ」
エストレの言う通りならば、あのグリム団長は二代目以降の団長ということになる。
と、
「ハル。いるか」
またも先ほど聞いた声。声の主は、ジムリーダーのカガチだ。
「カガチさん! どうしたんですか?」
「ジムトレーナーの者が、お前がサーカスのチケットを別の人に渡したのを見たと言っていた」
「ええ、そうですけど……」
突然の質問に驚きながらもハルがそう返すと、
「数日後にサーカスが開かれるだろう。あれのせいでジムトレーナーが皆そっちに流れてしまってな。いつもはポケモンの特訓をしているのだが、その相手がいないんだ」
「……つまり?」
「話は簡単だ。お前、サーカスには行かないんだろう。ちょうどいい、俺の特訓に付き合え」
半ば命令しているように聞こえるカガチのお願いだが、
「いいですよ! 寧ろ僕からもお願いしたいです」
ハルとしても悪い話ではない。ジムリーダーと一緒に特訓できる機会など、そうそうあるものではない。
「決まりだな。一応俺の連絡先も教えておこう」
そう言ってカガチはハルと連絡先を交換し、それが終わるとすぐにポケモンセンターを出て行ってしまう。
「にひひー、よかったねハル。私たちがいなくてもひとりぼっちじゃなくなったよ」
「まぁね。サーカスがどんなだったか、また話を聞かせてよ」
元々サーカスに行くつもりではあったため、カタカゲシティにしばらく滞在するという予定に変更はない。
「ところでハルとサヤナは、サーカスの日まで何か予定はありますの?」
「ううん、特に何も考えてないよ」
エストレの問いにサヤナがそう返すと、
「だったら、明日以降は街の中を見て回りませんこと? カタカゲシティといえば歴史ある赤レンガの倉庫、街の歴史を語る博物館、マデル地方で一番大規模な商店街、観光名所がたくさんありますのよ」
「わあ、すごい! じゃあハル、明日からは三人で色々街を観光ね!」
「うん。僕も特にやることは考えてなかったし、それがいいね」
その時。
『ハルさん。お預かりしたポケモンは、皆元気になりましたよ』
ハルの名前が呼び出される。どうやら、ポケモンの回復が終わったらしい。
ジム戦を終えた仲間たちを受け取る。今日はゆっくり休んで明日からは観光、そしてジムリーダーのカガチとの特訓だ。