二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第77話 公演 ( No.140 )
- 日時: 2017/01/31 18:41
- 名前: パーセント ◆AeB9sjffNs (ID: tAWLqROP)
- 参照: いよいよ開幕する、ハーメルン・サーカス!
ガキィン! と。
ハルのシャベルが、何か硬いものに弾かれた。
「これは……」
「硬い岩だな。結構大きい岩だが、ここは迂回できん。何とかして壊せ」
「分かりました。ルカリオ、お願い。波導の力で、脆い場所を探してくれ」
ルカリオは目を閉じ、岩に手を触れる。
しばらくルカリオは動きを止めたままだが、不意に目を開け、跳躍すると、見切った一点に思い切り拳を叩き込んだ。
轟音と共に、行く手を阻む硬い岩が粉々に崩れ去った。
「よし、いいぞルカリオ!」
岩がなくなり、また掘り進めていこうと思った矢先、今度はカガチの持つシャベルが弾かれた。
「これは……巨大な岩盤か。このサイズとなればお前のルカリオでも壊せるかどうか。ここは俺がなんとかしよう」
カガチがそう言って一歩引く。代わりに進み出たのはサンドパンだ。
「サンドパン、ドリルライナー!」
サンドパンは両手を突き出して高速回転し、岩盤にドリルの如く突っ込んでいく。
少しずつではあるが、サンドパンが岩を貫き、進んでいく。
「とりあえず向こう側まで貫通すればこの岩はかなり脆くなる。サンドパンが岩盤を貫通次第、この岩を壊すぞ」
「ここなら、充分公演が見られるね!」
「本当は一番前がよかったんですけれどね……とはいえ、この位置なら上々ですわ」
最前席こそ勝ち取れなかったものの、サヤナとエストレが座った位置はステージの正面。公演を存分に楽しめる位置だ。
他の席もみるみるうちに埋まっていく。客も老若男女様々だ。
「へー、ポケモンも一緒に芸をやるんだね」
「そうよ。ポケモンを補佐に使うサーカスはあるけど、ポケモンと一緒に曲芸を見せるサーカスはこのハーメルン・サーカスくらいのものなのよ」
サヤナがパンフレットを読んでいると、唐突に会場内の照明が消えた。
そしてそれと同時に、全てのスポットライトが一斉にステージに向けられる。
公演が始まるまで歓談の声でざわついていた会場が、一斉に静まり返る。
その刹那。
激しい風の音とともに、ステージの中央に、七色の煙が竜巻のように捲き起こる。
そして。
「Ladies and gentlemen, boys and girls! ようこそ、ハーメルン・サーカスへ!」
ゴバッ! と七色の竜巻が薙ぎ払われると、そこには燕尾服の長身の男が立っていた。
明るい金色の挑発をたなびかせ、会場へ向けて一礼する。
「本日は私たちハーメルン・サーカスの公演にご来場いただき、誠にありがとうございます! 私は団長のグリム! 我らが笛の導き、とくとご覧あれ! それでは、Are you ready?」
「「「Yeaaaaaaaaaaah!!」」」
グリム団長の掛け声に合わせて観客が叫ぶと、鮮やかな衣装を身にまとった団員たちが自由自在に宙を飛び回る。
何もないはずの空中を、まるで見えない足場があるかのように駆け回る。
「さあさあ驚くのはここからですよ! ポリゴンZ、Stage on! トライアタック!」
グリムが赤と青の首の外れた鳥を模したような奇妙なポケモンを繰り出し、空中に炎と電気と氷のリングを浮かべる。
宙を飛び回る曲芸師たちは、それを苦にする様子もなく、寧ろより滑らかで美しい動きでそのリングの中をくぐっていく。
そしてフィナーレ。曲芸師たちは一斉に着地し、それと同時に宙に浮かぶリングが炸裂、三色の光の粒が降り注ぐ。
観客席は、拍手喝采に包まれた。
「さあさあ、ここからは彼がやってまいりますよ! さて出番ですよ、ルンペル君!」
グリムが名前を呼ぶと、ステージの奥から奇抜な姿の人間が現れる。
緑色の髪の毛先をカールさせ、ぶかぶかの緑の衣装に身を包んだピエロだ。衣装には白くトランプの四つの模様がいくつも描かれ、目の下には紫色で星や雫の模様がペイントされている。
ルンペルと呼ばれたピエロは大きくカラフルな玉に乗りつつ、銀色のナイフを華麗にジャグリングしながらやってきた。
そして中央でナイフを天高く投げ、自身も玉の上でジャンプして一回転し、綺麗に着地、一礼する。
再び拍手が巻き起こるが、その直後、投げたナイフが落ちてきて次々とピエロの乗る玉に突き刺さり、パァン! と甲高い音を立てて玉が破裂、ピエロは地面に落ちてしまう。
今度は会場全体が笑い声に包まれた。
「痛ててて……やってしもうたわ。そしたら仕切り直しで、こんなのはどうやろか?」
お尻をさすりながら起き上がった緑のピエロは、どこからか細長い黄色の風船を取り出し、息を吹き込み、手慣れた様子で形を変え、ピカチュウの形をしたバルーンアートを作り上げる。
盛り上がる会場へ、ピエロは適当にピカチュウのバルーンを投げ、観客の少女がそれを受け止めたのを確認すると、続けて緑、赤、青の三つの細い風船を取り出す。
またも手馴れた様子でピエロは瞬く間に風船の形を変え、キモリ、アチャモ、ミズゴロウのバルーンアートを作ると、
「よっ、ほい、そりゃ!」
再びその三つのバルーンを、観客席へバラバラに投げる。
すると、青年の客が受け取ったミズゴロウのバルーンが、パン! と音を立てて破裂し、中から水が飛び出し、青年はずぶ濡れになってしまう。
「あらら、言うてませんでした? ミズゴロウのバルーンだけ、水風船なんですわ。あれ? 言い忘れとったか。ははは、こりゃすんまへんな」
陽気にピエロは笑うと、ステージの方へ再び向き直る。
「さあ、私の余興は一先ずここまで。ほな、お次はごっつ綺麗なお姉はん、シュティルの出番や!」
ピエロが叫んでステージから飛び降りる。
そして入れ替わりに現れたのは、青い綺麗な蝶の羽を模したようなゴシックな衣装を身に纏った赤い髪の女性団員、シュティル。そして、その向こう側には無数のカエンジシが現れる。
「おいでなさい、オーロット!」
女性がモンスターボールを取り出し、樹木に幽霊が乗り移ったような姿のポケモン、オーロットを繰り出す。
それを引き金に、複数のカエンジシたちは一斉に女性へと突っ込んでくる。
「鬼火よ!」
観客から悲鳴が響くが、それを気にせず、オーロットは青い炎を生み出し、頭上に無数の炎の輪を作り上げる。
すると無数のカエンジシたちは炎の輪に吸い込まれるように跳躍し、輪を潜り抜けていく。
悲鳴が歓声に変わったところで、さらにカエンジシの数が増えていく。
「オーロット、もう一度鬼火!」
再び突っ込んでくるカエンジシに対して、オーロットはさらに炎の輪の数を増やす。
女性へ一直線に突っ込んでいたはずのカエンジシたちは、やはり途中で炎の輪に吸い込まれるように軌道を変えていく。
観客の歓声に応えて女性は一礼し、
「さあ、まだまだ行くわよ! 続いては——」
「はぁ、はぁ……思ってたより、ずっと大変ですね……」
「お前は初日だからな。慣れてしまうと、そうでもないものだぞ」
肩でで息を吐くハルの隣で、カガチは腕につけた時計を確認する。
「だが、そろそろいい時間だな。休憩にするか。ハル、昼飯を持ってきていないだろう」
「あ、はい……」
「ならばちょうどいい。弁当を一つ、お前にやろう」
「えっ、いいんですか?」
「嫁が二人分弁当を作ってきてくれたからな。ついでにお前のポケモンの分も用意してある。遠慮はいらん」
「はい、ありがとうございます!」
カガチから弁当を受け取り、ハルはカガチの横に座って、二人は昼食を取る。
口に入れると、手作りの温かさが口の中に染み渡る。
「……おいしい! カガチさんの奥さん、料理お上手ですね!」
「まあな、自慢の嫁だ」
二人の手持ちのポケモンたちも、美味しそうにご飯を食べている。
「ゆっくり食べればいい。食べ終わって少し休んだら、また始めるぞ」