二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第78話 誘拐 ( No.141 )
- 日時: 2017/02/01 08:23
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
- 参照: さらなる盛り上がりを見せるサーカス。しかし……
「——さあ皆さん。お次に披露しますのは、お手元のパンフレットにも載せていない、秘密のショーでございます」
再びステージに現れたグリム団長がそう告げると、ステージを照らすライトが妖しく薄暗い色へと変化する。
「昔から我々ハーメルン・サーカスを応援していただいている皆様はご存知かと思われますが、この私、グリムは二代目の団長。初代の団長、ツヒェンさんは、それはそれは偉大なお方でした」
会場がざわめく。この後何が起こるか、誰も何も分からない。
そんな観客席を見据え、怪しげな笑みを浮かべ、グリムは次の言葉を放つ。
「これより、初代団長——ツヒェンの、復活の儀式を行いましょう!」
観客席がどよめいた。
「ルンペル君! 例の物を!」
それもそのはず、初代団長であるツヒェンは、病気でこの世を去った故人であるはずなのだ。
「どういうこと……ツヒェンさんって、もういない人なんでしょ?」
「何かしらのトリックでそれっぽく見せるだけだとは思うのだけれど……この空気感、何だか嫌な予感がするのよね……」
サヤナとエストレも勿論例外ではない。誰もが何か言いようのない不安に包まれる中、緑のピエロがステージの中央に光り輝く宝石のようなものを持ってくる。
「これはツヒェンさんの魂が込められた、特別な石。この封印を解くには、眠りから呼び覚ます猛々しい獣の力と、命の力となる炎が必要となります。さあそれでは、シュティル君!」
グリムの呼び声を受けて、今度は無数のカエンジシを引き連れた女性団員が現れる。
女性の支持を受けて、カエンジシたちはその宝石へと一斉に炎を吹き出す。
強烈な炎を何重にも浴びて、次第に宝石の形が歪む。
その末に、遂に炎に耐え切れず、宝石が砕け散った。
固唾を飲んで見守る観客たち。
そして。
「——誰か、儂の名を呼んだか?」
炎が消えると、そこには先ほどまではいなかった老人が立っていた。
そこまで背は高くないが、お洒落に着飾っており、その顔には柔和な笑みが浮かんでいる。
次の瞬間、会場から歓声が沸いた。
歓声を上げているのは、いずれも大人たち。
つまり。
「……信じられないわ。あの人こそ、ツヒェンさんよ」
サヤナの横で、エストレが恐る恐る口を開く。
「えっ……?」
「どういう原理でこのショーが成り立っているのか、全く分からないけれど……だけど、あそこまで滑らかな動きが出来る作り物なんて見たことない。声もそっくりだし、誰かの変装とも思えませんわ」
しかし、実際に死んだはずの初代団長、ツヒェンが再び現れたのだ。
言いようのない疑惑はあれど、古くからのファンともなれば感激しないわけはない。
「……おや、グリム。それにルンペル、シュティルも。ということは、今はサーカスショーの真っ最中かの?」
そんな観客席の様子はよそに、ツヒェンはきょとんとした様子で尋ねる。
「はい、ツヒェンさん! これだけ多くの人たちが、見に来てくださいました!」
「ほう、それはよいことじゃ。では、元団長として、私も一つ、サーカスに参加させてもらおうかのう」
ツヒェンの言葉に、会場は湧き上がる。
そして、そんな会場の様子を見てツヒェンは微笑みながら、二つのボールを取り出す。
「この僕が見せるのは、永遠なる幻影と奈落のショー! 出でよ——」
「あ、すいません。ちょっと失礼します」
休憩を終え、トンネル掘りに再び戻っていたハルとカガチだが、突然ハルのターミナルから着信音が鳴り響く。
こんなトンネルの中でもちゃんと通話が届くことに感心しつつ、ハルはターミナルを取り出す。
「誰からだろう……サヤナ? サーカスが終わったってことかな」
とりあえず画面を操作し、通話に出る。
「もしもし、サヤナ? どうしたの?」
『ハル! 大変なの! カガチさんと一緒に、今すぐ戻ってきて!』
明らかにサヤナの様子がおかしい。少なくとも、サーカスが終わったという報告でないことは確かだ。
「えっ……どうしたの、何があったの? 緊急事態?」
『緊急事態なんてもんじゃない! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカスは……』
そこまで聞こえたところで、向こうから爆発したような音が聞こえた。
「サヤナ!?」
『っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!』
それだけ告げられ、通話は切られてしまう。
「……どうやら、街で何かがあったようだな」
その様子を見ていたカガチが、後ろで呟く。
「サーカスが何かって、伝えようとしてたように聞こえましたけど……」
「らしいな。ジムトレーナーに連絡しようとしたが、全く繋がる様子がない。あのサーカス団、何かやったな」
二人の意見は一致した、となれば。
「ハル、特訓は中止だ。今すぐにカタカゲシティに戻るぞ」
「了解です! 急ぎましょう、あまり時間がなさそうです」
それぞれのポケモンをボールへ戻し、ハルとカガチは薄暗いトンネルを走る。
何が起こったか分からなかった。
エストレに手を掴まれてとにかく走り、テントの外に連れ出された次の瞬間、テントが膨張して風船のように膨らみ、観客を閉じ込める。
さらにどこからか荷車が現れ、テントを乗せてゆっくりと街を出ようとしている。
「えっ……な、何!? 何なのこれ!?」
「……こいつらはサーカス団なんかじゃない、人攫いの集団……! ハーメルンなんて名乗ってた意味が分かりましたわ。サヤナ、ハルに連絡を! 急いで! 私はこいつらを食い止める!」
「人攫い!? う、うん、分かった!」
慌ててターミナルを取り出し、サヤナはハルへと通話を掛ける。
『もしもし、サヤナ? どうしたの?』
すぐにハルは通話に出た。
「ハル! 大変なの! カガチさんと一緒に、すぐ戻ってきて!」
『えっ……どうしたの、何があったの? 緊急事態?』
サヤナの異変に気付いたようで、ハルの口調が変わる。
「緊急事態なんてもんじゃない! とにかく、今すぐに戻ってきて! あのサーカスは』
人攫いの集団なの、と続けようとしたサヤナ。
しかし。
突如爆発音が響き、サヤナとエストレを遮るように、一組の男女が現れる。
緑のピエロと、ゴシックな蝶の衣装。名前は確か、ルンペルとシュティルだったか。
敵意がだだ漏れ、明らかにやる気だ。テントから脱出したこの二人の足止め、もしくは口封じに現れたのだろう。
「っ、サヤナ! こっちに!」
「うん! ……っ、ごめんハル、時間がない! とにかくお願い!」
最低限のことは伝えられた。サヤナは通話を切り、エストレの隣に立つ。
「お姉はん、よう気付きよったなぁ。私らがサーカス団やあらへんって」
「おまけにメインターゲットは何故かこのサーカスに来ていない。ルンペル、貴方ちゃんとターゲットに接触したのよね?」
「当たり前やんか。私はそんな初歩的なミスするようなアホやあらへんよ」
「……そうよね。はぁ、何事も予想通りにはいかないものね」
「まぁ、こーなったモンは仕方あらへん。すんまへんけど、流石に私らとしても目撃者のお姉はんらを逃すわけにはいかへんねんや。せやから」
「しばらく、もしくは永遠に。大人しくしててもらっていいかしら?」
怪しい笑みを浮かべ、ルンペルとシュティルは同時にボールを取り出す。
「お断りですわ。さっさと貴方たちを潰して、他の皆を助ける」
「そうだよ! そこを通してもらうんだから!」
テントを乗せた荷車がゆっくりと去っていく中、ハーメルン・サーカスの二人組と、エストレとサヤナのコンビが対峙する。