二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第81話 団長 ( No.144 )
日時: 2017/02/04 11:54
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: faHGqDVD)
参照: 森の中に逃げた団長を、ハルが追い詰める!

オーロットが黒い影の爪を振り下ろす。
標的は、体勢を崩すビビヨン。
「っ、ビビヨン! エアスラッシュ!」
何とか翅を動かそうとするビビヨンだが、最早間に合わない。
漆黒の影の爪が、ビビヨンを叩き斬る。
その、直前。

「バクーダ! 火炎放射!」

サヤナの後方から灼熱の業火が吹き出し、影の爪ごとオーロットを炎に飲み込み、吹き飛ばした。
「なっ……! まさか……!」
「バクーダ……ってことは……」
途端にシュティルがその顔に焦燥を浮かべ、サヤナは期待を込めて後ろを振り返る。
「エストレさん! サヤナ! 大丈夫!?」
「すまない、遅くなったな。だが俺が来たからにはもう安心だ」
全力で走ってきたのだろう、肩で息を吐きながらも二人に声をかけるハルと、汗をかいてはいるも疲れを全く感じさせないカガチ。
特訓に出ていた二人が、ようやく戻ってきた。
「なるほど……大方何が起こったか分かったぞ。奴らはサーカス団に成りすました誘拐犯。ハル、先にサーカスのテントを追え。森の中に逃げているはずだ。こいつらは俺が片付ける」
「誘拐犯……! わ、分かりました。それじゃ、ここはお願いします!」
ハルを先に行かせ、カガチはバクーダを従え、シュティルと対峙する。
「こうなったら仕方ないわ……! オーロット、ニードルルート!」
炎を受けてもまだ何とか起き上がり、オーロットは六本の足を地面に食い込ませ、バクーダの足元から複数の尖った根を放ち、バクーダへと突き刺すが、
「メガシンカを見せるまでもないな。バクーダ、焼き払え。火炎放射!」
まるで表情を変えずに、バクーダは再び炎を吹き出す。
躱す余裕もなくオーロットを再び炎が襲い、その樹木の体を焼き尽くしていく。
炎が消えた後には、力尽きて戦闘不能となったオーロットが倒れているのみ。
「っ……ルンペル! こいつ、やばいよ!」
焦りを隠せず、シュティルは隣で戦っているルンペルに助けを求める。
「ぐぅ、あと一歩やったのにねぇ……こうなった以上、私らではもうどうにもできへん。後はグリムの旦那はんに全部任せるしかあらへんな」
カガチとハルの出現に気を取られたその隙に、ルンペルのパンプジンもハッサムから打撃を受け、かなりピンチに陥っていた。
「しゃあない、撤退や。シュティル、行くで」
「そうするしかなさそうね……貴方達、覚えてなさい……!」
追い詰められたルンペルとシュティルは、少しずつ後ずさりし、
「パンプジン、火炎放射!」
まだ何とか体力を残していたルンペルのパンプジンが、二人の足元に炎を噴射する。
炎はあっという間に燃え広がり、二人と一体の姿を隠す。
「バクーダ、吹き飛ばせ! ダイヤブラスト!」
バクーダが煌めく爆風を起こして炎を消し飛ばすが、その時には既にルンペルとシュティルはどこにもいなかった。
「はぁ……カガチさん、ありがとう……助かった……」
「お二人が戻ってきていなかったら、危ないところでしたわ……ありがとうございました」
カガチの援護を受けてどうにかルンペルとシュティルを退け、ようやくサヤナとエストレは一息つく。
しかし、
「礼を言うのはもう少し後だ。まだ事件は解決していないぞ」
まだ気を抜かない様子で、カガチはターミナルを取り出した。
だが確かにカガチの言う通りだ。足止め役の二人は倒したものの、その間にテントを積んだ荷車はすっかり森の奥へと姿を消してしまった。
「よし……とりあえず警察には連絡した。俺たちもハルの後を追うぞ」
「うん!」
「ええ、急ぎましょう」
カガチたち三人もまた、森の中へ進んでいく。



そして。
「ふぅ……危なかったわね」
「ジムリーダーともなれば、さすがのシュティルでも勝てへんか」
三人が森の中へ姿を消したのを確認し、建物の陰に隠れていたルンペルとシュティルもまた一息つく。
「さすがのって何よ。あんたの方があたしより強いでしょ」
「言うても誤差の範囲やで……っとまぁ、こんな話はええんや。問題はこの後やで」
「そうね……まさかと思うけど、団長の援護することになるわけ?」
「まさか。あんな使えんお人の護衛する必要なんかあらへんよ。どうせ失敗しよるさかいな」
「ま、あの団長には元から期待なんかしてないわよ。私たちも団長も、今回は陽動役にすぎない」
「そうやで。ほな、私らは先にお暇させていただきましょか」
「ええ。ルンペル、報告だけ忘れないようにね」
「はいはーい、分かっとりますよ」
緑のピエロと蝶の衣装の二人組がゆっくりと立ち上がる。
一匹の野生ポケモンだけがそれを目撃していたが、瞬きした次の瞬間には、その二人はどこにもいなかった。



「さて、この辺まで来れば大丈夫かね……いやいや、出来るだけ早く先に進まねば」
荷車の上に座った燕尾服の男は、独り言を呟きながら、荷車を進めていく。
「人っ子一人いないような獣道を進んできたからね、そう簡単に追っては来れないはずだね。ルンペルとシュティルにも戦わせているし。あいつら普段言うこと聞かないけど、実力だけはあるからね」
グリム団長だ。
荷車のスピードは決して速くはないが、森の中という場所は早々追っ手が付いてこられるほど平坦な道ではない。
おまけに、荷車が踏み潰したはずの草木は、何故か通り過ぎた後にひとりでに元の姿に戻っていく。
これでは荷車の通った後も辿ることはできない。
「さ、後はこの間抜けなお客さんたちを届けて、たっぷり報酬をもらって、団長の仕事はおしまいね」
一人でくすくすと笑いながら、荷車を進めていくグリム団長。
しかし。

「そこまでだよ」

突然、荷車の後ろから少年の声が響く。
「!? な、何かね!?」
慌ててグリム団長は後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、ルカリオを引き連れた少年、ハル。
「な、ななな、なぜここに!? 追っ手はルンペルとシュティルが足止めしているはず……それに、この薄暗い森の中で、どうやってここまで辿り着いたのかね……!」
「ルカリオは波導の力で1キロ先にいる生き物の種類だって見分けられるんだ。そのテントの中には沢山の人がいるから、見つけるのなんか簡単だよ。あと」
さらにハルは言葉を続け、
「ルンペルとシュティル、だっけ。貴方が足止めに使った二人なら、カガチさんにやられたよ。多分どこかへ逃げて行ったと思うけど」
グリム団長の疑問に全て答えるハル。それは、グリム団長が追い込まれていることを暗に示すものだった。
「ぐっ、ぐぬぬぬ……あり得ん……あり得んが……」
がたがたと震えだすグリム団長。しかし、何かを決めたのか、荷車から飛び降りる。
「かくなる上は仕方ないね! グリム団長はサーカス団の団長! この偉い団長を怒らせたらどうなるか! 大人を怒らせてはいけないってことを、身を持って知ってもらうしかないようだね!」
遂に吹っ切れたようで、グリム団長は懐からモンスターボールを取り出す。どうやらやる気のようだ。
「やっぱりそう来るか……ルカリオ、頼んだよ」
ボールを手に取る団長に対して、ハルはルカリオで戦う。
薄暗い森の中に、グリム団長とハルが対峙する。