二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第83話 ツヒェン ( No.146 )
日時: 2017/02/06 00:00
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: サーカス団の黒幕が、遂に姿を現わす——

「ルカリオ、波導弾だ!」
カラマネロの背後からルカリオが飛び出し、青い波導の念弾を放つ。
「しまった……カラマネロ、後ろだ!」
慌ててカラマネロは後ろを振り向くが、波導弾の対応には間に合わず、波導弾の直撃を受けて大きく体勢を崩す。
「波導弾は特殊技。馬鹿力で防御力が上がっても、波導弾のダメージは変わらないよね」
「くっ、おのれ……いや、しかし、我がカラマネロが有利であることに変わりはないのね! 波導弾こそ普通に受けてしまうものの、それ以外は変わらない! 吹き飛ばせカラマネロ! 倒してしまえ! 馬鹿力!」
怒りを込めて、カラマネロは力任せに両腕を振り回す。
「ルカリオ、波導弾!」
ルカリオの右手から波導の念弾が出現し、ルカリオはそれを掴む。
カラマネロの怒涛の触手攻撃を潜り抜け、手にした波導の念弾を直接、カラマネロの腹部に叩きつけた。
「ぬぅっ、カラマネロ、サイコ——」
「波導弾!」
体勢を崩したカラマネロは腕に念力を纏わせるも、その腕を振り抜くより早く、ルカリオが再び波導の念弾を放った。
波導の念弾は正確にカラマネロを捉えて飛び、カラマネロの顔面に直撃。念弾が炸裂し、カラマネロを吹き飛ばした。
「カ、カラマネロ!?」
倒れた木々の中に埋もれ、カラマネロは戦闘不能になっていた。
グリムは仕方なくカラマネロをボールへと戻すが、
「さあ、これで終わりだ。観念してもらうよ」
全ての戦力を失ったグリムの前に、ハルとルカリオが詰め寄る。
「ひっ、ひいぃっ!」
いよいよ追い詰められたグリム団長。
最早打つ手をなくした彼ができることは、助けを求めることだけだった。
「たっ、助けてー! 誰でもいいから、団長を助けてくれたまえーっ!」
団長の声が、森の中に響き渡る。
そして、

「グリム。もう下がっておれ」

テントが開き、一人の男性が現れた。
背は低いものの、黒い杖を突き、お洒落に着飾った老人だ。
「……はっ!」
老人に促され、グリムは逃げるように森の中を走り去っていく。
「さて、私の部下が迷惑をかけたのう」
サーカス会場ではツヒェンと呼ばれていたその老人はハルの方に向き直り、細い目を見開く。
「っ……!」
ハルは見覚えがあった。
ただし、老人の顔に、ではない。
老人の持つ、その杖にだ。
「その杖……もしかして、サーカス団の黒幕は……」
「ほう、察しがついたようじゃの」
その老人は静かに笑みを浮かべる。その笑みには、明らかに邪悪なものが宿っていた。
「儂はハーメルン・サーカス初代団長、ツヒェン。勿論、この姿は借り物じゃ。本物のツヒェンはもう何年も前に死んでおる。そして、この私の正体は——」



「そう言えばエストレさん、どうして奴らがただのサーカス団じゃないって分かったの?」
森の中を進んでいく途中で、サヤナは気になっていたことをエストレに尋ねる。
「お客さんたちが眠らされる直前、ツヒェンって人が現れたでしょ。あのタイミングで気づいたの」
「……というと?」
「あの老人の話し方に違和感を感じた。特に意味もなく変わる一人称にね。そして、あの老人が出そうとしたポケモン。それを見た瞬間に、確信したわ」
「出そうとした、ポケモン?」
老人がポケモンを出すその直前に、サヤナはエストレに手を引かれ、無理やり会場の外に連れて行かれた。
「ええ。幻影と奈落、そう言っていたでしょ。幻影と奈落を司るポケモンを使用する人間を、私は一人知っているの」
「げんえいと、ならく……?」
それは、エストレが実際に戦っているからだ。
そして、その人物に会ったことがないサヤナには、その正体が分からないのも当然だった。
「ツヒェンと名乗るあの人物。その正体は——」


「——魔神卿、ダンタリオンだ。久しぶりですね、ハル」

「——ゴエティアの魔神卿の一人。ダンタリオンよ」


老人の顔がみるみるうちに剥がれ、赤いトランプ模様が描かれている真っ白なメイクを施した青年の顔へと変わっていく。
さらに着飾った服を脱ぎ捨てると、その下に着ていたのは真っ白な燕尾服。どういうトリックか分からないが、低かった老人の身長も元に戻っている。
「ダンタリオン……お前だったのか」
「ええ。グリムやルンペル、シュティルに指示を出し、ハーメルン・サーカスを裏で操っていたのは、他でもないこの俺だ。まぁ、ルンペルとシュティルは儂の直接の部下じゃがな」
相変わらず、このやたらと変化する口調は聞き慣れない。
「さて、こうなってしまった以上、この間抜けな観客共はここで諦めざるを得ません。まだ今回の任務は全て終わっていませんが、仕方あるまい」
だが、とダンタリオンは続け、
「ここでただ黙って引き下がるのも気に食わねえ。最低限やりたいことをやれたとはいえ、目的も達成しきれずにただやられっぱなしなんて、魔神卿の恥さらしですからね」
ぞわり、と。
ハルの背筋に、悪寒が走る。

「追っ手はまだ来ないみたいだし、来たとしても間抜けな客を人質に出来る。貴様を直接手にかけることは禁止されておるが、せめて再起不能くらいには追い込んで差し上げましょう」

今度こそ。
一介の団長とは比べ物にならないほどの巨大な闇が、ハルへと襲い掛かる。