二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第86話 閉幕 ( No.151 )
- 日時: 2017/02/11 00:48
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
- 参照: 魔神卿ダンタリオンのゲンガー、まさかのメガシンカ——
「ゲンガー、シャドーボール!」
「ルカリオ、躱してボーンラッシュ!」
ゲンガーの第三の眼が輝き、黒い影の弾が放出される。
対するルカリオは大きく跳躍して影の弾を躱し、周囲に放った波導を無数の骨の形に変え、ゲンガーへと放つ。
「ゲンガー、纏めて押し流すのです。ヘドロウェーブ!」
ゲンガーを中心として、周囲に毒液の波が流される。
毒の波は無数の骨を次々と打ち消していくが、
「ルカリオ、突っ込め!」
骨型のロッドを携え、ルカリオは真正面からゲンガーへと向かっていく。
鋼タイプのルカリオに毒技は効かない。毒液の波をものともせずに突っ切り、骨のロッドをゲンガーの額に叩き込んだ。
「ゲンガー、シャドーボール! 連射だ!」
ゲンガーの第三の眼が黒い光を放ち、黒い影の弾が連続して撃ち出される。
「ルカリオ、躱してサイコパンチ!」
ルカリオの握り締めた握り拳が念力を纏う。
次々と放たれる影の弾を次々と躱しながら、ルカリオはゲンガーへと突撃していく。
だが、際限なく放出される影の弾がルカリオの逃げ場を次第に狭め、最後にはルカリオはシャドーボールを受けて押し戻されてしまう。
「ゲンガー、気合玉!」
ゲンガーがニヤリと笑い、異次元に体を潜める。
少し時間を置き、ゲンガーは不意にルカリオの背後から現れる。
「まずっ……ルカリオ、発勁!」
咄嗟に波導を纏った右手で背後に裏拳を繰り出し、ルカリオは何とか気合玉を防いだ。
「サイコパンチ!」
さらにルカリオは念力を纏った右手を突き出すが、
「ゲンガー、戻って来なさい」
ふたたびゲンガーは異次元に沈んでルカリオの拳を躱し、ダンタリオンの元へと戻る。
「ルカリオ、突っ込め! ボーンラッシュ!」
ルカリオが構えた手から波導が噴き出し、長い骨の形を作り上げる。
骨のロッドを携え、ルカリオは一気にゲンガーへと向かっていくが、
「ゲンガー、躱しなさい」
地面を滑るように駆け抜け、ゲンガーはルカリオの骨の一撃を躱し、背後を取る。
そして。
「ゲンガー、ファントムゲート!」
ゲンガーの第三の眼が怪しく蠢き、次元が裂けて異次元の入り口が開く。
その異次元の裂け目から、青い波導の念弾が放出された。
「……!?」
見たこともない技に驚くハル。
異次元の裂け目から撃ち出されたその技は、どう見てもルカリオの波導弾だった。
必中技ゆえ躱すこともできずに、ルカリオは吹き飛ばされる。効果は抜群だ。
「っ……今の技は……?」
「ゲンガー、続けろ!」
異次元の裂け目から、ゲンガーは連続で波導弾を撃ち出していく。
「くっ、ルカリオ、こっちも波導弾だ!」
ルカリオも右掌から波導の念弾を放出するが、明らかにゲンガーの方が連射速度が速い。
全てに対応しきれず、ルカリオは次々と波導の念弾を叩き込まれる。
「知らないだろうな。ファントムゲートは、バトル中に見た相手の技を一つだけ選んで使える技。今回はお主のルカリオの波導弾を使わせてもらいました」
「何だって……!?」
前代未聞の技だ。オウム返しなど相手の技を使用する技はいくつかあるが、特別な条件もなく好きに使える技など、さすがに見たことがない。
「そして、これでおしまいじゃ。ゲンガー、気合玉!」
立ち上がろうとするルカリオへ、ゲンガーが身体中の気を一点に溜め込み、気合の念弾を放つ。
「っ、ルカリオ!」
ルカリオはようやく起き上がるが、既に気合玉はルカリオの眼前まで迫っていた。
気合の念弾が、ルカリオへと直撃する。
その、直前。
「バクーダ、大地の力!」
ゲンガーの足元とルカリオの目の前から土砂が噴射し、ゲンガーを吹き飛ばし、気合玉を打ち消した。
「よし、ようやく追いつきましたわ!」
「ハル! 遅くなってごめん!」
森の中から現れたのは、エストレとサヤナ。そして、
「悪党、そこまでだ。これ以上好き勝手はさせんぞ」
バクーダを引き連れたカガチだ。先ほどの大地の力はバクーダの技だろう。
「おやおや、これはまた大勢で。どうにかしてもいいですが、さすがにこの人数が相手では骨が折れますね。仕方ない、ここで撤収するかの」
やれやれといった調子で、ダンタリオンは頭を掻く。
「さあ、攫った街の人たちを返してもらおうか」
「そう怒りなさるな。攫った観客たちはそこの荷車の中で眠っていますよ。私のゲンガーとゾロアークで幻術を仕掛けたので、当分は眠ったままだと思うがな。ゲンガー、撤収だ。そんじゃ」
最後に、ダンタリオンはもう一度不気味に笑うと、
「本日は、ハーメルン・サーカスにご来場いただき、誠にありがとうございました。またのご来場、お待ち申し上げております」
刹那。
ゲンガーが異次元の入り口を開き、ゲンガーとダンタリオンはその中へと消え去った。
その後すぐに荷車はカタカゲシティに引き戻され、テントが切り裂かれ、中で眠らされていた観客たちは全員怪我なく助け出された。
すぐに目を覚ました者もいれば、ダンタリオンの言った通り全く目を覚ます様子のない者もいるが、ちゃんと全員生きていた。
「あら、お兄さんがまた助けてくれたの?」
テントから出てきた二人組に、ハルは声を掛けられる。
ハルが振り向くと、その声の主はハルがチケットを譲った親子だった。
「えっと……まぁ、僕というか皆が……。それより、怖い思いをさせてしまってごめんなさい。僕が譲らなければ、こんなことには……」
「いいのよ。実際サーカス自体は面白かったし、眠らされてたみたいで怖いことはほとんど覚えてないから。ありがとうね」
「お兄ちゃん、ありがとうね!」
ハルにもう一度礼を告げると、その親子は楽しそうに会話しながら、その場を去っていった。
「ハル。今回のことでは迷惑を掛けたな。すまなかった。協力、感謝しているぞ。サヤナとエストレ、お前たちにも謝らなくてはな」
全員の無事が確認された後、カガチはハルたちへと頭を下げる。
「いえいえ、僕は大丈夫ですよ。カガチさんこそ、助けてくれてありがとうございました」
「ハルと同じく、礼を告げるのは私の方です。あそこでカガチさんが来てくれなかったら負けてたかも」
「頭をあげてくださいな、カガチさん。事件が無事解決して、何よりですわ」
サーカス団員を捕まえられなかったことだけは残念だが、捕まった人たちは全員無事に救い出せた。
「さて、ハル。まだ特訓の途中だったが、どうする? 続けるか?」
「……そうでしたね。はい、やります。行きましょう!」
「いい返事だ。よし、続けるか」
ハーメルン・サーカスを撃退し、ハルは再びトンネルの中に戻り、カガチと特訓を再開する。
「はぁ……はぁ……」
森の中を、ひたすら駆け抜ける。
やがて、グリム団長は森を抜け、舗装されていない薄暗い道路へと出た。
「はぁ……し、死ぬかと思った……」
肩で息をつくグリム団長。
「おーおー、大丈夫かいな」
そこで待機していたのは、緑のピエロ、ルンペル。
彼らにとってのこの場所は、任務が終わった後の待機場所だった。
「弱いくせに、しぶとさだけは一流ね」
ルンペルの横には、ゴシックな蝶の衣装のシュティルもいる。
「お、お前たち! どうして団長を助けなかったのかね! おかげでひどい目にあったんだよ! 分からないのかね!?」
仲間を見つけた途端に怒鳴り出すグリム。
「……ムカつく。もう殺しちゃいましょうよ、こいつ」
ついに見かねたシュティルが呟く。
「き、君は団長に向かって何てことを言うのかね!?」
「何が団長よ。実際にあんたはただの役立たずでしょうが」
実力の差は分かっているようで、グリムは途端にビビり出すが、
「まぁ、待ちぃなシュティル。このおっさんの処遇は私らが決めることちゃうよ」
相変わらず柔和な笑顔のルンペルに肩を叩かれ、シュティルは止まる。
「処遇……? はて、それはどういう?」
先ほどから表情がころころと変わるグリムだが、それを無視し、
「どうぞ、後はご自由にー」
そう言って、ルンペルはシュティルの手を取り、一歩引き下がる。
すると、
「気付いていたか。最低限だが任務は終了した。引き上げますよ」
地面に異次元の裂け目が現れ、そこからダンタリオンとメガゲンガーが姿を現す。
「ルンペルとシュティル、お前たちは先に撤収を」
現れたダンタリオンはまずルンペルとシュティルの方を向き、先に二人を帰らせる。
「はいはい。ほなら私らはこれで」
「それでは、お先に失礼します」
暗闇の中へと去っていく二人を見て、グリムも後を追おうとするが、
「グリムは残りなさい。話すことがある」
ダンタリオンはグリムの方を向き、グリムを呼び止める。
「グリム。とりあえずこう言っておきますか、お疲れ様でした」
「え……あ、はい、ありがとうございます!」
ころころと態度が変わるグリム。本当に分かりやすい。
「こっちも最低限やることはやった。任務終了だ」
「お、お褒めいただき恐縮でございますっ!」
「うん、まぁそれはいい。グリム、もう少し前に出てくれるかな」
「……?」
怪訝な表情を浮かべ、グリムは一歩前に出る。
「——そんでさ、ここからは話の続きなんだがよ」
表情を変えずに、ダンタリオンは言葉を続ける。
「シュティルから聞きましたよ。ターゲットをサーカスに連れてこられなかったのは、貴方が客の一人にでかい態度をとったせいらしいな。おまけに散々部下を罵り回った挙句、自分は時間稼ぎも出来ずにただ負けただけと。どこまで馬鹿なんだ」
「ひっ、ひいっ! 申し訳ございません!」
「なぁ、グリム。最初に言ったこと、もう一度言うぞ」
その瞬間。
グリムには、ダンタリオンの白い化粧という仮面の奥に潜む本性が、確かに見えた。
「——任務終了だ。お疲れ様」
閃光、直後に衝撃。
グリムの意識は、そこで途絶えた。