二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第89話 強盗 ( No.156 )
日時: 2017/02/26 10:24
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: 道を間違えてしまったハル。そんな彼に忍び寄る、一つの影——

恐らく、気づかないうちにどこかで道を間違えたのだろう。
ハルが足を踏み入れてしまったのは、無法者の巣窟と言われるゴミ捨て場の街、ノワキタウンだった。
「まずいね……早めに引き返そう。一旦カタカゲシティに戻るか……」
あまりこういったところには滞在したくはない。
独り言を呟き、ハルがトンネルに戻ろうとしたところで、

「いただきっ!」

物陰から何者かが飛び出し、ハルを突き飛ばした。
突然何かにぶつかられ、ハルは地面に倒されてしまう。
「やったぜ! イケてる機械、いただき!」
ハルを突き飛ばしたのは少年だった。
見た目はハルと同年齢か少し年下、髪はもじゃもじゃの緑色で、黒と緑を基調とした動きやすそうな服を着ている。
ハルも小柄な方だが、その少年は僅かにだがそんなハルよりさらに背が低い。
そして、
「……! それは……!」
少年が拾い上げたものは、ハルのアルス・ターミナルとポケモン図鑑だった。
「どうせこの町に掘り出し物でも探しに来た不届き者だろうけど、そうはさせないぜ。ここにあるのは全部俺たちのモンだ! そんじゃ、こいつは頂いていくぜ!」
それだけ言って、その少年は図鑑とターミナルを奪い、走って行ってしまう。
「っ、待って! それを返してよ!」
慌ててハルは立ち上がり、少年の後を追う。
しかしこの少年、かなり足が速く、なかなか追いつけない。このような手口に慣れているのだろう。
「こうなったら……ファイアロー! あの子から図鑑とターミナルを取り返して!」
ハルはファイアローを繰り出し、ファイアローは全速力で飛び出し、瞬く間に少年へと追いついた。
「させるか、こうなりゃこっちも力尽くだ! リザード、出て来い!」
ファイアローが迫って来るのを見て、少年はボールを取り出し、ポケモンを繰り出す。
尻尾の先に炎を灯した、トカゲのようなポケモンだ。

『information
 リザード 火炎ポケモン
 気性が荒く強敵との戦いを好む。
 戦闘での興奮により尻尾の炎の
 勢いはどんどん強くなっていく。』

「リザード、雷パンチだ!」
追いかけてくるハルの方を振り返り、少年はリザードに指示を出す。
リザードは拳に激しい電撃を纏わせると、ファイアローへと殴りかかってくる。
「やる気か……! ファイアロー、躱してニトロチャージ!」
ファイアローは素早く飛び上がって電撃の拳を躱すと、力強い啼き声と共に炎を纏いながら突撃を仕掛ける。
リザードを突き飛ばしつつ、ファイアローは素早さを上げていく。
「ファイアロー、アクロバット!」
さらにファイアローは身軽に飛び回りながらリザードの背後を取り、翼を振り下ろす。
「逃がすか! リザード、雷パンチ!」
だが翼を叩きつけられたリザードは根性で耐え抜き、返す刀で電撃を帯びた拳を突き出し、ファイアローを殴り飛ばした。
「リザード、火炎放射!」
さらにリザードは灼熱の業火を吹き出し、さらに追撃を掛ける。
「ファイアロー、躱して! 鋼の翼!」
吹き飛ばされながらも、ファイアローは急上昇して炎を躱すと、今度は翼を鋼鉄のように硬化させながら突っ込んでいく。
「リザード、受け止めろ! ドラゴンクロー!」
対するリザードは両手に龍の力を纏わせ、ファイアローを真っ向から迎え撃つ。
龍の力を帯びた両腕でファイアローの鋼の翼を受け止め、お互いに激しく競り合う。
「押し返せ! 火炎放射!」
「このまま押し切るよ! ブレイブバード!」
競り合ったままリザードが炎を吹き出し、ファイアローを押し戻そうとする。
だがファイアローの体が凄まじい量のオーラに纏われると、均衡は一気に崩れる。
放った炎、さらに龍の爪も打ち破られ、ファイアロー渾身の突撃を受けて、リザードは大きく吹き飛ばされた。
「くそっ、リザード、負けちゃダメだ! 勝負はここからだぜ!」
少年に声を掛けられ、それに応えてリザードは起き上がり、自身を鼓舞するように吼える。
「ねえ、君はどうして僕の図鑑を奪ったのさ」
「うるさい、余所者に言うことは何もねえよ! 返して欲しけりゃ俺を倒してみろ! リザード、ファイアテール!」
リザードが向かってくる。跳躍して一気にファイアローとの距離を詰め、炎を灯した尻尾を振るう。
「ファイアロー、アクロバット!」
ファイアローは連続して振るわれる炎の尻尾を軽快な動きで全て躱し、翼を振るってリザードを叩き飛ばす。
「続けてニトロチャージ!」
「くそっ、迎え撃て! 雷パンチ!」
ファイアローの突撃に合わせてリザードは電撃を纏った拳の一撃を繰り出す。
しかし激突の直前、ファイアローは飛び上がってリザードの拳を躱すと、真上から炎を纏って体当たりし、リザードを突き飛ばした。
「これで決めるよ! ブレイブバード!」
ファイアローの体が、燃える炎のような凄まじいオーラに包まれる。
そのまま翼を折りたたんで守りを捨てて低空飛行、一気にリザードの懐に潜り込み、そのまま大きく吹き飛ばした。
「なっ……!? リザード!」
後方へ吹っ飛んでいったリザードを、少年が慌てて振り返る。
リザードは二、三回地面をバウンドしてそのまま倒れ、戦闘不能となってしまった。
「っ……」
リザードをボールに戻す少年に対し、
「さあ、奪ったものを返して」
ファイアローを戻し、ハルは少年に詰め寄る。
だが、
「くそっ、お前……よくも俺のリザードを!」
逆上した少年は怒りの形相を浮かべ、今度はハルへ直接殴りかかってきた。
「ちょっ……うわっ!」
腕っ節に自信がないハルは何とか少年の拳を避けるも、よろけて尻餅をついてしまう。
「リザードの仇! 食らえーっ!」
そんなハルに対し、少年は二発目となる拳を振り上げる。
しかし。

「ジゼ! そこまでにしておけ」

拳が振り下ろされる寸前、男性の声が響く。
その声を聞き、少年は振り上げた拳を下ろす。
声の正体は背の高い男性だった。暴力団が着ているような黒いスーツを着用しており、髪の色は銀。長い前髪が、左目を隠している。
「メイゲツさん……! でも、こいつ侵入者ですよ!」
「分かってる。だから俺が出て来たんだ。後は俺の仕事だ、ジゼ、お前は取りあえず下がっていろ」
どうやらこのスーツの男はメイゲツ、少年はジゼという名前らしい。
指示されてジゼは後ろに下がり、代わりにメイゲツがハルの前に進み出てくる。
「お前が侵入者か。名前は」
「……ハルです」
「何でこの町に来た、言ってみろ。安心しな、話を聞くだけだ。暴力は振るわねえよ。今のところはな」
口調こそ穏やかだが、その背後には何かただならぬ気配を感じる。
今は何もされないだろうが、返答を誤れば何をされるか分かったものではない。
「……トンネルの中で、道を間違えたんです」
嘘をついてもいいことはないと思い、ハルは正直に答える。
「間違えた? そんなわけねえだろ。道には立て札が立ててある。この町に通じる通路は一本道だ、間違えるわけがねえ」
「でも本当です。嘘だと思うなら、トンネルの中を調べてみてください」
「あぁ?」
メイゲツは鋭い目つきでハルを睨みつける。
恐怖に駆られながらも、目を逸らしたら負けだと思い、ハルはまっすぐにメイゲツの目を睨み返した。
「……気に入らねえな、その目つきがよ」
忌々しそうにそう呟きながら、メイゲツは言葉を続ける。
「…だが、嘘をついている目には見えねえな。分かった、ひとまず今は攻撃を加えるのはよそう」
そう言ってメイゲツは立ち上がる。
解放されるのかと思い、ハルはようやく一息つく。
一方、メイゲツはジゼの方を振り向き、
「ジゼ。お前、こいつから何か奪ったろ」
「はい。イケてる機械持ってたんで、売れば高くつくかなって……」
ジゼはハルから奪ったターミナルと図鑑を取り出す。
「アルス・ターミナルに、ポケモン図鑑か。ほう、旅のトレーナーってことだな。ならば」
メイゲツはハルの方に向き直ると、
「おい、ハルっつったな。こいつを返してやるよ」
「えっ? 本当ですか?」
随分あっさりと承諾され、拍子抜けしてしまうハル。
「ただし」
そこでメイゲツは、不敵に笑う。

「この町で一番のやり手のトレーナーを呼ぶ。そいつと戦って、お前が勝てたら、の条件付きだがな」