二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第103話 占領 ( No.178 )
- 日時: 2017/05/28 22:37
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「なに……?」
驚きを隠せない様子のメイゲツ。
当然、その言葉はハルとジゼの耳にも入って来た。
「えっ……嘘でしょ……?」
「イザヨイシティが、乗っ取られた……!?」
慌ててジゼがメイゲツの近くに駆け寄り、携帯の画面を覗き込む。
ハルはアルス・ターミナルを起動させ、テレビニュースに接続する。
『臨時ニュースをお伝えします。つい先ほど、ゴエティアと名乗る組織に、イザヨイシティが占領されました。現在、イザヨイシティの管理システムは全て制圧され、連絡が取れない状態となっており——』
どうやらガセネタではないようだ。テレビニュースにまでなっているところを見ると、ゴエティアは本当にイザヨイシティを乗っ取ってしまったらしい。
「っ……マジかよ。まさかのこのタイミングでか……ハル、ジゼ。出発は遅らせな。とりあえず暫くこの町で様子を——」
流石のメイゲツも慌てた様子で、二人を止めようとする。
しかし。
「メイゲツさん。力を貸してくれませんか」
ハルの様子が、いつもと違う。
「は……?」
思わず、メイゲツは聞き返す。
対して。
「力を貸してください。さすがにゴエティアにやられたい放題で頭に来ました。僕は今からイザヨイシティに行きます。街の解放を、手伝ってください」
明確な怒りを込めた口調で、ハルはそう言った。
メイゲツはしばし呆然としていたが、
「……ハッ」
やがて、小さく笑う。
「困ったことがあったら何でも頼れ。俺もさっき、そう言ったばっかりだったな」
ハルの方に向き直り、そう言った。、
「俺たちも奴らにやられっぱなしってのは性に合わねえ。分かった、完璧に解放されられるかどうかは分からねえが、やれるだけのことはやろう」
「はい、ありがとうございます」
「ただ」
さらにメイゲツは言葉を続け、
「勇気と無謀は違うってことだけは忘れるな。相手の戦力が桁違いに高けりゃ、さすがに無理だ。もしそんな状況だったら、その時は諦めて解放されるのを待て。それだけは約束しろ」
「……分かりました」
ハルの返事を聞き、メイゲツは頷くと、
「よし。それじゃ、少し待ってろ。俺に考えがある。ヴァレン、腕の立つ人間を何人か集めろ」
「うむ、分かった」
ヴァレンに指示を出すと、メイゲツは再びハルの方を向き、
「まずは情報収集だ。さっきも言ったが、相手の戦力がどんなものか調べておく必要がある」
「調べられるんですか?」
どうやって調べるのか、ハルには分からなかったが、
「この町には、イザヨイシティに繋がる裏道がいくつかあるんだ」
ハルの疑問にジゼが口を挟む。
「そそ。ほとんど向こうの住人にバレて潰されちまってるが、まだ生きてる通路が二つある。そこから少人数で忍び込み、ゴエティアの下っ端を攫い、情報を吐かせる。それまでお前たちはここで待機だ。情報を聞き出し次第、次の動きを考える」
ここまでメイゲツが説明したところで、
「メイゲツ。このくらいでいいか」
ヴァレンが三人の男を連れてきた。
「そうだな。俺たち含めて五人いれば充分か。よし、それじゃ行ってくるぜ。それまでこの町で待機だ。いいな」
「分かりました。お気をつけて」
メイゲツ率いる五人が、行動を開始する。
「いやー、すっげえもんだな」
しばらくして、メイゲツたち五人が戻って来た。
「セキュリティも起動してねえし電光掲示板も移動床も機能停止だ。街全体が完全にやられてるぜ」
その後ろには、縄で拘束された三人の黒装束が引きずられていた。
どうやら、最初の作戦は上手く行ったらしい。
「さあ、情報を聞かせてもらうか」
ゴエティアの下っ端たちは縛られたままノワキタウンの群衆の真ん中に放り投げられ、メイゲツとヴァレンが三人に詰め寄る。
「お、俺たちに、何の用だ……!」
下っ端の一人が、怯えた様子で口を開く。
メイゲツは屈み込み、下っ端を睨むと、
「今から俺たちの質問に答えてもらう。嘘偽りなく答えろ。もし嘘を吐いたと分かれば……分かってるな? 何のために三人も連れて来たのか。二人までは喋れなくしちまっても平気ってことだ。俺たちに手を汚させるなよ」
その光景を見ているハルも少しだけ背筋が凍る。メイゲツが無法者と恐れられる所以が、ハルには分かった気がした。
「それじゃ、まず一つ目。なぜイザヨイシティを占領した」
「う、上からの命令だよ。目的は聞かされてない……アスタロト様にイザヨイシティを制圧しろと命令を受けて、そ、それに従っただけだ」
「アスタロト? 誰だそれは」
「ご、ゴエティアの幹部だよ。魔神卿って言われてる……」
まず一人目の魔神卿の存在が分かった。
交戦こそしていないが、ハルはその存在を知っている。
「なるほど。では二つ目の質問。イザヨイシティに魔神卿は何人いる」
「え、えっと……確か、今回動員されていたのは三人のはずだ」
「名前は」
「あ、アスタロト様と、パイモン様。あとは、えっと……そうだ、ロノウェ様。ロノウェ様が街中の見張りで、アスタロト様とパイモン様は、し、白い大きな建物に、入って行ったのを見た」
「白い大きな建物……アルスエンタープライズか」
メイゲツの隣に立つヴァレンが口を開く。
アルスエンタープライズ。カントーのシルフやホウエンのデボンと並ぶ規模を持つ、マデル地方のトップ企業だ。日用品や各種モンスターボール、ハルが持っているアルス・ターミナルなど、様々な商品を開発している。
「となると、奴らの目的はアルスの技術だな……とりあえず、敵の戦力と本拠地は把握した。ハル」
メイゲツは立ち上がり、ハルを呼ぶ。
「お前、今名前の上がった三人のことは分かるか」
「あ、はい。三人とも見たことはあります。アスタロトは姿を見たことがあるだけですけど、パイモンとロノウェはかなりの強敵です。ただ」
「ただ?」
「理由は分からないんですけど、パイモンは僕に対しては積極的に攻撃をしてきません。お気に入りとか何とか言って。だから、アルスエンタープライズの建物には僕が行きますよ」
パイモンが相手なら都合がいい。
気に入られているのならそれを逆手に取って、ハルが出向く。
「ハル、俺も行くよ」
そこで、ハルの後ろにいたジゼも進み出る。
「そのパイモンってやつはいいとして、建物内にはもう一人いるんだろ。俺とリザードンで、ハルをサポートする。メイゲツさん、ここは俺にも行かせてください」
「……しゃあねえ。だが無理だと思ったらすぐに戻れ。それは約束だ」
「了解です」
真剣な眼差しで、ジゼは頷く。
「ヴァレン。お前はハルとジゼより先に建物に入って暴れろ。下っ端構成員を出来るだけハルとジゼから遠ざけるんだ。ヤバくなったら逃げろ。残ったメンバーは俺と一緒に、街中を荒らし、街中の下っ端やもう一人の魔神卿、ロノウェとやらを引きつける」
作戦は決まった。
その後、メイゲツはイザヨイシティに出撃するメンバーと、万が一に備えてノワキタウンで待機するメンバーを分ける。
「たまには慈善活動も悪くねえな。それじゃあ、行くぜ。クソ共の手から、イザヨイシティを奪還してやろう」
メイゲツを先頭にして、ハルたちは隠し通路を通り、イザヨイシティへと向かう。
通路の先は、イザヨイシティの外れ、使われていない倉庫のような建物の中だった。
壊れたドアから顔を出し、外の様子を伺う。近未来的な建物がいくつも並んでいるが、噂に聞いていた移動床などのシステムは全て停止しており、代わりに街中を黒装束の人間たちがが闊歩している。
「よし。俺たちが先に出て囮となり、奴らを引きつける。その隙に、お前たちはアルスエンタープライズに忍び込め」
「分かりました」
「それじゃ、作戦開始だ」
ハルとジゼを倉庫内に残し、メイゲツたちノワキタウンの者たちがひっそりとイザヨイシティ内に侵入を開始する。