二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第104話 始動 ( No.180 )
日時: 2017/05/31 07:55
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

ゴエティア七魔卿の一人、奇抜なメイクと単眼のバンダナという恐怖を煽るような風貌の男、ロノウェは、相変わらず背中にエレキギターを担ぎ、何をするわけでもなくイザヨイシティの街中を歩き回っていた。
アスタロトから、バトルは強いが頭が良くないと言われ、頭使わなくても出来るからと街中の見張りをお願いされているのだが、
「……暇だ」
ぼそりとロノウェは呟く。
そもそも、マデル地方で最も大きな街を容易く制圧した事実がある時点で、警察も簡単には入ってこれない。何せ、向こうからすればこちらは正体不明の謎の組織。情報も無しに入ってくるようなバカな真似はしまい。
つまり、見張りを頼まれたはいいが、やることなどほとんどないのだ。
白い大きな建物の前でロノウェは大きく欠伸をし、仕事は下っ端に任せて昼寝でもしようかと考えた、その時。

ドォォン!!! と。
イザヨイシティの一角に、爆音が響き渡る。

「!?」
今まさに眠ろうとしていたロノウェの眠気が、吹き飛んだ。
慌てて音がした方を向けば、何やら黒煙が上がっている。
「何だ何だ……?」
明らかに異常事態。爆発となれば、何者かがイザヨイシティへ侵入、戦闘が始まっている可能性が高い。
急いでロノウェが駆けつけると、既に下っ端たちも何人かそこに来ていた。
そして。
爆心地には、銀髪で左目を隠した黒いスーツ風の男を中心に、何人もの人間が立っていた。
それを見たロノウェの口元が吊り上がる。
「お前ら、侵入者だな?」
下っ端を押しのけ、ロノウェが一歩進み出る。
「お前は」
「俺様は破滅と破壊の申し子、ゴエティアの魔神卿、ロノウェ。貴様らの名に興味はねえ。哀れな侵入者共に、災厄の呼び声を聞かせてやるぜ」
背中に担いだエレキギターを掴み、ロノウェは引き裂くような笑みを浮かべるが、
「なるほど。貴様がロノウェか」
目の前の黒いスーツの男は、顔色一つ変えない。
「ネル、手を貸してくれ。俺とお前の二人で、こいつを片付ける。残りのメンバーは周りの雑魚共を始末しろ」
「了解です、メイゲツさん」
メイゲツと呼ばれた黒いスーツ風の男は的確に指示を出し、周りのメンバーも指示通りに動き出す。
ロノウェの前には、メイゲツと呼ばれた男と、ネルと呼ばれた青いツインテールの少女が立つ。
「ほう、二対一か。面白え、面白えぜ! せいぜい俺様を楽しませてくれよなぁ!」
ギュイイイイイン! とエレキギターを掻き鳴らし、ロノウェは雄叫びを上げ、モンスターボールを取り出す。
「Go shout! バクオング!」
ボールの中からは、騒音ポケモンのバクオングが姿を現わす。
「ネル、気をつけろよ。無理に攻めようとするな、作戦通りにだ」
「ええ、分かっています」
メイゲツとネルも、同時にボールを取り出す。



そして。
ロノウェが離れた隙を狙い、ヴァレンとハル、ジゼは白い大きな建物——アルスエンタープライズ本社の中へと侵入する。
一階のロビーには特に人影は見当たらない。黒装束の人間の姿も、社員の姿もない。
「ハル、ジゼ。隠れていろ」
ヴァレンは受付の奥にハルとジゼを隠れさせ、
「出て来い、ケンホロウ」
ボールを取り出し、相棒のケンホロウを繰り出す。
そしてヴァレンは辺りを見回し、自動販売機を見据える。
「ケンホロウ、そこの自動販売機へ、フェザーガンを」
ヴァレンは迷わずそう指示し、ケンホロウは翼を羽ばたかせて鋭い羽を飛ばし、自動販売機へ突き刺す。
異常を起こした自動販売機はバチバチと火花のような音を散らす。
その直後、爆発を起こした。
「っ……!」
受付の奥でハルとジゼが伏せるが、ヴァレンは顔色ひとつ変えない。
そして、異変に気付いたゴエティアの下っ端たちが、階段やエレベーターから続々と降りてきた。
「侵入者だな!」
「何者だ、怪しい奴め!」
黒装束の集団がヴァレンを取り囲むも、ヴァレンはやはり顔色ひとつ変えない。
下っ端たち全員がボールを取り出し、ヴァレンに注意を向けた、その隙に。
「ハル、今のうちだ」
「うん。行こう」
ハルとジゼは下っ端たちに気づかれることなく、上階へと進んで行く。



そして。
「……見逃さないよ、ハル君。下っ端の目は誤魔化せても、ぼくの目は誤魔化せない」
最上階には、監視カメラに繋がるモニターを眺める男が一人。
王冠を被った、腰まで届く長い黒髪の少年、パイモンは行儀悪くテーブルの上に座り込み、不敵な笑みを浮かべる。
「しっかし、ハル君かぁ。それにあのもう一人の子、この間ヴィ姐とベリちゃんが言ってた子だよね、救世主の素質があるって。うーん、ここで始末するわけにはいかないかぁ……ま、しょうがないね」
独り言を呟き、パイモンは懐から小型の通信機を取り出す。
「おーい、アスたん?」
それに向けて、パイモンが言葉を投げると、
『何かしら、パイモン』
通信機の向こうから、女の声が聞こえる。
「おっ、通じた通じた。アスたん、今何やってんの?」
『この建物内を物色してる。今いる部屋すっごいわよ、生態保護・研究室とかいう部屋でね。レアなポケモンがたっくさん。根こそぎ貰っちゃっていいかしらん?』
「えっ、ほんとに? そりゃあいい、纏めてかっぱらっちゃおうよ……っと、それはいいんだけど」
向こうの女の話に乗りかかったパイモンだが、話の軌道を元に戻す。
「二人。この施設に、侵入者がいるんだ。どうせ負ける下っ端をわざわざ向かわせる気もないし、こっちの仕事もなかなか進まないから、足止めをお願いしていいかなぁ? 一人護衛も付けるからさ」
『足止め……ってことは、救世主候補ね。分かったわ、適当に時間を稼いどく。上手くいけば追い返してやるけど、期待はしないでね。あんまりバトルには自信がないから』
「分かってるよ。アスたんは話が通じるのが早くて助かるねぇ。それじゃ、頼んだよ」
『はいはーい。その代わり、そっちもさっさと終わらせてよ? あと私が今いるこの部屋9階だから、護衛はそこに送ってね』
「任せといてよ。そんじゃ」
要件は告げ終えたのか、パイモンは通話を切って振り返る。
この部屋にいる人間は、パイモンだけではなかった。
不気味な笑みを浮かべて、パイモンは机の向かい側にいる人間に声を掛ける。
「それじゃ社長さん、話の続きをしようか。こっちの要件は一つ。この会社の——」