二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第105話 アルス ( No.181 )
- 日時: 2017/06/02 08:36
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「エーフィ、マジカルシャイン!」
ハルのエーフィが額の珠を白く輝かせ、純白の光を放出する。
光が辺りを包み込み、周りの下っ端たちを纏めて吹き飛ばした。
「よし。エーフィ、このまま一緒に行くよ」
ハルはエーフィをボールに戻さず、建物の中を進んで行く。
一階でヴァレンが暴れてくれているおかげか、黒装束の数はそこまで多くない。
「それにしても」
通路を進みながら、ジゼが口を開く。
「この街を占拠して、奴ら、何が目的なんだ……?」
「うーん、魔神卿がここに二人もいるってことは、アルスエンタープライズの何かを狙ってる可能性が高いと思うけど……」
ハルも何度かゴエティアと戦ってきたが、ゴエティアがどんな組織なのか、詳しいことは全く分かっていない。
分かっているのは、『王』と呼ばれる人物がゴエティアを仕切っていること。そして『王』は救世主と呼ばれる人間を探しており、パイモンはハルのことを救世主の素質があると認識している、ということ。そのくらいだ。
「狙っているとしたら、マデル地方トップ企業のアルスの科学技術なのかなぁ」
「社長を脅して、アルスをゴエティアの傘下に置く、なんてこともあるかもな」
ともあれ、考えていても仕方がない。
残っている少数の下っ端を蹴散らしつつ、ハルとジゼはとにかく上階を目指す。
その途中、
「うわっ!?」
曲がり角を曲がったところで、ハルは白衣を着た研究員の男性とぶつかりそうになった。
「わっびっくりした……君達は? 奴らの仲間じゃないよね……」
「はい。ハルといいます」
「ジゼだ」
二人がゴエティアのメンバーではなくてホッとして力が抜けたのか、研究員は床へと座り込んでしまう。
「よかった……奥の部屋の方に社員みんなで逃げ込んでいたんだが、物音がしなくなったので、僕が様子を見にね……。しかし、どうして君達みたいな子供だけで? 怖くは、ないのかい」
「あいつらには俺たちのホームを荒らされ、リーダーが大事にしてた物を奪われた。腹綿煮えくり返ってんだよ。やられたら、やり返す」
男性の言葉に答えたのは、ジゼだった。
「ちゃんと策はあります。とにかく、安全なところにいてください」
ジゼの言葉にハルは付け足し、男性を避難させる。
「……そうだ。君達、これを使ってくれ」
奥に避難する前に、男性はハルとジゼにカードを渡す。
「これはアルスのカードキーだ。この先の部屋にはこれがないと入れないものもあるし、社長室のある最上階へもこのカードがないと進めないんだ。これくらいしか君達のお手伝いを出来なくて、申し訳ない」
「いいえ、助かります。それじゃもうしばらく、じっとしててください」
「さあハル、行くぞ。さっさとこの会社、この街を解放する」
「うん。それじゃ、ありがとうございます」
カードキーを手に入れ、ハルとジゼはさらに上階へと進んで行く。
アルスエンタープライズでは、日用品やトレーナーグッズの開発の他に、もう一つ力を入れて行っている研究がある。
希少なポケモンの保護、及び生態の研究。傷ついたポケモンや個体数の少ないポケモン、密猟者やポケモンハンターに狙われて数が減少しているポケモンを保護しつつ、その生態を調べ、そのポケモンにとってより住みやすい環境を、元々の自然を侵さない範囲で自然界に作り、その上で保護したポケモンを野生に戻すという、先進的な研究を行っている。
密猟はともかく、数が少ないとはいえ人の手が掛かっていない野生のポケモンに積極的に人の匂いをつけることに反対の声もあるが、今のところこの研究は良好な成果を上げ続けている。
その研究を行っているのは、アルスエンタープライズ本社9階。
この階には生態保護・研究室以外の部屋はなく、水辺、草原、乾燥地など、様々な環境の部屋に分けられて研究が行われている。
それらの部屋はガラス張りにされ、全ての部屋をコントロール室となる一つの部屋から観察、及び管理することができるようになっている。
そして今。
「……へえ。ちゃんとモンスターボールで管理してるのね。偉いわぁ」
この研究室、及び保護されているポケモンたちは、ゴエティアの手に掛かろうとしていた。
紫の長い髪を後ろで結び、紫のバラの模様が描かれた緑色のワンピースを着ていた女。その女たった一人に、研究員たちは叩きのめされ、ガラス張りの仕切りは全て叩き割られていた。
「お、お前……目的は、何だ……」
「んー? それは私の目的か、組織の目的か、どっちかな? 私のことなら決まってんじゃない。レアなポケモンが一杯いるから、このアスタロト様が、こいつらぜーんぶいただきに来たのよん?」
アスタロトと名乗ったその女は舌を出して嘲るように笑うと、ボールに入ったポケモンを手に取っていく。
「わぁ! こっちは化石から復活するポケモン、オムナイト! こっちは……ノコッチじゃない、マデルにも野生の個体がいたんだ? あと、それからそれから……」
まるで一度にたくさんのおもちゃを与えられた子供のように、アスタロトははしゃぐ。
「売り捌いて儲けてもいいし、王への供物に変えてもいいし……使い道に迷うわぁ、うふふ。まぁとりあえず、みーんな持ってっちゃうね。下っ端ー、これ持って、先に本部に戻っててよ」
ボールに仕舞ったポケモンたちを纏めて袋に入れ、アスタロトはその袋を下っ端に渡す。下っ端はその袋を受け取ると、そそくさとその部屋を出て行った。
「ああ……大事な、ポケモンたちが……」
「あんたたちが大事なのはポケモンじゃなくて研究成果でしょ。さて、あとは、この子か」
地面に倒れる研究員たちを一蹴し、アスタロトは唯一下っ端に運ばせなかった最後のボールを手に取る。
「このポケモン、綺麗だわぁ。この子だけは他の奴らに渡すのももったいないわね……よし、決めた!」
ボールを掲げ、アスタロトは目を輝かせる。
「この子は、私のポケモンにしちゃおっと! 他のポケモンみんな組織に献上するわけだし、一匹くらい貰ったっていいわよね——」
だが、その時。
「そのモンスターボールを、離せ!」
この場にいる誰のものでもない少年の言葉と共に、黒い影の弾が飛来し、アスタロトが持っていたボールを弾き飛ばした。
「うぐっ!? っ、来たわね!」
手首に衝撃が走ったのか、片手を抑え、アスタロトはシャドーボールが飛んで来た方向を振り向く。
「ゴエティア、そこまでだよ。今すぐここから立ち去るんだ」
エーフィを従えたハルが立ち、その後ろにジゼが立つ。
「ぐぬぬぬっ……いいとこだったのにぃ。仕方ないわ、あんたたちに制裁を下すのが先みたいね。パラレル! おいで!」
アスタロトの表情に、苛立ちが浮かんでいく。
そしてアスタロトの叫び声に応じ、その後ろからもう一人の人影が現れた。真っ黒な丈の長いコートを身に纏った、長めの黒髪の少年。
パイモンの雇った用心棒、パラレルだ。
「パラレル、あんたどっちと戦いたいか、好きな方選んで。私がもう一人を相手するから」
アスタロトの言葉を受けてもパラレルは一切返答はせず、その瞳にハルを見据える。
「久しぶりだな、ハル。この場でもう一度、手合わせ願おうか」
やはりパラレルの狙いはハルとのバトルのようだ。
「っ……ジゼ。サポートしてもらう予定だったけど、そうもいかないみたい。魔神卿と戦ってもらってもいいかな」
「へっ、誰の心配してるんだよ。俺がこの魔神卿をぶっ倒す。任せとけよ」
対戦カードは決まった。
「ありがとう。それじゃ勝負だ、パラレル!」
パラレルと向かい合い、ハルはモンスターボールを手に取る。
「感じ悪いわねー、パイモンの部下……まぁいいか。でかい口聞けるのも今のうちよ、お子ちゃま」
そしてアスタロトもボールを手に取り、ジゼと対峙する。