二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第109話 双顎 ( No.185 )
日時: 2017/06/12 09:40
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

不敵に笑うアスタロトが、二番目のボールを取り出す。
「欺け、クチート!」
出てきたのは意外に小柄なポケモンだった。黄色い体の愛嬌のある小人のような姿をしているが、その頭部にはポニーテールのように巨大な顎を備えている。

『information
 クチート 欺きポケモン
 頭の大顎は鋼の角が変形したもので
 攻撃に使用するが食事はできない。
 大顎で獲物を砕き本来の口で食べる。』

クチート、鋼とフェアリータイプを併せ持つポケモンだ。
「フェアリータイプ、しかも威嚇の特性かよ……ドラゴンクローが使えなくなっちまったな。だけど鋼があるから炎技はよく通る。リザードン、こいつも焼き尽くせ」
ジゼの言葉に、リザードンは咆哮で返答する。
「よっし! リザードン、火炎放射!」
もう一度大気を揺るがす咆哮を放つと、リザードンは灼熱の業火を噴き出す。
「クチート、躱しなさい!」
クチートはぴょんと跳躍し、リザードンの炎を躱すと、
「ストーンエッジ!」
着地すると同時に大顎を地面に叩きつけ、床から次々と尖った岩の柱を出現させる。
「岩技はやばい……リザードン! 躱して雷パンチ!」
翼を羽ばたかせてリザードンは突き進む。地面から突き出す岩を次々と躱しつつクチートとの距離を詰めていき、電撃を纏った拳を振り抜き、クチートを殴り飛ばした。
「ふぅん、やるじゃない」
それを見て、アスタロトは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ちょーっとパワーで負けてるかしらん? まぁクチートの能力はそれほど高くないからねー、少なくとも“今の”クチートは」
今の。
その言葉に、ジゼは何か嫌な予感を感じる。
少なくとも、そのまま聞き逃すことはできないニュアンスを含んだような。
「しょうがない、やっちゃいますか。クチート、準備できてる?」
アスタロトの言葉を聞いてクチートは振り返り、ニヤリと笑って頷く。
それを見てアスタロトは満足そうに頷き、髪を結った花のシュシュを解いた。
「……?」
怪訝な表情を浮かべるジゼを尻目に、アスタロトは花のシュシュを手に取る。
薔薇の花を模した赤いシュシュ。そして、その真ん中に、
「っ!? それは……!」
ジゼは気付いた。
薔薇の花の中で煌めくそれは、紛れもなくキーストーンだった。

「英雄の背に、欺瞞の牙を——クチート、メガシンカ!」

クチートの大顎の中の、一本の牙。
そこには、隠すようにメガストーン、クチートナイトが着けられていた。
アスタロトの持つキーストーンの光に、クチートのメガストーンが反応し、光を生み出す。
双方の光が繋がり、クチートは七色の光に包まれ、その姿を変えていく。
体が一回り大きくなるが、何よりも目を惹くのは頭部。
シルエットでも分かる。光の中で、頭の大顎は二つに分かれていく。
「メガシンカ☆メガクチート!」
そして光を薙ぎ払い、クチートはメガシンカを遂げる。
下半身と手首にかけて薄い桃色が入り、巫女装束のような袴を思わせる姿へと変化する。
そして一番の特徴は、やはり頭部の大顎。ただでさえ異質だった大顎が、まるでツインテールのように二つに増えているのだ。
「チッ……メガシンカ使いか」
「残念ねえ、お子ちゃま。私のクチートはメガシンカを遂げて特性が変化するのよん。それも、とっても強い特性にね」
「なに……?」
アスタロトの言葉を聞き、ジゼは図鑑を取り出し、メガクチートの情報を引き出す。
そして、その瞬間、ジゼの表情に驚愕が浮かぶ。
「力持ち……マジかよ……!」
「知ってるみたいね。なら、説明はいらないかな?」
力持ち。その特性は、攻撃力が2倍になるという単純かつ強力なもの。
「メガシンカにより耐久力が上昇、さらに特性で足りない火力は充分に補える。後の足りない部分は、私の頭脳で補う。それじゃあ、続けるわよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、アスタロトが指示を出す。
「クチート、ワンダーボム!」
クチートの二つの大顎の中に、ピンク色の霧を固めたような弾が作り上げられる。
顎を開くと同時にそれを振るい、クチートは二つの霧の弾を投げつける。
「っ! リザードン、回避!」
翼を広げて飛翔し、リザードンは一つ目は躱す。しかし二つ目を躱し切れず、弾が直撃、同時に鮮やかなピンク色の爆煙が迸る。
「クチート、今よ! メタルブラスト!」
体勢を崩したリザードンへ、クチートが背を向ける。
大顎が開き、そこから砲台のように鋼エネルギーの砲撃が発射される。
鮮やかな爆煙でリザードンの視界が塞がれ、鋼エネルギーを避けられず、リザードンは砲撃の直撃を受けて吹き飛ばされる。
「リザードン、気合入れ直せ! こっからが勝負だぜ!」
幸いというべきか、フェアリー技も鋼技も効果は今一つ。
起き上がったリザードンは火を吹いて吼え、自身を鼓舞する。
「よし! リザードン、シャドークロー!」
リザードンが腕に黒い影を纏わせる。
しかし、
「クチート、不意打ち!」
一瞬の隙をついてクチートがリザードンの懐へと潜り込み、大顎を振るってリザードンを弾き飛ばした。
「その調子よ! クチート、ストーンエッジ!」
クチートが両顎を床に叩きつけ、尖った岩の柱を出現させる。
メガシンカ前と比べて、二倍近い量の柱が次々と床から突き出す。
「リザードン、躱して火炎放射!」
しかしそれでもリザードンは岩の柱の間を突き抜け、クチートへ向けて火を吹き、灼熱の業火を浴びせる。
「クチート、ワンダーボム!」
炎を撃ち込まれたクチートだが、体勢を崩したまま二つの顎を使って霧の爆弾を投げつける。
「弾けリザードン! 雷パンチ!」
両腕に電撃を纏わせ、リザードンは二つの霧の弾へ拳を叩き込む。
ジゼは霧の弾を弾き返すつもりだったが、リザードンの拳に当たった瞬間にワンダーボムは爆発し、鮮やかなピンクの爆煙がリザードンを覆ってしまう。
「ワンダーボムは充分な威力を持つ上に、着弾した瞬間に炸裂する。物理攻撃で弾き返そうとしても無駄よん? クチート、メタルブラスト!」
爆煙に包まれたリザードンを狙い、再びクチートは二つの大顎を砲台のように構え、鋼エネルギーを口内に溜め込む。
「リザードン、また来るぞ! とにかく煙を薙ぎ払え!」
翼を激しく羽ばたかせ、リザードンは周囲の霧を何とか振り払う。
だが直後、クチートの大顎から鋼エネルギーが放出される。
「上等! リザードン、火炎放射!」
リザードンは大きく息を吸い込み、咆哮と共に紅蓮の業火を噴き出す。
だが、リザードンの高熱の炎を持ってしてもやはり特性により攻撃力が跳ね上がったクチートの砲撃に打ち勝つことができず、少しずつ押され、ついには砲撃を受けてしまう。
「私のメガクチートに攻撃力で勝てるわけないっしょ! クチート、ワンダーボム!」
両顎で霧の爆弾を持ち上げ、クチートは頭を振ってリザードンへ二つの霧の爆弾を投げ飛ばす。
「これは躱すしかないんだよな……リザードン!」
今度こそリザードンは二つ飛んで来る霧の爆弾を躱し、
「雷パンチ!」
拳を握り締め、電撃を纏わせたところで、
「クチート、不意打ち!」
再びクチートは一瞬の隙をついてリザードンへ接近し、大顎を振るってリザードンを叩き飛ばす。
「だったら焼き払う! リザードン、火炎放射!」
起き上がったリザードンが大きく息を吸い込むが、
「隙だらけよん? クチート、不意打ち!」
再びクチートが攻撃前の隙を突いてリザードンの腹部に大顎を叩き込む。
しかし、
「構うな! リザードン、放て!」
根性でクチートの打撃を耐え切り、リザードンはクチートへ向けて紅蓮の業火を噴き出した。
「っ!? クチート、躱して!」
慌ててアスタロトが回避の指示を出すが、間に合わない。
肉を切らせて骨を断つ一撃がクチートに直撃し、その鋼の体を焼き焦がしていく。