二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第111話 目的 ( No.187 )
- 日時: 2017/08/22 13:35
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: rS2QK8cL)
「社長さぁん、これでも駄目? 条件は悪くないと思うんだけどなぁ」
アルスエンタープライズ本社13階、最上階の社長室。
そこで社長と話すは、行儀悪くテーブルの上に腰掛け、不気味な笑みを浮かべる少女にも見える少年。
時代を間違えたような王冠と赤い派手な衣装に身を包み、悪戯っぽい光を浮かべた瞳で社長を見据える。
「……どんな条件を出されても返答は同じだ。顧客を危険に巻き込むような、そんな契約はできない!」
そして。
向かいの椅子では、震えながらも語気を強めて少年に言い返す初老の男性。
「そう言われてもさぁ、こっちも引き下がるわけにはいかないんだよね。今の街の状況、知ってるでしょ? ぼくが荒っぽい手段に出る前に、サインしてくれないかなぁ?」
そしてそんな社長の言葉を受けても、少年はせせら笑うのみ。
「しっかし強情だねえ。大分お金は積んだつもりなんだけどなぁ。それとも名だたる大企業の社長、これだけの金でもまだ安く見えるってことかな?」
「金の問題ではない! 顧客の信頼を裏切るような真似はできんと言っとるんだ!」
「……そうかぁ。流石に、そろそろこっちも荒っぽい手段に頼りたくなってきたんだけど」
遂に痺れを切らしたのか、少年が懐からモンスターボールを取り出す。
その時。
「そこまでだよ!」
カードキーによって社長室の扉を開き、ハルとジゼが部屋へと入ってくる。
「パイモン、社長を離せ。この街も解放するんだ」
ハルが踏み出し、テーブルに座る少年——パイモンへとそう言い放つ。
「ちぇっ、もう到着かぁ。思ったより早かったなぁ」
急に不機嫌そうな表情になったパイモンが、ハルの方を向く。
「てゆーか、ここに来たってことはパラレルもアスたんも負けちゃったのか。ああ、アスタロトのことね。倒したの、どっち?」
「最終的には僕だよ。戦ってくれたのはジゼだけど」
「へえ、やるじゃん。実はアスたんって、ああ見えてかなり頭いいんだよね。ぼくとまともに話が合うくらいにはさ。七魔卿の中じゃバトル自体は一番弱いけど、それでも誇っていいと思うよ」
本気出してたか知らないけどね、とパイモンは続ける。
「アスたん、専門技術学べばアモちゃん——分かるかな、アモンの代わりに参謀くらいなれると思うのになぁ。アモちゃんも賢いけど、たまに考え方が古臭いんだよねぇ。アモちゃんみたいなのはバトルの方が向いてるよ、多分」
「お前、イザヨイシティを乗っ取って、何が狙いだ」
話がずれてきたパイモンの言葉は無視し、ジゼが口を開く。
しかし。
「ん? あぁ、その話ね。そっちはアスたんとロノが考えたことだから。そもそもさぁ」
パイモンの返答は、ハルとジゼの予想とは全く違っていたものだった。
「イザヨイシティなんて、そんなのどうでもいいんだよね。ぼくの目的は、このアルスにあるんだから」
「は……?」
「どういうこと……?」
疑問を隠せないジゼとハルに対し、パイモンはさらに続ける。
「アルス・ターミナルに関する全ての権限をゴエティアに引き渡せ。こっちの要求はそれだけなんだけど」
ハルたちの思考が、一瞬停止した。
「じゃ、じゃあなんで街の制圧なんか……!」
「それ? アスたんに『交渉の間邪魔が入らないようにして』って頼んだら、アモちゃんに協力してもらって街ごと制圧しちゃったんだよね。アモちゃんがゴエティアの拠点から街の動力『マキナシステム』にハッキングして丸ごと乗っ取って、セキュリティを含めた一切の機能を停止させて、その間にアスたんがロノを引き連れて一気に制圧。何もそこまでする必要なかったんだけど、邪魔は入らないから結果オーライ……まぁ結局こうして邪魔が入ってるんだけどねえ」
これが、ゴエティア。
たった一つの契約を取るためだけに、街一つ、それもマデル地方最大の街を容易く制圧する。
「馬鹿な……『マキナシステム』を、ハッキングした?」
そして、パイモンの言葉に反応したのはアルスの社長と思われる初老の男性だった。
「『マキナシステム』はこの街のジムリーダー、天才学者マキナが作り上げた、彼女にしか扱えない最高傑作。それを乗っ取るなど、出来るはずが……」
「だーかーらぁ」
面倒臭そうにパイモンが口を開く。
「そっちの常識で物事を考えてもらっちゃ困るんだよね。普通の人間じゃ出来ないことが出来るのがぼくら魔神卿なんだよ」
さて、とパイモンは再びハルの方に向き直り、
「ハル君はイザヨイシティを解放しに来たんだよね? つまり、ぼくを倒しに来たわけだ」
「そうだよ」
「へぇ。だったら」
パイモンは手にしたモンスターボールをハルへと向ける。
「今のぼくを相手に君がどこまでやれるか、試してあげるよ。シュンインの林で会った時と比べて、君がどれくらい成長してるか、ぼくとしても気になるしね。ただあんまり時間は掛けたくないから、勝負は二対二でどうかな? 君が勝ったら、この街は解放するけど」
「分かった。元よりそのつもりでここに来たんだ。ジゼ、下がってて。勝負だ、パイモン!」
「ふふ、そうこなくっちゃ。それじゃ、始めようか」
不敵な笑みを浮かべて、パイモンは手にしたボールからポケモンを繰り出す。
「やっちゃえ、スターミー!」
現れたのは、青い星型のボディが連結したようなポケモン。その中心部には赤いコアがあり、淡く発光している。
『information
スターミー 謎のポケモン
初期に発見されているポケモンだが
その生態は未だ不明。赤いコアから
謎の電波を送受信しているらしい。』
図鑑の説明を見ても謎だらけだが、とりあえず水とエスパータイプを持つポケモンであることは分かった。
「スターミー、邪魔なものどけちゃおう。サイコキネシスだよ」
スターミーは場に出ると赤いコアを光らせ、念力を使って、部屋にあるテーブルや椅子を社長ごと全て部屋の隅へと移動させる。
「スピアー、社長が何かしないように見張ってて。変な真似したら刺していいから」
さらにパイモンはスピアーを出し、スピアーは社長の背後に移動すると、鋭い毒針を社長の首元に近づける。
「さ、ハル君、ポケモンを出しなよ」
「よし……出てきて、オノンド!」
スターミーに対し、ハルが選んだのはオノンド。
「それじゃ、始めよう。スターミー、まずは十万ボルト!」
バトル開始と同時、スターミーが回転を始める。
赤いコアに電気がチャージされ、そこから高電圧の強力な電撃が放出される。
「オノンド、躱してドラゴンクロー!」
スターミーの放つ電撃を躱しつつ、オノンドは龍の力を纏わせた爪を構えて突撃する。
「ん、スターミー、弾いちゃおっか」
対するスターミーは躱そうとしなかった。
代わりに、その場で超高速で回転し、振り下ろされたオノンドの攻撃を逆に弾き飛ばしてしまう。
「はーい今だよ。冷凍ビーム!」
振り下ろした腕が弾かれたオノンドに対し、スターミーは赤いコアから凍える冷気の光線を発射する。
体勢を崩して対応が遅れ、オノンドは冷気の光線の直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「っ、氷技を持ってるか……オノンド、大丈夫?」
冷気の光線を受けても、オノンドは何とか立ち上がるが、
(しかしなんて威力だ……確かに効果抜群だけど、それにしたって……)
このスターミー、かなり火力が高い。もう一撃受けて耐えられるか怪しい、さらにもう一撃受ければ確実に戦闘不能。それくらいの火力は持っている。
「さあ、どう来るのかな? 来ないなら、こっちからだよ。スターミー、サイコキネシス!」
中央のコアを妖しく光らせ、スターミーが念力の波を放出する。
「オノンド、シザークロス!」
長い牙を二連続で振るい、オノンドは念力を食い止めると、
「もう一度だ!」
再び牙を構え、突撃していく。
「スターミー、もう一回弾いちゃえ」
対してスターミーも再び高速回転を仕掛け、オノンドを迎え撃つ。
そこで、ハルは咄嗟にカザハナジム戦を思い出す。回転を得意とするカポエラーを、あの時、どう攻略したか。
「……オノンド! 中心のコアだ! いくら回転しようと、中心なら関係ない!」
床を蹴って飛び上がり、オノンドは赤いコアへ牙を振るい、スターミーを切り裂く。
「へーえ、やるじゃないの。スターミー、もう回転戦法は使えないね。別の戦い方を仕掛けよう」
そしてそんなハルとオノンドを見て、パイモンは寧ろ楽しむような笑みを浮かべる。