二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第115話 イザヨイシティ ( No.191 )
日時: 2017/06/19 11:47
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

イザヨイジムは、透明なガラスで覆われた研究施設のような場所だった。
「マキナさん。二人を連れて来ましたよ」
スグリが二人を連れて先頭に立ち、建物の中へと入る。
「お邪魔します」
「失礼します」
ハルとジゼもその後に続く。
入り口には通路が続き、そこにはいくつかの扉が並んでいた。
そして、
「あら、いらっしゃい。スグリサン、ありがとうネ」
その中の一部屋の扉が開き、女性が現れた。
髪は灰色の長いストレートヘアーで整った顔立ち、黒い服の上から白い白衣を着た、いかにも研究者、といったような姿の女性。
しかし、
「え……!?」
「は……?」
そんなことはどうでもよくなるくらいに、彼女の体には特徴があった。
「あら、やっぱり気になるかしら? 私にとってはこれが正常体なノ、気にしないでネ」
服を着ているといってももちろん腕や手、足は露出しているのだが、二人が驚いたのは彼女の右半身だ。
彼女の右手や右足は、見て分かるレベルで完全に機械化しているのだ。
「研究の過程で今はこうなっているだけヨ。体に異常はないから、安心してネ」
「は、はぁ……?」
よく見れば右目もおかしい。白目にあたる部分は黒く、瞳は緑色と、明らかに機械に侵食されている。
自分でそう言うということはそういうことなのだろうが、どうしても違和感がある。当然といえば当然だが。
「面と向かっての自己紹介はまだだったわネ。私はマキナ、この街のジムリーダーにして、この街のシステム『マキナシステム』の管理人ヨ」

『information
 ジムリーダー マキナ
 専門:鋼タイプ
 異名:機械仕掛けの女王(デウスエクスクイーン)
 趣味:研究、実験』

「ハルと言います。よろしくお願いします」
「ジゼです」
ハルとジゼも、簡単に自己紹介する。
「さっきはどうもありがとうネ。君たち二人とスグリサンのおかげで、この街を守ることが出来たワ。あ、そう言えば」
ふと何かを思い出したようにマキナは話を変える。
「さっきゴエティアを捕まえようとして、セキュリティロボットの警備レベルを最大まで上げちゃったのヨ。そのせいで、関係ない人たちを何人か捕まえちゃったらしくてネ」
「関係ない人? あ……」
「まさか」
ハルとジゼが思い浮かべている人たちは、同じだった。
「ちょうどいいし、ここで解放するワ」
マキナが懐からスイッチを取り出し、ボタンを押す。
すると無数のロボットたちが現れ、拘束していた人間を次々と床に投げ捨てていく。
「やっぱり……」
「メイゲツさん、大丈夫っすか?」
予想通り、関係のない人たちとはノワキタウンの住人だった。
「痛え、くそ……こいつら、突然ぞろぞろと現れて、俺たちを無理やり連れて行きやがった。俺たちは街を守ろうとしてた側だっつーのによ」
「ごめんなさいネー。何しろセキュリティレベルを最大に上げていたものでネ」
頭に手を当てながら舌を出し、とりあえず謝っておくマキナ。
「謝罪の意思が微塵も感じられねえんだが? ……まぁいいか。ハルとジゼが無事だったことだし」
「二人とも、大手柄だったらしいな」
「流石ね、ジゼ。すごいわ」
解放されたヴァレンやネルたちも、ハルやジゼを賞賛する。
「さて、今日は皆さん、疲れているでしょ。私はまだ復旧作業が残ってるからジムも開けないし、皆さん今日はゆっくり休むといいワ。明日には、ジムを再開するわネ」



「それじゃ、ハル、ジゼ。またな」
「ええ、本当にありがとうございました」
「メイゲツさん、お元気で。次に会う時は、成長した俺の姿を見せてやりますよ」
「おう。楽しみにしてるぜ」
ハルとジゼに別れを告げ、メイゲツ一行はノワキタウンへと帰っていった。
「へえ、ジゼ君ノワキタウン出身なのかぁ。あそこはヤバい奴らが一杯いるって聞いてたけど、全然そんな感じしなかったな。優しそうな人たちばっかじゃん」
「ま、あの町の人らは認めた人には優しいぜ。認められるかどうかはそいつ次第だけどな。ハルは見事メイゲツさんに認められたけど」
この短い間で、ジゼとスグリはすっかり打ち解けていた。
「ところでスグリ君、マキナさんがさっき気になったこと言ってたよね」
「ん、なに?」
「マキナさんがシステムとドッキングしていたのを、スグリ君が切り離した、みたいな」
「ああ、あれね」
ハルの疑問に対し、スグリは軽い調子で答える。
「さっき見た通り、あの人って体の半分が機械化してるんだよ。それを利用して、この街のメインシステム『マキナシステム』と機械の体をドッキングさせて、システムの中枢をマキナさん自身の脳で増強してるってわけ。あの人ただでさえ天才的な頭脳持ってるのに、さらに人工知能も移植して、今ではとんでもない知能指数だって話だよ」
「へ、へえ……」
ハルの反応が微妙なのは、驚いていないからではない。
話がとんでもなさ過ぎて、理解が追いついていないのだ。
「引っ越してきたハル君は知らないだろうけど、あの人はマデル地方じゃ有名な研究者だよ。失敗したことがない科学者ってね」
「失敗したことが、ない?」
「そそ。失敗を失敗と考えてない、ってのが正確な言い方だけどね。普通の研究者なら失敗と考えるところを、あの人は成功への一歩って考える。どんな悲惨な失敗でも、それは成功への道筋。今やってる研究は、体に機械を取り込んで半永久的な命を得る研究。それが失敗して体の半分が機械化しちゃったんだけど、それすら成功のための一歩だって捉えてる」
「そ、そうなんだ……」
話がぶっ飛び過ぎてよく分からなかったが、とりあえずマキナという人がとんでもなく凄い人だということは分かった。
「オレが凄いって思うのは研究の成果じゃなくて、その思考回路。オレからしてみたら肉体の半分が機械になったらなんて考えたくもないけど、マキナさんはその成果を得て喜び、それをどう生かせるか考える。その結果産み出されたのが、人間と機械を繋いでフル稼働する『マキナシステム』だってんだから、あの人の思考回路は凄いと思うよ」
「うーん、なるほどねえ……」
そこだけはハルにも同意出来た。
「ま、周りからの評価は両極端らしいけどね。天才科学者だって褒める人もいれば、マッドサイエンティストだって非難する人もいるらしいよ」
「そりゃそうだろ。体が機械に変わって喜ぶなんて、明らかに常人じゃねえしな。少なくとも俺はマッドサイエンティストだと思うぜ」
そんなことを話しながら、三人はポケモンセンターへと戻る。
街を見てくる、とスグリとジゼが外に出た後、ハルはポケモンセンターの地下、バトルフィールドのある交流場へと向かった。
勿論、それには目的がある。
「さて。ラプラス、出てきて」
明日ジムに行く前に、仲間に加えたラプラスのことをもっとよく知っておきたかったのだ。
ボールから出てきたラプラスはハルの方を向き、じーっとハルの方を見る。
「ラプラス、改めてこれからよろしくね。君がどんなポケモンなのか、知りたいんだ。早速だけど、君はどんな味の食べ物が好きなの?」
そう言いながら、ハルは五種類の木の実を差し出す。
ラプラスはしばらくその木の実を吟味していたが、やがて甘い味に程よい酸味のあるソクノの実を咥え、飲み込むと、ご機嫌な声を上げる。
「甘い味が好きなんだね。僕と一緒だ」
嬉しそうなラプラスの様子を見て、ハルも笑顔で返す。
「ところで、ラプラス。君、バトルはしたことある?」
出会って間もないハルの言葉も正確に理解できているらしく、ラプラスは勢いよく頷く。どうやら、バトルが苦手というわけではないようだ。
「じゃあ、これからここにいるトレーナーたちと、何試合か戦ってみない? 僕ももっと君と心を通わせ合えるようになりたいし、それにはバトルが一番だと思うんだ」
ハルの言葉に、ラプラスは力強く頷いた。
「よし、それじゃ、ちょっとやってみよう」ラプラスを連れ、ハルは暇してそうなトレーナーを探す。