二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第8話 盗難 ( No.35 )
- 日時: 2016/10/29 21:54
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
- 参照: ジムバッジを手に入れたハルの前に、事件が——
「ところでハル君、貴方はここが初めてのジムでしたわね」
「え? あ、はい、そうですけど……」
ジム戦が終わった後、ハルはイチイに話を持ちかけられた。
「それならちょうど良かったですわ。実はさっき、カザハナシティのジムリーダー、ヒサギさんから連絡が来まして」
そう言ってイチイはターミナルを取り出し、メールの文面を見せる。
「ここに書いてある通り、カザハナシティでポケモンバトル大会を開こうとしたものの、参加者の数が足りないらしいんですの。まぁ、これはヒサギさんが『バッジを一個までしか持っていない者のみ』という制限を付けてしまったからだと思うのですけれど。ヒサギさんからすれば、ちょうどいいポケモンバトルの場を設けたつもりみたいですけれどね」
まぁ簡単に言えば、カザハナシティに行って大会に出て、そこのジムリーダーに協力してあげてほしい、ということだ。
「ちょうどジム戦もできるし、次はカザハナシティに行ってみてはどうかしら?」
「はい、じゃあそうしてみます」
次はどこに行こうか迷っていたところだったので、この申し出はありがたい。
「……それと」
さらに、
「ハル君がどんな目的で旅を始めたのかは分かりませんけれど、自分が歩みたい人生を歩みなさい」
急に、イチイの口調が変わる。
「私は元々富豪の生まれ。ですが、親に人生を決められるのが嫌で、家を飛び出し、ここの店長、クネニさんに拾っていただき、この花屋で働かせてもらっているのです。財産は家にいた頃の方がずっと多かったですが、生活はこちらの方がよっぽど楽しいですわ」
そこでまたイチイはにっこりと笑う。
「私はこれを全ての挑戦者に言っています。自分が決めた道を歩みなさい。人に決められる人生なんて、退屈で仕方ありませんわ。それじゃ、カザハナシティでの大会とジム戦、応援しておりますわよ」
「……はい。ありがとうございます!」
もう一度イチイに礼を告げ、ハルはジムを後にした。
後にしたところで、ハルはスグリに出会った。
「あれ、ハル君じゃん。もしかしてジム戦帰り?」
「うん。たった今バトルが終わったところ」
ハルがそう返すと、スグリはニヤリと笑みを浮かべ、
「で、どうだった? 勝ったの?」
「勿論。ギリギリだったけどね」
そう言ってハルはバッジを取り出す。
「へーえ、やるじゃん。ハル君に追いつかれちゃったなぁ。ま、オレは今からここのジム戦に勝つから、すぐに追い越すけどね」
スグリが得意げな笑みを浮かべて、そんな話をしていると、
「あら、また挑戦者の方ですか?」
店の奥からイチイが出てきた。おそらく、二人の話を聞いて店の人がまたイチイを呼んできたのだろう。
「って、あら、ハル君のお友達ですの?」
「まぁね。バッジの数を追いつかれたもんで、追い抜きに来たわけよ」
「あらあら、自信満々ですわね。そう簡単には勝たせませんわよ……それと」
イチイは一旦笑顔になるが、すぐに申し訳なさそうな表情に変わる。
「申し訳ないのですけれど、少し休憩を取ってもよろしいかしら? 私のポケモンも連戦になってしまうし、そうなるとベストコンディションで戦うことが出来ませんのよ」
「ちぇっ、そう言われちゃ待つしかないね。分かった、じゃあこの辺りで一時間くらい時間を潰してるよ」
残念そうな表情を隠すこともせずに顔に出していくスグリ。
と、そんな時。
「ハル……! イチイさん……!」
大声で二人を呼ぶ声が聞こえた。それだけならいいのだが、聞き間違いでもない限り、友人の泣き声だ。
二人が振り向くと、予想通りサヤナが道路を走りながら泣き顔でやって来た。
「あら、昨日来たサヤナさん? どうされたのですか?」
イチイが真っ先に進み出て、サヤナの頭を撫でながら尋ねる。
サヤナに特訓のアドバイスをしたり、ハルに進路相談を持ちかけたり、花屋の看板娘を担当したりと、イチイはとても面倒見のいい性格なのかもしれない、とハルは思った。
だが、今はそんなことはどうでもよかった。
なぜなら、サヤナはこう言ったからだ。
「私のポケモンが、変な男の人二人組みに取られちゃったの……!」
「!?」
思わず目を見開く三人。
「な、なんだって……!?」
早い話が、ポケモン泥棒だ。
「あの、ちょっといいかな。サヤナちゃんだっけ、ポケモンを盗まれたのはどこ?」
真っ先に声を掛けたのは、隣に立つスグリだった。
「近くの……林……ポケモンの特訓をしてて、ボールに戻したところを……」
「分かった。格好とかは覚えてる?」
「真っ黒な服装の二人組……林も薄暗くて、見失っちゃった……」
恐らく、サヤナが昨日言っていた林だろう。
「あそこだな……ハル君、行くよ。ジム戦は後だ、先に泥棒からポケモンを取り返しに」
「あ、うん……でも、ポケモンの回復が」
「オレの持ってる傷薬をやるよ。ポケセンに戻ってる時間がない。さ、行くよ!」
「う、うん!」
スグリが駆け出し、慌ててハルもそれに続く。
「すぐに追いかけますわ! 無理はなさらず! サヤナさん、貴女はここで待っていてください」
イチイも花屋の奥に戻り、店長に事情を話し、二人の後を追う。
シュンインの林。
そこまで広くはない林で、ポケモンの特訓の穴場だ。
珍しいポケモンはあまり生息していないが、近辺の道路と比べて少しだが強力なポケモンが多いとされている。
ハルとスグリは現在、林の中を突っ走っている。
方向が合っているのか不明だが、スグリ曰く間違いないらしい。
『information
オンバット 音波ポケモン
光無き洞窟で暮らし耳から超音波を
放って周囲の様子を正確に把握する。
ズバットとは違い日光にも強い。』
耳の大きな紫色のコウモリのようなスグリのポケモンが、二人を案内するように飛んでいる。
「オンバットは超音波で周りの様子を探れるんだ。この能力を使えば、奴らがどこにいるかも大体特定できる」
茂みを掻き分け進みながら、スグリは説明する。
「ここで特訓しているのはオレたちと同年代の新人トレーナー。だから最初は人気のない場所を探し、その後大人を探す。ちょうどさっき、オンバットが大人の二人組を見つけた。止まって休憩してるらしい。チャンスだ」
しばらく進むと、急にスグリが止まり、ハルを制止する。
二人が立ち止まると、近くから話し声が聞こえてきた。