二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第9話 ゴエティア ( No.36 )
- 日時: 2016/10/30 12:02
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「いやー、いい収穫だったな」
「コフキムシはどうでもいいが、こっちのアチャモは珍しいポケモンだぜ」
ハルとスグリが少しずつ忍び寄っていることも気付かず、二人の黒装束の男は木の幹にもたれかかって話している。
「アチャモ、コフキムシ。間違いないよ、あいつらがサヤナのポケモンを奪った奴らだ」
「オッケー。それじゃ、サクッとやっちゃいますか」
オンバットをボールに戻し、ハルとスグリは動き出す。
「サヤナのポケモンを返せ!」
まず正面から、ボールを突き出してハルが飛び出す。
「!?」
慌てて二人の男が逃げ出そうとするが、
「悪いけどお兄さんたち、もう逃げらんないよ」
その逃げ道を塞ぐように、茂みからボールを持ったスグリが現れる。
「く、くそ、こうなれば!」
「ああ! こうなりゃ力尽くだ!」
逃げることを諦めたのか、黒ずくめの男たち二人もモンスターボールを取り出した。
「行け、フシデ!」
「やれ、ポチエナ!」
ハルに相対する男は赤い小型のムカデのようなポケモンを、スグリに相対する男は黒い子供のオオカミのようなポケモンを繰り出す。
『information
フシデ ムカデポケモン
非常に凶暴な性格で天敵の鳥ポケモン
にも噛み付いて毒を送り込む。触覚で
空気の揺れを感じ取り獲物を探す。』
『information
ポチエナ 噛みつきポケモン
動くものを見つけるとすぐに噛みつき
逃げる相手はしつこく追いかける。
だが反撃されると尻尾を巻いて逃げる。』
「虫タイプなら……! 出てきて、ヤヤコマ!」
「ジュプトルに頼るまでもないね。出て来い、ブイゼル!」
ハルとスグリが、それぞれ戦闘に入る。
「フシデ、糸を吐く!」
「ヤヤコマ、火の粉だ!」
フシデが白い糸を吐き出し、ヤヤコマを拘束しようとするが、ヤヤコマは無数の火の粉を吹き出し、その糸を燃やしてしまう。
「フシデ、ポイズンボール!」
「躱して疾風突きだ!」
糸が当たらないのを見ると、フシデは毒素を固めた球体を放つが、ヤヤコマはそれを躱して嘴を突き出し、高速で突っ込む。
「フシデ、虫食いだ!」
フシデが口を開いて迎え撃とうとするが、それよりも早くヤヤコマが嘴でフシデを突き飛ばした。
「くっ、フシデ、毒にするぞ! ポイズンボール!」
再びフシデが毒素を固めた弾を放つが、
「ヤヤコマ、エアカッター!」
ヤヤコマは翼を羽ばたかせて風の刃を飛ばし、毒の弾を切り裂いて壊し、さらにフシデ本体も切り刻む。
「一気に決めるぞ! ヤヤコマ、火の粉!」
連続攻撃を受けてフシデが数歩下がったところに、ヤヤコマは口から火の粉を吹き出し、フシデの体を焦がす。
炎を浴び、黒焦げになったフシデは、そのまま目を回して動かなくなった。
「ブイゼル、アクアジェット!」
ブイゼルが水を纏い、猛スピードで突撃を仕掛ける。
「ポチエナ、噛み付く!」
ポチエナは迎撃しようと口を開くが、その時には既にポチエナはブイゼルに突き飛ばされていた。
「速い……っ! ポチエナ、突進!」
「遅いっての! ブイゼル、瓦割り!」
立ち上がったポチエナが地面を蹴って突撃を仕掛けようとするが、その瞬間にブイゼルに脳天へ手刀を叩きつけられ、再びよろめく。
「くそっ! ポチエナ、噛み付く!」
「もう決めようか。ブイゼル、水の波動!」
ポチエナが口を開けたその瞬間、ブイゼルがその口の中に水の弾を叩き込んだ。
ポチエナの口の中で水が炸裂し、派手に吹き飛ばされ、ポチエナはそのまま戦闘不能になった。
「嘘だろ、俺のフシデがたかが子供に!?」
「こんなに早くやられるなんて、そんなバカな……!」
どうやら黒装束の男たちはこれ以上ポケモンを持っていないらしい。
「さぁて、そろそろ観念してもらおうかな」
「サヤナのポケモン二匹を、返してもらうぞ」
ハルとヤヤコマ、スグリとブイゼルにかこまれ、追い詰められていく。
焦る男二人。ハルとスグリはポケモンを連れ、少しずつ圧力をかけていく。
その時だった。
ズドォン!!! と。
轟音が響き、その真ん中に何かが落ちてきた。
「っ……!」
「な、なんだ!?」
ハルは後ずさりし、スグリは腕で砂煙から目を覆う。
「……あーあー、折角の木々が台無しだぁ。やっちゃったやっちゃった。まぁバカみたいに生えてるし、別にどぉだっていーかぁ」
砂煙の中から、声が聞こえる。
少年にしては高いが、少女にしては低い。そんな声だった。
そして砂煙が晴れると、そこには一人と一匹。
まずポケモン。鋼の円盤のようなボディに、二本の鉄の腕が付いている。
『information
メタング 鉄爪ポケモン
時速100キロの速さで空を飛ぶ。
分厚い鉄板を引き裂く爪にジェット機と
ぶつかっても傷つかない頑丈な体を持つ。』
鋼タイプのポケモン、メタングが赤い瞳を光らせ、周囲を見回す
そして、そのメタングの上に座る人影。
金色の王冠を被り、長い黒髪を垂らし、肩を露出させた丈の長い赤い服を着ている。
体つきも身長も少年にも少女にも見え、性別が分からない。足は裸足だ。
「はいはいはい、見つけた見つけた見つけたっと。ったく、なんでこんなところにいるんだよ。林の中にいるから空から探せないじゃんかよ」
悪態を吐きながら、謎の人物は黒装束の二人からサヤナのボールを取り上げ、ハルとスグリの方に振り向く。
「君たち、このポケモンを取り返しに来たんでしょ? これ返すからさぁ、代わりにこいつら引き渡してくんない?」
何気ない様子で首を傾け、二つのボールを掴んだ左手を突き出し、そう尋ねる。
「……その前に」
スグリがブイゼルを連れたまま、その人物に詰め寄る。
「取引を持ちかける前にさ、自己紹介の一つくらいしたらどうなのさ」
「あらぁ? 気の強い奴がいたもんだ。こんな怪しそうな男に、自ら話しかけて来るなんてね」
スグリに詰め寄られても、自らを男だと示したその少年は顔広一つ変えない。
「『ゴエティア』。その名前を聞けば、気付くんじゃないかな?」
「……っ。『ゴエティア』だって……?」
刹那、スグリの表情から余裕が消えた。
だが目の前のスグリなど気にしていない様子で、少年はハルの顔を見据え。
「あら? 君はこの地方の人間じゃないのかな? この地方の人間なら絶対に分かるはずなんだけど」
歴史の勉強が足りないなぁ、と少年はせせら笑い、
「じゃあこっちなら分かるかな? 百年前に起きた大戦、それを引き起こした『王』が引き連れていた組織の名前。それが『ゴエティア』なのさ」
「百年前の紛争……『王』……。……!」
ハルも思い出した。最近、マデル地方の歴史の本で読んだばかりだ。
「ぼくたちの組織の名は、まさにその『ゴエティア』。百年前の王の思想を理解し、それを受け継ぐ者たち。そして」
ニヤリと。その少年は顔いっぱいに悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「『王』を支える、悪魔と呼ばれた特別な七人の部下。七人の悪魔を集めて、全員揃って七魔卿。そう、ぼくはその七魔卿の中の一人」
ようやく、その名を明かす。
「ぼくはパイモン。ゴエティアに仕える、七人の魔神卿の一人だよ」
そう、名乗った。