二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第10話 Paymon ( No.37 )
日時: 2016/10/31 09:25
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: PHzrOxCh)
参照: 突如現れた、謎の少年。その正体は?

「魔神卿……パイモン……?」
分からない言葉だらけだが、とりあえずこの少年の正体と、何をしに来たのかは分かった。
「さ、もう一度言うよ。このポケモン返すからさぁ、こいつら引き渡してくんない?」
相変わらず薄ら笑いを浮かべ、パイモンは再びそう持ちかけた。
「ポケモンは受け取るよ。だけど」
スグリがさらにもう一つボールを取り出し、進み出た。
「性格上さぁ、悪人は放っておけないんだよ。どうせポケモン泥棒するような奴らの上司だ、あんただってどうせろくな奴じゃないんだろ? オレがぶっ飛ばしてやるよ」
「……ふぅーん」
そんなスグリをパイモンはじっと眺め、
「あくまでやる気なんだねぇ。そういう姿勢は嫌いじゃないけど、強気と無謀は違うってことを教えてあげる必要があるね」
袖からモンスターボールを取り出した。
「やっちゃえ、スピアー!」

『information
 スピアー 毒蜂ポケモン
 猛スピードで飛び回りお尻や腕の
 毒針を突き刺す。どんなに手強い
 相手でも強力な毒で仕留めてしまう。』

黄色い大きな蜂のようなポケモンが現れた。目を引くのは腕と腹部の巨大な毒針だ。
「ハル君、サポート頼むよ」
パイモンから目線を逸らさず、スグリはハルに声を掛ける。
「こんなのでも一応相手のボス格だ。二人がかりで速攻で決めるよ」
「わ、分かった。リオル、出てきて」
「ジュプトル、出番だ」
ハルはリオルを出してスグリの横に並び、スグリはエースのジュプトルを繰り出す。
「始めるよ。ジュプトル、タネマ——」

「必殺針!」

一瞬だった。
ズドォン!!! という轟音と共に、地面がクレーターのように凹んだ。
ジュプトルが動き出すよりも早く、スピアーが腹部の毒針を地面に思い切り突き刺した。
たったそれだけ。たったそれだけで、林の一角の地形が容易く変えられたのだ。
「な……っ!?」
「ッ……!」
ハルもスグリも、完全に動きを止めていた。
スピアーに圧倒され、動けなかった。
「今のは警告」
パイモンの笑みの中に、一瞬邪悪なものが入ったのを二人は感じ取った。
「どう? これでもまだやる? これ以上やるっていうんなら、次は今の一撃がそのまま君たちのポケモンにぶち込まれるけど」
「っ……スグリ君」
「……ああ。ここは退こう。オレたちじゃ勝てない」
ジュプトルを戻し、スグリは悔しそうな表情を浮かべ、一歩下がった。
ハルも同感だった。そもそも、一体何をどうしたら一撃で地形を変化させるほどの威力の技を使えるのだろうか。
「うんうん、これで分かってくれたみたいだね。パイモンさんは嬉しいよ。そんじゃ、これで取引成立ってことで。ほいっと」
そう言いながらパイモンはサヤナのボールをハルに向けて適当に投げ、恐らく下っ端なのだろう黒装束の男の方を向く。
「あぁ、パイモン様、助けてくださり、ありがとうございました……」
先程までの勢いはどこへやら、男たちはへたり込み、途端に情けない声をあげて下手に出る。
だが、
「はぁ? 誰がお前たちを助けに来たって?」
こちらも先程とは打って変わって、悪魔のように冷たい声になるパイモン。
「本当にバカだねお前たち。ぼくがここに来たのはお前たちを助けるためじゃない。この男の子二人、特に後ろの子に興味を持ったからだよ。どうしてこのぼくがお前たちみたいな下っ端なんかを気にかけなきゃいけないのさ。おまけに勝手に問題起こして勝手に追い詰められて。もういいや、お前たちみたいなバカはゴエティアにはいらない。連れて帰って処刑ね」
そこで。
あ、と何かを思い出したかのように、またパイモンはハルとスグリの方を向く。
「そうだった。百年前の話なんだけどね。『王』を打ち倒した七人の救世主は、ちょうど君たちくらいの歳の少年少女だったんだ。特に後ろの君。君はその時の救世主の一人によく似てる。だから、ぼくは君たちの存在に、特にハル君だっけ? 君に期待しているんだよ。今は弱っちくても、いずれぼくたちの好敵手になるんじゃないかってさ。だから、君たちを始末するのはその時まで待ってあげるよ。パイモンさんは気に入った人間には優しいのだ」
さあ、とパイモンが再び下っ端の方を振り向いた、まさにその時。

「チェリム、自然の力!」

女性の声が響き、直後、林の地面から無数の蔓が出現し、一斉にパイモンのスピアーに襲い掛かった。
蔓を叩きつけられ、スピアーが吹き飛ばされる。
「自然の力……大成長かぁ。なんだよ、出て来なよ。誰?」
面倒くさそうに頭を掻きながらパイモンが振り向く。
その途端に日差しが強まり、
「すみません、遅れてしまいましたわ」
ジムリーダー、イチイが遅れてやって来た。すぐ横にはチェリムを連れている。
「あーあーあー。ジムリーダーが来ちゃったかあ。まぁ、でも」
パイモンが不敵に笑い、林の奥からスピアーが戻って来る。
「折角だ。実力の違いを教えてあげよう。スピアー、必殺針!」
「チェリム、自然の力!」
スピアーが腹部の針を突き出して突撃し、チェリムは自然の力を起こして無数の蔓を向かわせる。
だが結果は明白。
スピアーの針が容易く蔓を裂き、チェリムに針を突き刺し、木の幹まで吹き飛ばした。
「なっ……チェリム!」
流石はジムリーダーのポケモン、まだやられてはいないが、とはいえそれでも大ダメージ。
「なーんでそんなに揃いも揃って躍起になるのかなぁ? ぼくはこいつらを処刑するために連れ戻そうとしただけでさぁ、君たちに害を与えようってわけじゃないんだけど? ま、今ので実力の差は分かったでしょ? じゃあぼくもう行くね……ほら行くぞゴミ共! 自分で動くこともできねえのかよ! もういいや、メタング、サイコキネシス!」
パイモンが怒鳴り、メタングは念力を操って下っ端二人の動きを操作する。
スピアーと念力を維持したままパイモンを乗せたメタングが、宙に浮かび上がった。
「名前は覚えたよ。じゃあね、ハル君、スグリ君」
それだけ言い残し、パイモンは二人の下っ端を連れ、去っていった。



事件の後、すぐにイチイは警察へとゴエティアなる組織についての連絡をし、ハルとスグリは取り返したポケモンをサヤナに返した。
犯人は取り逃がしたが、サヤナのポケモンは無事取り戻せた。
「ハル、それにスグリ君! ありがとう! イチイさんもありがとうございました!」
「いいえ。貴女のポケモンが無事で、よかったですわ。それじゃ、改めてジム戦なのですけれど……スグリ君もジム戦でしたわよね。順番どうしましょう?」
「あ、オレはやっぱり今日はいいよ」
サヤナとスグリを交互に眺めるイチイに対し、スグリは手を横に振る。
「ヒサギ兄から大会に参加してくれってメールが来てさ。ほら、オレってカザハナシティ生まれだからよくヒサギ兄と連絡取るんだけど、この大会、バッジを二個以上取っちゃうと出れないじゃん? だから、大会が終わったら挑戦しに来るよ」
そんじゃね、とスグリは手を振り、去っていった。一足先にカザハナシティに向かったのだろう。
「ハル、先にポケモンセンターに戻ってて。それじゃあイチイさん、もう一度ジム戦よろしくお願いします!」
「ええ。受けて立ちますわよ」
これにて一件落着。
ハルは先にポケモンセンターに戻り、サヤナはリベンジマッチに挑戦する。