二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第1話 マデル ( No.6 )
日時: 2016/10/26 01:45
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: マデル地方でポケモントレーナーとなる、少年少女たち。

ハツヒタウンはマデル地方の南に位置する小さな町だ。
片田舎といったような感じで、自然を壊さずに人工物が建てられている。
唯一目立つものがあるとすれば、この町の中で最も大きな建造物、ハツヒタウンの北に立つミツイ博士の研究所だ。
「これが博士の研究所か……」
ミツイの家の一室を借りて一泊し、翌日、ハルは研究所を訪れていた。
「……失礼します」
ガラスの扉をゆっくりと開け、ハルは研究所に入る。
中はそこまで広くないが、部屋の奥には扉があり、研究所らしくハルの見たこともないような機械がいくつも作動している。
そして、部屋の中央には一つの人影が。しかし、ミツイではない。
「……? だあれ?」
向こうもこちらの存在に気づいたのか、ハルの方に振り向く。
少女だ。見たところ歳はハルと同じくらいか。桃色の髪をツインテールにしており、黒い服の上から赤いジャケットを着ている。
細身だが、活発な印象も相まって華奢さは感じられない。
「あ、えっと、僕は——」
「あぁ思い出した! パパが言ってた、今日新しく旅に出るハル君って、君のことだね!」
自己紹介をするよりも早く解決されてしまった。
「あ……うん、えっと——」
「よろしくね、ハル君! ハルって呼ぶね! 私はサヤナ! ハルと同じで、昨日初めてのポケモンを貰ったの! 今日から私も旅に出るんだよ!」
一方的にまくし立てられて口を挟む隙すらないハル。
どうやら、このサヤナという少女もハルと同じく、今日からポケモントレーナーになるようだ。
話を聞くに、ミツイ博士の娘なのだろうか。
「パパー! ハルが来たよー!」
部屋の奥に向けてサヤナが大声で呼びかける。
しばらくすると奥の扉が開き、ミツイが現れた。やはりミツイの子のようだ。
「ありがとうサヤナ。ハル君、お待たせしてすまないね」
ミツイはいくつかの箱を持っており、それらを近くの机の上に置くと、ハルとサヤナの方に向き直った。
「多分全部聞かされたと思うけど、一応紹介しておくよ。この子はサヤナ。私の一人娘で、今日からハル君と同じく旅に出るんだ。サヤナには昨日ポケモンは渡しているけど、他にも旅に必要なものがあるから、ここに来てもらったんだ」
「にひひー、一日だけだけど、私の方が先輩だね!」
紹介されてサヤナはにんまりと無邪気な笑みを浮かべる。
「そして、改めて自己紹介させてもらうよ。私はマデル地方の研究者、ミツイ。ポケモンの生態を研究しているんだ」
「ポケモンの、生態?」
ミツイの言ったことを復唱するハル。多くの研究者が研究していそうな分野だが、
「私の専門は生息区域ごとのポケモンの変化。例えば、コイルやラルトスのように生息する地方によってタイプを持っていたり持っていなかったりするポケモンの研究、アブソルやキリンリキのように特定の地方でないと進化しないポケモンの研究だね」
今挙げられたポケモン全てが思い浮かんだわけではないが、ミツイがどんな研究をしているのか、何となくだがハルには理解できた。
「さて、自己紹介も終わったし、早速ハル君にポケモンを渡したいんだけど……」
そう言って一つ目の箱を取り出したところで、ミツイは申し訳無さそうな表情になる。
「本当に申し訳ないんだけど、僕の不手際でね、用意するポケモンの数を間違えてしまったんだ。だから急遽別のポケモンを用意したんだけど、その関係で一匹しかポケモンを用意出来ていないんだ。もう何日か待ってくれれば準備出来ると思うんだけど、どうする?」
本来、ポケモントレーナーは旅立つ際に三匹のポケモンの中から一匹選ぶ。
しかしミツイが開けた箱の中には一個しかモンスターボールがなかった。
「いいえ、僕はこのポケモンと一緒に旅をします。早く旅をしてみたいし、それに、僕はどんなポケモンとでも仲良くなりたいです。僕のために間に合わせてくれてありがとうございます」
笑顔でそう返し、ハルはそのモンスターボールを手に取った。
「よかったよ。それじゃあ、早速これから君のパートナーとなるポケモンとご対面だ。真ん中のスイッチを押して、ボールを開けてみてくれ」
ミツイに促され、ハルは手にしたボールをじっと見据える。
(この中にいるのが、僕の初めてのポケモン……)
それはハルにとって、初めての地を旅する、初めてのパートナーであることを意味する。
期待を膨らませ、ハルはゆっくりと、ボールの中央をスイッチを押す。
ボールが半分に開き、眩い光が放たれ、ポケモンが飛び出した。

ワオンッ!

そんな威勢のいい鳴き声とともに現れたのは、青い体の小型の獣人のようなポケモン。
小柄だがしなやかで強靭な体をしており、掌からは僅かに青いオーラのようなものを出しているのが見える。
「わぁ……! これが僕の初めてのポケモン……!」
「その子はリオルというポケモンだ。格闘タイプのポケモンで、本来は初心者用ポケモンじゃないんだ。だけど比較的人懐っこい子だから、きっと君のいいパートナーになってくれるよ」
ミツイの説明を聞き、ハルはしゃがみこんでリオルと目を合わせる。
リオルは青いオーラを纏った右手を掲げ、何かを探っているようだったが、やがて笑顔を浮かべてその右手をハルの目の前に突き出した。
ハルはほんの少し戸惑うが、すぐにその意図を理解し、リオルと握手を交わす。
「うわぁ、ハルすごい! もうリオルと打ち解けてる!」
「うん、君たちはいいコンビになれそうだ。僕もリオルを用意した甲斐があったよ」
さて、とミツイは空っぽになった箱を戻し、二番目の箱から端末のような機械を取り出す。
「次はこれ。二人に私からのプレゼントだ」
「……? 何ですかこれ?」
ハルとサヤナに渡されたのは長方形の軽くて持ちやすいサイズの赤い機械。操作するためのキーがいくつかあるが、大部分は赤いモニターで占められている。
「これはポケモン図鑑。出会ったポケモンの情報がその図鑑の中に記録されていくのさ。ポケモントレーナーなら多くの人が持っているものだよ。試しにリオルを調べてごらん」
ミツイに促され、ハルとサヤナはきょとんとした表情のリオルへ図鑑のセンサーを向ける。

『information
 リオル 波紋ポケモン
 体から波導を発している。
 生物の怒りや悲しみといった感情を
 波の形として見分けることが出来る。』

二番目の箱も戻し、三つ目の箱を手に取るミツイ。
「これも渡さなきゃね。ポケモンを捕まえるために必要不可欠な道具、モンスターボール。ポケモンは弱らせてからボールを投げると捕まえやすいから、気に入ったポケモンに投げてみるといい。五個ずつあげよう」
ハルとサヤナに五個ずつモンスターボールを渡し、
「さて、これで最後だ」
四つ目となる、最後の箱を取り出した。
「これはアルス・ターミナル。名前が長いからみんなターミナルって呼ぶけどね。サヤナは知っているね、カントーのシルフカンパニーやホウエンのデボンコーポレーションにも並ぶマデル地方の企業、アルスエンタープライズが作った端末。基本的にメールとかテレビ電話に使えるし、それ以外にもいろんな機能があるんだ。新しい機能をインストールすることも出来るよ」
さて、とミツイは全ての箱を片付け、
「これで私から君たちに渡すものは全て渡した。最後に少し話しておきたいことがあるけど、その前に」
パンッ、とミツイは手を叩き、ハルとサヤナを交互に見据え、
「知っていると思うけど、ポケモンは戦うことで強く育っていく。ポケモントレーナーはポケモンにとって自分の力を引き出してくれるパートナーだ。つまり、ポケモントレーナーにポケモンバトルは不可欠」
そこで、とミツイは続け、
「今から、二人でポケモンバトルをしてみないかい? なに、最初は上手く出来なくたっていい。バトルの練習だと思って、やってみるといい」
「はいはい! やる! やる! ポケモンバトル、やってみたい!」
口を開く前に横からのサヤナの勢いに押されたが、
「僕もやってみたいです。ポケモントレーナーになったんだし、自分のポケモンと一緒に戦ってみたい……!」
ハルもその提案には賛成だ。
「よし、決まりだね。流石に研究所の中では出来ないから、一旦外に出ようか」
「にひひー、ハル、私負けないよ? 一日だけだけど私の方が先輩なんだからね?」
「僕だって負けないよ。折角トレーナーになれたんだ。初めてのバトル、勝ちたいからね」
初めてポケモンを貰った二人の、初めてのバトルが、今始まる。