二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第26話 宗教 ( No.70 )
日時: 2016/11/16 15:23
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: F8Gg2X0Y)
参照: サオヒメシティに現れる、怪しい二人組——

サオヒメシティ。
今までハルが訪れた街と比べると、非常に大きな街だ。
そもそも明らかに街の規模が違う。今までの街は植物と共存したような街ばかりだったが、サオヒメシティには植物は街路樹くらいしかなく、多数の建物が立ち並んでいる。
デパートもあればスタジアムもあり、マンションなどはあって当たり前、挙げ句の果てには教会まであるらしい。もちろんポケモンジムだってある。スタジアムは改修工事中で現在は使えないようだが。
さらに、街のはずれには昔から建てられているらしい古く大きな塔がそびえ立っている。
「とりあえず、一旦ポケモンセンターを目指そうか」
ターミナルでマップを確認し、ポケモンセンターの場所を確認する。
その時。
「ハルー! 久し振り!」
聞き慣れた声がハルの耳に入る。
顔を上げると、カザハナシティで別れたサヤナが駆け寄ってきた。
「サヤナ! 元気だった?」
「にひひー、すっごく元気だよー! バッジも三つになったし! ……って」
笑顔を浮かべるサヤナだが、すぐに困ったような顔に変わる。
「そんなこと言ってる場合じゃないの。ハル、さっきから変な二人組が私をつけてくるんだよ。何だか気味が悪くって……」
「……なんだって?」
その時。
サヤナがやって来た曲がり角から、見るからに怪しい二人組が現れた。

「お待ちください」
「我々は貴女に救いの手を差し伸べたいだけです」

真っ白な修道服を身に纏った、一組の男女。
背は同程度で、女は赤、男は青の髪色をしている。
「あんたたちは、何者だ?」
サヤナを庇うように両腕を開き、ハルは一歩進み出る。
「私の名はミョル。ディントス教の司教です」
「私はグング。同じく、ディントス教の司教です」
女はミョル、男はグングと名乗る。声の高さはもちろん違えど、口調はほぼ同じだ。
「ディントス教……司教……?」
「ご存知ありませんか。教皇ディントス様が創始した、世界を救いへ導く神の命を受けて活動する者たちです」
「ディントス様にお仕えし、信仰すれば、必ずその者は救われる。ポケモンを一匹ディントス様に捧げ、ディントス様を、『V』様を信仰する。それだけでよいのです」
表情の一つも変えず、ミョルとグングはそう語る。
「やだ! なんでそんなことのために、大事なポケモンを手放さないといけないの!?」
ハルの背後に隠れたまま、サヤナは食ってかかる。
「だいたい、信仰ってなんなの? そんな胡散臭いことで本当に世界が救われるなら、とっくに世界から争いなんてなくなってるよ!」
サヤナの言い分ももっともだ。ハルもこのような宗教は基本的に信用していない。
しかし、
「……なんですって」
「我々へはともかく、ディントス様への侮辱は重罪です」
その言葉は、本気で信仰をしている者にとってはご法度だ。
「今の言葉、撤回していただきましょう」
「今なら、まだ間に合いますよ」
「ですが、我々にここまで言わせてもお気持ちを変えないなら、ディントス様を侮辱するというのなら」
「ディントス教司教として、容赦は致しません」
この二人組、必ずミョルが先に口を開くようだ。
そんなどうでもいいことを考えているハルの前で、ミョルとグングはボールを取り出す。
「神の道よ、ニダンギル!」
「神の命よ、ランプラー!」
ミョルが二本の剣と鞘のようなポケモン、グングが炎の灯ったランプのようなポケモンを繰り出す。どちらもゴーストポケモンだ。

『information
 ニダンギル 刀剣ポケモン
 テレパシーで会話しながら複雑な
 連続攻撃を繰り出す。剣の達人でも
 全てを見切ることは不可能だ。』

『information
 ランプラー ランプポケモン
 死者の魂を求めて街中を当てもなく
 彷徨う。夜に活動することが多く
 不吉なポケモンとして知られている。』

「どっちもゴーストポケモンか……サヤナ、戦える?」
「任せて。一緒にこいつらを追い返そう!」
ハルとサヤナも、同時にボールを取り出す。
「出てきて、ワルビル!」
「出番だよ、ワカシャモ!」
ハルは捕まえたばかりのワルビル、サヤナはアチャモの進化系、ワカシャモを繰り出す。

『information
 ワカシャモ 若鶏ポケモン
 破壊力抜群のキックと口から吹き出す
 灼熱の炎を武器に戦う。鋭い鳴き声で
 相手を威嚇しつつ集中力を高める。』

「先手は任せて! ワカシャモ、アクセルフレア!」
「頼むよ! ワルビル、こっちは穴を掘る!」
ワカシャモが炎を身に纏い、猛スピードで突撃していく。
一気に距離を詰め、ニダンギルを突き飛ばす。
「っ、速い……!」
「ワカシャモ、続けて火炎弾!」
猛スピードに怯んだミョルを気に留めず、ワカシャモはさらに無数の火の弾を放出する。
「ランプラー、食い止めなさい。サイコキネシス」
グングのランプラーが動き出す。
強い念力を操作し、ワカシャモを止めようとするが、
「させるか! ワルビル!」
ランプラーの足元からワルビルが飛び出し、ランプラーを殴り飛ばした。
さらにニダンギルも無数の炎の弾の直撃を受ける。開始早々、ハルたちが一気に流れを掴む。
「中々の腕前のようですね。ニダンギル、切り裂く」
「ですが勝負はここから。ランプラー、シャドーボール」
ニダンギルが刀身を現してワカシャモに向かっていき、さらにその上からワルビルを狙って漆黒の影の弾が放出される。
「ワカシャモ、雷パンチ!」
ワカシャモが両手に電撃を纏い、真っ向からニダンギルを迎え撃つ。
ニダンギルの二本の刀身と、ワカシャモの両手が激突し、激しく競り合う。
「ワルビル、躱して噛み砕く!」
他方、ワルビルが影の弾を躱し、大顎を開いて動く。
狙い目はランプラーではなく、ニダンギル。
ワカシャモと競り合うニダンギルに横槍を入れ、大顎で噛み付き、牙を食い込ませる。
「ナイス、ハル! 後は任せて!」
「分かった! ワルビル、投げ飛ばせ!」
大きく首を振り、ワルビルはニダンギルを上空へと投げ飛ばす。
「ワカシャモ、火炎弾!」
打ち上げられたニダンギルに向けて、ワカシャモは無数の火の弾を放つ。
しかし。

「ランプラー、今です」

放たれる無数の火炎弾の前に、ランプラーが立ち塞がる。
ランプラーに当たった炎の弾は、中に吸収されてしまう。
「えっ?」
「なっ……」
驚くハルとサヤナを見て、グングは僅かに笑う。
「ランプラーの特性、貰い火です。炎技を吸い取り、炎技の威力が上がる。火炎弾をいくつも吸い取りましたので、今のランプラーの炎技は相当な威力。それでは、お見せしましょう」
グングはそこで一拍置き、

「ランプラー、火炎放射」

ランプラーが灼熱の炎を吹き出す。
だが明らかに威力がおかしい。大規模に膨れ上がった炎が、まずワカシャモを飲み込み、さらに少し後ろにいたワルビルへと迫る。
「ワカシャモ!?」
「っ……! ワルビル、躱して!」
咄嗟にワルビルは大きく跳躍し、炎を何とか躱す。
だが、
「ニダンギル、イビルスラッシュ」
密かにワルビルとの距離を詰めていたニダンギルが瞬時に連続の斬撃を放ち、ワルビルを地面に叩き落とす。
「ぐっ! ワルビル、大丈夫?」
炎に飲まれたワカシャモ、斬撃を食らったワルビル、共にまだ戦闘不能ではないようだが、大ダメージに変わりはない。
「我らは偉大なる神の加護を受けています」
「貴方たちのようなただのトレーナー如きに、敗れるはずはないのです」
ミョルとグングの口調が強まり、ニダンギルとランプラーが少しずつ迫って来る。
「うぅ、強い……」
「伊達に司教を名乗ってないってわけか……まずいな」
特に炎技が強化されたランプラーが厄介だ。だがランプラーに気を取られると、ニダンギルの斬撃を受ける。
少しずつ、ハルとサヤナは追い詰められていくのを感じていた。