二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 第37話 ディントス ( No.82 )
- 日時: 2016/12/07 21:22
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
「……ハル君、父さん。ごめんなさい。奴らを撃退する前に、まずキーストーンを隠すべきだった。冷静な判断が出来なかったわ……」
頭を下げるアリスの表情には、怒りと後悔が浮かんでいた。
「お前だけの責任ではないよ、アリス。僕としたことが、目の前の敵だけに気を取られすぎた。ハル君、せっかく来てくれたのにこんな騒動に巻き込んでしまって、すまなかったね」
アリスに比べてリデルは幾分か冷静だったが、それでもその口調にはどことなく後悔の念が感じられた。
「しかしあのディントス教、いつの間にかあのような邪教まで成り下がりよって」
そこで、ハルがふと口を開く。
「……すいません。あのディントスって人、何者なんですか? ただの一宗教の教皇には見えないんですけど」
「……何者、か」
リデルは苦い顔を浮かべ、少しの間押し黙るが、
「……かつては、僕の友人だった男だ」
やがて、ゆっくりと語り出す。
「あれでも、昔はまっすぐに真剣に世の人々を救うことを考えていたんだがね。ある日突然、『V』などというよく分からん存在に心を奪われ、宗教を作り上げてまでその『V』を崇め、突然教祖を名乗り出した。その時に僕と大喧嘩して、縁をきっぱり切ったんだ。それ以降はもう他人さ」
はぁ、とリデルは深く息を吐く。
「そうだったんですか……」
「だが、最近の奴の言動を聞くと、奴の行動原理は人々を救う、だけではないように思える。何か、秘密がある。裏の目的があって盛んに活動をしている。そんな風に僕には見えるんだ」
それが分かれば、ディントス教の闇を暴く手がかりになるのかもしれない。
しばらく続く沈黙を破ったのは、アリスだった。
「ねえ、ハル君」
アリスに急に名前を呼ばれ、ハルは顔を上げる。
「ハル君と、君の友達を、危険に巻き込んでもいいかしら。私に、力を貸してほしい」
そう尋ね、アリスはハルの瞳を見据える。
「……はい。僕は構いません。ただ、サヤナがどうするかまで決める権利は僕にはない。司教に襲われかけたとはいえ、彼女はこの件に深くは関わっていませんし」
「分かっているわ。今から頭を下げに行く。父さん、私は行くわ。父さんはここを守ってて。奴らがまた来た時に、留守だといけない」
アリスの言葉に、リデルは黙って頷いた。
リデルに見送られ、ハルとアリスはエボルヴタワーを出て、街中へと向かう。
ポケモンセンターに入ると、ハルを待っていたのはサヤナだけではなかった。
「ハル! おかえり! アリスさんも一緒なんだね」
「久しぶりじゃん、ハル君。元気にしてた?」
黒いパーカーを羽織る気取った実力派の少年、スグリだ。
「うん、まあ何とかね。スグリ君も元気そうでよかった」
スグリに返事を返すと、ハルはサヤナの方を向く。
「サヤナ、僕とアリスさんから君に、話があるんだ」
「話?」
きょとんと首を傾げるサヤナだが、そこからの話はアリスに譲る。
「ええ。危険を伴うから、あくまでお願いよ。強制はしないわ」
そう言って、アリスは頭を下げながら次の言葉を続ける。
「ディントス教壊滅に、協力をしてほしいの」
「かいめつ?」
再び、サヤナはきょとんとした顔になる。
「詳しい話は終わってから話すわ。ただ、奴らは遂に一線を越えた。この街の宝物が、さっきディントスに強奪されたの。これ以上ディントス教の好き勝手を許すわけにはいかない。さっきも言った通り強制じゃないわよ。ただ、協力して——」
「いいよ」
全て言い終わる前に、サヤナはそう返した。
「私もポケモン取られかけてるし、他に被害を受けた人もたくさんいるんだよね。私は偶然ハルやアリスさんに助けられたけど、他に私みたいな怖い思いをする人がいてほしくない。ちょっと不安ではあるけど、協力するよ」
「……ありがとう」
「だったら、オレも手伝いましょうか?」
唐突に、スグリか口を開く。
「正直、オレもさっき司教とかいうのに狙われたんすよ。ま、オレ強いから軽くあしらってやりましたけどね。面倒事は嫌いっすけど、あいつら、間違いなく悪いやつなんでしょ? それなら性格上、そういうの気に食わないんで、手伝いますよ」
そう言って、スグリはニヤリと笑う。
「……助かるわ。私とうちのジムのトレーナーたち、それに君たち三人がいれば、絶対に負けないわね。ありがとう、それじゃ三人とも、一回ジムに来てくれるかしら」
そして、アリスは三人をジムに連れ、エボルヴタワーであったことの一部始終を説明する。
さらにジムトレーナーたちも呼び寄せ、教会突撃の段取りを立てる。
着々と、ディントス教壊滅の作戦会議は進んでいった。
キーストーンを強奪し、教会に戻ったディントスは、誰もいない聖堂の巨大な十字架の前で祈りを捧げ、独り言をぶつぶつと呟いていた。
「仰せの通りに、キーストーンを回収いたしましたぞ」
そう呟きながら、ディントスは手にしたキーストーンを掲げる。
その時。
『よくやりました、ディントス』
誰もいないはずの聖堂に、どこからか声が響く。
「……『V』様。この後は、私はどのようにいたしましょうか」
『そうですね。明日、私がキーストーンの回収に上がります。それまでは特に動く必要もありません。ですが、くれぐれもキーストーンを失うことのないよう、存分に気をつけるのですよ』
「心得ております。私は『V』様の一番の信仰者たるもの。このディントスにお任せください」
『キーストーンが私の手に渡った暁には、貴方の絶対的な地位を約束しましょう。それでは、また明日』
笑い声が響き、音源の分からぬ声は、それきり聞こえなかった。
残ったディントスは不敵に笑うと、立ち上がって杖を突き、聖堂を去っていった。