二次創作小説(映像)※倉庫ログ

第42話 継承 ( No.91 )
日時: 2016/12/21 11:44
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
参照: いよいよ行われる、メガシンカ継承の儀式——

「おかえり。警察の人から話は聞いたよ。今回の件に関しては、とりあえず解決だね」
エボルヴタワーにやって来た四人を、アリスの父、リデルが出迎える。
「ただいま、父さん。キーストーンも無事に取り返したわよ」
アリスは得意げな笑みを浮かべ、奪還したキーストーンを取り出す。
リデルはそれを見て小さく笑い、
「それで、後ろの二人は、ハル君のお友達かな?」
アリスの後ろにいる三人へと声をかける。
「そうっすよ。スグリっていいます」
「私はサヤナです! ハルがメガシンカを使うって聞いたので、見学しに!」
スグリとサヤナが、リデルの方を見て名乗る。
「そうかい。僕はリデル。アリスの父親で、メガシンカについて調べている研究者さ」
「この子たちも、ディントスを倒すのに一役買ってくれたの。いい子たちだし、見学くらいはいいでしょう?」
「ああ、構わないよ。彼らがどんな人間か、目を見れば分かるさ」
リデルは快く見学を受け入れ、迎え入れる。
「さあ、それじゃあハル君」
塔の中に入ると、アリスはハルの方を向く。
「今度こそ、始めましょう。ハル君とルカリオに、メガシンカの継承を」



準備は整った。
「ハル君、キーストーンを」
「……はい」
アリスから差し出されたキーストーンに手を伸ばし、ハルはゆっくりと輝くその石を手に収める。
リデルはルカリオに近づき、メガストーンの填め込まれた腕輪をルカリオに装着させる。
傍では、サヤナとスグリが固唾を飲んで見守っている。
「……さあ、これでよし。ハル君、ルカリオ、君たちの絆の力が十分なものなら、君たちはメガシンカの力を使えるようになる」
そう言って、アリスはハルの側から、リデルはルカリオから離れる。
「……ルカリオ、君は今どんな感じなのかな。僕は何だか、不思議な感じだよ。とっても不安なんだけど、それと同時に、すごい力を感じるんだ。不安なはずなのに、失敗する気がしない。そんな不思議な感じなんだ」
ハルがルカリオにそう語りかけると、ルカリオもハルの方を振り向き、小さく笑みを浮かべる。
「それじゃ、行くよ——」
覚悟は決まった。
キーストーンを握りしめた右手を天高く掲げ、ハルは思い切り叫んだ。

「僕と君の、絆の力に応えて! ルカリオ、メガシンカだ!」

刹那。
ハルの右手の中から、爆発的な七色の光が展開された。
それに反応し、ルカリオの腕輪のメガストーンも眩い光を放つ。
ハルの右手から噴き出す光と、ルカリオの腕から放たれる光は互いに反応し、次々と一つに繋がっていく。
光はみるみるうちにその規模を増し、ルカリオを包み、その姿形を変えていく。
光の中で、ルカリオの姿が一回り大きくなっていく。
塔に響き渡る咆哮と共に、光の中から、メガシンカを遂げたルカリオが姿を現した。
より高まった波導の力が体内を駆け巡り、その影響で頭部の房はより長く伸び、手足には黒い模様が浮かんでいる。
さらに両手足首は真紅に染まり、鋼の棘が増えている、体を覆う体毛も規模を増している。
響き渡った咆哮は、月を背景に天高く吠える狼のようだった。
「ルカリオ……メガシンカ、できたの!?」
ハルの言葉に、ルカリオは大きく頷く。
「……うむ、間違いないね」
「これが、ルカリオのメガシンカなのね……」
確信したようにリデルは何度も頷き、アリスは驚きと喜びが入り混じったような表情を浮かべる。
「ハル君、すごい! 完璧よ! その姿こそがルカリオのメガシンカした姿、メガルカリオ!」
「やっぱりこの瞬間は、何度見ても気分がいいね。アリスが初めてメガシンカを成し遂げた時も、こんな気持ちだったなぁ」
まるで自分のことのようにアリスは喜び、リデルは昔の記憶をふと思い出す。
スグリとサヤナは、二人とも驚きを隠せないでいる。
「……ルカリオ! 僕たち、メガシンカできるようになったんだよ!」
ハルの言葉にルカリオも笑顔で応え、両手でハルとハイタッチを交わす。
「よし! 只今を持って、メガシンカの力を、ハル君に継承します!」
満面の笑みと共に、アリスがそう宣言し、キーストーンを填める腕輪をハルへ渡す。
ハルがもう一度キーストーンを掲げると、光がルカリオを包み込み、ルカリオは元の姿へと戻る。
「……ふぅ。何だか、疲れが……」
ルカリオのメガシンカが解けた瞬間、ハルの体から力が抜け、ハルはその場に座り込んでしまう。
「メガシンカはポケモンとトレーナーの絆の力を一つにすることで使える力。一種のシンクロ状態みたいなものだから、トレーナーにもいくらか負担が掛かるわ。私はもう慣れちゃったけど、これに慣れないうちは一日に一回くらいにしておくといいわね」
それから、とアリスは続け、
「メガシンカは一バトルに一回だけ。私の父さんみたいにどれだけたくさんメガストーンを持っていても、一回のバトルでできるメガシンカは一匹だけだからね。あと、メガシンカするとそのバトル中は例えボールに戻してもバトルが終わるまではその姿で戦うことになるから、それも覚えておいてね」
「はい。ありがとうございます」
座り込んだまま、ハルは礼を言う。
「その感じだと、今日はサオヒメシティで休んでいった方がいいわね。次のジムがある街はカタカゲシティだけど、その間にハダレタウンって街があるから、そこに行くといいわ。確か、近いうちに結構大きな規模のバトル大会が開かれるはず。ジム戦前の腕試しに、丁度いいんじゃないかしら?」
アリスに言われて、ハルはターミナルを開き地図を見る。ハダレタウンはカタカゲシティへの丁度通り道のようだ。
「バトル大会か……ありがとうございます。メガシンカの力も、早速そこで試してみようと思います」
「えっ、バトル大会!?」
そしてその言葉に反応したのは、ハルだけではなかった。
「出る出る! 私も出たい! ハル、次の街までは一緒に行かない?」
「そんじゃ、オレも行こうかな。例えハル君がメガシンカを使えても、オレの方がまだ上だってことを証明しなきゃいけないしね」
サヤナのテンションが上がっていき、スグリもニヤリと笑いながらハルを見る。
「ははは……」
とりあえず、次に行く街は決まった。
塔を出る際、手を振るアリスとリデルにもう一度お礼を言い、ハルたち三人はポケモンセンターへ戻る。
明日は、ハダレタウンに向けて出発だ。



そして。
ハルがメガシンカを得たのを知ったのは、アリスたちだけではなかった。
「……やっぱりねえ。ハル君はやっぱり、僕が見込んだ通りのトレーナーだよ」
鋼のポケモンに乗り、ディントスが開けた塔の穴を通じて、離れた場所から双眼鏡を構える少年と、サイコパワーでその背後に浮く女性。
「ヴィ姐、だから言ったのにー。あのディントスとかいう男は役に立たないって言ったじゃんか。結局、キーストーンを取り返されちゃってるしさ」
「いいのですよ、パイモンちゃん。キーストーンこそ手に入らなかったけれど、ディントスからの所謂副産物は充分手に入りました。それに、ディントスの失敗に備え、他にもプランはいくつも用意してありますしね」
「ふぅん、さすがはヴィ姐。ダンとかいうバカとは違うね」
「パイモンちゃん。ダンくんは慎重派なのですよ。あの子の用心深さが生きる場面もあれば、パイモンちゃんの思い切りの良さが生きる場面もある。二人とも優秀な子なのですから、喧嘩ばかりしていてはダメですよ?」
「へーえ。ぼくにはあいつの優秀さは分からないけどねぇ」
全く考えを改める様子もなく、少年はそう返す。
女性もそれを予想していたのか、あらあら、と笑うのみ。
「さあ、そろそろ行きますよ。ディントスを失った以上、この街にもう用はありません。私は次のプランに本腰を入れなければ」
「そうだね。ぼくもやりたいことは終わったし、帰るとしますか」
姿を隠すことすらせず、しかし、誰にも気づかれないまま。
二人の魔神卿もまた、サオヒメシティを去っていく。