二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【ポケモン】そのトレーナーは異界より。 ( No.14 )
日時: 2016/12/13 21:37
名前: シエル ◆GU/3ByX.m. (ID: YQou4sy7)
参照: ハクサンタウン編 了

「アオキ博士っ!」

 ことははドアを何度もノックし、インターホンを何度も鳴らした。しかし返事はなく、研究所は静まり返っていた。人がいる気配や物音がなく、留守なのは明らか。アオキは外出したと知ったことはは落胆する。

「弱ったなぁ。どこかに病院ないかな?」

 ポケモンの知識がまるでないことはには、ポケモンが傷付いた場合の対処方が分からない。故にイーブイとチルットを抱いたまま、研究所の前で途方に暮れていた。腕の中の二匹は、ことはに体重を預けてぐったりしている。どこか病院——具体的には、動物病院がないかな、とキョロキョロしていたことは。そこへ、声がかかる。

「あ、あ、あいつです」

 聞き覚えのある声に振り向くと、先程の柄の悪いトレーナーがいた。しかし顔は強ばっており、声も怯えきっていた。先程の威勢はまるでない。

「あなたはさっきの。何か用?」

 そのことに違和感を覚えながら聞くと、柄の悪い男の前へ割り込むように別の人間が入ってくる。足元まである黒いローブに身を包み、フードを目深に被った奇妙な人間。体付きから男性らしいことは分かるがそれ以外の情報は読み取れない。

「見つけたぞチルット。トレーナーが助けを求めるため逃したようだが、その企みもここで終いだな」
「あなた何なの?」

 男は視線を上げ、ことはの腕の中にあるチルットを見つめる。フードの下にある金色の瞳が、ギラリと光った。チルットは意識を失っているからか、ぐったりしたまま。
 捕食者のような冷徹な瞳にぞっとしながらも、ことはは冷静に問う。チルットを守るように、イーブイとチルットを自分の方へと寄せながらことはは下がった。

「答える義理はない。直に忘れてしまうからな。ゲンガー、催眠術」

 その言葉で、ことはは自分の身体から力が抜けていくのを感じた。眠気のようなものが身体の底から湧き上がり、抗うことができない。地面に膝を付いたことはは、霞みゆく視線の中で一体のポケモンを見た。紫の身体に、短い手足。形だけ見れば、子供が粘土か何かで作り上げた人形みたいとことはは思った。そこに浮かぶのは赤い瞳、ニタリと笑う口。何もできないことはをあざ笑っていた。意識が沈む。言い返したいが、眠気に飲み込まれていく。

「お前たちがチルットのことを覚えていると、困る者がいるのさ。何もかも忘れるがいい。君たちの旅の無事を祈っているよ」

 霞みゆく視界の中、男が手を振る。それを最後に、ことはの意識は完全に暗闇の底に沈んだ。



 それからしばらくして、ことはは暗闇の中で身体を揺すられる感覚を覚えた。ゆっくりと目を開けると、イーブイが心配そうに自分のことを覗き込んでいた。うつ伏せとなっていたことはは、ゆっくりと起き上がる。

「あ、イーブイ? 怪我は? ん? 私何言ってるんだろ」

 目の前にいるイーブイには、怪我はない。だが、ことはは何故かイーブイが怪我をして途方に暮れていた記憶がある。アオキ研究所を出て、研究所の前で寝ていたのに何故イーブイが怪我をするのか。その理由が分からず、ことはは悶々とする。

「私、何でこんなところで寝てるの。何かしてたような気がするけど……」

 思い出そうとしても、モヤモヤして何も出てこない。足元のイーブイも気になることがあるのか、顔を顰める。うんうん唸っていたことはは、不意に自分の姿を見る。パジャマには、土が付き汚れていた。気が付いたことはは、勢い良く立ち上がる。

「やだ! 寝間着が土まみれ! 早く新しい服買いに行かなくっちゃ」

 研究所に背を向け、ことはは歩きはじめる。イーブイは、定位置であることはの左肩に飛び乗った。

「いきなり眠くなるなんて、災厄よ。服が汚れたわ。気分は最悪……」

 そんなことをブツブツと呟きながら、ことはは服を売っている場所を探すためハクサンタウンへと歩き始める。チルットを救うためトレーナーと戦ったことも、謎の男とポケモンのことも。チルットのことさえも。何もかも忘れていた。