二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【ポケモン】闇の神と異界のトレーナー ( No.3 )
日時: 2016/10/29 22:08
名前: シエル ◆UaO7kZlnMA (ID: kKmRLwWa)
参照: 序章「始まりの風は彼方より」

「あ、あなたは……」

 モンスターボールを鞄に戻し、ことははポケモンをじっと見た。
 ウサギのような長い耳、首を覆う襟巻き、狐のような尾。小柄な体躯で、円な瞳が愛くるしいポケモンだった。その姿はことはの記憶の片隅を突くが、同時に違和感を感じさせる。このポケモン、全身は白を混ぜたような銀色をしているが茶色だった記憶があるのだ。
 ポケモンは両足を揃えて座り、ことはをじっと見つめる。まるで値踏みするようにジロジロと上から下まで見てくるが、ことははそんなことを意に介さずポケモンを見つめて話しかける。追われている男は、相変わらず悲鳴を上げて走っていた。

「あれ、あなた全身茶色じゃなかった? 思い出したわ、タマムシシティのマンションの屋上に放置されてた寂しいポケモンね! えっと、い、い、イワーク? イシツブテ?」
「ブイ」

 ことははポケモンの名前を必死に思い出そうとし、ゲームの思い出と共にこのポケモンの名が『イ』で始まることを思い出した。そして、『イワーク』、『イシツブテ』と言う名前が浮かび白銀のポケモンに尋ねるが、白銀のポケモンは首を横に振った。違うらしい。しかし、ブイと言う鳴き声は思い出すヒントになりそうだ。

「ブイ、か。イブイ、あ、そうだ。イーブイってポケモンだわ。三種類のポケモンに進化する珍しい——」

 そこまで言いかけたところで、ことはから忘れ去られた男の悲鳴が割って入る。

「キミ、何をしているんだ、早く助けてくれ!」

 男は相変わらずジグザグに動くポケモンから逃げ回っていた。流石に体力が尽きてきたのか、男の走るスピードは明らかに落ちており、すぐそこまでポケモンが迫っている。
 不味いとは思い、ことはは幼い頃の記憶を懸命に引っ張り出す。危機が迫っているせいか、記憶はすぐに思い出せた。ポケモンを出すと、他ゲームで言う攻撃とか呪文に当たる表示が出て——

「そうだ、技! イーブイが使える技は何ですか?」

 技はポケモンが保つ不思議な力。相手を攻撃したり、自分の能力を上げたりと様々な種類がある。ポケモンはこの技同士をぶつけ合い、戦う。これをポケモンバトルと呼ぶ。尚、ポケモンごとに使える技は決まっており、このイーブイが使える技をことはは知らない。あの男なら知っているだろうと、声を張り上げて尋ねると、男は息切れしながら答えてくれる。

「す、砂かけと体当たり、鳴き声……」
(技ってどうやって指示すればいいんだろう。コマンドやAボタンもないのに……)

 聞いたはいいが、ことはは一瞬どうやってイーブイに指示を出せばいいか迷った。ゲームではボタンを押せばポケモンが動いてくれるが、ここは現実。そんなものはない。
 現にイーブイは両足をきちんと揃えて座り、ことはの指示を待つように見上げている。自発的に動かないらしい。コマンドがないなら、口で伝えるしかないだろう。そう思ったことはは、適当に技を指示する。

「えっと……イーブイ、あのジグザグ動く奴に砂かけって技」

 男を襲うポケモンを指差して伝えると、イーブイはそのポケモンめがけて走っていった。そしてある程度距離が縮まったところで、後ろ足で力いっぱい砂をポケモンめがけて蹴りつける。男に気を取られていたポケモンは砂を避けられず、もろにくらった。目に砂が入ったらしく、目をぎゅっと閉じ、オロオロしている。

「なら次は体当たりって技よ」

 技の効果なども分からないため、聞いた技を順に試すことにする。体当たりの指示を受けたイーブイは助走を付け、身体を力いっぱいポケモンにぶつけた。ポケモンの身体は吹っ飛び、地面に叩きつけられた。名前の通り、体当たりを行う攻撃技のようだ。
 叩きつけられたポケモンはフラフラしながら立ち上がるが、イーブイに背を向けて走り出した。逃げられたが、特に用もないためことはは追わないことにする。ポケモンが視界から消えたのを確認し、ことはは深い息を吐く。

「な、何とか追い払えた……」

 あっさり終わった戦いであるが、緊張から解き放たれたことははため息を就いた。ゲームの存在だけと思っていたポケモンに、こうして指示を出すなど夢にも思わなかった。ゲームと勝手が違って戸惑ったが、無事に終えてほっとする。
 そこへイーブイが走ってきたかと思うと、ジャンプしてことはの左肩に飛び乗ってきた。

「ブイっ!」
「な、なに?」

 イーブイは、満面の笑みでことはの肩に乗る。ことはを気に入ったのか、身体を擦り寄せてきた。柔らかい体毛がことはの頬をくすぐり、くすぐったい。事情が飲み込めないことはは、イーブイにされるがままになっている。

「ハハハ、すっかり気に入られたようだね。彼女は人懐っこいからな」

 そこへ先程の男が笑いながら近寄ってきた。歳は三十代前半くらいか。柔和な顔立ちに、眼鏡をかけた優しそうな男だった。シャツとズボンの上には白衣を着ており、研究者のような出で立ちであった。

「そうなんですか?」
「ところでキミ、どうしてそんな格好をしているんだい?」
「あ……」

 男に指摘され、ことはは自分が寝間着姿であることを思い出した。寝間着な上にしかも裸足、荷物はない。誰がどう見ても怪しいと思うだろう。

「寝間着でしかも裸足で。何も持たないでこうして、外にいるのは感心しないな。私のようにポケモンに襲われたらどうするんだ?」
「す、すみません……」

 家出をしたと思っているのか。男は子供を見るような顔でことはを眺め、注意してくる。あまりの迫力に反射的にことはが謝ると、男は肩からかけた鞄から緑のスリッパを取り出し、ことはに差し出した。

「スリッパで申し訳無いが、ないよりはマシだろう。これを履いてくれ」
「ありがとうございます」

 お礼を言って、ことははスリッパを履かせてもらう。男物なのかブカブカであるが、裸足よりはマシだった。

「さて、お礼も兼ねて私の研究所に来て欲しいのだがどうかな?」

 知らない男からの誘い。
 普通なら断るところだが、この世界に知り合いはいない。せっかく人に合えたのだ縁を逃す訳にはいかない、とことはは迷わず頷いた。

「はい、お願いします」
「なら、こっちだよ」

 男に案内され、ことはは歩き始めた。


ことはが見つけた鳥ポケモン=ポッポ
男を襲ったポケモン=ジグザグマ