二次創作小説(映像)※倉庫ログ

9話 演劇舞台 ( No.10 )
日時: 2017/01/04 11:01
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: 0WV2matm)

 イオンとのバトルを終えた翌日。
 イオンに誘われ、フィア、フロル、イオンの三人でジムに挑戦する日。
 後から聞いた話だが、イオンもジム戦はこれが初めてらしく、三人一緒に初めてのジム戦だったようだ。初めてにしては、イオンの言動はやけに場慣れしたそれで、少し気になったが、彼の余裕はフィアにとっては心強かった。
 フィアはなかなか起きないフロルをなんとか起こして、集合場所であるポケモンセンターのロビーでイオンと合流。そのままポケモンセンターを出ると、P・ターミナルにインストールされているタウンマップを頼りに、三人はシュンセイジムに向かう。
 歩くこと数十分。三人は足を止めた。
「着いた着いた。ここだね」
「……ここなの?」
「マップにはここって出てるから、ここじゃない?」
 辿り着いたのは、白い建物。そうとしか形容できないほどに、なにもなかった。
 建物自体の大きさは大きいものの、看板や装飾などがなく、扉も平凡。非常に地味な印象を受ける。
 この世界にとっては重要な施設のように聞いていたので、もっと目立つものかと思っていたが、地図がなければまずたどり着けなさそうな場所だ。
「というかこれ、見るからに裏口って感じだけど……」
「でも、はり紙がしてあるよ?」
「んー? どこどこー?」
「あ、本当だ。えーっと……『本日のジム戦は、ここから受け付けています』?」
 この貼り紙を信じるのであれば、やはりここがジムらしい。
「やっぱここがジムじゃん。とっと入ろ入ろ」
「あ、イオン君! 待って……!」
 扉を開け、一人で先に行ってしまうイオンの後を、フィアたちは慌てて追いかける。
 中は暗く、先がよく見えないが、どうやら廊下のようで、一本道だ。
 まっすぐ進んでいくと、なにやら声が聞こえる。どことなく慌ただしげな喧騒に、少しずつ近づいていく。
 やがてまた扉が見える。その扉を開けると、そこには幾人もの人々が、声を荒げて指示を出したり、大きな荷物を持って駆け回ったりしていた。しかも、格好が普通ではない。豪奢なドレスを着た女性がいれば、騎士のような鎧を着込んだ男性、なぜか背中から虫のような翅をつけている子供までいる。普通の衣服を着ている人もいるが、ほとんどの人は、一見すると普通ではない衣装を身に纏っている。
「……なに、これ?」
「さぁ?」
 流石に戸惑いを隠せない。一体ここはなんなのだ。本当にジムなのか。
 フィアが呆然と立ち尽くしていると、こちらの存在に気付いた一人が、駆け寄ってきた。
「あ……ジムに挑戦する方々ですか?」
「え、あ、はい。そのつもりですけど……ここは、ジム、なんですか?」
「はい。ここがシュンセイジムになります。ちょっとお待ちくださいね」
 やはりジムなのか、という安堵と、ジムってこういうところなのか、という驚きと、本当にこういうところなのか? という疑惑が混ざり合った、なんとも言い難い気分を味わうフィア。そんな中、対応してくれた人はくるりと振り返り、叫んだ。
「座長! チャレンジャーが来ました!」
「座長?」
 ジムリーダーがジムを仕切っていると聞いたけど……という呟きは誰にも聞こえない。
 やがて、座長と呼ばれた人物がやって来る。背が高く、精悍な顔立ち。浅黒い肌の若い男だ。
「初めまして。私は劇団布団座、座長のトウガキです」
「あ、どうも……」
 男はトウガキと名乗った。そしてフィアは、ふと思い出す。
 劇団布団座。確か昨日、街で貰ったチラシの中に、その名があった。今日公演の演劇が、その劇団によって催されると。
 ということは、ここは劇場なのか。ジムではないのか。ますます、フィアの中の混乱が膨張する。
 そんなフィアの混乱を察してか、トウガキは柔らかな口調で説明する。
「ご安心ください。ここはジムです。劇場を兼ねてはいますがね」
「劇場を兼ねた、ジム……?」
「あー、あるある。ジムって、ジムリーダーの副業とか、趣味とかで、色々改造されるから、他の施設を兼ねていることもあるんだってさ」
「そ、そうなんだ……」
 ということは、ここは劇場兼ジム。二つの意味合いを持つ場所ということか。
「えっと、じゃあ、座長のトウガキさんがジムリーダー、なんですか?」
「いえ、私はジムリーダーではありません。ジムリーダーは劇団員の一人で、イチジクといいます」
 如何にもリーダー然とした佇まいなので、トウガキがジムリーダーかと思ったが、そうではないようだ。
 しかし彼もジム関係者らしく、ジム戦に関係することだろう、いくつかフィアたちに質問する。
「チャレンジャーの人数は、何人ですか?」
「えっと、三人です。僕と、こっちの二人で……」
「わかりました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「僕はフィア、です」
「オレはイオンですー」
「フロルです」
 三人がそれぞれ名乗ると、トウガキはポケットから取り出したメモ帳に、ペンを走らせた。
「フィアさん、イオンさん、フロルさん、ですね。ありがとうございます。人数は三人。なら、脚本は『棺桶に眠る王子』にするとしよう……バンガキ!」
 トウガキが、誰かの名を呼ぶ。すると、すぐにやって来た。
 今度は小柄な男だ。少々あどけない顔立ちだが、少年と呼ぶにはきつい歳に見える。顔立ちはトウガキと似ており、肌も浅黒い。兄弟だろうか。
「おう兄ちゃん、呼んだか?」
「ジム戦用の公演に切り替える。楽屋と、会場へのアナウンスをするように、係りに伝達してくれ。脚本は『棺桶に眠る王子』。キャストは私、お前、兄さんの三人だ」
「合点だ! 久々のジム戦公演、腕が鳴るぜ!」
「よし。では、私は兄さんを起こしてくる。頼んだぞ」
「任せとけ!」
 と、フィアたちはなんのことかさっぱりわからず、呆然と立ち尽くすことしかできない。
 話を終えると、バンガキと呼ばれた青年はたったか走り去っていく。トウガキはこちらへと向き直った。
「お待たせいたしました。では、あちらの部屋で待機していてください。準備が整いましたら、お呼びします」
「はぁ……わかりました」
 この口調は来客に対するものなのだろうと今更ながら思いつつ、トウガキに指差された部屋へと入る。中にはいくつかのベンチとロッカーがあり、控え室のようだ。
「……なんなんだろうね、これ」
「さーねー? でも、なんかよくわからないジム戦で、オレはわくわくするよ」
「わたしもー」
「不安で胸が押し潰されてるのは、僕だけか……」
 とりあえずここがジムで良かったが、イオンの話を聞く限り、このジムはかなり特殊な部類のようだ。初めてのジム戦がそんなにおかしなもので大丈夫なのかと、不安に駆られる。
 待つこと数分。劇団員と思われる人物が控え室に入ってきて、三人を呼びに来た。準備ができたようだ。
 劇団員に誘導されるまま、歩を進める。扉を抜けると、なにやら暗い部屋だ。真っ暗でなにも見えないが、周りになにかがあり、誰かがいることだけは、気配でわかった。
 目を凝らしてよく見ると、なにか大きな壁のようなものが、目の前にある。
「これ……幕?」
 触れてみると、肌触りの良い布の質感が、指に馴染む。
 と、その時。
 ビー! という大きな音が鳴り響いた。
 それは始まりの合図。
 続いてアナウンスが、高らかに宣言する。

『劇団布団座、シュンセイシティ公演——これより開演いたします!』



あとがきです。今回は、リメイク前のシナリオから大幅なアレンジを加えた回です。リメイク前は普通にジム戦してましたが、今回は特殊な方式でジム戦となります。イオンも前話で言っていましたが、今作のジム戦は、ルールを色々と捻った変則型にする予定です。シュンセイジムは演劇と共にバトルです。リメイク前にはいなかった新キャラのトウガキさんとバンガキくんも交えています。劇団は伏線でした。ちなみに劇団布団座というのは、リメイク前の作品を知っている人なら概ね理解してくれると思いますが、作者が少し関わった劇団からちょっともじりました。劇団っていうか、演劇サークルですけど。では、あとがきはこの辺で。次回から、本格的にジム戦……になるかは文字数との相談ですが、なんとか持って行きたいですね。楽しみに。