二次創作小説(映像)※倉庫ログ

10話 演目開始 ( No.11 )
日時: 2017/01/04 09:05
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

『本日はチャレンジャーが参りましたので、ジム戦用演目で公演させていただきます! 観覧される皆さま、どうかご了承いただきたく思います!」
「ジム戦用、演目……?」
 どこからか発せられる、スピーカー越しの声は、確かにそう言った。
 ジム戦用ということは、本来の演目があったということ。内容からして、ジム戦用公演なるものを優先させているらしい。なんだか悪いことをしたなぁ、と思うが、そこでハッと気づく。
(これって、今日の公演がジム戦になるってことじゃ……ってことは)
 幕が少しずつ上がっていく。これは緞帳だったのだ。舞台と客席を隔てる幕。
 これが上がるということは、舞台と客席の間に、遮るものがなくなるということ。
 こちらの存在が客席に見えるということ。
 そう、客席——観客が、いるのだ。
「うわ……っ!」
 幕がすべて上げられる。視界に飛び込むのは、人、人、人だ。
 何十、何百もの人々が、そこにはいた。この公演を見に来た観客だ。演目が変更になっても、不満の声は聞こえない。どころか、非常に盛り上がっている。
『まずはチャレンジャーの紹介から! 今回のチャレンジャーはこの三人!』
 パッ、パッ、パッ、と。フィアたち三人それぞれに、スポットライトがあてられる。
『右からフィアさん、イオンさん、フロルさんです!』
 それぞれの名前を読み上げられる。これだけの人の前で自己紹介はしたくなかったのでありがたい、などと、緊張しすぎて思考が再びねじれそうになる。
『それでは次に、ジムリーダー、イチジクの登場です!』
 ジムリーダー。その声で、フィアの意識が戻ってくる。
 遂にジムリーダーが現れるのか、と気を引き締める。
 だが、いくら待っても、誰も来ない
「……出て来ないよ?」
 ここで初めて、周りを見回す余裕ができた。
 舞台上なので、床は板張り。だが、ところどころに草が生えている。本物の草に見えるが、板から直接伸びているので、作りものだろう。かなり精巧だ。
 草の他にも、木々も散見される。見上げれば暗い空。舞台の奥の方には、大きな木の箱がある。
 しばらく観察していると、コツ、コツ、と足音が聞こえる。舞台袖から誰かが来たようだ。
 ジムリーダーか、と思ったが、それは違った。
「よくぞ来たな、勇敢なる少年たちよ」
「ト、トウガキさん……?」
 そこにいたのは、黒いマントを羽織り、頭からはなぜか黒い蝙蝠の羽のようなものが生えている、トウガキだった。隣には同じような格好をしたバンガキもいる。
「わかっている。王子を助けるために、ここへ来たのだろう」
「え? えーっと……」
 しかも、なにやらキャラが違う。
 フィアたちの対応していた時のような丁寧な物腰でも、バンガキと話していた口調でもない。芝居がかった口調だ。
 トウガキは歩を進め、舞台の奥へと歩む。そして、大きな木箱を指で小突いた。
「王子はこの棺桶の中で眠っている」
「棺桶!?」
 あの箱は棺桶だったのか、と吃驚する。言われてみれば、棺桶に見えないこともない。
 わけのわからない展開が続き、困惑していると、さっきまでとは違うスピーカーから、声が聞こえてきた。

 ——シュンセイ王国の王子、イチジク。彼は類稀なる才気を持ち、国の人々からも絶大な支持を得ていました——

「え? なに? なんかナレーションが聞こえてくるよ!?」
「フィア君。これ、公演のナレーションじゃない?」
「あ、そっか……」
 言われてみればそうだ。

 ——しかしある日。王子の優秀さを妬んだ悪魔たちが、自分たちの住処である茨の森へと、王子を攫ってしまったのです——

「え……王子さま、さらわれちゃったの……?」
「フロル、これお話だよ」
 さっきまで戸惑っていた自分が言えることでもないが、本気で悲しそうな表情を見せるフロルを現実に戻す。

 ——王子がいなくなり、国の人々は皆不安に駆られています——

 ナレーションは、これが劇だから。
 しかしフィアたちは、ジム戦のつもりでここにいる。劇の舞台に立っているとはいえ、台本もなにもわからない。
 どうすればいいのだろうかと、こっちまで不安が募っていく。

 ——そんな時、三人の少年少女が、王子を救うために立ち上がりました。三人の子供たちと、悪魔との戦いが今、始まります——

 三人の子供たち。それは恐らく、自分たちのことだろう。
 だんだんと今の状況も理解してきた。ジムリーダーとただ戦うのではなく、それを劇のシナリオに組み込んでいるようだ。
 ナレーションはまだ続くようで、次の声に耳を傾けていると、

 ——それでは、ジム戦の説明に移ります——

「急にナレーションが説明になったよ!?」
 いきなりナレーションの語りが変わったので、またしても驚く。このジムに足を踏み入れてから、驚愕と困惑と不安の繰り返しだ。

 ——チャレンジャーには、先ほどのナレーションの設定で、バトルをしていただきます——

「ナレーションの設定でバトルって、どういうこと……?」
「さぁねー?」
 バトルがシナリオに組み込まれている、ということではないのだろうか。

 ——チャレンジャーの目的は、ジムリーダーを救い出し、バトルして勝つことです。一人でもジムリーダーに勝てれば、全員分のジムバッジを贈呈します——

「一人勝てば、全員勝ちなんだ……」
「変わってるねー」
「でも、ジムリーダーの王子さま、あの中だよ?」
 フロルが指差す。その先には、木の棺桶。
 あの棺桶の中に、ジムリーダーはいる。
「ジムリーダーが棺桶の中って、どうするんだろ?」
「ふつーに棺桶を開けて、起こせばいいんじゃない?」
「そうなのかなぁ……?」
 しかし理屈としてはそれが正しいと言わざるを得ない。
 フィアが唸っていると、ナレーションが続く。

 ——また、このジム戦では制限時間があります。制限時間は30分。時間内にジムリーダーを倒すことが出来なければ、全員負けとなります——

「30分……!」
 どうやらこのジム戦には制限時間があるようだ。ジム戦であり、劇であるというのなら、当然だ。劇には公演時間というものがある。
 理解に苦しむこの状況。そして制限時間。ここまでで、フィアの不安は頂点に達していた。
 そんな落ち込んだ心情を煽るように、ナレーションが大きな声で、宣言する。

 ——それでは、シュンセイジム戦。演目『棺桶に眠る王子』……始まり始まり!——



やっぱりジム戦の導入が長いですね……この冗長さは課題です。ジム戦のルールを特殊にすると言いましたが、それがはっきりした感じの回です。といっても、条件だけで言えば、時間内にジムリーダーを倒すことなので、時間制限つきになっただけですけど。ただ内容、ジムリーダーと戦うまでの道程が設定されましたね。この辺はゲームに近いかもしれません。というわけで次回、シュンセイジム戦です。ジムリーダーはいまだ姿を現しませんが、お楽しみに。