二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 11話 双頭悪魔 ( No.17 )
- 日時: 2017/01/05 15:31
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「よくぞ私たちの住処、悪魔の森を訪れたな。我が名はトウガキ。王子を眠らせる悪魔だ」
「そして、オレサマがバンガキ。王子を閉じ込める悪魔だ!」
ジム戦、または公演が始まるや否や、トウガキとバンガキはそれぞれ名乗りを上げる。
トウガキの方はかなり芝居がかった口調だが、バンガキの方はあまり変わっていないように見える。
目的はジムリーダーを倒すこと。しかし、彼らはどうすればいいのか。トウガキやバンガキとも戦わなくてはならないのか。
フィアがたたらを踏んでいると、ふと、舞台の奥から間延びした声が聞こえてきた。
「あー、これ開かないなー。鍵かかってる」
「って、イオン君!? なにしてるの!?」
イオンが棺桶の上にに乗り、蓋を掴んで引っ張っていた。しかし、ガタガタと音を立て、蓋は開く様子がない。
「だって、ジムリーダー倒さなきゃジム戦できないんでしょ? でもジムリーダーこの中じゃん? だったらこれを開けるしかないっしょ」
「だからって……」
「その通りだ」
イオンの言葉を、肯定する声。
トウガキだ。
「王子を助けたくば、その棺桶を開く他ない」
「ま、無理だろうけどな! オマエらじゃ棺桶は開けられやしない! なんたって、棺桶の鍵はオレサマが持ってるんだからな!」
「それに、仮にその棺桶を開いたとしても、奴には呪いがかかっている。お前たちがいくら王子に声をかけても、奴が目覚めることはない。自然からの恩恵なくしてはな」
毅然とした表情で立つトウガキと、手の中で鍵を弄ぶバンガキ。二人はそれだけで、動く気配はない。
しばし睨み合っていると、バンガキが手にする鍵が目につく。それを見て、フィアは理解した。
「……そうか。そういうことか」
「んんー? どったのフィア君?」
「ここのジム戦は、お話に沿ってバトルをする。だけどお話は、僕らが動かさなくちゃいけないんだ」
「? よくわかんない」
疑問符を浮かべるフロル。
フィアはそれに対し、具体例で説明した。
「あの悪魔——バンガキさん——は、棺桶の鍵を持ってる。あの鍵で棺桶を開ければ、ジムリーダーを、王子を助け出せるよ」
「あぁ、成程ねぇー。そういうことか」
バトルがシナリオに組み込まれているのは確かだろう。シナリオを進めることで、王子を助け、ジムリーダーと戦う道筋が生まれる。だが、それは自分たちの手で動かさなくてはならない。
つまり、自分たちが主体的にバトルをしていかなくてはならないのだ。
自分たちも、この劇のキャスト、登場人物。それも主人公だ。
自分たちが動かなくては、話が進まない。
「だったらとっとと終わらせちゃおうよ。時間もないんだしさ」
フィアの言葉を理解したイオンが、ボールを手にバンガキの前に立った。
「おう、なんだオマエ。オレサマとやろうってのか?」
「そういうことですねー。鍵はいただきますよ」
「やれるもんならやってみろ!」
バンガキもボールを取り出し、舞台の片側ではバトルが発生する。
ここでイオンが勝てば、バンガキから棺桶の鍵を手に入れることができるだろう。そうすれば、棺桶は開くが、
(でも、鍵を開けるだけじゃ、たぶんダメだよね……さっき、トウガキさんが言ってた)
——奴には呪いがかかっている。お前たちがいくら王子に声をかけても、奴が目覚めることはない。自然からの恩恵なくしてはな——
呪いというのはフィクションだとしても、目覚めることがないということは、そういうことなのだろう。
この場合、本当に眠っているかどうかは関係ない。これは劇。物語だ。眠っているという設定があるだけで、シナリオを進める障害となる。
(自然からの恩恵ってなんだろう。それに、呪いって……そこに、ヒントがあると思うんだけど……)
トウガキの言葉を反芻し、考える。
ふと、顔を上げると、
「トウガキさん。バトル、おねがいします」
「私に挑むか。勇敢な娘だな。いいだろう。相手をしてやる」
「って、フロル!?」
フロルがトウガキにバトルを申し込んでいた。
当のフロルは、小首を傾げて、疑問のポーズ。
「? どうしたの、フィア」
「どうしたのって、なんでバトル……」
「だって、ジム戦でしょ? バトルしなきゃ、先には進めないよ?」
こともなげに言うフロル。
それは本当に些細な言葉で、何気ない一言だった。
しかしその一言で、フィアはハッとさせられる。
(! そうだ……考えてても、始まらない……)
これはジム戦。ジムとは、バトルによって道を切り開く場。
この世界においてはポケモンがその役割を担う。バトルをしなければ、何にもならない。
時間のこともある。うだうだと考えていても、始まらない。戦うべきところでは、戦わなくてはならない。
フィアも、ボールを強く握り込んだ。
「……あれ、だけど僕の相手、いないや……」
イオンはバンガキと、フロルはトウガキと、それぞれバトルをしている。
フィアの相手は、どこにもいなかった。
あとがき。たまにギャグっぽい終わり方になるけど、オチのつけかたって難しいですね。遂にジム戦が始まりますが、だいぶジムの趣向を変えています。たぶん、最初のジムでも結構長く続いちゃいそうです。従来までのようにジム戦の形式を、アニメのようなジムリーダーとの一騎討ちだけにしなかったのは、同じ形式のバトルが八回もあると、単調になってしまうかなという懸念によるテコ入れと、SMの試練がバリエーション豊かで面白かったからです。ジムギミックも面白いんですけど、形式がジムごとに違うっていうのも面白いかな、と。アニポケでも、ホミカ戦では6vs3、ザクロ戦では3vs2とか、アロエ戦では先に二体決めるとか、時々変則的なルールになっていたりしますしね。ちなみにトウガキさんとバンガキくんの名前は、面白い方のカキとは関係ありません。いや、漢字にしたら関係ありそうですけど、元ネタとしてはちょっと違います。これについては微妙なネタバレ含みそうなので、また後程。久しぶりにたくさんあとがきを書いたところで、次回はジムバトル。トウガキさんとバンガキくんのバトルです。お楽しみに。