二次創作小説(映像)※倉庫ログ

13話 獅子奮迅 ( No.19 )
日時: 2017/01/06 06:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 サンダースをボールに戻し、イオンがフィアの下へと戻ってくる。
 バンガキとのバトルの一部始終を見ていたフィアは、明るい表情で彼を出迎えた。
「イオン君! 勝ったんだね」
「まーねー。流石ジム戦、ジムリーダーじゃなくてもけっこー強かったけど、この通り」
 そう言って、イオンは手の中の鍵を掲げる。
「これで棺桶の扉が開くねー」
「でも、たぶんそれだけじゃダメだよ。トウガキさんは、王子は呪いで目覚めない、って言ってた」
「寝てるってこと? 起こせばいいんじゃない?」
「いや、呪いって言ってるから、普通に起こしたんじゃたぶん起きない……これはお話。だから、なにか鍵があると思うんだ」
「鍵ならここにあるよ?」
「その鍵じゃなくて……」
 王子を目覚めさせるための、キーアイテムだ。
 それがなければ、棺桶を開けることが出来ても、王子は目覚めず、救ったことにはならない。
 どうしようと唸っていると、すぐそこにバンガキがいたので、ダメ元で聞いてみた。
「……バンガキさんは、なにか知ってませんか?」
「オレサマが答えるわけねーだろ。王子の呪いはトウガキ兄ちゃんがかけたんだ。知ってるのは兄ちゃんだぜ」
 やはり、この劇における乗り越えなければならない障害は、それぞれトウガキとバンガキが担っているようだ。
 バンガキは棺桶の蓋を開けるための鍵。
 そしてトウガキが、王子にかけた呪い。
 棺桶を開けても、王子が目覚めなければ意味はない。第二の障害が待っているが、それを突破するには、トウガキを倒すほかない。
「トウガキさんってことは、フロルか……」
 今、トウガキとバトルしているのはフロルだ。
 対戦の様子を見てみると、あまり戦況は芳しくない。
「時間はあと十五分……フロル、大丈夫かな?」
「ま、仮にフロルちゃんが負けても、オレがサクッと倒すよー」
「どうだか。兄ちゃんは強いぜ。オレサマよりもな」
 バトルを見る限り、イオンのサンダースが戦闘不能ギリギリまで追い込んだバンガキも、決して弱くはなかった。
 トウガキがそれ以上の強さとなると、フロルが勝てるかどうか、非常に心配だ。
 そしてフロルとトウガキのバトルは終わるまで、フィアとイオンは見ているだけ。ただ見ることしかできないというのは、やはりむず痒い。
「……こっそりヒントをやるよ」
 そんなフィアの心中を察してか、バンガキがそっと耳打ちしてくる。
「この劇は俺たちが筋書きを用意しているが、筋書き通りに話が進むとは限らない。物語ってのは独り歩きするんだ」
 一人称が少し違う。劇の役ではなく、あくまでジムトレーナーの一人として、アドバイスということだろう。
「中には分岐ルートとして設定していることもあるが、それすらも無視して、筋書き通りにならない展開もあり得る。それは大きな意味で変化があったり、また、些細かつ微妙な違いでしかないこともある」
「分岐ルート……?」
「用意された筋書きに律儀に従う必要はねぇ。自分の進みたい道、考えられる無数のルートからどれを選び取るか……そこに秘められた可能性を、よく考えてみな」
 そこでバンガキは、言葉を切る。アドバイスは以上ということらしかった。 
「筋書きに従う必要はない……無数のルートに秘められた可能性……」
 バンガキの言葉を反芻するフィア。
 彼の言葉はなにを意味するのか。
 フロルのバトルを見守りながら、彼はそのことについて、考え続けている。



「アチャモ、引っかくだよ!」
「回避だ、シシコ」
 フロルとトウガキとバトル。
 フロルはアチャモを繰り出しており、対するトウガキのポケモンは、小さなネコ科っぽい姿のポケモンだ。頭頂部には赤く燃えるようなたてがみが、ちょこんと飛び出ている。

『Information
 シシコ 若獅子ポケモン
 頭のたてがみが力の証。たてがみの
 熱が高ければ高いほど赤く燃え、
 大きなパワーを発揮することができる。』

 アチャモは鋭い爪でシシコを引っかこうとするが、その攻撃は避けられてしまう。
「頭突き!」
 そしてそのまま、シシコは強烈な頭突きをアチャモに食らわせて吹っ飛ばす。
「アチャモ!」
「追撃だ。火の粉!」
「こっちも火の粉だよ!」
 お互いの火の粉がぶつかり合い、どちらも打ち消される。威力は互角だ。
「私のシシコに、パワーで互角か。ならば」
 トウガキはシシコに指示を出す。
 拮抗している力のバランスを、崩すために。

「シシコ、奮い立てる!」

 シシコは頭のたてがみを赤く燃やし、興奮したように息を荒げて、そして咆える。
「な、なに……?」
「さあ、再び火の粉だ!」
「! こっちも、もう一度火の粉!」
 またしても、双方の火の粉がぶつかり合う。
 ただし今度は相殺されず、シシコの火の粉が一方的に打ち勝ち、アチャモに降りかかった。
「ま、負けちゃった!? なんで……?」
「わかりやすいな……奮い立てるによって、今のシシコは攻撃、特攻がそれぞれ上昇している。今のパワーはこちらが上だ」
 奮い立てるは、攻撃と特攻を同時に高める技。
 この技によって、互角だった火の粉の威力は、シシコが上回ったのだ。
「シシコ、噛みつく!」
「つ、つつくだよ!」
 今度は牙を剥いて飛び掛かるシシコと、嘴を突き出すアチャモ。またしてもお互いの技がぶつかり合うも、力はシシコの方が強い。アチャモは噛みつかれ、悲鳴を上げる。
「アチャモ!」
「投げ飛ばせ。火の粉だ!」
 シシコはアチャモを投げ飛ばして、宙を舞ったところに火の粉を振りかける。
 効果いまひとつとはいえ、奮い立てるで威力の上がった火の粉だ。ダメージは決して小さくない。
 火力の上がったシシコは驚異的だ。アチャモには自らを強化する技もないため、強化されたシシコに打ち負けてしまう。
「ど、どうしよう……」
「考えるのは大いに結構。しかし、時間を忘れるな。劇も、バトルもだ。シシコ、頭突き!」
 シシコが頭を突き出して駆け出す。その勢いは、今までの技の比ではない。
「……こうなったら、一か八かだよ」
 フロルは賭けることにした。
 この危機的状況をひっくり返せるかはわからないが、その可能性がある一手に。
(うまくできるかわからないけど……やってみよう……!)
 意を決すると同時に、ふと思い出す。
 つい昨日の出来事。フィアと旅立ったばかりの、あの時のことを——



あとがきです。一回目のジムなのに、かなり時間かけちゃってるなぁ、という感じです。それに、なんだかやけに話が重い方向に進みそうです。こんなはずじゃなかったというか、ちょっと凝ったジム戦にしようとしたら、思った以上に大きくなってしまいましたね。もう止まらないので、このまま突っ切っちゃいますが。次回はフロル回想、トウガキ戦続きです。お楽しみに。